142 / 667
第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
97.事なかれ主義者は男湯が欲しい
しおりを挟む
魔動散水機を設置してから二日ほど様子を見守ったけど、問題なく稼働していた。
もうドランに戻ろうかな、と思っていたけどアルヴィンさんとホムラの話し合いが長引いているらしい。
朝食を食べながら、ホムラの話を聞く。
「仮とはいえ、マスターが住まわれる場所ですのでそれ相応の物を作るように交渉している段階です、マスター」
「いや、そんな立派な物じゃなくてもいいんだけどね? なんかこう、普通に寝泊まりできる程度の小屋でもいいから」
「そうなるとアタシらと同じ部屋で寝る事になるんだが――」
「ちょっとしっかり交渉してきてね、ホムラ! 部屋数は多めにね、わかった?」
「かしこまりました、マスター」
こっちだとあんまり室内で作業をする事がないからそこまで問題にはなってないけど、お風呂とか諸々あったら今までよりも室内で過ごす時間は増えると思う。
そうなってしまったら必然的に同じ部屋で過ごす事が多くなるわけで……僕の理性が試される事は避けたい。
お風呂も男湯と女湯を作ってもらえないかな。屋敷だと大浴場しかないから時間帯を分けて入るようにしてるんだけど、守らない人やうっかり忘れてた人とかいたし。
万が一にもレヴィさんと一緒に入ってるって近衛兵や周囲で指揮をしている貴族にばれないようにしないとやばそうだし。
「男湯は一人用だからそんな大きくなくていいけど、女湯は大きめに作ってもらってね?」
「………」
「ホムラ? 聞いてる?」
「………」
あ、これ言う事聞かない時の反応ですね。
ちょっと心配なので僕もアルヴィンさんとの交渉について行く事にした。
食事を終えてずんずん進んでいくホムラの後を追って大きな天幕の方へと歩いて行く。
周囲の兵士からの視線を気にしないようにしつつ進む。天幕に入る前に止められるかな、と少し緊張してたけど見張りをしていた人たちが恭しく頭を下げて中に招き入れてくれた。
中にいたのは白銀の鎧を身に付けたアルヴィンさんだ。大きな体でムキムキマッチョ、って感じでちょっと前に立つだけで威圧感を感じる。つるつるの頭に眉無しだから怖いのかも? それとも顔に傷跡が残っているからだろうか。
その人物はホムラを最初に見た後、その後ろに隠れるようについてきていた僕を見て目を丸くした。
「ん? 今日はシズト殿も一緒か。ホムラ殿、どちらの話を先に聞けばいいんだ?」
「仮設住居の話。マスターは浴室について相談があるらしい」
「なるほど、勇者様たちは風呂に異常なほどのこだわりがあると聞く。シズト殿も同じ異世界からいらっしゃった方だから気にして当然か」
まあ、日本人はお風呂大好きだもんね。異常って言われても仕方ないか。
でも今回の要望は異常じゃないと思うんですよ。
「ホムラから具体的な住居の大きさ等を聞いたわけではないのでどこまで可能かは分からないのですが、浴室を二つ作って欲しいです」
「なんだ、どのような要望が来るかと身構えたが、その程度だったら問題ないだろう。それより、シズト殿。敬語じゃなくていいぞ。気楽に話してくれると嬉しい。ほら、そこに座ってくれ。紅茶もすぐに出せるぞ、っとこれはシズト殿が作られた魔道具だったな」
「使ってもらって嬉しいです。それで、浴室増やしたらかかる費用増えちゃいます? ホムラ、お金足りる?」
「問題ないです、マスター」
「そもそも金を取るつもりはないからな。世界樹を育てられる者との繋がりを得られるのならこの程度の費用は問題にならん。なにより……魔道具をだいぶ安めの値段で売ってもらったからな。それで、浴室を二つという事だったが、どんな感じにするんだ?」
「えっと、一つは僕だけが使うから狭くていいです。あ、でも足をしっかり伸ばせて肩までつかれるくらいの大きさの浴槽は欲しいかな。もう片方は他の人たち用だからちょっと広めで、皆でさっさと入れるように。シャワーもいくつかあるといいかも。あ、自分で【付与】するから最悪洗う場所さえあればいいかな」
「なるほど、記録はしたな? 他には何かあるか?」
「脱衣所のスペースもそれぞれ作っておいてほしいかなぁ。そこで涼んだりできるようにしておいてほしい」
ラオさん、最近お風呂入った後はパンツだけで涼むんだよね。
確かに夜も暑くなってきたけど、自室までその姿で歩いて行くからたまたま見かけた時目のやり場に困るのでやめてほしい。まあ、首からかけてる大きなタオルで隠さなきゃいけない所は隠れてるんだけどさ。
脱衣所を広めのスペースにしてマッサージチェアみたいなの作っておけばそこでだらだらしてくれるんじゃないかなぁ。っていうか、そもそも脱衣所に魔道具置いて冷房ガンガンにしちゃってもいいか。
思いつく限りの希望は伝えたので、もう行こうかな、と席を立つとアルヴィンさんが手で僕を制した。
「丁度、シズト殿に魔道具を作ってもらえないかホムラ殿に聞くところだったんだ。差し支えなければ作れるかどうかだけでも教えてくれないだろうか」
「んー、まあ作れるかどうかだけなら。作るかどうかとか金額とかはホムラと相談してくださいね?」
色々お風呂についてお願いしちゃったし、断り辛い。すとん、とその場にもう一度座るとアルヴィンさんが天幕の中で待機していた兵士たちに合図を送って外に追い出した。なんだろう、なんか聞きたくなくなってきたな。
そんな事を思っていると、アルヴィンさんが周囲を警戒するように見つつ、声を潜めて聞いてきた。彼の手は自分の頭頂部をさすっている。
「……髪の毛が生える魔道具とか、ないか?」
……もうなくなったやつは無理なんじゃないかなぁ、って思ったけどなーんか、閃いちゃった。本当に何でもありだね、魔法って。
もうドランに戻ろうかな、と思っていたけどアルヴィンさんとホムラの話し合いが長引いているらしい。
朝食を食べながら、ホムラの話を聞く。
「仮とはいえ、マスターが住まわれる場所ですのでそれ相応の物を作るように交渉している段階です、マスター」
「いや、そんな立派な物じゃなくてもいいんだけどね? なんかこう、普通に寝泊まりできる程度の小屋でもいいから」
「そうなるとアタシらと同じ部屋で寝る事になるんだが――」
「ちょっとしっかり交渉してきてね、ホムラ! 部屋数は多めにね、わかった?」
「かしこまりました、マスター」
こっちだとあんまり室内で作業をする事がないからそこまで問題にはなってないけど、お風呂とか諸々あったら今までよりも室内で過ごす時間は増えると思う。
そうなってしまったら必然的に同じ部屋で過ごす事が多くなるわけで……僕の理性が試される事は避けたい。
お風呂も男湯と女湯を作ってもらえないかな。屋敷だと大浴場しかないから時間帯を分けて入るようにしてるんだけど、守らない人やうっかり忘れてた人とかいたし。
万が一にもレヴィさんと一緒に入ってるって近衛兵や周囲で指揮をしている貴族にばれないようにしないとやばそうだし。
「男湯は一人用だからそんな大きくなくていいけど、女湯は大きめに作ってもらってね?」
「………」
「ホムラ? 聞いてる?」
「………」
あ、これ言う事聞かない時の反応ですね。
ちょっと心配なので僕もアルヴィンさんとの交渉について行く事にした。
食事を終えてずんずん進んでいくホムラの後を追って大きな天幕の方へと歩いて行く。
周囲の兵士からの視線を気にしないようにしつつ進む。天幕に入る前に止められるかな、と少し緊張してたけど見張りをしていた人たちが恭しく頭を下げて中に招き入れてくれた。
中にいたのは白銀の鎧を身に付けたアルヴィンさんだ。大きな体でムキムキマッチョ、って感じでちょっと前に立つだけで威圧感を感じる。つるつるの頭に眉無しだから怖いのかも? それとも顔に傷跡が残っているからだろうか。
その人物はホムラを最初に見た後、その後ろに隠れるようについてきていた僕を見て目を丸くした。
「ん? 今日はシズト殿も一緒か。ホムラ殿、どちらの話を先に聞けばいいんだ?」
「仮設住居の話。マスターは浴室について相談があるらしい」
「なるほど、勇者様たちは風呂に異常なほどのこだわりがあると聞く。シズト殿も同じ異世界からいらっしゃった方だから気にして当然か」
まあ、日本人はお風呂大好きだもんね。異常って言われても仕方ないか。
でも今回の要望は異常じゃないと思うんですよ。
「ホムラから具体的な住居の大きさ等を聞いたわけではないのでどこまで可能かは分からないのですが、浴室を二つ作って欲しいです」
「なんだ、どのような要望が来るかと身構えたが、その程度だったら問題ないだろう。それより、シズト殿。敬語じゃなくていいぞ。気楽に話してくれると嬉しい。ほら、そこに座ってくれ。紅茶もすぐに出せるぞ、っとこれはシズト殿が作られた魔道具だったな」
「使ってもらって嬉しいです。それで、浴室増やしたらかかる費用増えちゃいます? ホムラ、お金足りる?」
「問題ないです、マスター」
「そもそも金を取るつもりはないからな。世界樹を育てられる者との繋がりを得られるのならこの程度の費用は問題にならん。なにより……魔道具をだいぶ安めの値段で売ってもらったからな。それで、浴室を二つという事だったが、どんな感じにするんだ?」
「えっと、一つは僕だけが使うから狭くていいです。あ、でも足をしっかり伸ばせて肩までつかれるくらいの大きさの浴槽は欲しいかな。もう片方は他の人たち用だからちょっと広めで、皆でさっさと入れるように。シャワーもいくつかあるといいかも。あ、自分で【付与】するから最悪洗う場所さえあればいいかな」
「なるほど、記録はしたな? 他には何かあるか?」
「脱衣所のスペースもそれぞれ作っておいてほしいかなぁ。そこで涼んだりできるようにしておいてほしい」
ラオさん、最近お風呂入った後はパンツだけで涼むんだよね。
確かに夜も暑くなってきたけど、自室までその姿で歩いて行くからたまたま見かけた時目のやり場に困るのでやめてほしい。まあ、首からかけてる大きなタオルで隠さなきゃいけない所は隠れてるんだけどさ。
脱衣所を広めのスペースにしてマッサージチェアみたいなの作っておけばそこでだらだらしてくれるんじゃないかなぁ。っていうか、そもそも脱衣所に魔道具置いて冷房ガンガンにしちゃってもいいか。
思いつく限りの希望は伝えたので、もう行こうかな、と席を立つとアルヴィンさんが手で僕を制した。
「丁度、シズト殿に魔道具を作ってもらえないかホムラ殿に聞くところだったんだ。差し支えなければ作れるかどうかだけでも教えてくれないだろうか」
「んー、まあ作れるかどうかだけなら。作るかどうかとか金額とかはホムラと相談してくださいね?」
色々お風呂についてお願いしちゃったし、断り辛い。すとん、とその場にもう一度座るとアルヴィンさんが天幕の中で待機していた兵士たちに合図を送って外に追い出した。なんだろう、なんか聞きたくなくなってきたな。
そんな事を思っていると、アルヴィンさんが周囲を警戒するように見つつ、声を潜めて聞いてきた。彼の手は自分の頭頂部をさすっている。
「……髪の毛が生える魔道具とか、ないか?」
……もうなくなったやつは無理なんじゃないかなぁ、って思ったけどなーんか、閃いちゃった。本当に何でもありだね、魔法って。
84
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
【完結】浮気者と婚約破棄をして幼馴染と白い結婚をしたはずなのに溺愛してくる
ユユ
恋愛
私の婚約者と幼馴染の婚約者が浮気をしていた。
私も幼馴染も婚約破棄をして、醜聞付きの売れ残り状態に。
浮気された者同士の婚姻が決まり直ぐに夫婦に。
白い結婚という条件だったのに幼馴染が変わっていく。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
ヒバナ、オーバードライブ DX!
戸影絵麻
ホラー
岬ヒバナは19歳の冴えない勤労少女。小中高と、周囲からは常に透明人間同様の扱いを受けてきた。そんなある日、ヒバナは突然の通り魔事件をきっかけに、不思議な生き物レオンと知り合いになる。ヒバナに特別な力を授けるというレオン。地味系女子脱却のチャンスに欣喜雀躍するヒバナだったが、その前に裏世界を支配する禍津神の一族が立ちはだかる。
※ところどころ、過激な描写や性愛表現があるため、年齢制限を上げさせていただきました。18歳未満の方、申し訳ございません。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる