上 下
150 / 643
第7章 世界樹を育てつつ生きていこう

幕間の物語47.わんちゃんたちは欲しい物のために頑張る

しおりを挟む
 シズトが【生育】を使い、魔力切れによって倒れた後、特に慌てる様子もなくラオとルウがシズトを木造の建物に運んでいった。
 レヴィアはそれを見送ると、フェンリルと向かい合う。
 フェンリルがその雰囲気を察したのか、伏せの姿勢になった。そして、その青い瞳でレヴィアたちを見下ろす。
 自分よりもはるかに大きな魔物を目の前にしても、恐れずにまっすぐに視線を合わせるレヴィア。
 普段は薬指に付けている指輪を今日は付けておらず、それ故にフェンリルの心すらも読み解く事が出来ていたから恐れていなかった。何かあっても魔道具で逃げられる、という安心感も多少あったのかもしれないが。
 そんな彼女をフェンリルはどうでもよさそうに見ていた。

『……我を見て恐れないとは、人間では珍しいな』
「だって、あなたは私の事興味ないですわ。敵意も何もないのに、どうして恐れる必要があるのですわ? それよりも、今後の事を話し合うのですわ」
『話し合う事などない』
「本当ですわ? シズトがあなたの事を警戒しているのはもう感じていると思うのですわ。それなのに何もせず、良好な関係を築いていくのは難しいと思うのですわ~。シズトは世界樹がどうなろうと気にしないですし、あなたが居座っている間は世界樹へ祈りを捧げる事もしないと思うのですわー。シズトが来る度にあなたが遠くへ行く必要が出てくると思いますし、ここは一つ、約束を交わしてほしいのですわ」
『約束?』
「そう、約束。人間には危害を加えないっていう約束が欲しいのですわ」
『ああ、エルフ共と交わした誓文のようなものか』

 フェンリルが思い出したかのように呟いたのが聞こえた面々は、誓文が魔物にも有効である事に驚いた。
 ただ、人語を理解する程知能の高い魔物だ。そういう事もあるだろう、とレヴィアは気にも留めてなかった。
 レヴィアの後ろに控えていたセシリアは一瞬硬直したが、気を取り直してアイテムバッグから誓文書とペンを取り出す。

「エルフとはどのような約束を交わしていたのですわ?」
『エルフ共を襲わない事だったはずだ。ああ、あと禁足地とやらに入ってきたものは世界樹を育む者以外は食っていいと言われておったな。ただ、人間どもに危害を与えない、というのは難しい。エルフよりもはるかに多くの人数がおるからな。意図せずに危害を加えてしまう事だってある』
「そうですわね、仕方ないのですわ。それなら、シズトとシズトの仲間は襲わない、というのはどうですわ?」
『……そうだな、それならありだ』

 セシリアが準備を終えていた誓文書をレヴィアに渡す。それを確認したレヴィアはフェンリルに「字は読めるのですわ?」と誓文書を見せながら尋ねる。
 問題ない事を確認したフェンリルが、レヴィアと共に血を一滴垂らし、血の契約が交わされた。



 その後、どうせここで寝て過ごすのだからと提案された内容をフェンリルが承諾し、その代わりに食料等をレヴィアたちが用意する事となった。
 ドーラはイザベラたちと一緒に、アルヴィンにフェンリルのやり取りを伝えに行き、ラオとルウはシズトを建物に運んで行ったっきり戻ってこない。
 そのため、レヴィアとホムラがフェンリルに何が欲しいのか聞き取りをしていた。

『肉は当然だが、酒もあるといい。はるか昔飲んだ人間が作った酒は旨かったが……どこの酒だったか』
「とりあえず近場の有名どころのお酒を用意するのですわ」
『後は魔石だな。ここら辺に出てくるアンデッドどもの魔石は臭くて食欲が失せる』
「ランクはどのくらいがいいのですわ?」
『高ければ高いほどいい。後はそうだな……』

 フェンリルが後何が必要か考えている時だった。
 突然レヴィアが振り向く。その先には頭に花を咲かせた人間の幼児の様な見た目の小さな者たちが、どこからともなく現れていた。
 その者たちは、一回り大きな青い花を咲かせた者を先頭に、レヴィアたちの方に駆けてくる。

「わんちゃんだけずるいぞ~」
「ずるいぞ~」
「……知り合いなのですわ?」
『ドライアドたちだ。お前たちは我と違って何もせずそこら辺に生えているだけではないか』

 これがドライアド、とレヴィアが物珍しそうに見るのを気にした様子もなく、ドライアドたちがフェンリルに抗議する。

「私たち草育てるの得意だも~ん。人間さん、私たちそこら辺に生えてる草育てるよ~」
「育てるんだよ~」
「だから私たちも人間さんの物欲しいな!」
「欲しいなー」

 わちゃわちゃとレヴィアとホムラの周りを囲んで話すドライアドたち。
 そんなドライアドたちをどう扱ったものか、と考えるレヴィア。
 今、育てている作物はレヴィアたちが不在の時は放置している状況だった事もあり、ドライアドの能力次第ではありだろう。
 ただ、如何せん彼女はドライアドたちが何ができるのか、詳しい事は知らなかった。
 ドライアドは、書物にほんの二、三行だけ載っているマイナーな精霊だったからだ。
 過去の勇者によってその姿だけは知らされていたが、それ以外あまり知られていない。

「とりあえず、シズトが起きるまでに畑の手入れをお願いするのですわ。それの出来次第で、どれだけあなたたちの要望を聞くのか決めるのですわ」
「それでいいよ~。みんなー、頑張るよ!」
「頑張る~~~」
「それじゃ、魔動散水機の手入れの仕方を教えるのですわ。ついてくるといいのですわ!」

 レヴィアは意気揚々と先頭を歩き、その後ろをたくさんのドライアドたちがついて歩いて行く。
 残されたホムラは、レヴィアの代わりに淡々とフェンリルの欲しい物を聞き取っていき、どれだけお金が必要か見積もりをしていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...