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第11章 旅の準備をしながら生きていこう
187.事なかれ主義者は許された
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旅の支度をしているとあっという間に三日が過ぎた。
久しぶりにいろいろ魔道具を試作しながらファマリーのお世話をしたから、毎日魔力切れでだるくてしょうがない。
ただ、そのおかげで馬車の改造は終わった。
ラオさんに小突かれながら進めたから、まあまだマシなレベルで収まっているはずだ……たぶん。
のんびりと朝食を食べていると、食事が終わって頬杖をつきながら僕をじっと見ていたラオさんが口を開いた。
「今日は何すんだ?」
「ファマリーのお世話をしたら、ついでにエント様の教会を見に行こうかな、って」
超特急で建物だけ作ってもらって、大工さんたちにはファマリアに待機してもらっている。
細かい所を魔道具化して起きる不具合を修正してもらおうかな、って。
魔法って便利だね、リフォームも気軽にできるらしいし。
まあ、その分結構な金額が動いているらしいんだけど。
長袖長ズボンの農作業をする格好をしているレヴィさんが、口に詰め込んでいた物を飲み込むと、話に入ってきた。
「面白そうですし、私も行くのですわ!」
「……着替えてくる」
鎧を着ていなかったドーラさんが、食堂から出て行く。
レヴィさんは気にした様子もない。
「お姉ちゃんもついて行くわ!」
「だったら着替えるぞ」
「そうねー、シズトくんに何かあったら大変だものね」
ルウさんはラオさんと一緒に僕について来るようだ。
ジュリウスさんがついて来るけど念のため、とラオさんに連れられてルウさんは武装をするために食堂から出て行った。
「私はユグドラシルでお仕事してきますぅ」
「よろしくー」
ジューンさんは少し前から問題になっていた世界樹の素材をどうするか等を僕の代わりに決めてきてくれるそうだ。
普段とは違って真っ白な布で織られたドレスを着ていて、彼女のエルフらしからぬ体型が強調されている。
エルフの正装は体のラインが分かる服だからこのドレスを着ているらしいが、容姿に自信がないらしい彼女の体をじろじろと見ちゃだめだろう。
視線が存在感を主張しすぎている顔から下に行かないように気を付けつつ、ジューンさんに返事をする。
なんかいい感じに頑張って来てほしい。
「ホムラは引き続きお店の留守番お願いね」
「かしこまりました、マスター」
無表情で頷くホムラ。
その口周りがリンゴのジャムで大変な事になっているのでハンカチで拭う。
ホムラの反対側に座っているユキに視線を向けると、彼女はニコッと微笑んだ。
「学校……じゃなかった。研修所の進捗はどんな感じ?」
「教員もある程度確保できて、建物も完成したからいつでも始められるわ、ご主人様」
「そっか。じゃ、奴隷たちの働き方を見直して、週に一日くらい勉強をする日にして。月に一回くらいの頻度で読み書きのテストをして、成績優秀者には褒美をあげる、とか言ったら参加してくれるでしょきっと」
「そんな事しなくても言えばやると思うわ、ご主人様。ただ、やる気を持たせるのは大事だし、いいんじゃないかしら」
「レヴィさんはどう思う?」
「シズトの好きにすればいいと思うのですわー」
「じゃ、そういう事で。ご褒美は…………また考えとく」
流石にエリクサーだと大盤振る舞い過ぎるかなぁ。
ただ、奴隷の男の子はだいたい部位欠損とか、酷い怪我の痕とかあるらしいし、何とかしてあげたいんだよなぁ……。
ラオさんがいない間に決めると後が怖いから、とりあえず保留にしとこ。
ファマリーに【生育】を使った影響で半分以上魔力が持ってかれたけど、まあ、まだ魔道具は作れそうだし、予定通り行こう。
近衛兵に囲まれ、ジュリウスさんが後ろからついてくる中、エント様の像が設置されている方へ向かう。
周囲に特に何もないためまだ寂しい感じだけど、どんどん移住者や商人の受け入れは増やしてもらっているので、そのうちここにも建物が建つだろう。
金色のエント様の像は、今日も輝いていた。
奴隷の子たちがいつも綺麗にしてくれているんだとか。
近くに設置した目安箱の中身はすでに回収された後なので、特に何も入っていないだろうけど、念のため中を確認する。
うん、何もない。
代筆をしている冒険者たちが出払っているので、書く人がいないのだろう。
それにしても、冒険者からも町に関する意見が寄せられるとは思わなかった。ここじゃなくってやっぱり町中に設置すべきか。エント様の教会に関する意見はあんまりなかったし。
数少ない意見の中に、心が落ち着く場所にしてほしい、と要望があったのでとりあえずリラックス効果のある光が室内を照らすように照明を魔道具化していこう。
「……それは精神に干渉する物なんじゃねぇか?」
「………」
ラオさんに何を作るか聞かれたので正直に応えたらジト目で睨まれた。
確かに言われてみるとそうかも?
ラオさんが握りこぶしを作って僕を見ている。……やめとこ。
その代わりに、治癒効果のある結界で建物を囲ってしまおう。
建物はこぢんまりとした木造の二階建てだ。
他の二柱の教会が結構すごい事になってそうだけど、こっちは敷地内に魔道具を大量に設置する事で対抗しようと思う。
教会の周りを鉄の柵が囲っていて、門が開かれていた。
とりあえずその門を魔力に反応して勝手に開閉するようにしておく。
ラオさんにジッと見られている気がするけど、教会内に入って行ったレヴィさんとドーラさん、セシリアさんを走って追いかける。
「シズトくん、どのくらいの治癒効果のある物を作るつもりなの?」
「魔石の消費とか諸々の事を考えると、そこまで強い物は止めといた方が良いと思うんだよね。古傷や老化による節々の痛みが結界内だと消えるとか、小さなかすり傷くらいだったら長時間いたら直るとかそのくらいにしようかなぁ、って」
やろうと思えば、もう少しがっつり治す物を作る事もできそうだけど、魔力消費とか諸々の事を考えたら建物内全域で効果を発揮するのはちょっと現実的じゃない。
建物内で効果を発揮するようにする事には妥協したくないので、その他の所を諦める。
僕の真後ろに立っているラオさんが小突いてこない。
許された!!
せっせと魔道具を作っていると、背後からなんかため息が聞こえてきたけど、他にもやりたい事はあったのでスルーした。
久しぶりにいろいろ魔道具を試作しながらファマリーのお世話をしたから、毎日魔力切れでだるくてしょうがない。
ただ、そのおかげで馬車の改造は終わった。
ラオさんに小突かれながら進めたから、まあまだマシなレベルで収まっているはずだ……たぶん。
のんびりと朝食を食べていると、食事が終わって頬杖をつきながら僕をじっと見ていたラオさんが口を開いた。
「今日は何すんだ?」
「ファマリーのお世話をしたら、ついでにエント様の教会を見に行こうかな、って」
超特急で建物だけ作ってもらって、大工さんたちにはファマリアに待機してもらっている。
細かい所を魔道具化して起きる不具合を修正してもらおうかな、って。
魔法って便利だね、リフォームも気軽にできるらしいし。
まあ、その分結構な金額が動いているらしいんだけど。
長袖長ズボンの農作業をする格好をしているレヴィさんが、口に詰め込んでいた物を飲み込むと、話に入ってきた。
「面白そうですし、私も行くのですわ!」
「……着替えてくる」
鎧を着ていなかったドーラさんが、食堂から出て行く。
レヴィさんは気にした様子もない。
「お姉ちゃんもついて行くわ!」
「だったら着替えるぞ」
「そうねー、シズトくんに何かあったら大変だものね」
ルウさんはラオさんと一緒に僕について来るようだ。
ジュリウスさんがついて来るけど念のため、とラオさんに連れられてルウさんは武装をするために食堂から出て行った。
「私はユグドラシルでお仕事してきますぅ」
「よろしくー」
ジューンさんは少し前から問題になっていた世界樹の素材をどうするか等を僕の代わりに決めてきてくれるそうだ。
普段とは違って真っ白な布で織られたドレスを着ていて、彼女のエルフらしからぬ体型が強調されている。
エルフの正装は体のラインが分かる服だからこのドレスを着ているらしいが、容姿に自信がないらしい彼女の体をじろじろと見ちゃだめだろう。
視線が存在感を主張しすぎている顔から下に行かないように気を付けつつ、ジューンさんに返事をする。
なんかいい感じに頑張って来てほしい。
「ホムラは引き続きお店の留守番お願いね」
「かしこまりました、マスター」
無表情で頷くホムラ。
その口周りがリンゴのジャムで大変な事になっているのでハンカチで拭う。
ホムラの反対側に座っているユキに視線を向けると、彼女はニコッと微笑んだ。
「学校……じゃなかった。研修所の進捗はどんな感じ?」
「教員もある程度確保できて、建物も完成したからいつでも始められるわ、ご主人様」
「そっか。じゃ、奴隷たちの働き方を見直して、週に一日くらい勉強をする日にして。月に一回くらいの頻度で読み書きのテストをして、成績優秀者には褒美をあげる、とか言ったら参加してくれるでしょきっと」
「そんな事しなくても言えばやると思うわ、ご主人様。ただ、やる気を持たせるのは大事だし、いいんじゃないかしら」
「レヴィさんはどう思う?」
「シズトの好きにすればいいと思うのですわー」
「じゃ、そういう事で。ご褒美は…………また考えとく」
流石にエリクサーだと大盤振る舞い過ぎるかなぁ。
ただ、奴隷の男の子はだいたい部位欠損とか、酷い怪我の痕とかあるらしいし、何とかしてあげたいんだよなぁ……。
ラオさんがいない間に決めると後が怖いから、とりあえず保留にしとこ。
ファマリーに【生育】を使った影響で半分以上魔力が持ってかれたけど、まあ、まだ魔道具は作れそうだし、予定通り行こう。
近衛兵に囲まれ、ジュリウスさんが後ろからついてくる中、エント様の像が設置されている方へ向かう。
周囲に特に何もないためまだ寂しい感じだけど、どんどん移住者や商人の受け入れは増やしてもらっているので、そのうちここにも建物が建つだろう。
金色のエント様の像は、今日も輝いていた。
奴隷の子たちがいつも綺麗にしてくれているんだとか。
近くに設置した目安箱の中身はすでに回収された後なので、特に何も入っていないだろうけど、念のため中を確認する。
うん、何もない。
代筆をしている冒険者たちが出払っているので、書く人がいないのだろう。
それにしても、冒険者からも町に関する意見が寄せられるとは思わなかった。ここじゃなくってやっぱり町中に設置すべきか。エント様の教会に関する意見はあんまりなかったし。
数少ない意見の中に、心が落ち着く場所にしてほしい、と要望があったのでとりあえずリラックス効果のある光が室内を照らすように照明を魔道具化していこう。
「……それは精神に干渉する物なんじゃねぇか?」
「………」
ラオさんに何を作るか聞かれたので正直に応えたらジト目で睨まれた。
確かに言われてみるとそうかも?
ラオさんが握りこぶしを作って僕を見ている。……やめとこ。
その代わりに、治癒効果のある結界で建物を囲ってしまおう。
建物はこぢんまりとした木造の二階建てだ。
他の二柱の教会が結構すごい事になってそうだけど、こっちは敷地内に魔道具を大量に設置する事で対抗しようと思う。
教会の周りを鉄の柵が囲っていて、門が開かれていた。
とりあえずその門を魔力に反応して勝手に開閉するようにしておく。
ラオさんにジッと見られている気がするけど、教会内に入って行ったレヴィさんとドーラさん、セシリアさんを走って追いかける。
「シズトくん、どのくらいの治癒効果のある物を作るつもりなの?」
「魔石の消費とか諸々の事を考えると、そこまで強い物は止めといた方が良いと思うんだよね。古傷や老化による節々の痛みが結界内だと消えるとか、小さなかすり傷くらいだったら長時間いたら直るとかそのくらいにしようかなぁ、って」
やろうと思えば、もう少しがっつり治す物を作る事もできそうだけど、魔力消費とか諸々の事を考えたら建物内全域で効果を発揮するのはちょっと現実的じゃない。
建物内で効果を発揮するようにする事には妥協したくないので、その他の所を諦める。
僕の真後ろに立っているラオさんが小突いてこない。
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