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第9章 加工をして生きていこう
幕間の物語64.怪盗は報告した
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ドラゴニア王国の最南端にある不毛の大地に街ができる。
その場所には世界樹が生えていて、それを中心にして作られる予定だと情報が出た時、多くの領主が少しでも情報を集めようと躍起になった。
彼らは都市国家ユグドラシルとのトラブルのため、ドランに集まっていた事もあり情報はすぐに手に入ったのだが、それ以上の事は出来なかった。
「街に住むのは土地の所有者と奴隷契約を結んだものだけだ」
ドラゴニア国王がそう宣言したので、住民として送り込もうとしていた者たちを一先ず待機させて領主たちは次の策を考える。
どうやったら世界樹の恩恵を得る事ができるのか。
子飼いの商人を向かわせて、少しでも世界樹の素材を手に入れやすくするのはどうか、と高位貴族は考えた。
だが、その様な事は男爵等の下の方の身分の者には出来ない。
世界樹を育てる加護持ちと少しでも接点を持ちたいのだが、彼が住んでいる屋敷周辺は、少し前からドラン公爵の指示で警備が厳重になってしまっていた。
「妾でもいいから何とか関係を持たせる事ができれば我が家は安泰なんだが……」
「………」
結婚相手が決まっていた娘を呼び戻してまで関係を持たせようとしていたある男爵は頭を抱えていた。
任されている領地はダンジョンも観光名所も何もなく、細々と農業をしているだけだ。
その領地は、数年前から原因不明の不作により、窮地に立たされていた。
男爵の娘は、商人に売り飛ばされる予定だったが、商人よりは勇者に売り飛ばされた方が幸せな生活を送れるかもしれない、なんて事を思ったが頭を横に振ってその考えをどこかに追いやる。
ダイエットに成功して、とても魅力的な女性になった第一王女が、世界樹の加護を持つ勇者と同居をしている。
側室を彼女が認めるかどうかによっては、自分の今後は大きく変わってしまうだろう。
国益の事を考えた場合、より多くの女性と関係を持ってもらって、少しでも加護を授かる可能性を上げるべきだ。
しかし、国王が第一王女を溺愛しているのは周知の事実。
彼女が嫌がれば、手を出しただけで自分たちにどんな不幸が訪れるか……男爵には想像もできなかった。
結局、男爵は良い案を思いつく事は出来なかった。
ダメ元で勇者が住む屋敷に娘を連れて行こうかとも考えたが、いきなり押しかけても心証が悪くなるだけだ。彼は、国王陛下に自分の領地の状況を正直に報告する事に決めて、判断を仰ぐ事にした。
手紙をせっせと書く後ろで、勝手に扉が開く。
「……? 誰かいるの?」
手紙を書く事に集中していた男爵の代わりに娘が問いかけたが、扉は開いたままだった。
男爵たちが寝泊まりしていた宿の近くのだれもいない路地裏に、唐突に人が姿を現した。
姿隠しの魔道具を使っていたその金色の髪の男は、懐から取り出した真っ白な紙に今しがた確認した男爵の様子を書き、丁寧に折りたたむとアイテムバッグから取り出した速達箱に入れた。
「次は、酒場に入り浸っている奴か」
ぽつりと独白すると、その男は再びフードを目深に被り、魔道具を使って姿を消した。
その日の夜、ドラン公爵とドラゴニア国王が執務室で資料を読み込んでいる所に、一人の男がやってきた。金色の髪に青い目のその男を見て、公爵が口を開いた。
「リヴァイ、席を外してくれるか?」
「ん? ああ、分かった。時間も時間だし、寝る事にする。ラグナも早めに寝ろよ」
体をグッと伸ばしてから立ち上がると、リヴァイは執務室から出て行った。
部屋に控えていた使用人たちも、それに続いて出て行ってしまったため、残されたのは眠たそうな目つきのラグナと、夜に訪問してきた男だけ。
ラグナが促すと、男は椅子に座った。ラグナも長机を挟んで、対面の椅子に腰かける。
簡単においしい紅茶を淹れる事ができる魔道具で自ら飲み物を用意して、それを一口飲んでから口を開いた。
「それで、愚か者共はどれくらいいた?」
「想定よりは少ないですね。あと少し、という所で踏みとどまった者もいます」
「ほぉ、それは幸運な事だな」
「そのようで。数年前から不運が続いていたからかもしれませんね」
「ああ、あの真面目過ぎる男爵か。あの家系は代々堅実な運営をしていたが、今までの蓄えも尽きたか」
脳裏に浮かんだ人物にどう対応するか考えつつ、ラグナは男からの報告を聞く。
その中には気になる話もあった。
「ああ、そう言えば第一王女殿下の元婚約者とその家族の一部が何やら企んでいるようです」
「侯爵家の者が?」
「出来の悪い息子を持つと、侯爵様も大変でしょうな」
「侯爵は関与していない、か」
ふむ、と顎を撫でて思案するラグナを見つつ、男は紅茶を口に含む。
男が程よい甘さと口全体に広がる香りを楽しんでいると、ラグナは思考を終えたようだ。
「下手に突いて巻き込まれては困るが……国王陛下には伝えておく。報告で挙がっていた奴隷に関してはどうなってる?」
「貴族お抱えの奴隷商の中には、出どころ不明の者たちが多いです」
「まあ、だろうな。俺が他の奴らの立場だったとしても同じ事をするだろうよ」
「念のため、商品を見せる前に確認をしてもらった方がよろしいかと。嘘を見分ける魔道具が手に入りそうと聞きましたが」
「それは我らが友の予定次第で前後するからな。いざとなったらレヴィア様に働いてもらう事になるが、侯爵令息の事もあるか……リヴァイに伝えておく。他には?」
「特にございません」
「そうか、ご苦労。下がれ」
一礼して部屋を出て行く男を見送ったラグナは、報告書の整理をしながら先程の話を軽くまとめ、自分も寝るために部屋を出て行った。
その場所には世界樹が生えていて、それを中心にして作られる予定だと情報が出た時、多くの領主が少しでも情報を集めようと躍起になった。
彼らは都市国家ユグドラシルとのトラブルのため、ドランに集まっていた事もあり情報はすぐに手に入ったのだが、それ以上の事は出来なかった。
「街に住むのは土地の所有者と奴隷契約を結んだものだけだ」
ドラゴニア国王がそう宣言したので、住民として送り込もうとしていた者たちを一先ず待機させて領主たちは次の策を考える。
どうやったら世界樹の恩恵を得る事ができるのか。
子飼いの商人を向かわせて、少しでも世界樹の素材を手に入れやすくするのはどうか、と高位貴族は考えた。
だが、その様な事は男爵等の下の方の身分の者には出来ない。
世界樹を育てる加護持ちと少しでも接点を持ちたいのだが、彼が住んでいる屋敷周辺は、少し前からドラン公爵の指示で警備が厳重になってしまっていた。
「妾でもいいから何とか関係を持たせる事ができれば我が家は安泰なんだが……」
「………」
結婚相手が決まっていた娘を呼び戻してまで関係を持たせようとしていたある男爵は頭を抱えていた。
任されている領地はダンジョンも観光名所も何もなく、細々と農業をしているだけだ。
その領地は、数年前から原因不明の不作により、窮地に立たされていた。
男爵の娘は、商人に売り飛ばされる予定だったが、商人よりは勇者に売り飛ばされた方が幸せな生活を送れるかもしれない、なんて事を思ったが頭を横に振ってその考えをどこかに追いやる。
ダイエットに成功して、とても魅力的な女性になった第一王女が、世界樹の加護を持つ勇者と同居をしている。
側室を彼女が認めるかどうかによっては、自分の今後は大きく変わってしまうだろう。
国益の事を考えた場合、より多くの女性と関係を持ってもらって、少しでも加護を授かる可能性を上げるべきだ。
しかし、国王が第一王女を溺愛しているのは周知の事実。
彼女が嫌がれば、手を出しただけで自分たちにどんな不幸が訪れるか……男爵には想像もできなかった。
結局、男爵は良い案を思いつく事は出来なかった。
ダメ元で勇者が住む屋敷に娘を連れて行こうかとも考えたが、いきなり押しかけても心証が悪くなるだけだ。彼は、国王陛下に自分の領地の状況を正直に報告する事に決めて、判断を仰ぐ事にした。
手紙をせっせと書く後ろで、勝手に扉が開く。
「……? 誰かいるの?」
手紙を書く事に集中していた男爵の代わりに娘が問いかけたが、扉は開いたままだった。
男爵たちが寝泊まりしていた宿の近くのだれもいない路地裏に、唐突に人が姿を現した。
姿隠しの魔道具を使っていたその金色の髪の男は、懐から取り出した真っ白な紙に今しがた確認した男爵の様子を書き、丁寧に折りたたむとアイテムバッグから取り出した速達箱に入れた。
「次は、酒場に入り浸っている奴か」
ぽつりと独白すると、その男は再びフードを目深に被り、魔道具を使って姿を消した。
その日の夜、ドラン公爵とドラゴニア国王が執務室で資料を読み込んでいる所に、一人の男がやってきた。金色の髪に青い目のその男を見て、公爵が口を開いた。
「リヴァイ、席を外してくれるか?」
「ん? ああ、分かった。時間も時間だし、寝る事にする。ラグナも早めに寝ろよ」
体をグッと伸ばしてから立ち上がると、リヴァイは執務室から出て行った。
部屋に控えていた使用人たちも、それに続いて出て行ってしまったため、残されたのは眠たそうな目つきのラグナと、夜に訪問してきた男だけ。
ラグナが促すと、男は椅子に座った。ラグナも長机を挟んで、対面の椅子に腰かける。
簡単においしい紅茶を淹れる事ができる魔道具で自ら飲み物を用意して、それを一口飲んでから口を開いた。
「それで、愚か者共はどれくらいいた?」
「想定よりは少ないですね。あと少し、という所で踏みとどまった者もいます」
「ほぉ、それは幸運な事だな」
「そのようで。数年前から不運が続いていたからかもしれませんね」
「ああ、あの真面目過ぎる男爵か。あの家系は代々堅実な運営をしていたが、今までの蓄えも尽きたか」
脳裏に浮かんだ人物にどう対応するか考えつつ、ラグナは男からの報告を聞く。
その中には気になる話もあった。
「ああ、そう言えば第一王女殿下の元婚約者とその家族の一部が何やら企んでいるようです」
「侯爵家の者が?」
「出来の悪い息子を持つと、侯爵様も大変でしょうな」
「侯爵は関与していない、か」
ふむ、と顎を撫でて思案するラグナを見つつ、男は紅茶を口に含む。
男が程よい甘さと口全体に広がる香りを楽しんでいると、ラグナは思考を終えたようだ。
「下手に突いて巻き込まれては困るが……国王陛下には伝えておく。報告で挙がっていた奴隷に関してはどうなってる?」
「貴族お抱えの奴隷商の中には、出どころ不明の者たちが多いです」
「まあ、だろうな。俺が他の奴らの立場だったとしても同じ事をするだろうよ」
「念のため、商品を見せる前に確認をしてもらった方がよろしいかと。嘘を見分ける魔道具が手に入りそうと聞きましたが」
「それは我らが友の予定次第で前後するからな。いざとなったらレヴィア様に働いてもらう事になるが、侯爵令息の事もあるか……リヴァイに伝えておく。他には?」
「特にございません」
「そうか、ご苦労。下がれ」
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