上 下
198 / 643
第9章 加工をして生きていこう

幕間の物語63.面倒臭がりの一日

しおりを挟む
 シズトに作られた魔法生物であるクーは面倒臭がりだ。
 有り余る力をただひたすら楽をするためだけに使っている彼女の朝は、比較的遅い。
 シズトが起きる時間でも部屋から出て来ず、全員が朝食を食べ終わった頃に、アンジェラに引っ張られる形で食堂にやってくる。

「クーちゃん! ほら、ごはんたべよ?」
「別にあーし、食べなくても問題ないしー」

 魔法生物だから。その言葉は呑み込んで、姿勢悪く座るクー。
 仕方ないなぁ、なんて呟きつつアンジェラはクーの前に並べられた食べ物を口の中に運んで行く。

「もがっ! ……ふぅ、面倒臭いなぁ」
「たくさんたべないとおおきくなれないんだよ!」
「アンアンと違って、あーしはこれで完成形なんだよ」
「……? よくわかんないけど、おのこしはだめなんだよ。これでさいご。あーん」
「あーん」

 文句を言いつつも、大人しく指示に従って雛鳥のように口を大きく開けるクー。
 誰かにやってもらうのはやっぱり悪くない、なんて事を考えながら咀嚼する。
 食事が終わると食器を片付ける奴隷たちを尻目に、自分はもう一度惰眠を貪ろう、と部屋に転移しようとしたが、アンジェラが唐突に彼女の手を掴んだ。

「アンジェラといっしょにおべんきょーしよ!」
「いや、あーしそういうの必要ないから」
「ダメだよ、べんきょーしなきゃ! シズトさまのおやくにたてるようにがんばるの! ほら、たって~~~」

 床に寝そべり、断固拒否の構えを取るクーの両脇を抱えて、よいしょ、よいしょと引き摺って行くアンジェラ。
 面倒な子に絡まれてしまった、と引き摺られながらクーは思ったが、特にこれからやる事もないのだ。きちんと運ぶのなら付き合ってやろう、なんて事を考えて大人しくしていた。
 ただ、アンジェラは力が弱いので途中で引っ張るのを諦めてどこかに行ってしまう。

「すぐもどるからまってて!」

 その彼女の発言通り、アンジェラはすぐに戻ってきた。
 戻ってきた彼女が押すのは、アンジェラ専用の浮遊台車。シズトが力が足りないと不便だろうから、とアンジェラにあげた魔道具の内の一つだ。
 その浮遊台車にコロコロとクーを転がして乗せたアンジェラは、書斎を目指した。

「おてほんでアンジェラがよんであげるね! むかしむかし、あるところにゆうしゃさまが、かみさまにみちびかれて――」

 浮遊台車の上で放置されたクーは、アンジェラの音読を聞き流しながら、いつ転移しようかと考えていた。
 この後も連れまわされるよりかはどこかで寝ていたい。
 ただ、逃げた後が問題だった。
 この幼女は、クーの主人であるシズトから自由に行動する許可をもらっているため、屋敷内ではその内見つかって捕まってしまうだろう。
 クーが本気を出せば、見つかる事なんて起きないのだが、完全にオフモードだった。

「逃げてまた引き摺りまわされるより、おとなしくしてよーっと」

 そうと決まれば転移魔法で掛布団を自分の手元に呼び寄せ、布団に包まる。
 丁度いい子守歌もある事だし、ちょっとお昼寝でもしよう、とクーは夕焼けのような色の目をゆっくりと閉じた。



 すやすやと眠っているクーが浮遊台車で運ばれていく。
 振動がないその移動方法の影響か、目を覚ます様子はない。
 アンジェラは「しかたないなー、クーちゃんは」とお姉ちゃんぶって運んでいる。身長はクーの方が高いのだが、彼女はこの面倒臭がりな魔法生物を妹のように感じていた。
 今まで年上しかいなかった事や、シズトがアンジェラを可愛がっていた事もあり、奴隷たちも彼女を可愛がっていたが、今度は私が可愛がる番だ! とやる気満々のアンジェラ。
 今は、おやつをもらうために食堂の近くにある厨房に顔を出した。
 そこでは、狐人族のエミリーが食事の準備をしていた。彼女は白くてピンと立っていたモフモフの耳をピクピクと動かすと、振り返ってアンジェラを見た。

「あら、アンジェラ。おやつ貰いに来たの? ……パメラは?」
「パメラちゃんはしらない。クーちゃんのぶんもちょうだい!」
「あら、クー様はお休み中じゃない。お部屋のベッドで寝かしてあげたらどう?」
「ダメ! おそとでげんきにすごさないとびょうきになっちゃう!」
「……まあ、クー様が本気で嫌がってたらこんな状態になってないか。ちょっと待ってなさい、準備するから」

 昨夜、ドワーフを転移魔法で飛ばしてしまったのをその目で見ていたエミリーは考えるのをやめた。
 彼女は、主人の好物であるポテトチップスをすぐに揚げる事ができるように準備を済ませていたが、その一部を使っておやつを準備する。
 辛い物が苦手なアンジェラの事を考え、塩を軽くふりかけ、彼女に渡そうと入り口を見ると、いつの間にか黒い翼が特徴的なパメラがニコニコしながら待っていた。

「今日も揚げたてデース!」

 音につられてやってきたのだろう。
 パメラが来る事も想定していたエミリーは、多めに盛り付けた皿をそのままアンジェラに渡した。

「お皿落とさないように気を付けるのよ」

 シズトがアンジェラ用の食器をすべて木材を使って作ったので、落としても割れる事はない。ただ、落ちた物でも食べてしまうおバカな鳥がいたから落とさないように釘を刺すエミリー。
 アンジェラは素直にコクリと頷いて、真剣な表情でお皿を受け取り、そろそろとゆっくり歩く。

「パメラちゃん、だいしゃおしてついてきて」
「分かったデース。今日はどこで食べるデスか?」
「いいおてんきだからおそとでたべるの」

 ついでにお供えもしてしまおう、とアンジェラは考えて祠の近くでお菓子を食べた。
 クーはやっぱり自分で食べる事はせず、アンジェラとパメラにポテチを口に入れられるまで、大きく口を開けて待つだけだった。



 鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたりとアンジェラに連れまわされたクーは、夕方頃電池が切れたように地面に寝転がって寝るアンジェラを、隣で寝転がりながら眺めていた。
 その周囲にはどこからか紛れ込んでいた小さなドライアドたちが光合成に勤しんでいる。
 しばらくそうしていたが、門の方で何か起こっているようだ。

「ん~……」

 ムニャムニャ、と顔を顰めて寝返りを打つアンジェラを見て、クーは起き上がった。
 それから門の方を見て、眉を顰める。
 さっきまでいた場所から、門の近くまで一瞬で移動すると、シズトに向かって何かを言っていたずんぐりむっくりのドワーフに触れる。

「うるさいなぁ、お昼寝できないでしょ~? どっか行って!」

 ドワーフのドフリックは瞬時にどこかに飛ばされてしまう。
 クーは、ドフリックの行き先なんて気にした様子もなく、一仕事やり終えたから部屋に戻ろうとシズトに抱き着いて運んでもらうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...