【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
223 / 1,094
第9章 加工をして生きていこう

幕間の物語72.元引きこもり王女はしれっと爆弾を投下した

しおりを挟む
 ファマリアの冒険者ギルドに、相応しくない身なりの人たちが相対していた。
 片方はレヴィア・フォン・ドラゴニア。露出の少ない白いドレスを着ていたが、それでも豊満な胸部が目立っている。無礼にならないように気を付けつつも、チラチラと冒険者たちが盗み見ていた。
 金色の髪は顔の横辺りで縦ロールになっていて、その毛先を指で弄っている。
 青い目は興味がなさそうにギルドの出入り口で仁王立ちをしている黒髪の少年に向けられていた。

「……貴方は、もうその呼び方をする資格はないのですわ、ユウト様」

 ユウトと呼ばれた黒髪の少年は、苛立たしさを隠そうともせずに、眉間に皺を寄せている。
 日本人離れした端正な顔立ちだが、黒い髪に黒い目という事もあり、レヴィアの近くで静かに立っていたシズトに日本人を連想させた。
 そのイメージをレヴィアは加護で読み取り、シズトの方を向いて小さな声で説明する。

「名前はシズトに似てるのですわ。ただ、彼はシズトたちの世界の人じゃないですわ」
「そうなの? じゃあ祖先に勇者がいるとか?」
「そうですわね、モニカと同じですわ。ただ、モニカと違って、優秀な加護を授かっているのですわ」

 こそこそと小声で二人がやり取りをしている間にもユウトがずかずかと近づいて来る。が、途中で近衛兵たちが割って入った。

「なんだお前ら、王女の婚約者だぞ俺は!」
「もう婚約は解消したと思うのですわ」
「俺は了承してねぇ!」
「私に嘘が通用すると思っているのが片腹痛いのですわ」

 グッと何か言いたげな表情で黙るユウト。彼の視線がレヴィアからその近くに立っていたシズトに向かう。
 ただ、レヴィアは彼が何かを言う前に口を開いた。

「シズト、紹介するのですわ。こちら、私の元婚約者のユウト・フォン・ドラコ。ドラコ侯爵の息子ですわ。……立場を弁えて待っていたユウトにも一応紹介するのですわ。こちら、シズト。このファマリアを治める人ですわ。最近何かと話題になってる人ですわ」
「話題になりたくてなってるわけじゃないんだけどなぁ」
「それで? 手紙をわざわざ送ってきて、くだらない事を伝えてきたと思ったら今度は直接会いにここまで足を運んだのですわ?」

 首を傾げて不思議そうに尋ねるレヴィアを睨みつけ、ユウトは口を開いた。

「手紙を読んでるんだったらなぜ返事を書かない!」
「書く必要性を感じなかったからですわ。それと、立場を弁えて発言してほしいのですわ。本来だったら、そちらから声をかける事そのものが良くないのに、これ以上自らの立場を揺るがすような行為は避けた方が身のためだと思うのですわ」
「!? やっぱりお前が裏から手を回してたのか!」
「見当違いも甚だしいですわ。私は、あなたがそれで幸せになるならと、婚約解消をしてもらったのですわ。実際、恋焦がれていた女性とはお付き合いしていたのですわ? ああ、捨てられてしまったのですわ? 可哀想ですわー」
「それもこれも婚約解消されて、俺は跡継ぎの候補から外されたせいだ! 俺は長男で、加護を二つも持っているんだぞ! お前が親に泣きついてそうするように圧力をかけたんだろ!?」
「そんな事をしても私に何のメリットもないからしないのですわ。候補から外されたのは、ただあなたの弟たちが優秀だったとか、そんな理由だと思うのですわ」

 後は王女と婚約解消になり、レヴィアが侯爵家に嫁ぐ事がなくなり、王族の仲間入りを目指して婚約者決めの時に争った彼の父親の努力が水の泡になってしまった事も少なからず関係があるのだろうが、レヴィアは言わなかった。

「それに、有用な加護でよかったのですわ。継げなくても軍に入るなり、冒険者になるなりやりようはいくらでもあるのですわ」
「……どうあっても、手紙の内容を承諾する事はないんだな」
「そうですわ。だって、今の私はお慕い申し上げている方がいらっしゃるのですわ」

 毛先を弄んでいた手と逆の腕をシズトの腕と絡める。
 慌てるシズトを楽し気に見上げながら、レヴィアはギュッと腕に抱き着いた。

「人の心は移ろうもの、と誰かが言っていたのですわ。いつまでも、あなたを慕っている少女がいるとは思わないでほしいのですわ。まあ、そもそも先に貴方の心が私から離れて行ったのですけれど」

 俯きながらぷるぷると震えていたユウトだったが、スッと顔を上げて怒りによって染まった赤い顔で、シズトを睨みつけた。
 睨みつけられたシズトは、別の理由で真っ赤な顔だった。
 何が起こっているのかよく分かっていない様子で視線が彷徨っている。

「……シズト、とかいったな」
「あ、はい」
「お前に、勝負を申し込む!」

 酒場の方で静かに見守っていた冒険者たちの野太い声が囃し立てるように大きく上がった。
 だが、シズトはそんな反応を全部無視して、精一杯大きな声で返答をする。

「謹んでお断りしますー」

 今度はシズトに対するブーイングが広い屋内に広がった。
 それでも、シズトは繰り返し断りの文句を言い続けた。
 レヴィアは静かにその様子を見ていたが、不意にユウトと視線が合うと彼の心の声が聞こえたようだ。顔を顰め小さな声で「それは卑怯なのですわ」と呟く。その呟きに近くにいたドーラが気づいてレヴィアを見た。
 ユウトはにやりと笑って、シズトに視線を戻すと、レヴィアを指差しながら言葉を続けた。

「お前が勝てばレヴィを好きなようにすればいいさ。だが、俺が勝ったらレヴィは俺が貰う!」
「レヴィさんは物じゃないですー! っていうか、レヴィさんもなんか言ってよ!」
「大丈夫、シズトは負けないのですわ!」
「負けるから! 普通に負けるから! まじであっさりと普通に負ける未来しか見えないから!」
「勝負の方法はまた追って連絡する。首を洗って待っていろ!」

 言いたい事だけ言うと、ユウトは冒険者ギルドを出て行ってしまった。
 残されたシズトは慌てふためいているが、レヴィアとドーラは落ち着いていた。
 シズトを宥めているレヴィアに、ドーラがボソッと囁く。

「祭りの見世物」
「そうですわね。どうせやるしかないのなら、今度やる祭りに組み込んでやるのですわ!」
「神前試合」
「それもいいですわね。どうせなら他の人も巻き込んで大会にしても盛り上がりそうですわ。ちょっとラオたちに伝えてくるのですわ」

 何か行動を起こさないと、湧き上がってくる不安が表に出てしまいそうだった。
 もしもシズトが負けてしまったら?
 レヴィアはそんな思いを置き去りにするかのように、階段を駆け上がっていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...