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第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう
202.事なかれ主義者は落ち着かない
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新しい屋敷になっても、食事の席の順番は変わらず僕はお誕生日席状態だった。
もう慣れてしまったから別にいいんだけど、注目をいつも浴びる席から変わりたい。
ただ、そうなると僕がどこに座るのか問題が出てきたので結局この席になるんだろうなぁ。
白い狐の尻尾が特徴的なエミリーと婚約者であるエルフのジューンさんが作ってくれた夕食を食べながら、もう一人の婚約者であるレヴィさんの話を聞く。
鼻息荒く力説していた彼女の話を一通り聞いてから口を開く。
「……うん、中庭はセシリアさんが言う通り見栄えがいい感じにしよっか」
「分かったのですわー」
「いいんだ」
あれだけ力説していたのに、すんなり僕の意見を聞き入れるレヴィさん。
レヴィさんの後ろに控えていた彼女の専属メイドであるセシリアさんを見ると、セシリアさんは肩をすくめていた。
「何にするか決まってないなら畑にしようと思っただけですわー」
「お茶会とか開く事もあるかもしれないんでしょ?」
「貴族の相手はドランの屋敷で対応すればいいと思ってたのですわ。でもシズトがこっちもいつでも出迎える事ができるようにしたいというならそうすればいいと思うのですわー」
「そうなの? 貴族の相手もこっちの屋敷ですると思ってたんだけど。応接室とか、お客様をお待たせする部屋とかこの屋敷にもあるんでしょ?」
「あるのですわ。でも、それはあくまで身内相手に使おうと考えていただけですわ」
「身内……ああ、リヴァイさんとかラグナさんの事か」
レヴィさんは話したい事がなくなったのか、食べる事に専念するようだ。
気品ある所作でステーキを切り分けていて、とても王女様っぽい。服は作業着だけど。
今日もしっかり農作業してきたんだろうなぁ。
肉が美味しかったのか、幸せそうな表情で食べるレヴィさんを見ていると、そっとセシリアさんが近づいてきて僕に耳打ちをしてくる。ちょっとくすぐったい。
「身内だとしても、見栄えは良くしておいた方がいいでしょうとお伝えしても、畑でも喜ぶはずだと主張していたので、助かりました」
「何を植えるかとかは決まってるの?」
「いえ、特には」
「珍しい物とか育てたら話のネタになっていいんじゃない?」
「そうですね……その場合はドライアドにも協力をしてもらうか、シズト様の加護【生育】を使って頂く必要がありますね」
「んー、魔力が余ってる時なら全然いいけど、僕がいなくてもできた方がいいよね。ドライアドたちに任せよ。ただ、ドライアドたちだけでやらせちゃだめだよ?」
「存じております」
言うまでもない事だったみたい。
ドライアドたちに任せちゃうとカオスになるからね。ちゃんと監督する人がいないと。
ぺこりとお辞儀をするセシリアさんは、僕から離れると部屋から出て行ってしまった。
まあ、レヴィさんは食事を平らげるまで時間がかかりそうだもんね。
僕も食事を進めつつ、今日会った事をお互い話し合っていると、レヴィさんが雪遊びに興味を示した。
「私もしたいのですわ!」
「別にいいけど、明日は出発するって話になってるから次の町についてからになるんじゃないかな。次の町にはいつ着くんだっけ」
「明後日には着いているでしょう。ウェルズブラでの野営は少々危険ですので。シズト様の魔道具があるので、しようと思えばできるでしょうけど」
「やっぱ魔物は怖いもんね」
「街道にでるくらいの魔物は問題なく対処できます。どちらかというと夜に雪が一気に降る可能性があるという事です。精霊の様子からある程度の天候は察する事は出来ますが、普通は対策をして何とかなるレベルではないので、基本的に日中に町と町の間を移動して夜の間は町の中心地の穴倉で過ごすのがウェルズブラでは一般的です」
「なるほどなぁ」
雪国って大変なんだね。それに、魔物もいるし。
街道を魔道具化してしまうのもありだけど、いちいち許可を取らなきゃいけないし、面倒事に巻き込まれる気しかしないから黙っとこう。
ただ、野営の時に馬が凍死とかしたら嫌だし、馬用の魔道具でも作って寝るか。確か数頭いたよな。予備も含めて何個か作れば、今の魔力の残り具合からしてすぐに眠れるでしょ。
「とりあえず、レヴィさんは数日後に雪合戦しようか」
「シズトには負けないのですわ!」
「……加護は禁止だよ?」
「お肉美味しいですわ~」
「レヴィさん? どうして急に食事を再開するのかな?」
「お肉が美味しいからですわ~」
食事が終わるとお風呂だ。新しいお風呂はやっぱり僕の希望が通る事なく、浴室は一つしかなかった。
ただ、ドランの屋敷よりもさらに広い。浴槽もいくつか先に作られていた。全部普通のお風呂だったけど。
今日のお世話当番であるホムラが僕の後ろに立ち、僕の頭を洗っている。
ラオさんたちとは違って、ワンピースタイプの湯浴み着を着ている。
黒くてとても長い髪を束ねている。
鏡にチラチラと髪とは対照的な程白くて透き通った肌が見えるので意識しないように視線は下に向けてやり過ごす。
他の人のように、泡で遊んだり雑談をしたりとかはないんだけど、放っておくと体中洗いそうなので気を付けないと。
「ホムラ、背中だけでいいよ。ありがと」
「かしこまりました、マスター」
「……お風呂に入って待っててね」
「かしこまりました、マスター」
返事は良いのになかなか浴槽に向かわないので、ホムラの背中を押して浴槽の近くに連れて行き、自分は残りの洗っていない部分を洗う。
体に着いた泡を急遽魔道具化したシャワーのお湯で洗い流し、僕も浴槽へと向かう。
馬用の魔道具を作るために魔力は温存しておきたいので、今日は普通のお湯に浸かってのんびりとする事にした。
ホムラから少し離れて座ったのに、ホムラがそれに気づいて肩と肩が触れ合いそうな程の距離に座り直す。
いつもの事だけど、ドランの屋敷のお風呂とは違う環境だからか、いつもよりもドキドキする。
落ち着かないから、結局浴槽を魔道具化して、いつものお風呂の打たせ湯がないバージョンを作っちゃった。
まあこのくらいならまだ魔力残量は大丈夫だよね、きっと。
もう慣れてしまったから別にいいんだけど、注目をいつも浴びる席から変わりたい。
ただ、そうなると僕がどこに座るのか問題が出てきたので結局この席になるんだろうなぁ。
白い狐の尻尾が特徴的なエミリーと婚約者であるエルフのジューンさんが作ってくれた夕食を食べながら、もう一人の婚約者であるレヴィさんの話を聞く。
鼻息荒く力説していた彼女の話を一通り聞いてから口を開く。
「……うん、中庭はセシリアさんが言う通り見栄えがいい感じにしよっか」
「分かったのですわー」
「いいんだ」
あれだけ力説していたのに、すんなり僕の意見を聞き入れるレヴィさん。
レヴィさんの後ろに控えていた彼女の専属メイドであるセシリアさんを見ると、セシリアさんは肩をすくめていた。
「何にするか決まってないなら畑にしようと思っただけですわー」
「お茶会とか開く事もあるかもしれないんでしょ?」
「貴族の相手はドランの屋敷で対応すればいいと思ってたのですわ。でもシズトがこっちもいつでも出迎える事ができるようにしたいというならそうすればいいと思うのですわー」
「そうなの? 貴族の相手もこっちの屋敷ですると思ってたんだけど。応接室とか、お客様をお待たせする部屋とかこの屋敷にもあるんでしょ?」
「あるのですわ。でも、それはあくまで身内相手に使おうと考えていただけですわ」
「身内……ああ、リヴァイさんとかラグナさんの事か」
レヴィさんは話したい事がなくなったのか、食べる事に専念するようだ。
気品ある所作でステーキを切り分けていて、とても王女様っぽい。服は作業着だけど。
今日もしっかり農作業してきたんだろうなぁ。
肉が美味しかったのか、幸せそうな表情で食べるレヴィさんを見ていると、そっとセシリアさんが近づいてきて僕に耳打ちをしてくる。ちょっとくすぐったい。
「身内だとしても、見栄えは良くしておいた方がいいでしょうとお伝えしても、畑でも喜ぶはずだと主張していたので、助かりました」
「何を植えるかとかは決まってるの?」
「いえ、特には」
「珍しい物とか育てたら話のネタになっていいんじゃない?」
「そうですね……その場合はドライアドにも協力をしてもらうか、シズト様の加護【生育】を使って頂く必要がありますね」
「んー、魔力が余ってる時なら全然いいけど、僕がいなくてもできた方がいいよね。ドライアドたちに任せよ。ただ、ドライアドたちだけでやらせちゃだめだよ?」
「存じております」
言うまでもない事だったみたい。
ドライアドたちに任せちゃうとカオスになるからね。ちゃんと監督する人がいないと。
ぺこりとお辞儀をするセシリアさんは、僕から離れると部屋から出て行ってしまった。
まあ、レヴィさんは食事を平らげるまで時間がかかりそうだもんね。
僕も食事を進めつつ、今日会った事をお互い話し合っていると、レヴィさんが雪遊びに興味を示した。
「私もしたいのですわ!」
「別にいいけど、明日は出発するって話になってるから次の町についてからになるんじゃないかな。次の町にはいつ着くんだっけ」
「明後日には着いているでしょう。ウェルズブラでの野営は少々危険ですので。シズト様の魔道具があるので、しようと思えばできるでしょうけど」
「やっぱ魔物は怖いもんね」
「街道にでるくらいの魔物は問題なく対処できます。どちらかというと夜に雪が一気に降る可能性があるという事です。精霊の様子からある程度の天候は察する事は出来ますが、普通は対策をして何とかなるレベルではないので、基本的に日中に町と町の間を移動して夜の間は町の中心地の穴倉で過ごすのがウェルズブラでは一般的です」
「なるほどなぁ」
雪国って大変なんだね。それに、魔物もいるし。
街道を魔道具化してしまうのもありだけど、いちいち許可を取らなきゃいけないし、面倒事に巻き込まれる気しかしないから黙っとこう。
ただ、野営の時に馬が凍死とかしたら嫌だし、馬用の魔道具でも作って寝るか。確か数頭いたよな。予備も含めて何個か作れば、今の魔力の残り具合からしてすぐに眠れるでしょ。
「とりあえず、レヴィさんは数日後に雪合戦しようか」
「シズトには負けないのですわ!」
「……加護は禁止だよ?」
「お肉美味しいですわ~」
「レヴィさん? どうして急に食事を再開するのかな?」
「お肉が美味しいからですわ~」
食事が終わるとお風呂だ。新しいお風呂はやっぱり僕の希望が通る事なく、浴室は一つしかなかった。
ただ、ドランの屋敷よりもさらに広い。浴槽もいくつか先に作られていた。全部普通のお風呂だったけど。
今日のお世話当番であるホムラが僕の後ろに立ち、僕の頭を洗っている。
ラオさんたちとは違って、ワンピースタイプの湯浴み着を着ている。
黒くてとても長い髪を束ねている。
鏡にチラチラと髪とは対照的な程白くて透き通った肌が見えるので意識しないように視線は下に向けてやり過ごす。
他の人のように、泡で遊んだり雑談をしたりとかはないんだけど、放っておくと体中洗いそうなので気を付けないと。
「ホムラ、背中だけでいいよ。ありがと」
「かしこまりました、マスター」
「……お風呂に入って待っててね」
「かしこまりました、マスター」
返事は良いのになかなか浴槽に向かわないので、ホムラの背中を押して浴槽の近くに連れて行き、自分は残りの洗っていない部分を洗う。
体に着いた泡を急遽魔道具化したシャワーのお湯で洗い流し、僕も浴槽へと向かう。
馬用の魔道具を作るために魔力は温存しておきたいので、今日は普通のお湯に浸かってのんびりとする事にした。
ホムラから少し離れて座ったのに、ホムラがそれに気づいて肩と肩が触れ合いそうな程の距離に座り直す。
いつもの事だけど、ドランの屋敷のお風呂とは違う環境だからか、いつもよりもドキドキする。
落ち着かないから、結局浴槽を魔道具化して、いつものお風呂の打たせ湯がないバージョンを作っちゃった。
まあこのくらいならまだ魔力残量は大丈夫だよね、きっと。
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