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第12章 ドワーフの国を観光しながら生きていこう
幕間の物語95.没落令嬢は確認した
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シズトがドランからファマリアに拠点を移す事を決め、新しい住居がほとんど完成した頃。
シズトはのんびりと夕食を食べながら、引っ越し作業の進捗を聞いていた。
進捗を報告しているのは、奴隷のまとめ役として働いているモニカだ。
勇者の血を引く彼女は、色濃くその特徴が容姿に出ていて、黒い髪に黒い瞳が特徴の少女だった。
ただ、加護を授かる事はなく、容姿以外はどこにでもいる普通の女の子だった。
支給されているメイド服をしっかりと着こなして、メモを見る事もなく、シズトに淡々と状況を説明し続けている。
ただ、誰がどの部屋を使うか決まった事について話をした際に、シズトは不思議そうに首を傾げた。
少し伸びてきている前髪が、それに合わせて動き、彼の片目にかかる。
もうそろそろ切りたいと言い始める頃合いだろうから、理容師に連絡を入れておこう、とモニカは思いつつシズトの話を聞く。
「え、みんな別館に住むんじゃないの? 使用人用の別館を建てるって聞いてたからてっきりそっちに住むと思ってたんだけど」
別館は今後の事も考えて部屋数を多く作られていたが、一人一室という奴隷とは思えないほどの好待遇はシズトの要望で維持されている。
「あ、今より部屋が狭くなる事が気になる感じ?」
「いえ、そういう訳ではありませんが」
「あー……やっぱり奴隷だから? 主人と一緒の建物で過ごすのが普通?」
「いえ、だいたいは奴隷小屋で寝泊まりさせる者たちが殆どですね。ただ、ドラゴニアの貴族の中には、シズト様と同じように奴隷たちの部屋を用意して、一緒の建物で過ごされる方もいます。……シズト様と異なり、大人数で一つの部屋を使わせますが」
「そうなんだ。……奴隷だからって、僕の近くにいる必要はないんだよ? やっぱりプライバシーとかあるだろうし、僕と四六時中一緒の建物にいたら緊張するだろうから別館の方が良いと思うんだけど。……僕もその方が気が楽だし」
「なるほど、それが一番の理由ですね」
「うん、まあ、そうかな?」
モニカがクスッと笑うと、シズトは困ったような表情で頬をかく。
奴隷との生活は慣れた様子だったが、機会があれば別居しようと画策していたようだった。
最近はその様な事は言わなかったので、もう慣れたと思い込んでいたモニカ達だった。
「では、他の方々も別館に住まわれるのでしょうか?」
「ん?」
「婚約者のレヴィア様やジューン様は同居された方が良いと思うのですが」
「まあ、そうか……そうかな? まだ婚約してるだけだから一緒に暮らすのはどうなんだろう? 同棲と考えればセーフ?」
モニカは内心で藪蛇だったな、と呟いて己の失敗を悟った。
自慢の金色の縦ロールを弄っていたレヴィアに視線を向けると、彼女は静かに頷いた。
悪気があったわけではないと伝わっていた事にホッして、モニカは再びシズトを見る。
腕を組み、首を傾げ、体も傾きながら悩んでいる少年に声をかける。
「庶民の間ではよくある事だそうですよ。シズト様は貴族ではないので、良いのではないのでしょうか? それに、今まで一緒に過ごされていたのに別居してしまうと、不仲なのではないかと邪推されてしまうかもしれません」
「なるほど……?」
まだ納得していなさそうなシズトだったが、モニカは気にせず、話を元に戻す。
「婚約者ではないドーラ様やラオ様、ルウ様は別館で過ごされるのでしょうか?」
「んー……ラオさんたちは、一緒に住むって言ってるから……」
「なるほど、自分の意志で選んだ事であれば、同居も認めていただけるのですね?」
「まあ、そうなる……かな?」
「であれば、私たちも希望すれば一緒に住むことを認めていただける、と」
「……まあ、そうだね。無理矢理は嫌だし、本館で過ごしたいって言うなら……」
「また奴隷たちに話を聞いて確認をしておきます。お食事中、失礼しました」
ぺこりとモニカは頭を下げて壁際まで下がる。
シズトは眉間に皺を寄せて、難しい顔で食事を進めていたが、結局何も言わずに食堂から出て行った。
途中からモニカとシズトの話を聞いていなかったのか、しょんぼりとしている狐人族のエミリーと、そのエミリーを心配して何かを言っているジューンと一緒にモニカは片付けを済ませる。
それが終わると自室に戻って、シズトが風呂から上がるのを整理をしながら待った。
ただ、モニカに与えられた個室には、ほとんど何も物が置かれていなかったので、すぐに終わってしまう。
唯一の私物である絵画をベッドに座りながら見ていると、扉がノックされた。
「モニカ、シズト様がお風呂から上がったじゃん」
「分かりました。教えてくださってありがとうございます」
室内から返事をすると、声の主は離れていったようだ。
モニカは他の奴隷たちと異なり、五感も人並みで魔力感知能力もない。だからシズトがどこにいるのかも予測する事しかできない。
そのため、モニカが風呂から上がって脱衣所で服を着ずに涼んでいた際に、泥だらけになってしまったシズトが脱衣所に入ってきて鉢合わせしてしまった事があった。
彼女はタオルを巻いていたが、シズトがだいぶ慌てた様子で脱衣所から出て行ってしまった事を思い出してクスッと笑うモニカ。
彼女は着替えなどを持って脱衣所へと向かうのだった。
シズトはのんびりと夕食を食べながら、引っ越し作業の進捗を聞いていた。
進捗を報告しているのは、奴隷のまとめ役として働いているモニカだ。
勇者の血を引く彼女は、色濃くその特徴が容姿に出ていて、黒い髪に黒い瞳が特徴の少女だった。
ただ、加護を授かる事はなく、容姿以外はどこにでもいる普通の女の子だった。
支給されているメイド服をしっかりと着こなして、メモを見る事もなく、シズトに淡々と状況を説明し続けている。
ただ、誰がどの部屋を使うか決まった事について話をした際に、シズトは不思議そうに首を傾げた。
少し伸びてきている前髪が、それに合わせて動き、彼の片目にかかる。
もうそろそろ切りたいと言い始める頃合いだろうから、理容師に連絡を入れておこう、とモニカは思いつつシズトの話を聞く。
「え、みんな別館に住むんじゃないの? 使用人用の別館を建てるって聞いてたからてっきりそっちに住むと思ってたんだけど」
別館は今後の事も考えて部屋数を多く作られていたが、一人一室という奴隷とは思えないほどの好待遇はシズトの要望で維持されている。
「あ、今より部屋が狭くなる事が気になる感じ?」
「いえ、そういう訳ではありませんが」
「あー……やっぱり奴隷だから? 主人と一緒の建物で過ごすのが普通?」
「いえ、だいたいは奴隷小屋で寝泊まりさせる者たちが殆どですね。ただ、ドラゴニアの貴族の中には、シズト様と同じように奴隷たちの部屋を用意して、一緒の建物で過ごされる方もいます。……シズト様と異なり、大人数で一つの部屋を使わせますが」
「そうなんだ。……奴隷だからって、僕の近くにいる必要はないんだよ? やっぱりプライバシーとかあるだろうし、僕と四六時中一緒の建物にいたら緊張するだろうから別館の方が良いと思うんだけど。……僕もその方が気が楽だし」
「なるほど、それが一番の理由ですね」
「うん、まあ、そうかな?」
モニカがクスッと笑うと、シズトは困ったような表情で頬をかく。
奴隷との生活は慣れた様子だったが、機会があれば別居しようと画策していたようだった。
最近はその様な事は言わなかったので、もう慣れたと思い込んでいたモニカ達だった。
「では、他の方々も別館に住まわれるのでしょうか?」
「ん?」
「婚約者のレヴィア様やジューン様は同居された方が良いと思うのですが」
「まあ、そうか……そうかな? まだ婚約してるだけだから一緒に暮らすのはどうなんだろう? 同棲と考えればセーフ?」
モニカは内心で藪蛇だったな、と呟いて己の失敗を悟った。
自慢の金色の縦ロールを弄っていたレヴィアに視線を向けると、彼女は静かに頷いた。
悪気があったわけではないと伝わっていた事にホッして、モニカは再びシズトを見る。
腕を組み、首を傾げ、体も傾きながら悩んでいる少年に声をかける。
「庶民の間ではよくある事だそうですよ。シズト様は貴族ではないので、良いのではないのでしょうか? それに、今まで一緒に過ごされていたのに別居してしまうと、不仲なのではないかと邪推されてしまうかもしれません」
「なるほど……?」
まだ納得していなさそうなシズトだったが、モニカは気にせず、話を元に戻す。
「婚約者ではないドーラ様やラオ様、ルウ様は別館で過ごされるのでしょうか?」
「んー……ラオさんたちは、一緒に住むって言ってるから……」
「なるほど、自分の意志で選んだ事であれば、同居も認めていただけるのですね?」
「まあ、そうなる……かな?」
「であれば、私たちも希望すれば一緒に住むことを認めていただける、と」
「……まあ、そうだね。無理矢理は嫌だし、本館で過ごしたいって言うなら……」
「また奴隷たちに話を聞いて確認をしておきます。お食事中、失礼しました」
ぺこりとモニカは頭を下げて壁際まで下がる。
シズトは眉間に皺を寄せて、難しい顔で食事を進めていたが、結局何も言わずに食堂から出て行った。
途中からモニカとシズトの話を聞いていなかったのか、しょんぼりとしている狐人族のエミリーと、そのエミリーを心配して何かを言っているジューンと一緒にモニカは片付けを済ませる。
それが終わると自室に戻って、シズトが風呂から上がるのを整理をしながら待った。
ただ、モニカに与えられた個室には、ほとんど何も物が置かれていなかったので、すぐに終わってしまう。
唯一の私物である絵画をベッドに座りながら見ていると、扉がノックされた。
「モニカ、シズト様がお風呂から上がったじゃん」
「分かりました。教えてくださってありがとうございます」
室内から返事をすると、声の主は離れていったようだ。
モニカは他の奴隷たちと異なり、五感も人並みで魔力感知能力もない。だからシズトがどこにいるのかも予測する事しかできない。
そのため、モニカが風呂から上がって脱衣所で服を着ずに涼んでいた際に、泥だらけになってしまったシズトが脱衣所に入ってきて鉢合わせしてしまった事があった。
彼女はタオルを巻いていたが、シズトがだいぶ慌てた様子で脱衣所から出て行ってしまった事を思い出してクスッと笑うモニカ。
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