150 / 1,094
第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
幕間の物語47.わんちゃんたちは欲しい物のために頑張る
しおりを挟む
シズトが【生育】を使い、魔力切れによって倒れた後、特に慌てる様子もなくラオとルウがシズトを木造の建物に運んでいった。
レヴィアはそれを見送ると、フェンリルと向かい合う。
フェンリルがその雰囲気を察したのか、伏せの姿勢になった。そして、その青い瞳でレヴィアたちを見下ろす。
自分よりもはるかに大きな魔物を目の前にしても、恐れずにまっすぐに視線を合わせるレヴィア。
普段は薬指に付けている指輪を今日は付けておらず、それ故にフェンリルの心すらも読み解く事が出来ていたから恐れていなかった。何かあっても魔道具で逃げられる、という安心感も多少あったのかもしれないが。
そんな彼女をフェンリルはどうでもよさそうに見ていた。
『……我を見て恐れないとは、人間では珍しいな』
「だって、あなたは私の事興味ないですわ。敵意も何もないのに、どうして恐れる必要があるのですわ? それよりも、今後の事を話し合うのですわ」
『話し合う事などない』
「本当ですわ? シズトがあなたの事を警戒しているのはもう感じていると思うのですわ。それなのに何もせず、良好な関係を築いていくのは難しいと思うのですわ~。シズトは世界樹がどうなろうと気にしないですし、あなたが居座っている間は世界樹へ祈りを捧げる事もしないと思うのですわー。シズトが来る度にあなたが遠くへ行く必要が出てくると思いますし、ここは一つ、約束を交わしてほしいのですわ」
『約束?』
「そう、約束。人間には危害を加えないっていう約束が欲しいのですわ」
『ああ、エルフ共と交わした誓文のようなものか』
フェンリルが思い出したかのように呟いたのが聞こえた面々は、誓文が魔物にも有効である事に驚いた。
ただ、人語を理解する程知能の高い魔物だ。そういう事もあるだろう、とレヴィアは気にも留めてなかった。
レヴィアの後ろに控えていたセシリアは一瞬硬直したが、気を取り直してアイテムバッグから誓文書とペンを取り出す。
「エルフとはどのような約束を交わしていたのですわ?」
『エルフ共を襲わない事だったはずだ。ああ、あと禁足地とやらに入ってきたものは世界樹を育む者以外は食っていいと言われておったな。ただ、人間どもに危害を与えない、というのは難しい。エルフよりもはるかに多くの人数がおるからな。意図せずに危害を加えてしまう事だってある』
「そうですわね、仕方ないのですわ。それなら、シズトとシズトの仲間は襲わない、というのはどうですわ?」
『……そうだな、それならありだ』
セシリアが準備を終えていた誓文書をレヴィアに渡す。それを確認したレヴィアはフェンリルに「字は読めるのですわ?」と誓文書を見せながら尋ねる。
問題ない事を確認したフェンリルが、レヴィアと共に血を一滴垂らし、血の契約が交わされた。
その後、どうせここで寝て過ごすのだからと提案された内容をフェンリルが承諾し、その代わりに食料等をレヴィアたちが用意する事となった。
ドーラはイザベラたちと一緒に、アルヴィンにフェンリルのやり取りを伝えに行き、ラオとルウはシズトを建物に運んで行ったっきり戻ってこない。
そのため、レヴィアとホムラがフェンリルに何が欲しいのか聞き取りをしていた。
『肉は当然だが、酒もあるといい。はるか昔飲んだ人間が作った酒は旨かったが……どこの酒だったか』
「とりあえず近場の有名どころのお酒を用意するのですわ」
『後は魔石だな。ここら辺に出てくるアンデッドどもの魔石は臭くて食欲が失せる』
「ランクはどのくらいがいいのですわ?」
『高ければ高いほどいい。後はそうだな……』
フェンリルが後何が必要か考えている時だった。
突然レヴィアが振り向く。その先には頭に花を咲かせた人間の幼児の様な見た目の小さな者たちが、どこからともなく現れていた。
その者たちは、一回り大きな青い花を咲かせた者を先頭に、レヴィアたちの方に駆けてくる。
「わんちゃんだけずるいぞ~」
「ずるいぞ~」
「……知り合いなのですわ?」
『ドライアドたちだ。お前たちは我と違って何もせずそこら辺に生えているだけではないか』
これがドライアド、とレヴィアが物珍しそうに見るのを気にした様子もなく、ドライアドたちがフェンリルに抗議する。
「私たち草育てるの得意だも~ん。人間さん、私たちそこら辺に生えてる草育てるよ~」
「育てるんだよ~」
「だから私たちも人間さんの物欲しいな!」
「欲しいなー」
わちゃわちゃとレヴィアとホムラの周りを囲んで話すドライアドたち。
そんなドライアドたちをどう扱ったものか、と考えるレヴィア。
今、育てている作物はレヴィアたちが不在の時は放置している状況だった事もあり、ドライアドの能力次第ではありだろう。
ただ、如何せん彼女はドライアドたちが何ができるのか、詳しい事は知らなかった。
ドライアドは、書物にほんの二、三行だけ載っているマイナーな精霊だったからだ。
過去の勇者によってその姿だけは知らされていたが、それ以外あまり知られていない。
「とりあえず、シズトが起きるまでに畑の手入れをお願いするのですわ。それの出来次第で、どれだけあなたたちの要望を聞くのか決めるのですわ」
「それでいいよ~。みんなー、頑張るよ!」
「頑張る~~~」
「それじゃ、魔動散水機の手入れの仕方を教えるのですわ。ついてくるといいのですわ!」
レヴィアは意気揚々と先頭を歩き、その後ろをたくさんのドライアドたちがついて歩いて行く。
残されたホムラは、レヴィアの代わりに淡々とフェンリルの欲しい物を聞き取っていき、どれだけお金が必要か見積もりをしていった。
レヴィアはそれを見送ると、フェンリルと向かい合う。
フェンリルがその雰囲気を察したのか、伏せの姿勢になった。そして、その青い瞳でレヴィアたちを見下ろす。
自分よりもはるかに大きな魔物を目の前にしても、恐れずにまっすぐに視線を合わせるレヴィア。
普段は薬指に付けている指輪を今日は付けておらず、それ故にフェンリルの心すらも読み解く事が出来ていたから恐れていなかった。何かあっても魔道具で逃げられる、という安心感も多少あったのかもしれないが。
そんな彼女をフェンリルはどうでもよさそうに見ていた。
『……我を見て恐れないとは、人間では珍しいな』
「だって、あなたは私の事興味ないですわ。敵意も何もないのに、どうして恐れる必要があるのですわ? それよりも、今後の事を話し合うのですわ」
『話し合う事などない』
「本当ですわ? シズトがあなたの事を警戒しているのはもう感じていると思うのですわ。それなのに何もせず、良好な関係を築いていくのは難しいと思うのですわ~。シズトは世界樹がどうなろうと気にしないですし、あなたが居座っている間は世界樹へ祈りを捧げる事もしないと思うのですわー。シズトが来る度にあなたが遠くへ行く必要が出てくると思いますし、ここは一つ、約束を交わしてほしいのですわ」
『約束?』
「そう、約束。人間には危害を加えないっていう約束が欲しいのですわ」
『ああ、エルフ共と交わした誓文のようなものか』
フェンリルが思い出したかのように呟いたのが聞こえた面々は、誓文が魔物にも有効である事に驚いた。
ただ、人語を理解する程知能の高い魔物だ。そういう事もあるだろう、とレヴィアは気にも留めてなかった。
レヴィアの後ろに控えていたセシリアは一瞬硬直したが、気を取り直してアイテムバッグから誓文書とペンを取り出す。
「エルフとはどのような約束を交わしていたのですわ?」
『エルフ共を襲わない事だったはずだ。ああ、あと禁足地とやらに入ってきたものは世界樹を育む者以外は食っていいと言われておったな。ただ、人間どもに危害を与えない、というのは難しい。エルフよりもはるかに多くの人数がおるからな。意図せずに危害を加えてしまう事だってある』
「そうですわね、仕方ないのですわ。それなら、シズトとシズトの仲間は襲わない、というのはどうですわ?」
『……そうだな、それならありだ』
セシリアが準備を終えていた誓文書をレヴィアに渡す。それを確認したレヴィアはフェンリルに「字は読めるのですわ?」と誓文書を見せながら尋ねる。
問題ない事を確認したフェンリルが、レヴィアと共に血を一滴垂らし、血の契約が交わされた。
その後、どうせここで寝て過ごすのだからと提案された内容をフェンリルが承諾し、その代わりに食料等をレヴィアたちが用意する事となった。
ドーラはイザベラたちと一緒に、アルヴィンにフェンリルのやり取りを伝えに行き、ラオとルウはシズトを建物に運んで行ったっきり戻ってこない。
そのため、レヴィアとホムラがフェンリルに何が欲しいのか聞き取りをしていた。
『肉は当然だが、酒もあるといい。はるか昔飲んだ人間が作った酒は旨かったが……どこの酒だったか』
「とりあえず近場の有名どころのお酒を用意するのですわ」
『後は魔石だな。ここら辺に出てくるアンデッドどもの魔石は臭くて食欲が失せる』
「ランクはどのくらいがいいのですわ?」
『高ければ高いほどいい。後はそうだな……』
フェンリルが後何が必要か考えている時だった。
突然レヴィアが振り向く。その先には頭に花を咲かせた人間の幼児の様な見た目の小さな者たちが、どこからともなく現れていた。
その者たちは、一回り大きな青い花を咲かせた者を先頭に、レヴィアたちの方に駆けてくる。
「わんちゃんだけずるいぞ~」
「ずるいぞ~」
「……知り合いなのですわ?」
『ドライアドたちだ。お前たちは我と違って何もせずそこら辺に生えているだけではないか』
これがドライアド、とレヴィアが物珍しそうに見るのを気にした様子もなく、ドライアドたちがフェンリルに抗議する。
「私たち草育てるの得意だも~ん。人間さん、私たちそこら辺に生えてる草育てるよ~」
「育てるんだよ~」
「だから私たちも人間さんの物欲しいな!」
「欲しいなー」
わちゃわちゃとレヴィアとホムラの周りを囲んで話すドライアドたち。
そんなドライアドたちをどう扱ったものか、と考えるレヴィア。
今、育てている作物はレヴィアたちが不在の時は放置している状況だった事もあり、ドライアドの能力次第ではありだろう。
ただ、如何せん彼女はドライアドたちが何ができるのか、詳しい事は知らなかった。
ドライアドは、書物にほんの二、三行だけ載っているマイナーな精霊だったからだ。
過去の勇者によってその姿だけは知らされていたが、それ以外あまり知られていない。
「とりあえず、シズトが起きるまでに畑の手入れをお願いするのですわ。それの出来次第で、どれだけあなたたちの要望を聞くのか決めるのですわ」
「それでいいよ~。みんなー、頑張るよ!」
「頑張る~~~」
「それじゃ、魔動散水機の手入れの仕方を教えるのですわ。ついてくるといいのですわ!」
レヴィアは意気揚々と先頭を歩き、その後ろをたくさんのドライアドたちがついて歩いて行く。
残されたホムラは、レヴィアの代わりに淡々とフェンリルの欲しい物を聞き取っていき、どれだけお金が必要か見積もりをしていった。
103
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる