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第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう
207.事なかれ主義者は雪だるまを量産する
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ウェルズブラの首都ウェルランドに行き、王様とご挨拶をした翌日。
ラオさんとルウさんの長身コンビと一緒に、ウェルランドの外壁の外側で除雪雪だるまを作っている。
現在、この国の王であるドゥイージ陛下とレヴィさんが交渉している段階だが、販売するのはレヴィさんの中で決定事項だったからさっさと作っておこうと思って今に至る。
ジュリウスさんは城壁の上から僕の様子を見守りつつ、周囲の警戒をしているらしい。
「こんなもんでいいか?」
「んー、もうちょっと真ん丸にして!」
ラオさんは、彼女の身長くらいの大きな雪の塊を僕に見せてきたけど、真ん丸ではない。真ん丸に作るのは難しいんだなと思いつつも、雪だるまは基本的に真ん丸なイメージだからラオさんにもうちょっと作り込んでもらう。
僕も雪だるま作りをしたいんだけど、「お兄ちゃん、あーしの事忘れてない?」とクーにほっぺを引っ張られたので、背負ったクーと一緒に、ラオさんとルウさんの進捗を見守るしかない。
「まあ、あれくらいの大きさの雪玉は転がせるか分からないんだけどさ。いや、魔道具に頼れば普通にできるか」
だいぶ前に作ったムキムキ手袋とか使えば筋力の問題はカバーできそう。
ただ今クーを背負っている状態では無理だな。クーが協力してくれればまた話は別なんだけど、しがみ付くのも面倒だからしっかり背負えと仰せだ。
「シズトくん、このくらいでいいかしら?」
「……うん、いいんじゃない?」
丸さも大きさも固さも十分だ。後はラオさんが作った物の上に乗っけるだけだ。
せっせと転がしているラオさんの方を見ていると、僕の顔を覗き込むようにルウさんが視界に入ってきた。垂れ気味な彼女の赤い目と目が合う。
「お姉ちゃん、すごーく頑張ってるんだけどなぁ」
「うん、そうだね? ありがと」
「お姉ちゃんって呼んでくれたらさらに頑張れるんだけどなぁ」
「……僕に姉はいないので」
「シズトくんのケチ」
頬を膨らませて不満そうなルウさんの背後から近づいてきていたラオさんが、ルウさんの頭を小突いた。
「シズト、あのくらいでいいか?」
ラオさんが指を差した先には先程よりも一回りくらい大きくなってしまった雪玉が置かれている。
ルウさんの雪玉を雪だるまの頭にするか。
「うん、大丈夫。ルウさんの方が小さいから、そっちを上に乗っけちゃって」
「お姉ちゃんに任せて!」
ルウさんは自身が丹精を込めて作った雪玉を大事そうに持ち上げると、ラオさんの雪玉の上に慎重に置く。
顔も手も何も装飾がされていない雪だるまが出来上がった。
どちらの雪玉も直径二メートルくらい普通にあったので、だいぶ大きくなってしまった。
後ろにある防壁よりも少し下くらいだろうか。
こんな大きな雪だるまが跳ねて動き回っていたらそりゃ町の人は不安になるよね。
首都に来るまでに通ってきた小さな名前も知らない町たちに思いを馳せていると、ラオさんとルウさんは既に二つ目の雪玉を作り始めていた。
「それじゃ、僕も仕事をしますか。【付与】」
雪だるまの背後……って、顔がないから前も後ろも分からない。
まあ、付与できれば何でもいいか。胴体部分に【付与】で魔法陣を描き、魔石をその中心に設置して、少し離れるが、特に何も変わった様子がない。
「故障かな? その場で跳ねて」
ドスン、ドスンとその場で跳ね始める除雪雪だるま。
城壁の上からこちらの様子を見ていたドワーフたちが見えなくなった。先程まで身を乗り出していたから危ないと思っていたんだけど、丁度良かった。
その後も、夕方頃までせっせと除雪雪だるまを作り続けて、二十体ほど量産したところでセシリアさんを引き連れたレヴィさんが戻ってきた。
鍛冶の熱を利用して、城壁の中は比較的マシな寒さだったが、外はそうでもない。
もこもこと着膨れしたレヴィさんは、雪の感触が気になるのか足元を見ながら歩いていたのだが、僕の近くまで来ると、しっかりと僕の目を見てくる。
「除雪雪だるまは売れそう?」
「間違いなく売れるのですわ。交渉も無事に終わって出来上がった物からどんどん納品するのですわ」
「よかった。結構時間がかかっていたけど、他に何か話をしていたの?」
「そうですわね……昨日打診をした教会建設については、実際に加護の力を見てから考えたいと言われたのですわ」
「まあ、そりゃそうだよね」
新興宗教の勧誘が来ても普通お断りすると思うし。
ただ、この世界は神様との距離が近いからか、新しい神様の布教をし始めても邪険にはされない。断られる時も丁寧にお断りされるだけらしい。
布教をしている加護持ちの事を、神々が見ている事は広く一般的に知られている。
だから布教活動をしている加護持ちに対して、無体な事をしないようにしているんじゃないかと思う。
実際に聞いたわけじゃないからあくまでも想像だけど。
「プロス様の教会は問題ないと思うのですわ。アダマンタイトを加工してしまえば一発だと思うのですわ。エント様も除雪雪だるまを納品してしばらく経てば信仰が広がると思うのですわ。ただ……」
「ファマ様をどうするかだよね」
「そうですわ。世界樹の素材を融通すれば教会は建てる事はできると思うのですわ。ただ、信仰を広めるのは難しいと思うのですわ」
「んー……植物の成長に関する神様だから、収穫祭の時に祀ってもらうとかそのくらいでいいんじゃない?」
「どうせなら信者をしっかり増やしたいのですわ!」
無理して信仰してもらう必要はないと思うんだけどなぁ。
名前が広がるだけでも十分だって神様たちは言ってたし。
「とりあえず建てるだけ建てちゃおう。その後考えればいいと思う」
「分かったのですわー」
先程まで眉間に皺を寄せて頭を悩ませていたレヴィさんだったけど、表情が一変してニコニコしながら返事をする。
切り替えが早いなぁと感心しながら、その後も除雪雪だるまを作りながら、ドゥイージ陛下との交渉について聞いて過ごした。
ラオさんとルウさんの長身コンビと一緒に、ウェルランドの外壁の外側で除雪雪だるまを作っている。
現在、この国の王であるドゥイージ陛下とレヴィさんが交渉している段階だが、販売するのはレヴィさんの中で決定事項だったからさっさと作っておこうと思って今に至る。
ジュリウスさんは城壁の上から僕の様子を見守りつつ、周囲の警戒をしているらしい。
「こんなもんでいいか?」
「んー、もうちょっと真ん丸にして!」
ラオさんは、彼女の身長くらいの大きな雪の塊を僕に見せてきたけど、真ん丸ではない。真ん丸に作るのは難しいんだなと思いつつも、雪だるまは基本的に真ん丸なイメージだからラオさんにもうちょっと作り込んでもらう。
僕も雪だるま作りをしたいんだけど、「お兄ちゃん、あーしの事忘れてない?」とクーにほっぺを引っ張られたので、背負ったクーと一緒に、ラオさんとルウさんの進捗を見守るしかない。
「まあ、あれくらいの大きさの雪玉は転がせるか分からないんだけどさ。いや、魔道具に頼れば普通にできるか」
だいぶ前に作ったムキムキ手袋とか使えば筋力の問題はカバーできそう。
ただ今クーを背負っている状態では無理だな。クーが協力してくれればまた話は別なんだけど、しがみ付くのも面倒だからしっかり背負えと仰せだ。
「シズトくん、このくらいでいいかしら?」
「……うん、いいんじゃない?」
丸さも大きさも固さも十分だ。後はラオさんが作った物の上に乗っけるだけだ。
せっせと転がしているラオさんの方を見ていると、僕の顔を覗き込むようにルウさんが視界に入ってきた。垂れ気味な彼女の赤い目と目が合う。
「お姉ちゃん、すごーく頑張ってるんだけどなぁ」
「うん、そうだね? ありがと」
「お姉ちゃんって呼んでくれたらさらに頑張れるんだけどなぁ」
「……僕に姉はいないので」
「シズトくんのケチ」
頬を膨らませて不満そうなルウさんの背後から近づいてきていたラオさんが、ルウさんの頭を小突いた。
「シズト、あのくらいでいいか?」
ラオさんが指を差した先には先程よりも一回りくらい大きくなってしまった雪玉が置かれている。
ルウさんの雪玉を雪だるまの頭にするか。
「うん、大丈夫。ルウさんの方が小さいから、そっちを上に乗っけちゃって」
「お姉ちゃんに任せて!」
ルウさんは自身が丹精を込めて作った雪玉を大事そうに持ち上げると、ラオさんの雪玉の上に慎重に置く。
顔も手も何も装飾がされていない雪だるまが出来上がった。
どちらの雪玉も直径二メートルくらい普通にあったので、だいぶ大きくなってしまった。
後ろにある防壁よりも少し下くらいだろうか。
こんな大きな雪だるまが跳ねて動き回っていたらそりゃ町の人は不安になるよね。
首都に来るまでに通ってきた小さな名前も知らない町たちに思いを馳せていると、ラオさんとルウさんは既に二つ目の雪玉を作り始めていた。
「それじゃ、僕も仕事をしますか。【付与】」
雪だるまの背後……って、顔がないから前も後ろも分からない。
まあ、付与できれば何でもいいか。胴体部分に【付与】で魔法陣を描き、魔石をその中心に設置して、少し離れるが、特に何も変わった様子がない。
「故障かな? その場で跳ねて」
ドスン、ドスンとその場で跳ね始める除雪雪だるま。
城壁の上からこちらの様子を見ていたドワーフたちが見えなくなった。先程まで身を乗り出していたから危ないと思っていたんだけど、丁度良かった。
その後も、夕方頃までせっせと除雪雪だるまを作り続けて、二十体ほど量産したところでセシリアさんを引き連れたレヴィさんが戻ってきた。
鍛冶の熱を利用して、城壁の中は比較的マシな寒さだったが、外はそうでもない。
もこもこと着膨れしたレヴィさんは、雪の感触が気になるのか足元を見ながら歩いていたのだが、僕の近くまで来ると、しっかりと僕の目を見てくる。
「除雪雪だるまは売れそう?」
「間違いなく売れるのですわ。交渉も無事に終わって出来上がった物からどんどん納品するのですわ」
「よかった。結構時間がかかっていたけど、他に何か話をしていたの?」
「そうですわね……昨日打診をした教会建設については、実際に加護の力を見てから考えたいと言われたのですわ」
「まあ、そりゃそうだよね」
新興宗教の勧誘が来ても普通お断りすると思うし。
ただ、この世界は神様との距離が近いからか、新しい神様の布教をし始めても邪険にはされない。断られる時も丁寧にお断りされるだけらしい。
布教をしている加護持ちの事を、神々が見ている事は広く一般的に知られている。
だから布教活動をしている加護持ちに対して、無体な事をしないようにしているんじゃないかと思う。
実際に聞いたわけじゃないからあくまでも想像だけど。
「プロス様の教会は問題ないと思うのですわ。アダマンタイトを加工してしまえば一発だと思うのですわ。エント様も除雪雪だるまを納品してしばらく経てば信仰が広がると思うのですわ。ただ……」
「ファマ様をどうするかだよね」
「そうですわ。世界樹の素材を融通すれば教会は建てる事はできると思うのですわ。ただ、信仰を広めるのは難しいと思うのですわ」
「んー……植物の成長に関する神様だから、収穫祭の時に祀ってもらうとかそのくらいでいいんじゃない?」
「どうせなら信者をしっかり増やしたいのですわ!」
無理して信仰してもらう必要はないと思うんだけどなぁ。
名前が広がるだけでも十分だって神様たちは言ってたし。
「とりあえず建てるだけ建てちゃおう。その後考えればいいと思う」
「分かったのですわー」
先程まで眉間に皺を寄せて頭を悩ませていたレヴィさんだったけど、表情が一変してニコニコしながら返事をする。
切り替えが早いなぁと感心しながら、その後も除雪雪だるまを作りながら、ドゥイージ陛下との交渉について聞いて過ごした。
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