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第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう

109.事なかれ主義者は外堀を埋められてるのは知ってた

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 アルヴィンさんはふさふさの頭を自慢するように見事なモサモサヘアーになっていた。マッシュというか、なんというか……もさもさ。
 少しくらい切って整えればいいのに、と見ているとアルヴィンさんが照れた様子で「一度禿げるともったいなく感じてしまって切れんのだ」との事。僕も将来そう思うようになるんかなぁ。
 近衛兵とドラン軍の兵士に囲まれた状態で、目の前に座っているアルヴィンさんの話を聞く。

「侵略をしに行くわけではないが、万が一向こうで何かがあった場合に備えて、ドラン軍は近衛兵と共について行く事になっている。シズト殿とレヴィア殿下には禁足地と呼ばれる場所の手前まで、馬車に乗ったまま移動してもらい、近衛兵が周囲の安全を確認したら降りてもらう。そこからは徒歩で世界樹ユグドラシルの根元まで移動してもらう事になるのだが……シズト殿以外は禁足地に入らないようにと言われている」

 ……つまり護衛も何もつけずに、敵地のど真ん中を進めと? 何それこわ!
 と、思っていたら隣に座っていたレヴィさんが、そっと左手を僕の太ももに乗せた。

「誓文は既に交わしているのですわ?」
「そこは抜かりなく。世界樹の番人と呼ばれる部隊の者たちと交わしております。ただ、念のため、レヴィア殿下にはその者たちとお話をしていただけたらと存じます」
「シズトのために私にできる事でしたら、どんな事だってするのですわ!」

 フンス! とやる気満々のレヴィさん。
 アルヴィンさんが目配せすると、その場で控えていた兵士の一人が、レヴィさんを連れて天幕の外に出て行ってしまった。近衛兵も半数ほどそちらについて行く。

「レヴィア殿下の確認が取れ次第、ユグドラシルに向かう。各自準備を怠らないように。シズト殿はもうしばしここでのんびりしていてくれ。紅茶も準備させよう」

 あ、これ僕が作った魔道具ですね。
 周囲にいたドラン兵が慌ただしく外に出て行き、近衛兵に見守られながら過ごす。いつもの紅茶の味がして、なんか安心する。
 禁足地がどういう感じの場所か知らないけど、護衛もなく進むのは正直怖い。いざとなったら帰還の指輪があるし、死ぬ事はないだろうけど痛いのも怖いのも嫌だ。
 一人で行きたくないってエルフに言ったら、例外として認めてくれないかなぁ。



 国境付近で一泊過ごした翌朝、馬車に乗り込んでユグドラシルに向かう。
 軍と一緒の移動なので、ユグドラシルまではあと二日ほどかかるそうだ。
 ユグドラシル側が何かを狙っている事はほぼ有り得ないのですわ! と、レヴィさんが昨夜断言してたけど、安全のためなら仕方ない。

「うわ、ほんとに急にでっかい木が見えるようになった!」
「ユグドラシルの領地に入ったのですわ。地面には草が生えているのが見えると思うのですわ!」
「あ、ほんとだ。不毛の大地との境目が曖昧だけど、だんだん草が増えていってるね」

 馬車の窓から外に身を乗り出して前方を見ていると、急に進行方向に大きな木が聳え立つように現れてびっくりした。
 世界樹ファマリーも認識阻害の結界の中に入れようかな。
 まあ、もうばれてるから手遅れ感やばいし、神様を広めるなら加護の力で世界樹を育ててる事をみんなに知ってもらった方がいいからしないけど。

「雲の上まで伸びてるなんて、まさにファンタジーって感じ」
「世界樹ファマリーもあそこまで大きくなるのですわ?」
「どうなんだろ。最近は大きくなってないけど、大きくなるのかもしれないね。ただ、僕の代じゃ無理かも」
「生育の加護を持つ者を探さなければいけないのですわね」
「でも、今まで知られてなかった神様だからねぇ。やっぱりどんどん神様の事広めないと死んでも転生させられたりして、扱き使われそう……」

 う~ん、とレヴィさんと一緒に首を傾げて考え込んでいると、今まで黙って控えていたセシリアさんが口を開いた。

「わざわざ探さなくても、問題ないと思います」
「王様の命令で呼び出すとか?」
「それも一つの手ではありますが、現実的ではないでしょう。それよりも可能性のある事をすればいいのです。加護は子孫に受け継がれやすいというのはご存じですか?」
「あー、そう言えば勇者の子孫は加護持ちが多いってモニカさんが言ってた気がする」

 モニカさんは日本人の外見的特徴が色濃く出てたからとても期待されてたみたい。
 まあ、結果は加護の欠片もなかったんですけど、と自嘲気味に笑うモニカさんを思い出した。

「だからこそ、異世界からいらした勇者様たちには何をしてでも国に留まってもらい、子種を貰ってきたのです」
「なるほど……?」
「シズト様は薄々分かっていらっしゃると思うのですが、レヴィア様と私、そしてドーラ様はそっちを期待されてもいるのですよ。もちろん、魔道具を手に入れるだけでも問題ないんですけどね。利益が凄まじいので」

 ……まあ、ですよねー。
 第一王女がこんな自由奔放に過ごしてるのもそれがあるんだろうな、とは思ってた。

「レヴィア様がシズト様の手伝いをしているのは、それとは関係ないですね。そこにいるのはただ物語に憧れた夢見がちな王女です」
「あ、そうですか」
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