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第10章 婚約(仮)をして生きていこう
165.事なかれ主義者は欲に負ける
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いろいろな種類のケーキはどれも美味しいし、紅茶も美味しい。流石は王妃様が持ってきた物だ。
残ったらみんなで一緒に食べようかな?
あ、でも王妃様が持って帰っちゃうかな?
そんな事を考えながら、現実逃避のためにもぐもぐとデザートを食べていると、目の前で王妃様が王様の顔を治していた。
来る前に治せばいいのに、と思ったけど黙ってケーキを口の中に運ぶ。
ジロリ、と睨まれたら怖いので。
あと夫婦の交流を邪魔したくないですし。
「聖女の加護ほど様々な事はできないけれど、私は光の神から【癒し】の加護を授かってるわ。この程度の怪我であれば、すぐに治せるから、怪我をしたら言いなさい」
王妃様がリヴァイさんの方を見ながらそんな事を言った。
………?
これ、僕に向けて言ってます?
レヴィさんの方を見ると、こくりと頷いた。
「えっと、王妃様……? 加護はあまり他の人に言わない方が良いって聞いたんですけど、僕に見せてもよかったのでしょうか?」
「構わないわ。貴方は将来息子になるのですもの。それに、加護を隠すのは戦闘の際に手の内を隠すためが大きいわ。私の場合は、治す事しかできないから、知っておいてもらった方がもしもの時に加護を使えるでしょ? あと、私の事はお母様と呼んでくれればいいわ」
「俺の事もお父様でも構わんぞ、我が友よ……いや、息子よ、か?」
すっかり元通りになった頬を撫でながら、リヴァイさんがそう言ってきた。
まだレヴィさんと結婚はしてないけど、そうなるのかなぁ。
何とも言えずにもぐもぐとひたすらケーキを咀嚼していると、レヴィさんが口を開いた。
「お母様、シズトを連れてきましたけど、用件は何だったのですわ?」
「用件、というほどの事ではないけれど、母親としてあなたの婚約相手がどんな人か、この目で確かめておきたかったのよ。レヴィが自分で決めた相手だったらきっと大丈夫と思うけど、それでも前回の結果があれでしたから」
ジロリ、と睨むように僕を見つめる王妃様。
とりあえず、愛想笑いをすると、王妃様も少しだけ口角が上がった。
「あなたは、どこまでレヴィの事を知っているのかしら?」
「……どこまで、というと?」
「加護については?」
「聞いてます。心が読める加護ですよね。言葉にしなくても伝わるので、ちょっと楽しちゃってます」
「そう。…………背中の事は?」
「聞いてます。呪いの後遺症、みたいなものですよね? いつか何とか出来たらなぁ、って思います」
「そう。その二つの事を知ってるなら、その他の事は些細な事ね」
スッと、王妃様の眉間にあった皺が消えて、彼女は優し気な微笑でレヴィさんを見る。
レヴィさんはきょとんとした様子で彼女を見返していた。
「レヴィ。今、幸せかしら?」
「とっても幸せなのですわ」
「そう、それならよかったわ」
即答したレヴィさんに満足したのか、それだけ言うと、また眉間に皺を作って紅茶を静かに飲む王妃様。
それからしばらくの間、ケーキを食べ過ぎた様子で苦しそうなリヴァイさんと、最近の事や魔道具の依頼について話をしていたが、その間ずっと王妃様は何も言わずにリヴァイさんの隣で静かに過ごしていた。
ただ、帰り際ふと思い出したように僕を見て王妃様が口を開く。
「孫はいつ頃できそうかしら?」
「まだ結婚すらしてないんすけど!?」
王族でも婚前にそういう事していいのかなぁ……いや、しないですけどね?
レヴィさん、なんで残念そうに肩を落としているんすか。
セシリアさん、何すかその目は。言いたい事があるなら言えばいいんじゃないっすか? あ、やっぱ言わなくていいです。藪蛇になりそう。
リヴァイさんは真っ赤になっているであろう僕の顔を見て大笑いすると、奥さんと一緒に馬車に乗って帰って行った。
夜ご飯を食べた後、今日のお世話係のドーラさんと一緒にお風呂に入る。
もこもこと髪の毛を泡で包まれながらドーラさんに今日、王妃様に言われた事を話すと、彼女は静かに頷いた。
「婚前なのに、昔の勇者が手を出した事、ある」
またも勇者か!
やらかしエピソードのせいで僕が苦労してるんですけど!
僕もやらかす事があるから人の事は言えないけど、もっと自重して!
「そもそも一緒に入浴してる時点で今更だと思う」
「それは言わないで!」
文化の違いかな、と思っていたけどやっぱりそうだよね。
嫌ではないよ? 嫌ではないけど、やっぱり結婚前の女性とお風呂に入るのはダメだよね。
水着の様な物を着てるからセーフ! とか、思ってたけどそうだよね。
でも気づいたら一緒にお風呂に入る事になってたんだよ。不思議だね。
もこもこと泡で遊んでいるドーラさんに鏡越しに視線を向けると、彼女は遊ぶのをやめてお湯で泡を流し始めた。
「シズトが本気で嫌だと言えば、混浴は止める事はできる。ジュリウスが来て、状況が変わった」
「なんでジュリウスさん?」
「ジュリウスが入浴中の護衛すれば解決。彼はラオより強い」
「あー、なるほど。一人でお風呂入ってたら何があるか分かんないから、って事で一緒に入るようになったんだったっけ……?」
それならジュリウスさんに一緒に入ってもらおうかなぁ。
……一巡に一回くらい。
残ったらみんなで一緒に食べようかな?
あ、でも王妃様が持って帰っちゃうかな?
そんな事を考えながら、現実逃避のためにもぐもぐとデザートを食べていると、目の前で王妃様が王様の顔を治していた。
来る前に治せばいいのに、と思ったけど黙ってケーキを口の中に運ぶ。
ジロリ、と睨まれたら怖いので。
あと夫婦の交流を邪魔したくないですし。
「聖女の加護ほど様々な事はできないけれど、私は光の神から【癒し】の加護を授かってるわ。この程度の怪我であれば、すぐに治せるから、怪我をしたら言いなさい」
王妃様がリヴァイさんの方を見ながらそんな事を言った。
………?
これ、僕に向けて言ってます?
レヴィさんの方を見ると、こくりと頷いた。
「えっと、王妃様……? 加護はあまり他の人に言わない方が良いって聞いたんですけど、僕に見せてもよかったのでしょうか?」
「構わないわ。貴方は将来息子になるのですもの。それに、加護を隠すのは戦闘の際に手の内を隠すためが大きいわ。私の場合は、治す事しかできないから、知っておいてもらった方がもしもの時に加護を使えるでしょ? あと、私の事はお母様と呼んでくれればいいわ」
「俺の事もお父様でも構わんぞ、我が友よ……いや、息子よ、か?」
すっかり元通りになった頬を撫でながら、リヴァイさんがそう言ってきた。
まだレヴィさんと結婚はしてないけど、そうなるのかなぁ。
何とも言えずにもぐもぐとひたすらケーキを咀嚼していると、レヴィさんが口を開いた。
「お母様、シズトを連れてきましたけど、用件は何だったのですわ?」
「用件、というほどの事ではないけれど、母親としてあなたの婚約相手がどんな人か、この目で確かめておきたかったのよ。レヴィが自分で決めた相手だったらきっと大丈夫と思うけど、それでも前回の結果があれでしたから」
ジロリ、と睨むように僕を見つめる王妃様。
とりあえず、愛想笑いをすると、王妃様も少しだけ口角が上がった。
「あなたは、どこまでレヴィの事を知っているのかしら?」
「……どこまで、というと?」
「加護については?」
「聞いてます。心が読める加護ですよね。言葉にしなくても伝わるので、ちょっと楽しちゃってます」
「そう。…………背中の事は?」
「聞いてます。呪いの後遺症、みたいなものですよね? いつか何とか出来たらなぁ、って思います」
「そう。その二つの事を知ってるなら、その他の事は些細な事ね」
スッと、王妃様の眉間にあった皺が消えて、彼女は優し気な微笑でレヴィさんを見る。
レヴィさんはきょとんとした様子で彼女を見返していた。
「レヴィ。今、幸せかしら?」
「とっても幸せなのですわ」
「そう、それならよかったわ」
即答したレヴィさんに満足したのか、それだけ言うと、また眉間に皺を作って紅茶を静かに飲む王妃様。
それからしばらくの間、ケーキを食べ過ぎた様子で苦しそうなリヴァイさんと、最近の事や魔道具の依頼について話をしていたが、その間ずっと王妃様は何も言わずにリヴァイさんの隣で静かに過ごしていた。
ただ、帰り際ふと思い出したように僕を見て王妃様が口を開く。
「孫はいつ頃できそうかしら?」
「まだ結婚すらしてないんすけど!?」
王族でも婚前にそういう事していいのかなぁ……いや、しないですけどね?
レヴィさん、なんで残念そうに肩を落としているんすか。
セシリアさん、何すかその目は。言いたい事があるなら言えばいいんじゃないっすか? あ、やっぱ言わなくていいです。藪蛇になりそう。
リヴァイさんは真っ赤になっているであろう僕の顔を見て大笑いすると、奥さんと一緒に馬車に乗って帰って行った。
夜ご飯を食べた後、今日のお世話係のドーラさんと一緒にお風呂に入る。
もこもこと髪の毛を泡で包まれながらドーラさんに今日、王妃様に言われた事を話すと、彼女は静かに頷いた。
「婚前なのに、昔の勇者が手を出した事、ある」
またも勇者か!
やらかしエピソードのせいで僕が苦労してるんですけど!
僕もやらかす事があるから人の事は言えないけど、もっと自重して!
「そもそも一緒に入浴してる時点で今更だと思う」
「それは言わないで!」
文化の違いかな、と思っていたけどやっぱりそうだよね。
嫌ではないよ? 嫌ではないけど、やっぱり結婚前の女性とお風呂に入るのはダメだよね。
水着の様な物を着てるからセーフ! とか、思ってたけどそうだよね。
でも気づいたら一緒にお風呂に入る事になってたんだよ。不思議だね。
もこもこと泡で遊んでいるドーラさんに鏡越しに視線を向けると、彼女は遊ぶのをやめてお湯で泡を流し始めた。
「シズトが本気で嫌だと言えば、混浴は止める事はできる。ジュリウスが来て、状況が変わった」
「なんでジュリウスさん?」
「ジュリウスが入浴中の護衛すれば解決。彼はラオより強い」
「あー、なるほど。一人でお風呂入ってたら何があるか分かんないから、って事で一緒に入るようになったんだったっけ……?」
それならジュリウスさんに一緒に入ってもらおうかなぁ。
……一巡に一回くらい。
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