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第9章 加工をして生きていこう
幕間の物語66.元引きこもり王女は野菜泥棒を許さない
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ドラゴニア王国の第一王女であるレヴィアは、普段着の作業服ではなく、青いドレスを身に纏っていた。袖は短く、スカートは足を覆い隠している。いつも身に着けている指輪を外し、無くしてしまわないように紐を通して首から下げていた。
足元まで覆い隠すスカートのせいで歩きにくいですわ、なんて事を考えながら彼女は案内係の後をついて行く。
昼前のこの時間はいつもであれば植物の世話をしていたが、彼女の父であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアに協力してほしい事があるからと、公爵の屋敷に呼び出されていた。
「こちらでお待ちください」
「分かったのですわ」
(流石、公爵の使用人は考えている事も違うのですわ)
侯爵の使用人たちは、それはもう心の内は酷かった。
いや、侯爵の使用人だからではないか、と彼女は考えを改める。
どちらかというと、彼女らの方が主流だったのだ。
身内である公爵の使用人だからこそ、そこら辺は徹底的に教育されているのだろう。
「まったく、余計な事をしてくるから思い出しちゃったのですわ」
「だからお読みになるのは止めておいた方がいいとお伝えしました」
「はいはい、そうですわねー。セシリアの言う通りだったのですわー」
「拗ねないでください。ほら、紅茶の準備が整いましたよ」
「ありがとうですわ」
セシリアはきょとんとした後に、クスッと笑った。
それにレヴィアは気づく事もなく、紅茶に口を付けていた。
「それで、元婚約者のあの方にはお会いになるのですか?」
「わざわざ会いに行く時間を作るつもりはないのですわ。どこかでたまたま会ったら、立ち話くらい付き合うかもしれないですけれど、もう終わった話なのですわ」
「シズト様に、レヴィア様を意識してもらうために利用するのもありなのでは?」
「それでシズトが致命的な勘違いをしたら困るのですわ」
セシリアはごもっともです、と頷いた。
敢えてレヴィアが選ばなさそうな事を提案しただけなので、同意されて実行に移されても困る。
元婚約者の話はそれから出る事はなく、話はシズトに関する事に移っていった。
レヴィアが楽し気に話をしていると、ノックの音が部屋に響く。
少ししてから扉が開いて、肩付近まで伸びた金色の髪が外側にクルンと曲がっているリヴァイが入ってきた。その後ろを遅れて眠たそうなジト目のラグナも入ってくる。
レヴィアは立ち上がって二人を出迎えると、レヴィアと向かい合う形で二人は席に着いた。
「レヴィア、わざわざ来てくれてありがとう。俺から行ってもよかったんだが、止められてな」
「流石に二度も先触れもなく訪問したら、シズトも怒ると思うぞ」
「どうでもいい話は要らないのですわ。さっさと話を付けて帰りたいのですわ」
「レヴィアが冷たくて、お父様悲しい……」
「……キモイからやめろ」
「こんなくだらない話なら、帰ってもいいのですわ?」
レヴィアがスッと立ち上がると、流石にリヴァイは真面目な表情を取り繕って、彼女を手で制した。
ストンッと腰を再び下ろすレヴィア。その勢いで大きな胸が弾むが、目の前に座っていた二人は特に反応しない。
「今回、レヴィアに頼みたいのはレヴィアの加護に関する事だ。使いたくなければ断ってくれて構わん」
「シズトのおかげで、加護に振り回される事もなく快適に暮らしているのですわ。だから、気遣いは要らないのですわ。シズトのためなら、加護を利用してやるのですわ!」
「そうか。それじゃあ、事前の打ち合わせをしよう」
「資料を」
ラグナの声掛けで、室内に控えていた家令がそれぞれの目の前に紙を置く。
ホムラから大量に買い付けたオートトレースを活用したそれを見て、レヴィアは驚いた。
「シズト殿が作った物だよ。インクの状態も印も全く同じで驚くだろ? ただ、複製品は裏に魔法陣が描かれているから、裏を見れば本物かどうか分かる。多少は悪用されないようにはなっているようだ。こういう会議をする時には割と重宝するんだ」
「こんなに大量にあるなら俺の所にも回せ」
「断る。全然足りてないんだ。他所に回すほどの余裕なんぞない!」
また話がそれそうだったので、レヴィアは咳ばらいをしてから父親に尋ねる。
「それで、この資料に載っている者たちが、町に来る候補なんですわ?」
「そうだ。問題を起こしそうにない者を、と選んでいると女子どもの割合が増えてしまったが、まあ調整は効くだろう」
「自警団要員として、元冒険者も十数人いるはずだ。ただ、素行に問題のあった者もいるらしい。公認の奴隷商であれば、そこら辺の教育はしっかりしているから、問題はほとんどないと思うが、非公認の者も数人紛れ込んでおるから、変な紐がついていないかの確認を頼みたい」
「分かったのですわ。ファマリーの周辺に変な輩が住み着いても困るのですわ。住人同士の諍いなら勝手にすればいいと思うのですけど、野菜泥棒なんてしようものならフェンリルに番犬をしてもらわなければいけなくなるのですわ!」
「そうならない事を祈ろう」
鼻息荒く、野菜を守るのだ! と意気込む娘の発言から、伝承のフェンリルが住み着いている事を思い出してこめかみを押さえる中年の二人は、神に本気で祈った。
願わくば、被害に遭うのは泥棒だけで済みますように、と。
足元まで覆い隠すスカートのせいで歩きにくいですわ、なんて事を考えながら彼女は案内係の後をついて行く。
昼前のこの時間はいつもであれば植物の世話をしていたが、彼女の父であるリヴァイ・フォン・ドラゴニアに協力してほしい事があるからと、公爵の屋敷に呼び出されていた。
「こちらでお待ちください」
「分かったのですわ」
(流石、公爵の使用人は考えている事も違うのですわ)
侯爵の使用人たちは、それはもう心の内は酷かった。
いや、侯爵の使用人だからではないか、と彼女は考えを改める。
どちらかというと、彼女らの方が主流だったのだ。
身内である公爵の使用人だからこそ、そこら辺は徹底的に教育されているのだろう。
「まったく、余計な事をしてくるから思い出しちゃったのですわ」
「だからお読みになるのは止めておいた方がいいとお伝えしました」
「はいはい、そうですわねー。セシリアの言う通りだったのですわー」
「拗ねないでください。ほら、紅茶の準備が整いましたよ」
「ありがとうですわ」
セシリアはきょとんとした後に、クスッと笑った。
それにレヴィアは気づく事もなく、紅茶に口を付けていた。
「それで、元婚約者のあの方にはお会いになるのですか?」
「わざわざ会いに行く時間を作るつもりはないのですわ。どこかでたまたま会ったら、立ち話くらい付き合うかもしれないですけれど、もう終わった話なのですわ」
「シズト様に、レヴィア様を意識してもらうために利用するのもありなのでは?」
「それでシズトが致命的な勘違いをしたら困るのですわ」
セシリアはごもっともです、と頷いた。
敢えてレヴィアが選ばなさそうな事を提案しただけなので、同意されて実行に移されても困る。
元婚約者の話はそれから出る事はなく、話はシズトに関する事に移っていった。
レヴィアが楽し気に話をしていると、ノックの音が部屋に響く。
少ししてから扉が開いて、肩付近まで伸びた金色の髪が外側にクルンと曲がっているリヴァイが入ってきた。その後ろを遅れて眠たそうなジト目のラグナも入ってくる。
レヴィアは立ち上がって二人を出迎えると、レヴィアと向かい合う形で二人は席に着いた。
「レヴィア、わざわざ来てくれてありがとう。俺から行ってもよかったんだが、止められてな」
「流石に二度も先触れもなく訪問したら、シズトも怒ると思うぞ」
「どうでもいい話は要らないのですわ。さっさと話を付けて帰りたいのですわ」
「レヴィアが冷たくて、お父様悲しい……」
「……キモイからやめろ」
「こんなくだらない話なら、帰ってもいいのですわ?」
レヴィアがスッと立ち上がると、流石にリヴァイは真面目な表情を取り繕って、彼女を手で制した。
ストンッと腰を再び下ろすレヴィア。その勢いで大きな胸が弾むが、目の前に座っていた二人は特に反応しない。
「今回、レヴィアに頼みたいのはレヴィアの加護に関する事だ。使いたくなければ断ってくれて構わん」
「シズトのおかげで、加護に振り回される事もなく快適に暮らしているのですわ。だから、気遣いは要らないのですわ。シズトのためなら、加護を利用してやるのですわ!」
「そうか。それじゃあ、事前の打ち合わせをしよう」
「資料を」
ラグナの声掛けで、室内に控えていた家令がそれぞれの目の前に紙を置く。
ホムラから大量に買い付けたオートトレースを活用したそれを見て、レヴィアは驚いた。
「シズト殿が作った物だよ。インクの状態も印も全く同じで驚くだろ? ただ、複製品は裏に魔法陣が描かれているから、裏を見れば本物かどうか分かる。多少は悪用されないようにはなっているようだ。こういう会議をする時には割と重宝するんだ」
「こんなに大量にあるなら俺の所にも回せ」
「断る。全然足りてないんだ。他所に回すほどの余裕なんぞない!」
また話がそれそうだったので、レヴィアは咳ばらいをしてから父親に尋ねる。
「それで、この資料に載っている者たちが、町に来る候補なんですわ?」
「そうだ。問題を起こしそうにない者を、と選んでいると女子どもの割合が増えてしまったが、まあ調整は効くだろう」
「自警団要員として、元冒険者も十数人いるはずだ。ただ、素行に問題のあった者もいるらしい。公認の奴隷商であれば、そこら辺の教育はしっかりしているから、問題はほとんどないと思うが、非公認の者も数人紛れ込んでおるから、変な紐がついていないかの確認を頼みたい」
「分かったのですわ。ファマリーの周辺に変な輩が住み着いても困るのですわ。住人同士の諍いなら勝手にすればいいと思うのですけど、野菜泥棒なんてしようものならフェンリルに番犬をしてもらわなければいけなくなるのですわ!」
「そうならない事を祈ろう」
鼻息荒く、野菜を守るのだ! と意気込む娘の発言から、伝承のフェンリルが住み着いている事を思い出してこめかみを押さえる中年の二人は、神に本気で祈った。
願わくば、被害に遭うのは泥棒だけで済みますように、と。
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