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第9章 加工をして生きていこう

150.事なかれ主義者は髪を見た

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 お祭りの催しの事とかはとりあえず保留にして、ファマリアの町の見学を再開する。
 そこら辺にたくさんあるからと、奴隷たちが生活している住居も見せてもらった。アパートみたいな感じだ。木造建築もあれば、レンガ造りの建物もあるが、だいたい二階建てで細長く、扉が並んでいる。
 中は見せてもらってないけど、一人暮らし向けのアパートみたいな大きさのその建物で、数人で生活しているらしい。大変そうだと思ったけど、このくらいは普通なんだとか。

「駆け出しの冒険者とかは、もっと詰め込まれる宿屋で寝泊まりしてっけどな」
「そうなの?」
「そうよー。男も女も関係なく詰め込まれるから、私たちは自衛のためにちょっと高い宿に泊ってたけどね。親が貯めていたお金がなかったらまた状況が変わってたかもしれないわ」
「やっぱり女性冒険者って大変なんだねぇ。冒険者の話あんまり聞かないけど、ラオさんたちはどうして冒険者になったの?」
「アタシたちの話は今じゃなくていいだろ。留守みてぇだからどうすんだ? 勝手に部屋に入るか?」
「鍵はある」
「いや、女の子たちの部屋でしょ? 流石に勝手に入ったらダメでしょ」
「女だけどシズトの奴隷」
「それでもダメだよ。冒険者ギルドにでも行こうよ。そこで仕事してる子もいるみたいだし、どんな仕事しているのか見てみたい」
「それじゃあ行くのですわ!」

 近衛兵に囲まれながら集団で移動する。通行の邪魔になってないといいんだけど、あからさまに通行人が僕たちを避けて動いている。
 まあ、人通りがそこまで多くないからスイスイ進む事ができるのもあると思うけど。
 冒険者ギルドに近づくにつれて、冒険者の姿がちらほらと増えてきた。結構歳をとっているようで、熟練の冒険者って感じだ。顔に傷跡があったり足を引き摺っていたりと様々だけど仕事に支障はないんだろうか?

「イザベラがこの町に誘った元スカベンジャーだな。ダンジョンに潜って、放置された魔物の死体や死んだ冒険者の持ち物を命がけで集めて生計を立ててた奴らだ。冒険者としてやっていけねぇけど、それ以外にやれる事はねぇからって」
「街の依頼の方が安全なのに、なかなかやめなかったのよね?」
「冒険者としてのプライドがあったんじゃねぇの。知らねぇし興味もねぇけど」
「でもベラちゃんとシズトくんのおかげで、また魔物相手に戦う事もできるようになったみたいね」
「僕なんかした?」
「神聖ライトで下級のアンデッドを簡単に退治できるようにしちゃったじゃない。昔のけがで腰を痛めていても関係なく使えるから重宝しているみたいよ」

 なるほど。気づかない所で再就職の支援をしていた、みたいな感じか。
 ラオさんは眉を顰めて不機嫌そうだ。あんまり好ましくない状況なのかな?

「別に今の所誰も不幸になってないからいいと思うのですわ」
「まあ、そうだけどよ。無茶して帰って来なくなった人たちを知ってっからな。引き際は常に考えておく必要はあると思うぜ?」
「話をしていたらあっという間ですわね。さ、入るのですわ!」

 木造建築の大きな建物を見上げていると、レヴィさんに手を引っ張られて中へと入る。
 建物の中ではたくさんの女の子たちが、いくつかの集団を作って作業をしていた。
 近くでは冒険者たちがその作業風景を何も言わずに見守っている。
 受付の方へと視線を向けると、受付の人たちがのんびりと仕事をしている。忙しい時間帯ではないようだ。

「ベラちゃ~~~ん!」
「その呼び方は止めてって言ってるでしょ!」

 ルウさんが赤くて長い髪をなびかせながら受付カウンターへと駆けていく。
 呼ばれたイザベラさんが作業の手を止めて睨んでいるようだが、ルウさんは気にした様子もなくハグをしようとしているようだ。あ、杖で叩かれた。

「あら、シズトくん、こんにちは。今日は大勢で来たんですね」
「邪魔ですよね、すみません」
「いえ、ここでシズトくんの身に何かあった方が大変なので、気にしないでください。今日はシズトくんの奴隷たちが働いている様子を見学にいらっしゃったんでしたっけ?」
「まあ、そんなとこかな? ファマリアの様子ほとんど知らなかったから丁度いいかな、って」
「実際街を見ていたら、話をしておきたい事も出来てしまったのですわ」
「そこら辺はアタシらが説明しとくから別のとこ行っていいぞ。ドーラ、シズトのお守り頼んだ」
「頼まれた」
「それじゃ、ギルドマスター? ちょっと話があっから面貸せよ」
「元パーティーメンバーだからってその態度はどうなのよ」
「ベラちゃん、そんなに怒ってると眉間に皺ができちゃうわよ?」
「だからベラちゃん言うな!」

 二階へ続く階段を上っていく三人を見送って、取り残された僕たちは邪魔にならない範囲で酒場の子たちの様子を確認する。
 こちらの様子を見ていた女の子たちが一斉に視線を逸らして仕事に戻っていった。

「アレって何をしてるの?」

 女の子たちが同じところを行ったり来たりしている。
 魔石の山から両手に一つずつ魔石を持つと、袋を持っている子のとこへ行って、持っていた物を袋中に入れている。袋を持っている子は、三人がちゃんと魔石を入れたら袋を近くで控えていた女の子に渡していた。
 なんでわざわざ冒険者たちは魔石を出して女の子たちに渡してるんだろう? 魔石は小分けして納品した方が良いのかな。

「魔石の数を数えてるのですわ。数を数えられない子たちのために、ああやってマニュアル化してるらしいのですわ」
「へー。動きに無駄がないように見えるし、随分慣れてるみたいだね」
「同じ事をさせてるから。嫌でも慣れる」

 レヴィさんとドーラさんの話を聞きながらのんびりと奴隷たちの様子を眺めていたら、突然外から扉が勢いよく開かれた。
 何事かと驚いてそちらの方を見ると、黒い髪に黒い目の人物が肩で息をしながらこちらを睨みつけている。背が高いから一目で明じゃないと分かった。
 顔立ちは遠目からでも整っている事が分かる。イケメンだなぁ、とは思うが、今はその端正な顔立ちが歪んでいた。
 眼鏡もかけておらず、汚れも皺もない黒いスーツを着こなし、革靴を履いている。
 彼は冒険者たちと近衛兵の視線を集めているのに気づいていないのか、無視しているのか分からないが、大きな声で叫んだ。

「その髪型……やっと見つけたぞ、レヴィ!!」
「……貴方はもうその呼び方をする資格はないのですわ、ユウト様」

 確かに特徴的な髪型だけどさ。それで人を判断するってどうなんだろう。
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