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第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう

121.事なかれ主義者は移動が面倒

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 世界樹ファマリーのお世話を一週間ほどしている間に、周辺が賑やかになってきた。
 都市国家ユグドラシルから戻ってきた兵士たちと、ダンジョン都市ドランからたくさんやってきた大工に加えて、大工についてきた商人たちで聖域の外側は賑やかだ。
 時々にょきっと生えるゾンビの手や、飛んでやってくるアンデッド系の魔物も競うように倒していく兵士によってすぐに処理されてしまう。フェンリルが日がな一日、暇そうに丸まっている。
 聖域の北側に一先ず移住者用の建築作業をしている彼らと、その彼らを護衛しているドラン兵たちを眺めながら、ドライアドたちと一緒に日向ぼっこをしている。
 やべー。丸太が空飛んでる。クレーン要らずじゃん。資材もでっかいゴーレムが引っ張ってきて驚いたけど、魔法すげー。
 やっぱりファンタジーだなぁ、なんて事を考えながらゴロゴロしていると、僕の側に控えていたセシリアが口を開いた。

「シズト様。街の区域ごとに建築が進んでいますが、どの商会にどの土地を貸し与えるかそろそろ決めていただきたいのですが」
「んー……あみだくじとかでいいんじゃない?」
「流石にそれは……。店の種類によって向いてる場所と向いてない場所がありますので、せめてそこを考慮してお考えいただけないでしょうか」
「私が決めていいなら決めるのですわ!」

 ドライアドたちに埋もれていたレヴィさんが、ガバッと起き上がった。
 レヴィさんの上で転寝していたドライアドが転がっていくけど、ドライアドは起きずに寝ている。

「大丈夫なの?」
「大丈夫なのですわ! 相手が何を求めているのか知るのは得意なのですわー」

 流石王女様。交渉とかそういうのしっかり習っているのか、大きな胸をそらして自信満々だ。
 恰好が全然王女様っぽくないけど……。
 農作業用の作業着を身に纏っているレヴィさんは、それでも端正な顔立ちだからか、王族だからか高貴な雰囲気がちょびっとする。
 レヴィさんは「善は急げですわー!」と走り去ってしまって、セシリアさんもその後に続いた。
 商人たちの相手をレヴィさんに任せて、改めて日向ぼっこをしようとしたら、頭が持ち上げられた後に後頭部に柔らかな感触が。

「……ドーラさん、何してるの?」
「シズトのお世話。今日は私」
「なるほど?」

 それがどうして膝枕になるのか謎だけど、抵抗しても無意味だってもう知ってるので大人しくしてよう。力じゃドーラさんに敵わないですし。
 ドーラさんは僕のその思いを知ってか知らずか、そっと僕の髪を弄る。

「……結ばないでね?」
「バレた」
「そりゃ分かるよ」
「今度はバレないようにする」
「やめて欲しいなぁ」

 フフフッと珍しく声に出して笑うドーラさんに、髪を弄られながら日向ぼっこを続けた。
 ……ドライアドたちがコロコロと側に寄ってきたけど、ヒンヤリしてて気持ちよかった。



 食事もお風呂も終わって、リビングで明日の予定についてみんなで確認を行う。
 黒くセクシーなネグリジェ姿のレヴィさんが皆を見回しながら口を開いた。

「ユグドラシルに向かうのは明日でいいですわね?」
「まだ大丈夫みたいだけど、早めに元気にした方がいいだろうし……一週間ごとに行き来しようか、って話になったんだけど」
「アタシらは別にシズトの側で護衛するだけだからいちいち聞かなくていいぞ」
「そうね、シズトくんのいくところについて行くだけだから、気にしなくていいわ」

 僕の視線に気づいたラオさんとルウさんが肩をすくめた。
 タンクトップにパンツ姿のラオさんとルウさんがお酒を飲んでいるけど、特に異論はないようだ。
 装飾がほとんどない、白のネグリジェ姿のドーラさんが僕の髪を拭いているが、特に何も言わない。
 でもあっち行ったりこっち行ったりするの面倒だし、転移陣でも設置しちゃおうかな。

「面倒だからって、流石に転移陣設置するのはダメだよね」
「お父様は別に気にしないと思うのですわ」
「あの人も気にしない。エルフたちは知らない」
「移動時間が短縮されれば世界樹を早く元気にする事ができるから、むしろお願いされるかもしれないのですわ。偶然、世界樹ファマリーを見に来ているエルフが偉い人ですし、明日にでも聞いてみるのですわ!」
「じゃあ、話がまとまってからユグドラシルに向かおうか。王様とドラン公爵に確認取るのにどのくらいかかりそう?」
「速達箱がある。明日にでも許可は下りる」
「お父様にも渡してるのですわー。いつもはどうでもいい手紙が届くだけだからやっと有効活用できるのですわ!」

 早速手紙を書きにレヴィさんが自室に戻って行ってしまった。
 セシリアさんもぺこりと一礼してから外に出て行った。

「でも、やっぱりまた三日くらいの馬車の旅か。往復にしたら一週間くらいだし、面倒臭いな」

 ため息交じりの独白は、僕の太ももに頭を乗せて眠っていたクーだけに聞こえたようだ。
 クーが目を開いてその橙色の瞳で、僕を真っすぐに見る。

「お兄ちゃん、面倒臭いの? あーしがなんとかしてあげよっか?」

 にぃっと、口元に笑みを浮かべ、猫のように目を細めるクー。それから何かに気づいたように僕のお腹の方を向く。
 ……クンクンと僕の臭い嗅ぐの止めてもらえます?
 お風呂に入ったから臭くないと思うんですけど!?
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