上 下
308 / 971
第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう

207.事なかれ主義者は雪だるまを量産する

しおりを挟む
 ウェルズブラの首都ウェルランドに行き、王様とご挨拶をした翌日。
 ラオさんとルウさんの長身コンビと一緒に、ウェルランドの外壁の外側で除雪雪だるまを作っている。
 現在、この国の王であるドゥイージ陛下とレヴィさんが交渉している段階だが、販売するのはレヴィさんの中で決定事項だったからさっさと作っておこうと思って今に至る。
 ジュリウスさんは城壁の上から僕の様子を見守りつつ、周囲の警戒をしているらしい。

「こんなもんでいいか?」
「んー、もうちょっと真ん丸にして!」

 ラオさんは、彼女の身長くらいの大きな雪の塊を僕に見せてきたけど、真ん丸ではない。真ん丸に作るのは難しいんだなと思いつつも、雪だるまは基本的に真ん丸なイメージだからラオさんにもうちょっと作り込んでもらう。
 僕も雪だるま作りをしたいんだけど、「お兄ちゃん、あーしの事忘れてない?」とクーにほっぺを引っ張られたので、背負ったクーと一緒に、ラオさんとルウさんの進捗を見守るしかない。

「まあ、あれくらいの大きさの雪玉は転がせるか分からないんだけどさ。いや、魔道具に頼れば普通にできるか」

 だいぶ前に作ったムキムキ手袋とか使えば筋力の問題はカバーできそう。
 ただ今クーを背負っている状態では無理だな。クーが協力してくれればまた話は別なんだけど、しがみ付くのも面倒だからしっかり背負えと仰せだ。

「シズトくん、このくらいでいいかしら?」
「……うん、いいんじゃない?」

 丸さも大きさも固さも十分だ。後はラオさんが作った物の上に乗っけるだけだ。
 せっせと転がしているラオさんの方を見ていると、僕の顔を覗き込むようにルウさんが視界に入ってきた。垂れ気味な彼女の赤い目と目が合う。

「お姉ちゃん、すごーく頑張ってるんだけどなぁ」
「うん、そうだね? ありがと」
「お姉ちゃんって呼んでくれたらさらに頑張れるんだけどなぁ」
「……僕に姉はいないので」
「シズトくんのケチ」

 頬を膨らませて不満そうなルウさんの背後から近づいてきていたラオさんが、ルウさんの頭を小突いた。

「シズト、あのくらいでいいか?」

 ラオさんが指を差した先には先程よりも一回りくらい大きくなってしまった雪玉が置かれている。
 ルウさんの雪玉を雪だるまの頭にするか。

「うん、大丈夫。ルウさんの方が小さいから、そっちを上に乗っけちゃって」
「お姉ちゃんに任せて!」

 ルウさんは自身が丹精を込めて作った雪玉を大事そうに持ち上げると、ラオさんの雪玉の上に慎重に置く。
 顔も手も何も装飾がされていない雪だるまが出来上がった。
 どちらの雪玉も直径二メートルくらい普通にあったので、だいぶ大きくなってしまった。
 後ろにある防壁よりも少し下くらいだろうか。
 こんな大きな雪だるまが跳ねて動き回っていたらそりゃ町の人は不安になるよね。
 首都に来るまでに通ってきた小さな名前も知らない町たちに思いを馳せていると、ラオさんとルウさんは既に二つ目の雪玉を作り始めていた。

「それじゃ、僕も仕事をしますか。【付与】」

 雪だるまの背後……って、顔がないから前も後ろも分からない。
 まあ、付与できれば何でもいいか。胴体部分に【付与】で魔法陣を描き、魔石をその中心に設置して、少し離れるが、特に何も変わった様子がない。

「故障かな? その場で跳ねて」

 ドスン、ドスンとその場で跳ね始める除雪雪だるま。
 城壁の上からこちらの様子を見ていたドワーフたちが見えなくなった。先程まで身を乗り出していたから危ないと思っていたんだけど、丁度良かった。
 その後も、夕方頃までせっせと除雪雪だるまを作り続けて、二十体ほど量産したところでセシリアさんを引き連れたレヴィさんが戻ってきた。
 鍛冶の熱を利用して、城壁の中は比較的マシな寒さだったが、外はそうでもない。
 もこもこと着膨れしたレヴィさんは、雪の感触が気になるのか足元を見ながら歩いていたのだが、僕の近くまで来ると、しっかりと僕の目を見てくる。

「除雪雪だるまは売れそう?」
「間違いなく売れるのですわ。交渉も無事に終わって出来上がった物からどんどん納品するのですわ」
「よかった。結構時間がかかっていたけど、他に何か話をしていたの?」
「そうですわね……昨日打診をした教会建設については、実際に加護の力を見てから考えたいと言われたのですわ」
「まあ、そりゃそうだよね」

 新興宗教の勧誘が来ても普通お断りすると思うし。
 ただ、この世界は神様との距離が近いからか、新しい神様の布教をし始めても邪険にはされない。断られる時も丁寧にお断りされるだけらしい。
 布教をしている加護持ちの事を、神々が見ている事は広く一般的に知られている。
 だから布教活動をしている加護持ちに対して、無体な事をしないようにしているんじゃないかと思う。
 実際に聞いたわけじゃないからあくまでも想像だけど。

「プロス様の教会は問題ないと思うのですわ。アダマンタイトを加工してしまえば一発だと思うのですわ。エント様も除雪雪だるまを納品してしばらく経てば信仰が広がると思うのですわ。ただ……」
「ファマ様をどうするかだよね」
「そうですわ。世界樹の素材を融通すれば教会は建てる事はできると思うのですわ。ただ、信仰を広めるのは難しいと思うのですわ」
「んー……植物の成長に関する神様だから、収穫祭の時に祀ってもらうとかそのくらいでいいんじゃない?」
「どうせなら信者をしっかり増やしたいのですわ!」

 無理して信仰してもらう必要はないと思うんだけどなぁ。
 名前が広がるだけでも十分だって神様たちは言ってたし。

「とりあえず建てるだけ建てちゃおう。その後考えればいいと思う」
「分かったのですわー」

 先程まで眉間に皺を寄せて頭を悩ませていたレヴィさんだったけど、表情が一変してニコニコしながら返事をする。
 切り替えが早いなぁと感心しながら、その後も除雪雪だるまを作りながら、ドゥイージ陛下との交渉について聞いて過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...