187 / 1,094
第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう
幕間の物語60.勇者たちは訪問する
しおりを挟む
ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランに、勇者たちがやってきた。
その噂はドラン中にすぐに広まり、勇者たちは歓迎を受ける事もなく、白い目で見られながらドラン公爵に挨拶をするために予定よりも早く彼が住む館を訪問した。
応接間に通された彼らは、長い間そこで待たされている。
苛立ちを隠そうともしない金色の髪の少年が、眉間に皺を寄せながら扉を睨みつけていた。
「陽太。扉を睨んでも意味ないのでやめたらどうですか?」
「ア゛ァ゛?」
「待たされるのは想定内でしょう。一週間かけてくる道のりを、魔法で短縮したんですから」
陽太と呼ばれた少年を諫めるのは、中性的な顔立ちの少年だ。声が高く、見た目と声だけで女と思われた事が何回もある黒髪の少年は、隣に座ってイライラしている連れの態度に辟易としていた。
そんな彼に、陽太の向こう側に足を組んで座っていた少女が、爪の手入れをしながら文句を言う。
「言っとけばよかったんじゃないの? 明の魔法で途中まで行くの決まってたし、こんな待たされなかったもしれないじゃん。姫花、早く帰って買い物の続きしたいんですけどー」
「事前に説明したと思いますけど、情報収集するために早く来たんですよ」
「まったくできなかったじゃねぇか」
「まさかここまで僕たちの評判が悪いとは思わなかったんですよ。間違っても問題起こさないでくださいね、二人とも。ほら、いつ入ってきてもいいように、大人しく座っててください」
「わぁってるよ」
「うっさいなぁ」
陽太は大きくため息をついた後、深く息を吸い込み、また吐き出した。
姫花と呼ばれた少女は、手入れのために使っていた道具を鞄にしまう。
陽太たちが訪問して半日ほどが過ぎ、やっと部屋に男たちが入ってきた。
二人が入ってきた事に疑問を感じつつも、明は立ち上がって出迎えた。姫花と陽太も、明と同じような動作をして相手に敬意を表している。
ドカッと、三人の正面に座ったのは短く刈り上げた金髪が特徴的な中年の男性だ。眠たそうな目で三人を値踏みするかのようにじろじろと見始めた。
その隣に同じように座ったのは金色の髪が肩のあたりまで伸ばされて、毛先が外側に巻かれている男だった。彼は三人の事など気にした素振りもなく、魔道具で紅茶を淹れ始める。
陽太たちは二人が座ったのを見て、椅子に腰かけた。
正面に座っている男性二人が、それにピクリと眉を動かして同時に反応したが、特に何も言わない。
最初に口を開いたのは、じろじろと三人を値踏みしていた男だった。
「エンジェリア帝国の特使殿、ずいぶん待たせたな。俺はラグナ・フォン・ドランだ。予定ではもっとかかるはずだったが、転移の魔法でも使ったか?」
「ファマリーの駐屯兵から報告が来ているから間違いないだろう。国境を越える魔法の使用は事前に承諾を得るのが常識だが、そちらの世界でも国境を勝手に越えてはいけないというルールぐらいなかったのか?」
「……申し訳ありません」
「良い。次からは気をつけよ。勇者殿は無知であるらしいからな。ある程度の粗相は見逃す事が暗黙の了解だ。ただ、お前たちを教育している国に文句は言うがな。余はリヴァイ・フォン・ドラゴニア。この国の王だ」
眉間に皺が寄りそうになるのを堪えつつ、明が頭を下げる。
ただ、隣に座っている陽太は明らかに不快感を顔に出してしまっていた。
それについて触れる事もなく、ドラン公爵が口を開く。
「それで、特使殿たちは俺たちの友であるシズトに会いに来たとか」
「はい、その通りです」
「そうか。それは、不安だな。……友である余の同席を、シズトに断られてしまったのは仕方ない。それが友の望みであるのだから。ただ、それでも心配なのだ。余の友が、傷ついてしまわないかとな」
ドラゴニア国王の目の色が、いつの間にか青から金色へと変色している。黒目も爬虫類の様に細長くなっていた。濃密な魔力が彼の体から発せられ、部屋全体を覆った。
「国王陛下、お戯れはそこまでにして頂けませんか? 勇者殿の顔が青くなってしまっていますから。彼もきっと、陛下のご質問には正直に答えてくれるでしょう」
「……そうだな。余は気が短い。手短に特使殿たちの目的を話してもらおう」
話し合いが終わる頃には、日が暮れてしまっていた。
宿を取っていない彼らだったが、ドラン公爵の計らいでドランでも屈指の高級宿に泊まる事になった。
だが、明の顔色は優れない。
「辛気臭い顔してんじゃねぇよ、こっちまで気が滅入るだろうが」
「そんなにこの国の王様すごかったの?」
「ええ、少なくとも今の僕たちじゃ殺されちゃいますね。敵対するべきじゃないです」
「ふーん。まあ、いーや。静人の対応は明がやるって話だったし、姫花には関係ないし? ってか、静人と会う日まで自由時間でいい? 魔道具のオーダーメイドの進捗確認したいし、買い物もしたいし?」
「いいんじゃね? 俺は部屋でのんびりしてるわ。ここにいると気分が落ち込んじまうしな」
「勝手にしてください」
明に用意された個室から二人が出て行くと、魔法で鍵をかける明。
彼は大きなベッドに倒れ込み、ため息をつく。
「まったく、どうしてこんな面倒な事になったんでしょうね」
自分は言われたとおりに行動していただけなのに。
いや、魔法を過信して言われた事を疑いもせずに行動してしまったからか、と自虐的に笑う。
こんなに気分が落ち込んでいる時は何をしてもダメだ、と明は眼鏡を外し、魔法で着替えて早めに就寝した。
その噂はドラン中にすぐに広まり、勇者たちは歓迎を受ける事もなく、白い目で見られながらドラン公爵に挨拶をするために予定よりも早く彼が住む館を訪問した。
応接間に通された彼らは、長い間そこで待たされている。
苛立ちを隠そうともしない金色の髪の少年が、眉間に皺を寄せながら扉を睨みつけていた。
「陽太。扉を睨んでも意味ないのでやめたらどうですか?」
「ア゛ァ゛?」
「待たされるのは想定内でしょう。一週間かけてくる道のりを、魔法で短縮したんですから」
陽太と呼ばれた少年を諫めるのは、中性的な顔立ちの少年だ。声が高く、見た目と声だけで女と思われた事が何回もある黒髪の少年は、隣に座ってイライラしている連れの態度に辟易としていた。
そんな彼に、陽太の向こう側に足を組んで座っていた少女が、爪の手入れをしながら文句を言う。
「言っとけばよかったんじゃないの? 明の魔法で途中まで行くの決まってたし、こんな待たされなかったもしれないじゃん。姫花、早く帰って買い物の続きしたいんですけどー」
「事前に説明したと思いますけど、情報収集するために早く来たんですよ」
「まったくできなかったじゃねぇか」
「まさかここまで僕たちの評判が悪いとは思わなかったんですよ。間違っても問題起こさないでくださいね、二人とも。ほら、いつ入ってきてもいいように、大人しく座っててください」
「わぁってるよ」
「うっさいなぁ」
陽太は大きくため息をついた後、深く息を吸い込み、また吐き出した。
姫花と呼ばれた少女は、手入れのために使っていた道具を鞄にしまう。
陽太たちが訪問して半日ほどが過ぎ、やっと部屋に男たちが入ってきた。
二人が入ってきた事に疑問を感じつつも、明は立ち上がって出迎えた。姫花と陽太も、明と同じような動作をして相手に敬意を表している。
ドカッと、三人の正面に座ったのは短く刈り上げた金髪が特徴的な中年の男性だ。眠たそうな目で三人を値踏みするかのようにじろじろと見始めた。
その隣に同じように座ったのは金色の髪が肩のあたりまで伸ばされて、毛先が外側に巻かれている男だった。彼は三人の事など気にした素振りもなく、魔道具で紅茶を淹れ始める。
陽太たちは二人が座ったのを見て、椅子に腰かけた。
正面に座っている男性二人が、それにピクリと眉を動かして同時に反応したが、特に何も言わない。
最初に口を開いたのは、じろじろと三人を値踏みしていた男だった。
「エンジェリア帝国の特使殿、ずいぶん待たせたな。俺はラグナ・フォン・ドランだ。予定ではもっとかかるはずだったが、転移の魔法でも使ったか?」
「ファマリーの駐屯兵から報告が来ているから間違いないだろう。国境を越える魔法の使用は事前に承諾を得るのが常識だが、そちらの世界でも国境を勝手に越えてはいけないというルールぐらいなかったのか?」
「……申し訳ありません」
「良い。次からは気をつけよ。勇者殿は無知であるらしいからな。ある程度の粗相は見逃す事が暗黙の了解だ。ただ、お前たちを教育している国に文句は言うがな。余はリヴァイ・フォン・ドラゴニア。この国の王だ」
眉間に皺が寄りそうになるのを堪えつつ、明が頭を下げる。
ただ、隣に座っている陽太は明らかに不快感を顔に出してしまっていた。
それについて触れる事もなく、ドラン公爵が口を開く。
「それで、特使殿たちは俺たちの友であるシズトに会いに来たとか」
「はい、その通りです」
「そうか。それは、不安だな。……友である余の同席を、シズトに断られてしまったのは仕方ない。それが友の望みであるのだから。ただ、それでも心配なのだ。余の友が、傷ついてしまわないかとな」
ドラゴニア国王の目の色が、いつの間にか青から金色へと変色している。黒目も爬虫類の様に細長くなっていた。濃密な魔力が彼の体から発せられ、部屋全体を覆った。
「国王陛下、お戯れはそこまでにして頂けませんか? 勇者殿の顔が青くなってしまっていますから。彼もきっと、陛下のご質問には正直に答えてくれるでしょう」
「……そうだな。余は気が短い。手短に特使殿たちの目的を話してもらおう」
話し合いが終わる頃には、日が暮れてしまっていた。
宿を取っていない彼らだったが、ドラン公爵の計らいでドランでも屈指の高級宿に泊まる事になった。
だが、明の顔色は優れない。
「辛気臭い顔してんじゃねぇよ、こっちまで気が滅入るだろうが」
「そんなにこの国の王様すごかったの?」
「ええ、少なくとも今の僕たちじゃ殺されちゃいますね。敵対するべきじゃないです」
「ふーん。まあ、いーや。静人の対応は明がやるって話だったし、姫花には関係ないし? ってか、静人と会う日まで自由時間でいい? 魔道具のオーダーメイドの進捗確認したいし、買い物もしたいし?」
「いいんじゃね? 俺は部屋でのんびりしてるわ。ここにいると気分が落ち込んじまうしな」
「勝手にしてください」
明に用意された個室から二人が出て行くと、魔法で鍵をかける明。
彼は大きなベッドに倒れ込み、ため息をつく。
「まったく、どうしてこんな面倒な事になったんでしょうね」
自分は言われたとおりに行動していただけなのに。
いや、魔法を過信して言われた事を疑いもせずに行動してしまったからか、と自虐的に笑う。
こんなに気分が落ち込んでいる時は何をしてもダメだ、と明は眼鏡を外し、魔法で着替えて早めに就寝した。
114
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる