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第9章 加工をして生きていこう

140.事なかれ主義者は話し合いに参加する

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 転移陣の経由地であるファマリーの根元に転移すると、いつも通り真っ白な毛玉が目に入る。
 今日も今日とて眠っているようだ。呼吸の度に大きくなったり元に戻ったりしている。
 時々起きては周囲のアンデッドを一掃してるらしいけど、何を食べて生きてるんだろう?

『肉と酒だ』
「うわ、びっくりした!」
『小娘との契約だ』

 のそっと毛玉が動いたかと思えば正体を現して、伏せの状態のまま、視線を僕の後ろに向けた。
 そちらを向くと、レヴィさんが僕の方に駆けてくるところだった。
 いつもの作業服だが、大きく実った物が揺れているのがよく分かる。
 目のやり場にちょっと困っていると、レヴィさんが僕の手を握ってぐいぐいと引っ張る。

「シズト~、ちょっと来てほしいのですわー」
「なに? 畑に加護使えばいいの?」
「それはもういいのですわ~。駐屯兵の方と冒険者ギルドの臨時ギルドマスターから相談が来てたのですわ」
「相談?」
「行けば分かるのですわー。ほら、一緒にいくのですわ!」

 レヴィさんに引っ張られる形で歩く。
 途中、レヴィさんが振り向くと、フェンリルに向かって大声で「そろそろ仕事の時間ですわ!!」と言った。

『む。そうか?』
「そうなのですわ! ちゃんと働かないとお酒を減らすのですわ!」
『むぅ……やるか』

 大きな何かが後ろで動く気配がしたかと思うと、僕たちを軽々と飛び越えて、白い巨体が軽やかに駆けていく。
 あっという間に聖域の範囲から出てしまうとさらに速度を上げて不毛の大地を突き進んでいき、わらわらと集まり始めていたアンデッドたちをすれ違いざまに切り刻んでいく。

「グロイ……」

 近くじゃなくてよかった。
 至近距離で観たら腐った肉が飛び散るのだけで気分悪くなる自信があるわ。

「そうですわ? まだ少ない方だからマシだと思うのですわ。この前は、少し離れた場所にアンデッドが大量発生して、面倒臭がったフェンリルがとても大きな竜巻を起こしたのですわ。そのせいで、バラバラになった肉片が空から降ってきたのですわ。二度とやらないように注意したからもう起きないと思うのですけれど、フェンリルですし、もっと酷い事が起こるかもしれないですわね」

 なにそれ、絶対見たくない。
 レヴィさんはフェンリルを気にした様子もなく、ズンズンと進んでいき、居住区に入った。
 建物が建ち並び、路面はレンガで舗装されている。
 人の往来は思ったよりも多く、露天で食事を売っている商人の屋台に並んでいる冒険者や、巡回している兵をよく見かける。
 ただ、女の人や子どもはほとんど見かけない。まあ、居住区の外はアンデッドが湧くし怖いよね。
 居住区の中は、アンデッドが出ないように聖域の魔道具をいくつか作って設置してある。街中でいきなりアンデッドに襲われる事はこれでほとんど防げるはずだ。……ダンジョンから魔物が溢れ出ない限り。
 居住区を進んでいくと、駐屯地が見えてくる。
 それは街の中心にあり、それなりの数の兵がそこに控えているのだとか。

「今回の話し合いは駐屯地の一室を借りてする事になっているのですわ」

 流石レヴィさん。門の前で立っていた門番たちに顔パスで通してもらえてる。
 僕もレヴィさんに引っ張られてるから素通りだけどね。



 途中から合流した兵士さんに先導してもらって、施設の中を案内されている。
 レヴィさんとは横並びで歩いているが、手は繋いだままだ。
 さっきまでは引っ張るためだっただろうから分かるんだけど、この手はいつ離されるのでしょうか。
 手をパーにするけど、その度にギュッと握られるので諦めた。
 手を繋いだまま歩いていると、目的地に着いたようだ。
 兵士が扉の前で立ち止まり、ノックしてから声を張り上げた。

「失礼します。シズト様がいらっしゃいました」

 いきなり大きな声を出すからビックリしたけど、驚いている暇もない。
 扉が開いたかと思えば、目の前にいた兵士が脇に避けた。
 部屋の中に入ると、丸い大きなテーブルを囲むように数人の男女が座っている。
 だいたい見知った顔でちょっとほっとした。
 冒険者ギルドの制服をきちんと着ている男女のコンビに目を向けると、二人とも会釈してくれた。

「イザベラさん、こんにちは。お久しぶりです、クルスさん。……ちょっとやつれました?」
「ええ、まあ。色々とありましたから」

 なんか言いたげな目で僕を見るクルスさん。
 ちょっと今度元気になるポーションでも差し入れした方が良いかな。
 そんな事を思いつつ、席に座ると正面にはドラン兵の隊長さんがいた。
 名前は確か、ラックさんだったかな。
 ぺこりと会釈してくるので、僕も返しておく。

「それでは、話し合いを始めましょうか」

 そう話を切り出したのは知らない人だった。
 年相応の皺を深くさせながら笑みを浮かべている男の人だ。
 宝石やネックレス、耳飾りなどいろいろ身に着けている。高そうな物ばかりだ。
 狐目なのに細められていて、もはや糸! 見えてんのそれ?
 不思議に思って首を傾げると、その男の人はすぐに気づいて僕に笑いかけてきた。胡散臭い笑顔だ。

「そう言えば、自己紹介がまだでしたな。私はドランの商業ギルドマスターを務めております、ギルと申します。今後はここにできる商業ギルドのギルドマスターに任命されると思いますので、以後、お見知りおきを」
「あ、よろしくお願いします。それで、話の腰を折っちゃって申し訳ないんですけど、これって何の話し合い何ですか?」
「おや、レヴィア王女殿下から何も聞かされてないのですかな?」
「はい。なんか、行けば分かるって言われて」
「言ったらシズト、適当に決めといてって帰っちゃう気がしたのですわ」

 何かそう言われると厄介事な気がしてきて帰りたくなるんですけど……帰っちゃダメ?
 ダメ、ですよね。はい、大人しく座ってますねー。
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