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第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
104.事なかれ主義者はギュッと引き留めただけ
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ドライアドと一緒に日向ぼっこをした翌日。
世界樹ファマリーへの【生育】の祈りの前に、ホムラと一緒に魔道具の設置をしに行く。
護衛として、ラオさんとルウさんが武装をした状態でついてきている。
昨日までたくさんいた兵士たちは、朝起きて外に出た頃にはほとんどいなくなってしまっていた。
今も後片付けのために少数が残っているが、アルヴィンさんたちは既にアンデッド掃討戦の方に加勢をしに行ってしまったらしい。
「結構離れたところにあるんだね」
「世界樹の成長と鉄の床の二つが理由だそうです、マスター」
「そっかー。なんかごめんなさい、って感じ」
「お前が気にする事じゃねぇよ」
「そうよー。世界樹を育てた事がある人なんて人族には誰もいないんだから仕方ないわ。鉄の床だって、シズトくんの力の事を知ってれば、自衛のために必要な事だって分かってくれてるはずよ」
「そんな事より、この次の予定の確認をしてもよろしいでしょうか、マスター?」
「どうぞ?」
「ありがとうございます、マスター。まずは、レンガ造りの建物と大衆浴場の周囲に聖域を張ります。その後、残った兵士と共に聖域に避難。全員の避難を確認した後、鉄の床を取り除き、溢れるであろうゾンビ共を駆逐……は、フェンリルが行うので特に私たちがすべき事はないです」
「鉄は全部インゴットにしてアイテムバッグに入れればいい?」
「そうですね、マスター。アンデッドの駆逐の間は、マスターは世界樹ファマリーへの祈祷をお願いします。すべてが片付いたらドランに向けて出発、でよろしいでしょうか?」
「うん。問題ないよ。聖域の作り直しはドランにいる間にやっちゃうから」
「ドライアドたちから世界樹のおおよその大きさが聞けて良かったけどよ。今の聖域の範囲よりもさらに広範囲が世界樹に覆われるとは思わなかったな」
「兵士さんたちの家の手前ら辺まで大きくなるのはびっくりだね」
鉄の床の範囲だいぶ広めに作ったんだけど。
小さな村一つ分は軽くあると思うんだけどなぁ。
「ただ、そんなに大きくなるのはだいぶ先って事だし、今は目の前のこと頑張りましょ?」
確かにその通りだな、と思って目的地へと急ぐ。ちょっと後がまだまだあるから急いで作業しないと、今日中に出発できなくなっちゃう。
聖域の設置が無事に終わる頃には、残っていた兵士の方々は事前に話が通っていたようで、世界樹周辺にいる人間は全員集まっていた。
聖域まで一緒に戻り、結界の中に入ってもらう。
「俺たちみたいな下っ端も入っていいなんて」
「そこに落ちてる葉っぱ、もしかして世界樹のじゃねぇか?」
「……ちょっとくらい拾ってもバレねぇんじゃ」
「お前らバカな事すんなよ。フェンリルがずっとお前らの事見てるぞ」
丸聞こえのやり取りがぴたりと止んで、目の前の兵士たちが一斉にフェンリルの方を見て、すぐに顔の向きを元に戻す。
うん、フェンリルさんがなぜかこっち見てるね。
レヴィさんが何やらフェンリルさんに話しかけてるみたい。
よく怖がらずにあんな話しかけられるなぁ。犬派なのかな?
レヴィさんのお話のおかげか、フェンリルはまた丸まってしまった。
「魔力残量はいかがですか、マスター」
「問題ないよ。このくらいの量の鉄なら」
馬車移動中、暇だからひたすら【加工】の加護で鉄の形を変えて遊んでたからね。日々魔力がじわじわと増えていってるのだよ。
これも、今後魔道具でお金を稼いで、老後はのんびり過ごすために必要な事。
今日のこれは、お金にもならない事だけど、世界樹の手入れと考えればいいか。
「【加工】」
両手を鉄の床について加護を使うと、鉄が液体のようにドロッとなって僕の思うままに動く。
集まってきた鉄を一気にインゴットに変えていく。どんどん積みあがっていく鉄のインゴット。それを近くで見ていた兵士たちが、変な顔をしているようだけど気にしていられない。
鉄の床がなくなった瞬間にニョキニョキと生えてきたゾンビたちの手も、放っておく。決めたサイズにするのに、まだ集中が必要だから。
思ったよりも時間がかかったけど、無事すべてをインゴットに変える事ができ、ラオさんとルウさんたちがポイポイとアイテムバッグに入れていく。
「さあ、次はあなたの出番なのですわ!」
『うるさいぞ、人間。言われなくてもさっさと片付ける』
臭くて敵わん、とぼやきながらフェンリルはのしのしと歩いて来る。
兵士たちも、僕もサッと脇に避けてフェンリルを見送るんだけど、途中でレヴィさんの首根っこを掴んで引き寄せ、捕まえておく。
放っておいたらそのままゾンビ狩りについて行ってしまいそうだけど、今までで一番ゾンビがひしめき合ってるから危ないでしょ。
そう思っていたら何だかレヴィさんがもじもじとしている。
「シズトからこんな風に抱きしめられるなんて……私まだ心の準備ができてないですわ! それに、こんなに明るいですし、兵士たちの前で求められても……」
「ただ引き留めてるだけなんですけど!?」
「こちらのベッドは固いですし小さいので心許ないですが……準備は万全です」
あなたの代わりに引き留めてるんですけど!?
セシリアさんが真顔でグッとサムズアップしてきたのでレヴィさんを彼女に押し付け、僕は周りの兵士にからかわれながら世界樹ファマリーの元へと向かった。
世界樹ファマリーへの【生育】の祈りの前に、ホムラと一緒に魔道具の設置をしに行く。
護衛として、ラオさんとルウさんが武装をした状態でついてきている。
昨日までたくさんいた兵士たちは、朝起きて外に出た頃にはほとんどいなくなってしまっていた。
今も後片付けのために少数が残っているが、アルヴィンさんたちは既にアンデッド掃討戦の方に加勢をしに行ってしまったらしい。
「結構離れたところにあるんだね」
「世界樹の成長と鉄の床の二つが理由だそうです、マスター」
「そっかー。なんかごめんなさい、って感じ」
「お前が気にする事じゃねぇよ」
「そうよー。世界樹を育てた事がある人なんて人族には誰もいないんだから仕方ないわ。鉄の床だって、シズトくんの力の事を知ってれば、自衛のために必要な事だって分かってくれてるはずよ」
「そんな事より、この次の予定の確認をしてもよろしいでしょうか、マスター?」
「どうぞ?」
「ありがとうございます、マスター。まずは、レンガ造りの建物と大衆浴場の周囲に聖域を張ります。その後、残った兵士と共に聖域に避難。全員の避難を確認した後、鉄の床を取り除き、溢れるであろうゾンビ共を駆逐……は、フェンリルが行うので特に私たちがすべき事はないです」
「鉄は全部インゴットにしてアイテムバッグに入れればいい?」
「そうですね、マスター。アンデッドの駆逐の間は、マスターは世界樹ファマリーへの祈祷をお願いします。すべてが片付いたらドランに向けて出発、でよろしいでしょうか?」
「うん。問題ないよ。聖域の作り直しはドランにいる間にやっちゃうから」
「ドライアドたちから世界樹のおおよその大きさが聞けて良かったけどよ。今の聖域の範囲よりもさらに広範囲が世界樹に覆われるとは思わなかったな」
「兵士さんたちの家の手前ら辺まで大きくなるのはびっくりだね」
鉄の床の範囲だいぶ広めに作ったんだけど。
小さな村一つ分は軽くあると思うんだけどなぁ。
「ただ、そんなに大きくなるのはだいぶ先って事だし、今は目の前のこと頑張りましょ?」
確かにその通りだな、と思って目的地へと急ぐ。ちょっと後がまだまだあるから急いで作業しないと、今日中に出発できなくなっちゃう。
聖域の設置が無事に終わる頃には、残っていた兵士の方々は事前に話が通っていたようで、世界樹周辺にいる人間は全員集まっていた。
聖域まで一緒に戻り、結界の中に入ってもらう。
「俺たちみたいな下っ端も入っていいなんて」
「そこに落ちてる葉っぱ、もしかして世界樹のじゃねぇか?」
「……ちょっとくらい拾ってもバレねぇんじゃ」
「お前らバカな事すんなよ。フェンリルがずっとお前らの事見てるぞ」
丸聞こえのやり取りがぴたりと止んで、目の前の兵士たちが一斉にフェンリルの方を見て、すぐに顔の向きを元に戻す。
うん、フェンリルさんがなぜかこっち見てるね。
レヴィさんが何やらフェンリルさんに話しかけてるみたい。
よく怖がらずにあんな話しかけられるなぁ。犬派なのかな?
レヴィさんのお話のおかげか、フェンリルはまた丸まってしまった。
「魔力残量はいかがですか、マスター」
「問題ないよ。このくらいの量の鉄なら」
馬車移動中、暇だからひたすら【加工】の加護で鉄の形を変えて遊んでたからね。日々魔力がじわじわと増えていってるのだよ。
これも、今後魔道具でお金を稼いで、老後はのんびり過ごすために必要な事。
今日のこれは、お金にもならない事だけど、世界樹の手入れと考えればいいか。
「【加工】」
両手を鉄の床について加護を使うと、鉄が液体のようにドロッとなって僕の思うままに動く。
集まってきた鉄を一気にインゴットに変えていく。どんどん積みあがっていく鉄のインゴット。それを近くで見ていた兵士たちが、変な顔をしているようだけど気にしていられない。
鉄の床がなくなった瞬間にニョキニョキと生えてきたゾンビたちの手も、放っておく。決めたサイズにするのに、まだ集中が必要だから。
思ったよりも時間がかかったけど、無事すべてをインゴットに変える事ができ、ラオさんとルウさんたちがポイポイとアイテムバッグに入れていく。
「さあ、次はあなたの出番なのですわ!」
『うるさいぞ、人間。言われなくてもさっさと片付ける』
臭くて敵わん、とぼやきながらフェンリルはのしのしと歩いて来る。
兵士たちも、僕もサッと脇に避けてフェンリルを見送るんだけど、途中でレヴィさんの首根っこを掴んで引き寄せ、捕まえておく。
放っておいたらそのままゾンビ狩りについて行ってしまいそうだけど、今までで一番ゾンビがひしめき合ってるから危ないでしょ。
そう思っていたら何だかレヴィさんがもじもじとしている。
「シズトからこんな風に抱きしめられるなんて……私まだ心の準備ができてないですわ! それに、こんなに明るいですし、兵士たちの前で求められても……」
「ただ引き留めてるだけなんですけど!?」
「こちらのベッドは固いですし小さいので心許ないですが……準備は万全です」
あなたの代わりに引き留めてるんですけど!?
セシリアさんが真顔でグッとサムズアップしてきたのでレヴィさんを彼女に押し付け、僕は周りの兵士にからかわれながら世界樹ファマリーの元へと向かった。
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