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第9章 加工をして生きていこう
幕間の物語67.そばかすの少女はドナドナされる
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ドラゴニアには原因不明の不毛の地として有名な場所があった。
その土地には植物が生えず、いるのはアンデッド系の魔物だけ。
そんな場所に送られると聞かされた奴隷は、肉の盾にされるのかと恐れ戦いた。
集められるのは幼い子どもや容姿が普通かそれ以下のどこにでもいる女ばかり。
男もいるが、部位欠損や火傷が酷い者たちが多かった。
「……せめて、苦しまずに死にたいな」
そう呟いたのは、そばかすがある焦げ茶色の髪の少女だった。
他の子たちよりも年齢が上だったため、まとめ役として馬車に乗る子たちの頭数が揃っているか、数えるように指示を受けていた。
全員問題なく荷馬車に乗った事を確認すると、御者席に座っていたドラン兵に声をかける。
「分かった。出発するからお前も乗れ」
「はい」
主人ではないが、言うとおりにしておいた方が身のためだ。
そばかすの少女は荷馬車に乗って、そのまま座った。
心細そうに身を寄せ合っている子どもたちや、静かにすすり泣く女の子の声を聞きながら、出発まで膝を抱えて過ごしていた。
そんな彼女だったが、ドランの街を出てから違和感を覚えた。
自分たちが先頭のようだが、その後ろを荷馬車が十数台続いている。乗っているのは奴隷だけでなく、食料などもあるようだ。
その他にも、周囲に兵士が大量に展開しているのも気になった。
肉の盾にするのならむしろ自分たちの馬車が外側になるようにするはずだ。
(バカな私じゃ分からない理由とかあるのかな)
自分たちが乗っている馬車も何かしら理由があるのかもしれない。
普通、奴隷を運ぶ時は檻に入れるとかするはずだ。じゃないと逃げ出してしまうから。
ただ、彼女たちが進んでいるのはアンデッド系の魔物が支配する不毛の大地だ。
逃げたところでどうせ死ぬと思われているのかもしれない。
もしくは、周囲にいるたくさんの兵士たちは彼女たちが逃げても良いように控えているのかも。
「逃げる気もなくなるよ、こんなの」
移動の仕方もおかしかったが、食事もおかしい。
そばかすの少女は、温かいスープを飲みながらそんな事を思った。
まさか荷馬車に載せられているのが、自分たちのための食料とは思っていなかった彼女は、休憩の度に食事がある事に驚いていたし、温かい食事を食べられる事も驚いた。
温かい食事なんていつぶりだろうか、なんて事を考えながら出発の時とは別の意味で泣いている周囲の子たちを宥める。
もうすぐ日が暮れるからと、食事が終わると野営をする事になった。
彼女たちの荷馬車には毛布がたくさん敷き詰められていて、そこで寝るように言われた。
硬くて冷たい床で寝る事に慣れていた彼女たちは、柔らかい布に恐る恐る足を踏み入れ、それから話し合って、一塊になって眠った。
「アンデッドよりも今の状況の方が怖くなってきた」
「肥え太らせて食べようとする悪い魔女のお話が勇者様の世界にあるらしいよ」
「じゃあ私たち食べられちゃうの!?」
「やだーーー!!!」
目に涙をためて子どもたちが話をしていたが、外から見回りをしていたのであろう男の声が彼女たちに向かう。
「騒いでないで眠れよ。明日も早いからな。寝てる奴は朝飯抜きだぞ」
その声のすぐ後は静まり返ったが、男の足音が遠ざかっていくと、またヒソヒソと話す。
やっぱり自分たちを食べるために太らせようとしているんだ、と。
翌日、彼女たちの荷馬車から誰も出て来なかった。
「おい、飯の時間だぞ? まだ寝てんのか? 起きろー」
「………」
「おーい、チビ共、起きろー。飯だぞー?」
御者の男が荷馬車に上がって近づいてきても、子どもたちは寝たままだ。
仕方ない、と一塊になっていた子どもの中から、一番軽そうな幼児を抱き上げ、声をかけたり、ひっくり返したりもしたが反応がない。
「まさか、死んでるんじゃ!? ……って、生きてるよな」
おかしいな、と首をひねりながら男は荷馬車から下りた。
安堵のため息をそばかすの少女たちがついたが、すぐ男は戻ってきた。大きな鍋を持って。
良い匂いが荷馬車の中に充満する。
「ほーら、チビ共~。今日は昨日よりも具が増えててうまいぞ~?」
男が色々と話すのを聞きながら、お腹が鳴りそうになるのをぐっと堪え、そばかすの少女たちは寝たふりを続けた。
結局、出発の時間になるまで誰も起きなかったから、御者の男は諦めて大きな鍋を荷馬車から下ろした。
流石に何も食べないと不自然に思われるので、野営前の食事だけはしていた彼女たちは、今日もガタゴトと揺られながら荷馬車で運ばれる。
ただ、今日は昨日とは風景が違った。彼女たちはポカンと口を開けて、進行方向に見える大きな物を見上げていた。
出発してから三日目。地平線の向こうに、天にまで届きそうな程大きな木が一本だけ見えた。
奴隷という身分のため自分から話しかけるのは躊躇われたが、聞かずにはいられない。
それに、御者をしている兵士は寝たふりをしている自分たちを具合が悪いのか心配してくれた人だ。そこまで酷い仕置きはされないだろう、という思いもあった。
そばかすの少女は御者の人に声をかけた。
「あ、あの……」
「ん、なんだ、嬢ちゃん」
「あそこに見えるのって……なんですか?」
「ああ、嬢ちゃんたちには説明とかないもんな。嬢ちゃんたちの目的地の目印である、世界樹ファマリーだ」
「世界樹!? じゃあ、私たちはエルフに買われたって事ですか!?」
「いや、買ったのは人間の少女だよ。ああ、でもその主人が嬢ちゃんたちの主人だけどな、その人も人間だよ。嬢ちゃんたち、ついてたなー。主人の兄ちゃんはとっても優しいって噂だし、なにより荷馬車も、嬢ちゃんたちの食料もその他の必要経費もぜーんぶ兄ちゃん持ちらしいぜ」
「……私たちを太らせて食べたりとかは……?」
「食べるものに困ってねぇから、そういうのはねえんじゃね?」
「そ、そうなんですね……」
じゃあ、空腹を我慢して寝ていた自分たちの努力は一体何だったのだろうか……と、少女たちは肩を落とした。
その土地には植物が生えず、いるのはアンデッド系の魔物だけ。
そんな場所に送られると聞かされた奴隷は、肉の盾にされるのかと恐れ戦いた。
集められるのは幼い子どもや容姿が普通かそれ以下のどこにでもいる女ばかり。
男もいるが、部位欠損や火傷が酷い者たちが多かった。
「……せめて、苦しまずに死にたいな」
そう呟いたのは、そばかすがある焦げ茶色の髪の少女だった。
他の子たちよりも年齢が上だったため、まとめ役として馬車に乗る子たちの頭数が揃っているか、数えるように指示を受けていた。
全員問題なく荷馬車に乗った事を確認すると、御者席に座っていたドラン兵に声をかける。
「分かった。出発するからお前も乗れ」
「はい」
主人ではないが、言うとおりにしておいた方が身のためだ。
そばかすの少女は荷馬車に乗って、そのまま座った。
心細そうに身を寄せ合っている子どもたちや、静かにすすり泣く女の子の声を聞きながら、出発まで膝を抱えて過ごしていた。
そんな彼女だったが、ドランの街を出てから違和感を覚えた。
自分たちが先頭のようだが、その後ろを荷馬車が十数台続いている。乗っているのは奴隷だけでなく、食料などもあるようだ。
その他にも、周囲に兵士が大量に展開しているのも気になった。
肉の盾にするのならむしろ自分たちの馬車が外側になるようにするはずだ。
(バカな私じゃ分からない理由とかあるのかな)
自分たちが乗っている馬車も何かしら理由があるのかもしれない。
普通、奴隷を運ぶ時は檻に入れるとかするはずだ。じゃないと逃げ出してしまうから。
ただ、彼女たちが進んでいるのはアンデッド系の魔物が支配する不毛の大地だ。
逃げたところでどうせ死ぬと思われているのかもしれない。
もしくは、周囲にいるたくさんの兵士たちは彼女たちが逃げても良いように控えているのかも。
「逃げる気もなくなるよ、こんなの」
移動の仕方もおかしかったが、食事もおかしい。
そばかすの少女は、温かいスープを飲みながらそんな事を思った。
まさか荷馬車に載せられているのが、自分たちのための食料とは思っていなかった彼女は、休憩の度に食事がある事に驚いていたし、温かい食事を食べられる事も驚いた。
温かい食事なんていつぶりだろうか、なんて事を考えながら出発の時とは別の意味で泣いている周囲の子たちを宥める。
もうすぐ日が暮れるからと、食事が終わると野営をする事になった。
彼女たちの荷馬車には毛布がたくさん敷き詰められていて、そこで寝るように言われた。
硬くて冷たい床で寝る事に慣れていた彼女たちは、柔らかい布に恐る恐る足を踏み入れ、それから話し合って、一塊になって眠った。
「アンデッドよりも今の状況の方が怖くなってきた」
「肥え太らせて食べようとする悪い魔女のお話が勇者様の世界にあるらしいよ」
「じゃあ私たち食べられちゃうの!?」
「やだーーー!!!」
目に涙をためて子どもたちが話をしていたが、外から見回りをしていたのであろう男の声が彼女たちに向かう。
「騒いでないで眠れよ。明日も早いからな。寝てる奴は朝飯抜きだぞ」
その声のすぐ後は静まり返ったが、男の足音が遠ざかっていくと、またヒソヒソと話す。
やっぱり自分たちを食べるために太らせようとしているんだ、と。
翌日、彼女たちの荷馬車から誰も出て来なかった。
「おい、飯の時間だぞ? まだ寝てんのか? 起きろー」
「………」
「おーい、チビ共、起きろー。飯だぞー?」
御者の男が荷馬車に上がって近づいてきても、子どもたちは寝たままだ。
仕方ない、と一塊になっていた子どもの中から、一番軽そうな幼児を抱き上げ、声をかけたり、ひっくり返したりもしたが反応がない。
「まさか、死んでるんじゃ!? ……って、生きてるよな」
おかしいな、と首をひねりながら男は荷馬車から下りた。
安堵のため息をそばかすの少女たちがついたが、すぐ男は戻ってきた。大きな鍋を持って。
良い匂いが荷馬車の中に充満する。
「ほーら、チビ共~。今日は昨日よりも具が増えててうまいぞ~?」
男が色々と話すのを聞きながら、お腹が鳴りそうになるのをぐっと堪え、そばかすの少女たちは寝たふりを続けた。
結局、出発の時間になるまで誰も起きなかったから、御者の男は諦めて大きな鍋を荷馬車から下ろした。
流石に何も食べないと不自然に思われるので、野営前の食事だけはしていた彼女たちは、今日もガタゴトと揺られながら荷馬車で運ばれる。
ただ、今日は昨日とは風景が違った。彼女たちはポカンと口を開けて、進行方向に見える大きな物を見上げていた。
出発してから三日目。地平線の向こうに、天にまで届きそうな程大きな木が一本だけ見えた。
奴隷という身分のため自分から話しかけるのは躊躇われたが、聞かずにはいられない。
それに、御者をしている兵士は寝たふりをしている自分たちを具合が悪いのか心配してくれた人だ。そこまで酷い仕置きはされないだろう、という思いもあった。
そばかすの少女は御者の人に声をかけた。
「あ、あの……」
「ん、なんだ、嬢ちゃん」
「あそこに見えるのって……なんですか?」
「ああ、嬢ちゃんたちには説明とかないもんな。嬢ちゃんたちの目的地の目印である、世界樹ファマリーだ」
「世界樹!? じゃあ、私たちはエルフに買われたって事ですか!?」
「いや、買ったのは人間の少女だよ。ああ、でもその主人が嬢ちゃんたちの主人だけどな、その人も人間だよ。嬢ちゃんたち、ついてたなー。主人の兄ちゃんはとっても優しいって噂だし、なにより荷馬車も、嬢ちゃんたちの食料もその他の必要経費もぜーんぶ兄ちゃん持ちらしいぜ」
「……私たちを太らせて食べたりとかは……?」
「食べるものに困ってねぇから、そういうのはねえんじゃね?」
「そ、そうなんですね……」
じゃあ、空腹を我慢して寝ていた自分たちの努力は一体何だったのだろうか……と、少女たちは肩を落とした。
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