【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
191 / 1,094
第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう

130.事なかれ主義者は見送った

しおりを挟む
 陽太たちは夕暮れ前に帰った。
 僕はそれを自室の窓から見送る。
 今後、彼らがどうするのか知らないし興味もないけど、同じ異世界から来た知り合いだし無事にうまくいくように祈っとこ。
 彼らが出ていった後もしばらく窓の外をぼんやりと眺めていたら、レヴィさんがそっと側に寄り添ってきた。

「シズトは優しいですわね」
「え、どこが?」
「彼らの事を嫌がってる割には助けるような事を言ったり、今も彼らの無事を祈ったりしたりしてる所ですわ」

 レヴィさんが扇子を返してきた。
 『読心』の魔法を付与したその魔道具を間違って使ってしまわないように気をつけながら、アイテムバッグにしまう。

「知り合いが酷い目にあったら寝覚めが悪いだけだよ。前の世界での事を向こうは謝るつもりはないだろうし、別に僕も謝って欲しいとは思ってないけど、謝罪の代わりに魔道具をちょーっと高めで買ってもらおうかなって思ってお店紹介しただけ」

 陽太たちからいじめを受けていたわけじゃない。
 虐められないようにパシリに自分からなっていったから自分にも落ち度はあると思う。
 もっと別の方法で仲良くなって、虐められないようにする事も挑戦できたはずだけど、それまでそうして生きてきたから楽な道を選んじゃったんだな、って今なら少し思う。
 まあ、今も楽な道を選んでるわけですけどね。
 恨まれたら面倒だから、少しでも楽できるように穏便に済ませただけだし。少しでも恩義を感じてこっちに面倒事を持ってこないようにしてくれればそれだけで御の字。

「そういう事にしておきますわ」
「シズト様。彼らが話していた内容をお聞きしますか?」

 モニカがダンジョン産の紙を持って部屋に入ってきた。
 応接室の中に置いておいたフクロウの置物は、電話の様な魔道具だ。
 対となる物を別の部屋に置いておいて、念のためモニカに聞いてまとめておいてもらった。

「僕に面倒事が来そうな感じの話あった?」
「特には御座いませんでした。これからの事を話し合っているだけの様でしたね。伝達系の魔法を使われたり、筆談をされていたら分かりませんが……」
「まあ、そこら辺は気にしなくていいよ。向こうの話を盗聴する事が目的じゃなくて、うまく使えるかのテストをしたかっただけだから。応接室の結界に邪魔されずに聞けたってだけで十分。記録してくれた物は処分しておいて」
「彼らの今後についての話など出ていましたが、よろしいのですか?」
「うん、興味ないから」
「かしこまりました」

 深く礼をして、モニカは部屋を出て行った。
 静かに控えていたセシリアさんも、モニカの後について出て行く。
 夜ご飯まではもう少し時間があった。
 万が一に備えて、今日は魔力を温存するために世界樹の世話をしてなかったんだけど、蓋を開けてみれば何事もなく終わったし、ユグドラシルの世話でもしてくるか。

「それなら私は、ファマリーの農園を見に行くのですわー」
「え、流石にドレスで行くのは止めた方がいいんじゃない?」
「大丈夫なのですわ!」

 大丈夫じゃない気がする。めっちゃ高そうじゃん、その服。
 ただ、今日の服は一人では着脱できないらしいので、そのまま部屋を出て行ってしまった。



 ユグドラシルのお世話をパパッと済ませて、転移陣で戻るとドライアドたちと一緒にお祈りをしているレヴィさんがいた。その近くにはドーラさんもいて、同じように祠の神様の像に向けてお祈りをしている。

「帰るよー! ドーラさん。ラオさんとルウさんは?」
「周辺の様子見てる。先戻れって」

 視線を着々と建物ができている方に向けてドーラさんがそう言った。
 もうほとんどドラン方面の建物はできていた。
 職人たち向けに商売をしている屋台の食べ歩きでもしているのかもしれない。
 それか、冒険者ギルドに顔を出しているのかも。
 ギルドマスターと副ギルドマスターが決まったら本格的に動き出すらしいけど、今は暫定的にイザベラさんとクルスさんが頑張っているらしい。まあ、仕事は街の警備くらいしか今はないらしいけど。

「じゃあ戻っちゃおうか。ほら、レヴィさん。いつまでも遊んでないでドライアドたちにバイバイして」
「分かったのですわー」

 バイバーイ、とドライアドたちに見送られながら転移陣で戻る。
 転移した先では、セシリアさんが静かに待っていた。

「お待ちしておりました、シズト様。お食事になさいますか? お風呂になさいますか?」
「ご飯で。お腹空いたし。ラオさんとルウさんはちょっと帰りが遅くなるかも」
「かしこまりました。エミリーに伝えておきます」
「セシリア、脱ぐの手伝ってほしいのですわ!」
「かしこまりました。それではシズト様、失礼します」
「ご飯先に食べてていいのですわー」
「私も着替える」

 あ、そう? じゃあ食堂に行って先に食べようかな。
 皆いないから静かな食事になるかな、と思って食堂に入ると――。

「おお、我らが友よ。先に頂いておるぞ」
「ドラゴーニュのぶどうジュースも持ってきたぞ。これなら飲めるだろう?」

 リヴァイさんとラグナさんが椅子に座って食事をしていた。
 ラグナさんがボトルを掲げてにぃっと笑っている。
 二人と一緒にずんぐりむっくりで髭もじゃの人と、小柄な女の子もいるけど、問題はそこじゃないよね。
 エミリーを見ると、尻尾も耳もボワッとしていて固まっていた。
 ……僕も知らなかったんだよ、ごめん。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...