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第7章 世界樹を育てつつ生きていこう

幕間の物語50.エルフたちは暗躍した

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 不毛の大地に突如生えた世界樹ファマリーの周囲を囲む聖域に立て籠もっていたエルフたちは、世界樹の使徒に幼少期の頃に才能を見出されたエルフたちだ。
 使徒の命令により親から引き離され、過酷な訓練と世界樹の使徒のためだけに行動するように教育されてきた彼らは今、彼らの故郷である都市国家ユグドラシルにいた。
 シズトが世界樹ファマリーを育てるのをその目で見て、自分たちがすべき事を理解した彼らはすぐに行動を開始する。
 世界樹ファマリー周辺の鉄壁に土を盛る作業をしていた時の様な雰囲気はそこにはなく、それぞれがこなすべき事をしていった。
 世界樹の番人とも呼ばれていた彼らは、普段より人通りが少ない街を駆け回り、彼らのリーダーでもあるジュリウスは、ユグドラシル内にいくつもある隠れ家の一つで報告を待っていた。
 そこへ二人組のエルフたちが戻ってくる。

「私が見た限り、街に変化は特にありませんでした。人間共も、街の中ではある程度自由な行動を許可されているようです」
「こちらに戻ってきていた番人に話を少しずつしている状況です。ただ、事前に想定した通り洗脳を疑われ、今後の邪魔になる可能性があったので捕らえました」
「街の方は引き続き人間たちの扱いの確認を。戻ってきていた者たちには、私からもう一度話をしてみよう。ただ、難しいだろうな。直接見せる機会を作るしかあるまい」
「使徒様の御心を乱すような事は極力行いたくないですからね」
「俺たちも時間がある限り説得を続けます」

 報告が終わると外に出て行く二人を見送り、残されたジュリウスは短く刈り上げられた髪を乱雑に掻きむしった。
 人間が世界樹を育てる力を持っていると言っても信じるわけがない。あの光景を見るまでは、自分たちもそうだったから予想できた事だった。
 では、どうすれば彼らを説得できるのか。自分たちと同じ経験をさせるのが手っ取り早いが、そうなるとどうしても彼らが今崇めている人物に来てもらうしかなかった。

「で、あればまずは部下を全員捕らえるか」

 自分たちの障害となり得るものを考えた際に、ジュリウスの頭に真っ先に浮かんだのは自分が鍛えた部下たちだった。
 ジュリウスの半分も生きていない彼らだが、集団を誰一人殺さず制圧するのは流石に一人では厳しい。
 そう判断した彼もその部屋から出て、各個捕獲していった。



 都市国家ユグドラシルにいた世界樹の番人をすべて捕えて一週間が経った。
 住人に紛れ、この街に閉じ込められている人間たちと接触して状況を説明したり、戦争に反対していた一部の住人に世界樹の真実を伝えたりして仲間を増やしていた。
 今は隠れ家の一つである大きな屋敷の地下室で情報を整理していた。

「先代の使徒様は禁足地から出てきてないんだな?」
「ちゃんと見張ってるけど出る気はないみたい」

 ジュリウスの質問に答えたのは、世界樹の番人の中で一番年下のジュリーニだ。
 まだ百年ほどしか生きていないエルフだったが、彼らの中で精霊魔法を用いた情報収集に秀でていたジュリーニは、禁足地の中の監視を任されていた。

「どうもビビっちゃってるみたいだねー。敵が誰か見当もついてないみたい」
「まあ、我々がこんな事をするとは夢にも思っていないだろうからそうだろうな」

 ジュリウスは納得すると、引き続き監視をジュリーニに頼んだ。
 その後も情報の整理は続く。街のエルフや人間たちの様子の確認から始まり、世界樹ファマリーで起こった出来事や、世界樹が加護によって育てられていて、その加護を与えていた神が全く信仰されていない問題がどのくらい噂として広がっているのか。それに対するエルフたちの反応など。
 それらの事をまとめ、ジュリウスは顔を険しくした。

「やはり、今代の使徒様にお越しいただいて加護を使ってもらうしかないか」
「万全の状態にしたとしてもお越しいただけるかどうか……」
「その時はその時だ。まずはこれ以上問題を広げられないように確実に頭を捕らえるぞ。捕えるのが難しいなら潰してしまって構わん」
「正面から皆で行くの?」
「いや、逃げ場がないように周りを囲んで包囲を徐々に狭めていく。『姿消し』の魔道具はまだ使えるな? ジュリーニは引き続き中の監視。元使徒様の動きをその都度伝えてくれ」
「分かった」
「後の者たちは引き続き住人及び同僚の説得をしつつ準備を進めてくれ。一週間後、禁足地に赴く」

 それぞれが返事をして部屋から出て行く。
 ジュリウスは状況を知らせるために、身支度を整え不毛の大地に向かった。



 元世界樹の使徒だった男はその一週間後、あっけないほど簡単に捕らえられた。
 加護を持ち、次代の加護持ちが産まれるまでは安泰だった彼は、鍛錬を怠けていた事もあって精霊魔法は人並み程度しか使えなかった。そんな彼が、鍛え上げられた世界樹の番人から逃げる事などできるはずがなかった。

「お、お前たち……こんな事してただで済むと思っているのか!? 私は世界樹の使徒だぞ! 使徒の言葉は絶対だという事を忘れたのか!?」
「確かに、私たちにとっては使徒様のお言葉は絶対です。使徒様がお望みとあらばどんな事でも行う所存です。ただ、『世界樹の使徒』とは何でしょうか? 世界樹を守り育む者の事であれば、あなたはもう世界樹の使徒ではないでしょう?」

 ジュリウスは話しながら手足を鎖で繋がれた元世界樹の使徒を見る。
 名前のないその男は、エルフとは思えない程太っていた。
 前見た時はここまで太ってなかった気がする、とどうでもいい事が頭をよぎったが思考を切り替える。

「今代の世界樹の使徒様はドラゴニアにいらっしゃいました。その方は今、濡れ衣を着せられていらっしゃる。生育の神から下賜された世界樹ファマリーを育てていただけなのに、この街では盗人と呼ばれている。真実を明らかにし、盗人ではない、と。私利私欲のために間違いを広めてしまった、と。あなたが周辺諸国に言えば楽なのですが……」
「そんな戯言を言う訳がないだろう!」
「でしょうね、残念です」

 一番手っ取り早い方法だったが、断られる事はジュリウスには分かっていた。
 ただ、もしかしたら自分の命惜しさに言うのではないか、とほんの少しだけ思ったから確認しただけだ。

「やはり、心苦しいがお越しいただいて潔白を証明していただくしかない、か。何も問題が起きる事がないように万全の状態でお迎えしなければいけないな。お前たち、予定通りに動くぞ」
「元使徒様にはどうしてもらいますか?」
「万が一逃げられたら厄介だ。お前たちには荷が重いだろうから私がする」
「な!? や、やめ―――」

 ジュリウスが腰に差していた剣を引き抜き、鎖に繋がれたままの元世界樹の使徒に近づいていくと、驚愕した表情で慌てて後ずさりをする。
 元世界樹の使徒はやめさせようと言葉を発するが、ジュリウスは最後まで聞かず、精霊魔法によって燃える剣と化した己の得物で、元世界樹の使徒の胸を突き刺した。
 禁足地に断末魔の叫びが響いたが、街のエルフたちの耳に入る事はなかった。
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