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第9章 加工をして生きていこう

幕間の物語75.ちびっこ神様ズはたまに見ている

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 神々の住まう世界の片隅で、秘密基地の周りに生えている木の一つにファマとエント、プロスの三柱が集まっていた。
 焦げ茶色の肩まで伸びた髪と同色の大きく丸い目で、じっとファマを見ているプロス。手には加工してササッと作った刃物があった。
 坊主頭のファマは、木に背中をぴったりとつけて立っていた。
 何かを期待している様子でウズウズしては、プロスに「じっとして!」と怒られ、ピタッと止まるのを繰り返していた。
 黒い髪のエントは、プロスに作ってもらった台に乗っていた。
 プロスがエントに刃物を渡すと、彼女は緊張した面持ちになっていたファマの頭を押さえて、木に印をつけた。

「や、やっぱりちょっと伸びてたんだな!」
「次プロスね!」

 トテテテ、と隣の木に背中をぴったりとつけるプロスの頭頂部の位置を、木の幹に印としてつけたファマはさらに喜んだ。

「ぷ、プロスもほんのちょっとだけ伸びてるんだな! ご、誤差じゃないんだな!」
「ほんと!? やったー!」
「良かったね……?」

 ピョンピョンと跳ねて喜ぶプロスではなく、ボーッと立っているファマを見てエントは安堵のため息をついた。
 短い間だけだったが、ファマの体から葉っぱが生え、肌がカサカサになり木の皮のようになった時は、そのまま木になってしまってもう遊べなくなってしまうかと危惧していたが、彼女の心配は杞憂で終わったようだ。
 エントがため息をついているのを見て、ハッとしたプロスはおろおろとし始めた。
 ファマも表情には出ていないが、タラタラと冷や汗が流れている。
 三柱の中でエントだけ、まったく容姿に変化がなかった。

「えっと……うーんと……そうだ! シズトが育ててる世界樹の周りの町を見てみよ!」
「そ、それが良いんだな。も、もしかしたらエントを広めるために何かやってるかもしれないんだな!」
「魔道具バンバン売って、ガンガン広めてるかもしれないもんね!」

 秘密基地の中から大きな箱を抱えて出てきたファマが、二柱の近くに箱を置いて蓋を開けると、たくさんの物が入っていた。そのほとんどがシズトたちや奴隷たちが奉納した貢物だ。
 その中から水晶玉を取り出すと、ファマは下界の様子を水晶に映す。
 世界樹ファマリーの周りを囲むように魔道具が設置されている。
 プロスが食い入るように水晶を覗き込み、二人の後ろからエントが遠慮がちに二人を見て話しかけた。

「私、気にしてないよ……? ちょっとだけだけど、力がついてるのも分かるから、ほんとだよ……?」
「そーなの? でもでも、ちゃんとみんなで広めてもらお!」
「そ、そうなんだな。な、仲間外れは良くないんだな」

 水晶に映るファマリアは、以前彼らが見た時よりもさらに人が増えていた。
 南の方に人だかりができている様子だったのでそれを映すと、エルフたちが像を取り囲んでひれ伏していた。

「……ちゃ、ちゃんとお祈りしてるんだな」
「金ピカだ! でも、ファマのだけしかない! シズトに文句言わなきゃ!」
「ま、周りのどこかにあるかもしれないよ?」
「ファマ~、ぼーっとしてないでギュンッて動かして!」
「わ、分かったからお腹突かないでほしいんだな~。く、くすぐったいんだな!」

 東の方を映すと、先程よりは少ないが、人だかりができていた。
 人だかりの中心には金色に輝くプロスの像がある。
 ずんぐりむっくりで髭がモジャモジャの集団が像の手入れをしたり、金色の像を至近距離からじっと見たりしていた。

「むー……お祈り、してない」
「き、きっとタイミングが悪かっただけなんだな」
「あ、なんかお話してるよ……?」

 ファマはエントが注目した人物を水晶の中心に映した。

『教会はどんな感じにするのか決めたのか、ドフリック様』
『ワシは考えておらんわい。希少金属で装飾品を作るぐらいだったらやってやってもいいが、彫刻や建築は興味ないわ』
『それじゃあ好きにさせてもらうわい』
『他の二柱よりもすごい物を作るぞ!』
『勝手にせい。……こんな小さな神様じゃったら酒は飲まないんじゃないか?』
『パパン、ダメ。罰当たり』
『親方と呼べ。ちょっとくらいバレんじゃろう』
『ダメ!』

小柄な女の子が身を挺して守る貢物のお酒を、一人のドワーフが諦めずに狙い続けていた。

「…………このドワーフ、覚えとこ」
「ぷ、プロス、お、落ち着くんだな」
「プロス、落ち着いてるよ?」
「え、笑顔が怖いんだな……」
「ファマくん、別の映して……?」

 神々が見ている目の前でお供え物に関する攻防を繰り広げていたドワーフ親子が水晶玉から消え、町をぐるりと上空から眺める。
 だが、人だかりが見当たらない。

「あ、金ピカ!」
「ほ、ほんとなんだな。見てみるんだな!」

 ファマリーから見て西の方にあった金色の像を映すと、それは確かにエントの像だった。
 ただ、他の二つと比べて人だかりはできていないし、供え物も少ない。

「え……とぉ~~~………」
「き、きっとタイミングが悪かったんだな! そ、それよりも教会! ど、ドワーフが教会を作るって言ってたんだな!」
「バーンっておっきなの作るのかなぁ」
「こ、こじんまりしていてもいいんだな。ひ、広めてくれるんだったらなんでもいいんだなー」
「エントは? エントはどんなのがいい?」
「私……? 私は……なんでもいい、かな……?」

 ファマの教会はエルフたちが作るだろう。
 プロスの物はドワーフたちがやる気満々だった。
 ただ、自分の物は誰が作ってくれるのだろうか?
 作ってもらえないかもしれない、という不安を抱えつつ、エントは曖昧に微笑んだ。
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