【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第10章 婚約(仮)をして生きていこう

168.事なかれ主義者はちゃんと建てるつもり

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 まだ来ていない王家の長男について考えても仕方がない。
 気を取り直して、今日も今日とてファマリーに生育の加護を使ってお世話をした。
 最近は毎日魔力切れになるまで魔力を使っているので、魔力総量は増えているはずなんだけど、毎回半分以上持ってかれるんだよなぁ。
 不思議だなぁ、と急激な魔力消費のせいかだるさを感じつつ、ファマリーを見上げていると、ルウさんが頬に手を当てて不思議そうに首を傾げる。

「成長期なのかしら?」
「木に成長期ってあるの」
「アタシらが知るわけねぇだろ。そこら辺でうろちょろしてるドライアドに聞いてみればいいんじゃねぇか?」
「なるほど」

 世界樹を囲う聖域の中の至る所で作物の世話をしているドライアドたちは、今日ものんびりマイペースに働いていた。
 見た目が幼女なので働いてもらう事に思う所はあるけど、魔法を使ったり、髪の毛を操って収穫をしているドライアドたちはいつも楽しそうだ。
 他のドライアドたちのまとめ役っぽいちょっと大きな青いバラのドライアドを探すと、畑の近くに設置してある魔動散水機に魔石を入れていた。
 ちょっとそこのドライアドちゃん、こっち来てー。
 って、言ったら皆寄ってくるよねぇ、知ってた。

「いい加減名前決めた方が良いよね」
「人間さんどうしたの~?」
「なになに~」
「お腹空いたー」
「苺おいしーよ~」
「にんじんの方がおいしー」
「おいも!」
「ゴーヤ!!」

 ごめん、ゴーヤはちょっと苦手だから……。
 収穫していた農作物を両手で掲げて主張してくるドライアドたちを手で制止しながら、やっぱり季節感ないよなぁ、と思う。
 成長速度も最近は直接【生育】を使っていないのにドライアドたちが育てているからか、それとも魔道具の影響か早い。
 ちょっと思考がそれてしまったけど、とりあえず青いバラのドライアドに尋ねる。

「名前とかってないの?」
「ないよー。ねー」
「ねー」
「他の種族からは何て呼ばれてたの?」
「「「ドライアド~」」」

 うん、まあ、そうだけどね?
 とりあえず青いバラの子は青バラちゃんと呼ぶ事にした。
 他の子たちはとりあえず保留だ。
 青バラちゃん以外は散らばってもらって、青バラちゃんにさっきの疑問を尋ねる。

「毎日が成長期!」
「成長期が終わるのっていつ頃なの?」
「ずっと先だよー」
「まあ、エルフが育てるような木だからそうかもしれねぇとは思ってたけどなぁ」
「シズトくんだけじゃ育てきれないかもしれないわね」
「魔道具でも使えば成長促進できるのかな」

 毎日少しずつ大きくなっているファマリーを見上げて考えるけど、思いつかなかった。
 地道に頑張るしかないかぁ。



 青バラちゃんにお礼を言って、ファマリーの根元を後にする。
 今日はファマリアの教会建設予定地を見て回る予定だ。
 そのためにラオさんとルウさんは武装しているし、ジュリウスさんはいつものように案内係兼護衛として前を歩いている。
 ファマリーの東側に広がる聖域の魔道具の中を歩き、金色に輝くプロス様の像の所まで来ると、ジュリウスさんが振り返った。

「この周辺が加工の神プロス様の教会建設予定地です」
「思った以上に広いね」
「特に使ってない土地だから別にいいんだけどね」

 像の周囲にはテントがぽつぽつとあって、ドワーフが出入りしている。
 また、周囲もずんぐりむっくりしたドワーフたちがあーでもないこーでもないと話し合っている。
 建築物について相談しているようだ。
 今回の教会建設はホムラに言って、僕の貯まりに貯まっているらしいお金を使う目的もある。
 大盤振る舞いをしたらしいんだけど、ちょっと想像よりも大きな建物ができるのかもしれない。
 アダマンタイトの量、足らないかも?
 まあ、その時は諦めてもらおう。もしもの時のために一定数は残しておきたいし。
 そんな事を考えていると、ドワーフに何やらいろいろ話をされていたドフリックさんが僕に気づいた。

「なんじゃ、シズト。なんか用か?」
「いや、どんな感じなのかなぁ、と思って見に来ただけ」
「まだなんもできとらんぞ。各地から材料を取り寄せている段階だからのう」
「僕の出番が来るのってだいたいどのくらいの時期になりそう?」
「そうじゃのう……わしらは物づくりに関してはこだわりが強い。それ次第だから何とも言えんわい」
「……だろうね」

 殴り合いの喧嘩を始めたドワーフを遠目に眺めながら、何となく察した。
 ドワーフたちの元を離れて時計回りにぐるりと回りこむように聖域の中を歩く。
 遠くからでも分かるけど、金色の像の近くにエルフがたくさん集まって跪いて祈りを捧げていた。
 ……あそこに近寄るのなんかなぁ。
 そう思っていたらジュリウスさんがラオさんとルウさんに目配せをした後、彼らの元へ駆けていった。
 何やらエルフたちに話をしているジュリウスさん。
 周りのエルフがスッと動いて、何事もなかったかのように散らばってテントの中に入って行く。

「……これはこれでなんか申し訳ないんですけどぉ」
「ゴチャゴチャ言ってないで進め」
「あ、はい」

 ファマ様の像の近くに控えていたジュリウスさんの元へ行くと、彼は口を開いた。

「この像の後ろに教会を建てる予定です。教会自体は程々の大きさの予定ですが、いつの日か草木が生える土地になる事を見越して、植物を育てるスペースを残して置く予定です」
「あー、なんか今も徐々に草が生える範囲が広がってるもんね。世界樹を中心に」

 今のペースだったらまだまだ先になりそうだけど。
 その間は植木鉢で育てられる物を育てるのもありだし、魔道具でどうにか出来たらそうすればいいか。
 さっきまでお祈りしていたエルフたちがテントの隙間からこちらを見ている気がしたのであまり長居せず、西の方へとサクサクと移動する。
 エント様の像の周りにはテントはほとんどない。
 ただ、像の周りにはたくさんの木彫りのエント様らしき物などが置かれている。
 像もピカピカに磨き上げられていた。

「誰がしてくれてるんだろ?」
「奴隷の子どもたちや冒険者たちです。ここで働いている人間の冒険者たちはいつ引退してもおかしくない者たちが多いのですが、シズト様が提供している魔道具のおかげでまだ仕事を続けられるからでしょうね。子どもたちに関しては、シズト様の信仰している神様だから、という理由が大きいでしょうが、他の二柱はする必要がないほど他種族が貢物などをしてますからね。エント様に集中しているのだと思います」
「なるほどなぁ」
「ただ、他の二柱と異なり教会を自分たちで建築しよう、という動きはないですね。子どもたちの中にはシズト様にお願いしようか、と話している者たちがいるようですが、シズト様との接点がほぼほぼないので意見を言えてない状況です」

 まあ、だいたいファマリーのお世話をしたら屋敷に引き籠ってますからね。

「目安箱でも設置するか」
「教会はどうするのかしら?」
「ちゃんと建てるつもりだよ。ただ、専門家に依頼する事になるだろうけどね。……他の二柱の教会はそれぞれ加護の特徴を取り入れるつもりみたいだし、エント様も魔道具でアピールしようかなぁ」

 自動ドアならぬ魔動ドアとか?
 敷地内をのんびり移動できる動く歩道とか??
 像に触れたらピカッと後光が差す魔道具とか???

「また変な事考えてそうだな」
「シズトくんだし仕方ないと思うわ~」
「どのような教会が出来上がるのか楽しみです」

 なんか聞こえた気がするけど、アダマンタイトや世界樹に劣らない物を作らなきゃいけないんだから、と無視して考え続けた。
 これこそ信者(仮)の子たちに意見を募るのもありかな。
 とりあえず目安箱を【加工】でササッと作ってエント様の像の近くに設置して、屋敷に帰る事にした。
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