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第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう
幕間の物語53.エルフたちは足止めをする
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都市国家ユグドラシルの中央に広がる森がある。
世界樹をぐるりと円形に取り囲むその森では、世界樹の使徒と番人以外の侵入は許されていなかった。
そんな場所を一人の人間が、ドライアドたちと一緒に歩いている。
世界樹とドライアドの影響で季節も気候も関係なく生えている木の果実を食べながら進む彼らを、世界樹の番人たちは見ていた。その姿を魔道具で消し、シズトに気づかれないように一定の距離を保ちながら何事も起こらないように。
そして無事にシズトたちは世界樹の根元に辿り着いた。
禁足地の中央に広がる円形の開けた空間の真ん中に、世界樹は生えている。
土の上に露出して広がる根は人の背丈を軽く超え、その根と根の間に世界樹の素材だけを使って作られた建物とウッドデッキがあった。
既にこの世を去った前任の世界樹の使徒が祈りを捧げるために使っていたウッドデッキに、たくさんのドライアドたちが乗っている。
シズトに向けて何やら一斉にポーズを取っていた。
ジュリウスはそれを見て、前任の使徒が幼い頃にポーズを取って祈っていたな、と思い出す。
大きくなってからは見ないように命じられたため、最近はどうだったのか彼は知らなかったが、ドライアドたちの様子を見ると時々していたんだろうな、と思った。
その後もジュリウスたちは見守っていたが、世界樹が加護の力によって魔力を再び放出するまで、何も問題は起きなかった。
「杞憂だったか?」
「いや、何か変だよ。嫌な感じがどんどん強くなってきてる」
ジュリウスの近くで周囲の様子を探知していたジュリーニが焦った様子で異変を告げる。
周りを確認するが、世界樹が淡く光っている以外は何も変化は見受けられなかった。
「総員、戦闘態勢」
十数名が同時に返事をし、周囲を警戒する。
契約している精霊を呼び出し、いつでも動けるようにして待機していると、その時は来た。
動いたのはエルフもドライアドもほぼ同時。
ドライアドたちは、彼女らの力で植物を強制的に成長させて緑の壁を作り上げる。
「ジュリーニ!」
「分かってる!」
事前の打ち合わせ通りジュリーニにシズトを任せ、ジュリウスたちは突如現れた黒い魔力を纏った邪神の信奉者の側に降り立つ。
大きく膨らみ過ぎた肉塊は、ぼこぼこと膨れ上がり、元の体の形を保てなかったのだろう。
ジュリウスが目を凝らすと、突然その場所に現れたその肉塊が触れている草花が黒い魔力に纏われて呪われてしまっていた。
(『呪躰』か? 常時発動型は厄介だが……)
邪神の信奉者が現れる事はここ数百年起きてなかったが、対処方法は語り継がれてきていた。
当然、『呪躰』の加護持ちの相手の仕方も。
「ユグドラシルと使徒様に被害が及ばないように守りつつ、各自攻撃! 先入観を捨て、何が起きようとも使徒様とユグドラシルを守れ!」
加護持ちの体に触れてしまえば、それが動物だろうが植物だろうが呪われて命が蝕まれる。
それならば、地上で戦わなければいい。
ただ、世界樹の番人たちは十数名でその肉塊を包囲するだけで、相手の出方を見る。
そんな彼らとは少し離れたウッドデッキのあった場所に突如現れた緑の壁は、森に向かって急速に範囲を広げていく。
「コロ……………ス」
顔と思われる部分すらもボコボコと膨れ上がった異形の肉塊が何やら言葉を発した。
肉塊が纏っていたであろう張り裂けた布や、発する魔力から恐らくそうだろうと思っていたが、ジュリウスはその声を聞いて確信した。
「……確かに殺したはずだが、生きてたのか?」
「………ス! コロ……」
「貴方の嘘がこれで証明されたわけだが、シズト様に謝罪をする意思は……ないようだな」
ゆっくりと転がってジュリウスに近づいてくる元世界樹の使徒。
転がって触れる植物が黒い魔力にまとわりつかれていき、それが周囲に広がっていく。
「使徒様は!?」
「ジュリーニが引っ張っていきました」
「で、あれば始めるか。打ち上げろ!」
ジュリウスの掛け声と共に、竜巻が肉塊を中心に発生し、上空に吹き飛ぶ肉塊。
局所的に発生した竜巻は、その場から動く事もなく肉塊を宙に巻き上げ閉じ込めた。
肉塊は反撃をする素振りもないが、風の刃によって切り刻まれて血を流すもののすぐに治っていく。
その血が周囲に飛び散るが、世界樹に向けて飛んで行かないように風で調整されていた。
「焼き尽くせ!」
ジュリウスの端的な指示にすぐに反応し、控えていた火の精霊と契約していたエルフたちが魔法を放つ。
魔法によって放たれる業火が竜巻に巻き込まれ、肉塊を焼き尽くす火災旋風と化した。
他のエルフたちの精霊魔法によって、周囲の被害を最小限に抑え込まれたソレの中で、肉塊は絶叫する。
精霊魔法の連携によって痛みを与える事はできた。
ただ、その程度で邪神の信奉者に成り果てた元世界樹の使徒は死なない。
火の牢獄に囚われていた肉塊が、外に飛び出した。
空中を落下してくる肉塊は回転し、地面に落ちるといびつに膨らんでいた部分が押しつぶされて体液が周囲に散る。
それでも肉塊は回転を止めず、体液をまき散らしながらドライアドたちが作った緑の壁の方へと転がって行く。
それを遮るように、ジュリウスが立っていた。
「ジュ……ス! コロシ――」
「行かせるわけないでしょう」
地面に手をつくジュリウス。
どんどんと速度を上げて転がっていた肉塊の前に、突如土が盛り上がり、巨大な手となってその動きを止めた。
「今度こそ必ず殺して差し上げます」
世界樹をぐるりと円形に取り囲むその森では、世界樹の使徒と番人以外の侵入は許されていなかった。
そんな場所を一人の人間が、ドライアドたちと一緒に歩いている。
世界樹とドライアドの影響で季節も気候も関係なく生えている木の果実を食べながら進む彼らを、世界樹の番人たちは見ていた。その姿を魔道具で消し、シズトに気づかれないように一定の距離を保ちながら何事も起こらないように。
そして無事にシズトたちは世界樹の根元に辿り着いた。
禁足地の中央に広がる円形の開けた空間の真ん中に、世界樹は生えている。
土の上に露出して広がる根は人の背丈を軽く超え、その根と根の間に世界樹の素材だけを使って作られた建物とウッドデッキがあった。
既にこの世を去った前任の世界樹の使徒が祈りを捧げるために使っていたウッドデッキに、たくさんのドライアドたちが乗っている。
シズトに向けて何やら一斉にポーズを取っていた。
ジュリウスはそれを見て、前任の使徒が幼い頃にポーズを取って祈っていたな、と思い出す。
大きくなってからは見ないように命じられたため、最近はどうだったのか彼は知らなかったが、ドライアドたちの様子を見ると時々していたんだろうな、と思った。
その後もジュリウスたちは見守っていたが、世界樹が加護の力によって魔力を再び放出するまで、何も問題は起きなかった。
「杞憂だったか?」
「いや、何か変だよ。嫌な感じがどんどん強くなってきてる」
ジュリウスの近くで周囲の様子を探知していたジュリーニが焦った様子で異変を告げる。
周りを確認するが、世界樹が淡く光っている以外は何も変化は見受けられなかった。
「総員、戦闘態勢」
十数名が同時に返事をし、周囲を警戒する。
契約している精霊を呼び出し、いつでも動けるようにして待機していると、その時は来た。
動いたのはエルフもドライアドもほぼ同時。
ドライアドたちは、彼女らの力で植物を強制的に成長させて緑の壁を作り上げる。
「ジュリーニ!」
「分かってる!」
事前の打ち合わせ通りジュリーニにシズトを任せ、ジュリウスたちは突如現れた黒い魔力を纏った邪神の信奉者の側に降り立つ。
大きく膨らみ過ぎた肉塊は、ぼこぼこと膨れ上がり、元の体の形を保てなかったのだろう。
ジュリウスが目を凝らすと、突然その場所に現れたその肉塊が触れている草花が黒い魔力に纏われて呪われてしまっていた。
(『呪躰』か? 常時発動型は厄介だが……)
邪神の信奉者が現れる事はここ数百年起きてなかったが、対処方法は語り継がれてきていた。
当然、『呪躰』の加護持ちの相手の仕方も。
「ユグドラシルと使徒様に被害が及ばないように守りつつ、各自攻撃! 先入観を捨て、何が起きようとも使徒様とユグドラシルを守れ!」
加護持ちの体に触れてしまえば、それが動物だろうが植物だろうが呪われて命が蝕まれる。
それならば、地上で戦わなければいい。
ただ、世界樹の番人たちは十数名でその肉塊を包囲するだけで、相手の出方を見る。
そんな彼らとは少し離れたウッドデッキのあった場所に突如現れた緑の壁は、森に向かって急速に範囲を広げていく。
「コロ……………ス」
顔と思われる部分すらもボコボコと膨れ上がった異形の肉塊が何やら言葉を発した。
肉塊が纏っていたであろう張り裂けた布や、発する魔力から恐らくそうだろうと思っていたが、ジュリウスはその声を聞いて確信した。
「……確かに殺したはずだが、生きてたのか?」
「………ス! コロ……」
「貴方の嘘がこれで証明されたわけだが、シズト様に謝罪をする意思は……ないようだな」
ゆっくりと転がってジュリウスに近づいてくる元世界樹の使徒。
転がって触れる植物が黒い魔力にまとわりつかれていき、それが周囲に広がっていく。
「使徒様は!?」
「ジュリーニが引っ張っていきました」
「で、あれば始めるか。打ち上げろ!」
ジュリウスの掛け声と共に、竜巻が肉塊を中心に発生し、上空に吹き飛ぶ肉塊。
局所的に発生した竜巻は、その場から動く事もなく肉塊を宙に巻き上げ閉じ込めた。
肉塊は反撃をする素振りもないが、風の刃によって切り刻まれて血を流すもののすぐに治っていく。
その血が周囲に飛び散るが、世界樹に向けて飛んで行かないように風で調整されていた。
「焼き尽くせ!」
ジュリウスの端的な指示にすぐに反応し、控えていた火の精霊と契約していたエルフたちが魔法を放つ。
魔法によって放たれる業火が竜巻に巻き込まれ、肉塊を焼き尽くす火災旋風と化した。
他のエルフたちの精霊魔法によって、周囲の被害を最小限に抑え込まれたソレの中で、肉塊は絶叫する。
精霊魔法の連携によって痛みを与える事はできた。
ただ、その程度で邪神の信奉者に成り果てた元世界樹の使徒は死なない。
火の牢獄に囚われていた肉塊が、外に飛び出した。
空中を落下してくる肉塊は回転し、地面に落ちるといびつに膨らんでいた部分が押しつぶされて体液が周囲に散る。
それでも肉塊は回転を止めず、体液をまき散らしながらドライアドたちが作った緑の壁の方へと転がって行く。
それを遮るように、ジュリウスが立っていた。
「ジュ……ス! コロシ――」
「行かせるわけないでしょう」
地面に手をつくジュリウス。
どんどんと速度を上げて転がっていた肉塊の前に、突如土が盛り上がり、巨大な手となってその動きを止めた。
「今度こそ必ず殺して差し上げます」
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