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第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう

113.事なかれ主義者はお願いした

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 突然、一緒に逃げていた小柄なエルフが吹っ飛んでいったかと思ったら、魔法使いのローブが殆どちぎれ、下に着ていた服もボロボロのホムラが現れた。ってか、ちょっと焦げてない?
 ホムラは下着が見えている事も気にもせず、僕の周りをくるっと一回りすると、こくりと頷く。

「ご無事で何よりです、マスター」
「ドライアドたちとエルフのおかげでね。ってか、エルフさんマジで生きてる!?」

 慌てて振り向くと、遠くまで吹っ飛んだエルフが起き上がるところだった。
 ってか、腕が大変な事になってるんですけど!?
 血の気が引き、力も抜けて立ってられない。ホムラが支えてくれるけど。

「それよりもやるべき事があるでしょ! アイテムバッグからポーション出して! あの人治して!!」
「………かしこまりました、マスター」
「エルフさんにちゃんと謝るんだよ!!」
「………」

 あ、これ謝らないパターンですね。
 ホムラはアイテムバッグからポーションを取り出すと、小柄なエルフに向かって行った。

「人間さん、大丈夫?」
「いたいの~?」
「あー、大丈夫。ちょっとグロイの見たから……」

 ホムラの攻撃を腕でガードしたんだろうけど……ちょっと想像するのもやめよう。
 思考するのもやめて、ボケーッとしていた間に無事、治ったようだ。

「使徒様、お待たせしました」
「ホムラ、ちゃんと謝った? ごめんなさい、した?」
「………」

 ホムラはそっぽを向いて、返事をしない。
 うん、やっぱり謝ってないですねー、これ。
 どうしようか、と考えていたら小柄なエルフが僕とホムラの間に入った。

「大丈夫です、謝罪の品はいただいたので問題ありません。使徒様のお連れの方々は事前に知っておりましたので、味方だという事も分かってました。急接近しているのは知ってましたが、攻撃されるとは思ってなかったので……私たちがした事を思えば疑われて仕方ないかと。それよりも、使徒様は大丈夫でしょうか? どこか痛めましたか?」
「あー、まあ、大丈夫。もう少し休憩したら多分元に戻るかな、って」

 力が入らないのとか、諸々ね。
 ホムラが浮遊台車を出して、その上に僕を乗せた。
 ドライアドたちは興味深そうにそれを見ている。
 ホムラが浮遊台車を起動すると、興味津々で同乗してきた。
 人間の子どもと違って、体温高くはないんだよな。どっちかっていうとヒンヤリしてる。
 あと、頭に咲いている花からは良い香りが漂ってくる。

「それでは、ここから出ましょう、マスター」
「待って! あの人たちの援護はしなくて大丈夫?」

 僕は何もできなくても、ホムラが行けばある程度の魔物だろうが問題なく対処できるだろう。
 足止めは問題ないって言われたけど、倒す事はできないんじゃないか。
 そう思ってエルフに聞いたけど、彼は首を横に振る。

「アレの狙いが分かりませんが、私たちは貴方様を守るためにいるのです。ホムラ様にシズト様を運んでもらった方が、シズト様の安全につながるでしょう。ですから、手助けは必要ありません」
「では、行きましょう、マスター」
「……お願い」

 あの時のように台車に乗りながら移動して攻撃する事ができればいいんだけど、今は魔力がほとんどない。加工も付与もほとんど使えないだろう。
 だったら、さっさと安全なとこまで運んでもらって、ホムラに加勢しに行ってもらった方がいい。
 足止めならできるという言葉を信じて、禁足地から少しでも早く出よう。それがきっと、彼らを助ける最善の方法だろうから。



 浮遊台車をホムラが押して、木のトンネルを猛スピードで疾走する。
 くねくねと曲がった道もぶつかる事無く、ドライアドたちが髪の毛を絡めてくれたおかげで遠心力で吹っ飛ばされそうって思った程度で済んだ。
 途中、こちらに向かって来ていたのであろう人間の兵士たちが左右にダイブしてた気がするけど……うん、何も見なかった。
 行くのにかかった時間を大幅に短縮して外に出ると、そわそわとしていたレヴィアさんが真っ先に僕に気づいた。その後ろに皆も集まっている。

「シズト! 無事だったのですわ!!」
「お姉ちゃん心配で心配で……すぐにでも駆けつけようとしたのよ! でもラオちゃんが……」
「アレ使ったらお前しばらく使い物にならねぇだろうが。シズト、そっちのエルフは誰だ?」
「シズト様を争いの場から連れ出すように命じられ、お連れしました。世界樹の番人が一人、ジュリーニと申します。シズト様はご覧になっていらっしゃらないので、状況の説明は僕がさせていただきます」

 小柄なエルフが膝をつき、首を垂れる。
 周囲の安全を近衛兵が固めつつ、エルフの言葉を待っていた。

「使徒様が世界樹に力をお使いになられた後、突如森の中から丸くてぶよぶよとした肉の塊のようなモノが現れました。それが黒い魔力を纏っていた、と言えば分かりますね?」
「邪神の信奉者か」

 ラオさんが顔を顰めて吐き捨てるように言う。
 よく分からず、首を傾げていると「後で教えるのですわ」とレヴィさん。

「加護は?」
「おそらく、『呪い』かと。肉塊に触れた周囲の草が黒い何かに覆われてました。接触したモノに効果があるタイプの様だったので、仲間が魔法で攻撃を行っていましたが、あまり効いてなかったようです。それに加えて、異常な回復力でした」
「加護以外にも魔法耐性に超再生もあんのかよ」
「差し違える覚悟で、殺す事も考えた方がよさそうね……そんな怖い顔で見なくても分かってるわ、ラオちゃん」
「アタシたちの目的はこいつを守る事。こいつがここにいる以上、アタシらが動く必要はねぇ。こいつのやる事ももう終わったんだろ? 街のエルフの反応見てりゃ分かる」

 ラオさんが僕に絡みついているドライアドを取り除きながら、「さっさと帰るぞ」と言う。
 まあ、魔力がすっからかんな僕にできる事は何もないし、大人しく帰るべきなんだろうね。
 でも――。

「……ホムラ」
「なんでしょう、マスター」
「ユグドラシルの根元まで行って、エルフたちの助太刀をしてきてくれない?」
「仰せのままに、マスター」
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