【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第10章 婚約(仮)をして生きていこう

幕間の物語83.エルフは一任された

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 ユグドラシルの周囲に作られた都市国家ユグドラシルは、今日も多様な種族が街中を行き交っていた。
 世界樹の素材は未だに手に入らない状況が続いているが、希少な薬草やエルフたちが培ってきた技術によって生成される質の高いポーション類を求めて、遠方からわざわざやってくる商人もいる。
 外からやって来る者たちは、エルフたちの居住区よりも外側にある、商業区までしか入れない。
 居住区よりもさらに内側は、国に認められた者しか通行を許可されていなかった。住人のエルフですら気軽に入れない区画だ。
 他国の要人が泊まる高級宿や、エルフの中でも地位が高い者が住む住居、その他の重要施設があった。
 世界樹の番人のリーダーであるジュリウスは、現在その区画にある高級宿の一室にいた。
 勇者が快適に過ごす事ができるようにと設計されたその宿の和室で、ジュリウスはシズトの婚約者候補である二人を呼び出していた。
 世界樹の番人になる予定だったジュリエッタと、孤児院で子どもたちの世話をしていたジューンだ。
 ジュリエッタは、凛々しい顔立ちだったが、何事かに悩んでいる様子で表情が曇っていた。
 ジューンも自信がなさそうに眉が下がっていて、髪の毛を指で弄っていた。

「あのぅ、ジューロちゃんは……?」
「ジューロはシズト様の好みに合わなかったので呼んでいない。だが、今後はシズト様のために働いてもらう予定だ。そのための支度をしておくようにと伝えてあるから、今頃は支度を始めているだろう」

 ジュリウスはジューロに理由を説明した時の事を思いだしたが、ジューロはむしろホッとしている様子だった。
 まだ幼い彼女には難しいだろうとジュリウスも感じていたが、ドーラとシズトの様子を見てもしかしたらシズトの好みかもしれない、と思い候補としてあげた娘だった。
 また、魔道具に興味を持っている事を知り、シズトと接点を持たせて今後シズトのために働いてもらおうと考えていたため、最終候補まで残っていた。
 だが、最終的にどちらも不幸な結果にならずに済んだからまあいいだろう、とジュリウスは気持ちを切り替える。

「婚約者がさらに二人、というのは今のシズト様には厳しいだろう。だが、二人の中から選ぶのも難しい、という事で私が二人から話を聞き、最終的に判断してほしいと一任された。ただ、シズト様から二人に必ず確認してほしい事があると言われたので、先にそちらを伝えさせてもらう」

 ジュリウスの視線を受けて、二人は姿勢を正した。
 だが、ジュリウスから発せられた言葉は、彼女たちにとっては当然の事だったので、少し気が抜けた。

「子どもたちが加護を貰えない事はぁ、想定していたので大丈夫ですぅ」
「そうですね。百年くらい、というのは人間としては長い期間なのでしょう。だから、シズト様は隠さず伝えてくれたのですね」
「シズト様の様子から、嘘をついているようだったがな。おそらく、その百年くらい、というのも我々に配慮して短めに言ってくださっているのだろう。実際はもっと長い期間、我々エルフは生育の加護を授かる事は出来ないだろうな」

 仕方ない事だ、と心の中で独白してジュリウスはため息をついた。
 それから、シズトから与えられたアイテムバッグの中から、心を読む魔法を付与された扇子を取り出し、魔力を流すと視線を戻して二人を見据えた。

「シズト様には候補の選定基準を詳しく伝えていないから、加護目的もいるかもしれない、とお考えになっているのだろうが、その様な考えはないな?」
「ありません」
「ないですぅ」
「……分かった」

 ジュリウスは扇子をアイテムバッグの中にしまう。
 その様子を見て二人は不思議そうに首を傾げたが、ジュリウスは特に説明をしなかった。
 その後、ジュリウスは二人から話を聞き、婚約者としてシズトのサポートをするつもりがあるのか、最終確認をしようとしたが、そこでジュリエッタが待ったをかけた。

「申し訳ありませんが、私は辞退させていただきたく存じます」
「……理由を問おう」
「私が未熟者だからです」

 ジュリエッタは悔しそうに顔を歪ませながら吐き捨てた。

「私はまだ、一つの事にしか集中できないと自覚してます。有難い事に、世界樹の番人の候補としても選ばれましたが、シズト様の婚約者として、世界樹関係の雑務と日々の鍛錬を両立する事は不可能だと考えております。それに、今の私にはシズト様のお役に立てる方法はただ一つ。私の武力だけだと思いますが、中途半端な力しかないです。それこそ、今護衛としてついている者たちと比べても劣るでしょう。なので、私は世界樹の番人としての職務と鍛錬に集中したいのです」
「なるほど。シズト様にもしっかりと考えを伝えておく。シズト様を守る盾として、精進せよ」
「ハッ」

 ジュリウスに促されてジュリエッタはそのまま部屋から退室した。
 残されたジューンは、ハッとすると慌てた。

「あ、あのぉ! 私もシズト様に相応しくないと思いますぅ!」
「なぜだ?」
「だ、だってぇ……こんな体型ですしぃ……」
「シズト様は人間だから問題ない。むしろ今の所、ジューンと似た体型の者が多い」
「でもぉ……」
「長年積み重なった事だから自信がないのは分かる。だが、シズト様はどちらかと言えば好意的な様子だった」
「他の二人ばかり見てましたよぉ?」
「胸にばかり視線がいって気分を害さないように、というシズト様なりの配慮だ」

 こればっかりは関わっていく中で実感していくしかない。
 そうジュリウスは結論付けて、代表の最終候補をジューンに決めたのだった。
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