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第9章 加工をして生きていこう

151.事なかれ主義者は好き勝手してる

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 ファマリアの視察から一週間が経った。
 ファマリアではお祭りに向けて動き始めている。
 ファマ様に奉納するための植物を植木鉢で育てたり、プロス様に奉納するための木工作品を作るための木材をたくさん仕入れたりしてもらっている。
 ファマ様はもう十分知れ渡ってるような気もするけど、プロス様は今までは広めるのが難しいから確かに丁度良かったかも?
 エント様はブランド化をしようとホムラたちが頑張っているから、今回は二人……二柱? がメインになるのかなぁ。
 ゴロゴロとベッドの上で転がっていると、部屋の扉がノックされた。
 返事をするとそーっと扉が開いていく。開いた扉からひょこっと顔を出したのはレヴィさん。
 今日も話し合いをしてきたのかドレスを着ていた。今日は緑色のドレスで、首元には僕があげた指輪を首飾りにして身に着けている。

「……シズト、まだ怒ってるのですわ?」
「べつにー? 怒ってませんけど~?」
「不貞腐れてるんだよな」
「べっつにー。ただゴロゴロしてるだけですー」

 ベッドの近くの椅子に座って足を組んでいたラオさんにそう返事をすると、ラオさんが呆れた様子で僕を見てくる。
 やる事はやってるからいいでしょ。
 ユグドラシルのお世話をパパッと済ませて、余った時間を引き籠ってるだけだし。
 勝手にユウトとかいう人との勝負を決めちゃった理由は説明されたし、どうしてそれが分かったのかも教えてもらいましたけど?
 それに、勝手に動いたドーラさんと一緒に誠心誠意謝罪をされましたけど?
 最悪な事が起きないようにやれるだけ頑張るけど、それとこれとは話は別ですしー。

「うぅ……」
「なかなか便利だね、レヴィさんの加護」
「そうやって使うのは私かシズト様くらいかと」

 レヴィさんの近くで静かに控えていたセシリアさんが口元を手で隠してクスクスと笑っていた。
 それにつられてつい僕も笑っちゃったけど、ハッとしてベッドを転がる。いつもは無駄に大きいなこのベッドとか思うけど、今だけは許そうじゃないか。

「レヴィア様、そろそろ向かわなければお時間が……」
「分かっているのですわ。シズト、また行ってくるのですわ」

 頑張って話し合いしてくればいいんじゃないっすか?
 僕はまだゴロゴロするのに忙しいのでー。
 困った様に笑っても駄目ですのでー。



 お昼寝をしたら魔力が多少回復していたので、再びユグドラシルにやってきた。
 ユグドラシルはもうほぼほぼ元通りになっているらしく、青々とした葉っぱがたくさんついている。
 それを見上げていると、待ち合わせをしていたジュリウスさんがいつの間にか側に控えていた。

「ビックリするから、今度から近くに来たら声をかけてもらえます?」
「かしこまりました」

 跪かなくてもいいよ、ともいうべきだろうか。
 そんな事を考えていると立ち上がったジュリウスさんが口を開いた。

「それでは、始めますか?」
「ここだとちょっと周りが心配だからついて来て」
「かしこまりました」

 ジュリウスさんを連れて転移陣を使ってファマリーに転移すると、ラオさんに担がれたクーが待っていた。

「それじゃ、亡者の巣窟までお願いね、クー」
「むー……面倒」

 そうは言いつつも、ラオさんに下ろしてもらったクーが僕に触れて、僕はジュリウスさんを掴んだ。
 それからすぐに周囲の景色が様変わりする。
 不毛の大地が広がる中で、ポツンと石造りの建物の様なものが建っている。そこが亡者の巣窟の入り口だった。

「なるほど、周囲の影響の事を考えたらダンジョンを活用するのは確かにいい案かと思います。ただ、臭いが少々きついですが」
「入る前から? これ、もうつけといて」
「……魔道具ですか。酷い臭い対策の物ですか? 一定の魔物相手に活用できそうですが、逆に臭いが分からないと困る者もいるので扱う者は限られそうですね。どこで手に入れたのですか?」
「作ったの」
「作った……」

 ポカンとしているジュリウスさんを置いて、僕も準備をする。
 クーもついて来るので、クーの準備もしてあげる。それが最低条件だと言われたから仕方ない。
 ラオさんにクーの運搬をお願いして、ダンジョンに入り、三十一階層への階段近くに転移する。
 フロアボスを倒した後に進む事ができるセーフティーゾーンであればどこでもいいんだけど、今はここ以外は使う必要がないから転移陣を使えないようにしている。

「……もしや転移陣も?」
「うん。エント様から授かった加護でね」
「なるほど」

 話してなかったっけ?
 まあ、ジュリウスさんならいいか。どうせお祭りの時にお披露目する事にしたし。
 他の国からも人が来るとか言ってたもんなぁ。神様の力が広めやすそうだから都合がいいけど、世界樹の素材ってすごい集客力だなぁ。
 綺麗な花を期間内に咲かせた人にそこら辺で拾った葉っぱとか枝とか賞品としてあげる事にしたけど、やりすぎたかな?
 まあ、しばらくは好き勝手させてくれるみたいだし、奴隷たちにも平等に機会をって考えたらそんな感じじゃないと難しいしね。
 ちょっと怪我が酷い奴隷たちには魔道具で作った肥料と魔法のじょうろを渡してるし、こまめにお世話してたら綺麗に咲くでしょ。ドライアドたちにもばれないように協力をお願いしようかな?

「加護はもう一つあって、それが今日実験する時に使うものだよ。プロス様から授かったの」
「シズト様は神々に愛されていらっしゃるのですね」

 愛されているって言うか……アレは押し売りだよなぁ。
 神様たちの所に行って、生産系の加護が欲しいって言ったら貰えるんじゃない? 知らんけど。
 そんな事を考えながら、ラオさんにお願いしてアイテムバッグからせっせと実験材料を出してもらった。
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