上 下
312 / 643
第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう

幕間の物語101.ちびっこ神様ズは元気に外で遊ぶ

しおりを挟む
 神々の住まう世界の片隅に、シズトに加護を与えた三柱の秘密基地がある。
 そのすぐ近くの空き地が真っ白に染まっていた。
 普段は雑草が生い茂っている場所だったが、樹上に設置された魔道具から生み出された雲から雪が降り、銀世界へと変えていた。
 その雪原の真ん中には不揃いの雪の塊が転がっていた。
 真ん丸というよりもおにぎりのような形の白い塊をみて、首を傾げているのは生育の神ファマ。
 少しの間、その場で考え事をしていたのか、坊主頭に雪が積もりつつある。

「う、上手くできないんだなぁ」

 シズトの様子を覗いていた時に知った作り方を真似たのだが、思い通りにならない。
 だが、ファマは諦める事もなく、再度雪を集めて手の平で小さなおにぎりのような形の雪の塊を作ると、コロコロと転がし始めた。
 そこから少し離れたところでは、適温コートを羽織り、手編みの手袋を身に着けた付与の神エントがゆっくりと雪の塊を転がしては形を整え、また転がしては見栄えが良くなるように余分な所を削っていた。
 ファマとは異なり、数よりも質を重視しているのか彼女の周りには雪玉はほとんどなかった。

「このくらいかな……?」

 二個目の雪玉を作り終えると、先に作っておいた雪玉の近くに並べてみる。
 全く同じ寸法の雪玉が二つ並んでいた。

「あ、ちょっと大きくするんだったかな……?」

 確かそうだったはずだと、彼女は腰くらいの高さがある雪玉をまた転がし始める。
 まだまだ雪だるまを作るには時間がかかりそうだった。
 そこからさらに離れたところでは、手編みの耳付き帽子を被り、もこもこのコートを着て着膨れをしている加工の神プロスがムムムッと口を尖らせて集中していた。
 彼女は自身の権能を使って金色に輝くアダマンタイトを操作して、雪だるまの型を作っていた。
 型が出来上がると、雪だるまの頭頂部に穴をあけて、その中に雪を詰め込んでいく。
 時々、金属を操って圧縮をしつつ雪を詰め込んでいると、一杯になった。

「できたー!」

 型となっていたアダマンタイトを取ると、無事に雪だるまが出来上がっていた。
 満足気な彼女の声が気になったのか二柱がプロスの方を一瞬だけ見たが、自分の作業に戻っていく。
 小さな神々は今、だれが一番上手な雪だるまを作る事ができるのか、勝負をしていた。
 審査員はその内、また彼女たちの様子を見に来る黒髪の少年だ。
 顔出さなければ呼び出せばいいやとも考えている神様たちだった。



 一通り雪だるまを作って遊んだ後は、今度は背丈くらいの雪玉を量産した。
 雪原に突如として遮蔽物が出来上がると、三人はそれぞれ陣地を張って、余分に作った雪だるまを守るように前に立つ。

「準備いーよー!」
「お、オイラもいいんだなー!」
「じゃあ、光ったら始まりだよ……?」

 エントがアイテムバッグから取り出した大きな球状の魔道具を三人の中間地点に向けて投げ込む。
 それが一回、二回と弾んだ後、三回目のバウンドの際に頭上高く跳ね上がった。
 それが激しく光った瞬間、三人共近くの雪をかき集めて手のひらサイズの雪玉を作る。
 最初に動いたのはプロスだった。
 茶色の髪をたなびかせ、自分の力を使って雪の上に鉄の床を作り上げた彼女は、その上を疾走する。
 向かう先はボーっとした表情でせっせと作るファマのところだ。

「ち、力を使うのはずるなんだなー!」
「勝てばいいんだもーん! 今日のおやつはプロスが貰うんだから!」

 ファマの足元まで液体化した金属が迫るが、突如としてファマの足元から木が伸びる。
 ファマを乗せてぐんぐんと伸びていく木は、周囲の木と同じくらいの高さまで成長すると、そこで成長が止まった。
 頭上からプロスに向かって両手いっぱいに抱えた雪玉を落とす。
 だが、自然落下する雪玉に当たるプロスではない。
 彼女が手を掲げると、足元にあった鉄が彼女を守るように傘の形になった。

「ず、ずるなんだなー!」
「ずるじゃないもーん!」
「え、エント、協力して倒すんだな!」
「え? あ、うん。いいよ……?」

 蚊帳の外状態だったエントは、せっせと雪玉を作ったり、雪兎を作ったりしていて雪合戦をしていた事を失念している様だったが、ファマの声で思い出したようだ。
 エントは雪兎に魔法陣を刻み、魔力を流し込む。
 すると十匹ほどの雪兎が動き始めた。
 エントはアイテムバッグから魔石を取り出してそれぞれに付与を行うと、エントを見上げて待っている雪兎の上に魔石を乗せた。

「あの雪だるまさん、倒してきて……?」

 彼女の号令と共に、体の上に怪しく点滅し始めている魔石を乗せた雪兎の群れが雪原を這うようにしてプロスの陣地の真ん中にある雪玉に向かって突き進んでいく。

「ムムムッ! させないよー!」

 雪兎に向けて指を差したかと思えば、プロスはそのまま人差し指を上に向けた。
 その瞬間、雪の下から先端の尖った鉄の柱が数匹の雪兎を貫く。
 雪兎は粉々になり、点滅していた魔石が宙に放り出され、爆発した。

「まだまだ!」

 自陣にある雪だるまの方に掌を向けたエントはそのまま雪だるまを握るかのように、握りこぶしを作った。
 すると、雪だるまの周囲をアダマンタイトが覆う。

「これなら負けはないもん!」
「それは流石に卑怯なんだなー!」
「確かにそうかも……?」
「私も亜空間にしまっちゃうよ……?」
「お、オイラは……オイラだけ完全防御出来ないんだな!!」

 頭上の上でアタフタとし始めるファマ。
 それを見上げたあと、エントとプロスはお互いの顔を見合わせた。
 結局、三柱は話し合って雪合戦の時、雪だるまを守るために神の力を使わない事になるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...