138 / 1,094
第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
幕間の物語43.不運な隊長と亡者の巣窟
しおりを挟む
亡者の巣窟三十一階層から四十階層までは金属が豊富に取れる。
そのため、はるか昔はその階層間から取れるミスリルなどの希少金属を手に入れようと、多くの冒険者が探索していた。
ただ、ドラン近辺で新しいダンジョンが発見されてからは冒険者が探索する事は無くなった。
冒険者ギルドも手を引き、ドラン公爵が管理する事になってだいぶ経った。
ドラン軍の兵士が時々活発期じゃないか確認をしに来る程度だったそのダンジョンに変化が訪れたのは少し前。魔道具師が転移の魔道具を作り、三十一階層に直接転移することができるようにした物をドラン公爵に売却した事によって、ドラン兵が採掘の仕事をするようになった。
「奴隷とかにやらせればいいのに、なんで俺がこんな事を……」
「ラック隊長がくじ引きであたりを引いたからでしょう。ほら、もう臭いにも慣れてきましたし、さっさと奥に進みますよ」
「ほんと、隊長は運が悪いですね。巻き込まれる私たちの身にもなってほしいです」
「俺だってなりたくて隊長になったわけじゃねぇ。なりたきゃ変わってやろうか、カレン副隊長」
「謹んで辞退させていただきます」
揃いの鎧を身に付けた十人ほどの集団が緊張感のない会話を続けつつ奥に進んでいく。
今までの階層と異なるのは、道さえ間違えなければ次の階層に一時間もあれば移動できる点だろう。
洞窟や沼地のように遠回りをする必要もなく、霧に包まれた街のように下の階層へと通じる階段をトラップ満載の室内で探し回る必要もない。
これならいくら不運な人物でも探索するだけなら問題はないだろう、と隊員たちは考えていた。
不運な隊長に巻き込まれてちょくちょく亡者の巣窟の巡回をさせられていた彼らは臭いに順応するのも早く、転移陣で三十一階層へと続く階段の近くについて一時間もすれば探索を開始する事ができていた。
他の部隊の者たちは転移陣の近くで吐き気に襲われながら休んでいたが、彼らの部隊はどんどん奥へ奥へと進んでいく。
出てくるスケルトンは先頭を歩んでいるハンマー使いのカレン副長が処理をしていく。隊の中では数少ない女性だったが、身体強化の魔法を器用に使いこなして危なげなく骨を粉砕していく。
「この階層に来るのは初めてでしたけど、魔物は大した事ないですね」
「カレン副長だからだ。他の者たちは油断しないように。斬るんじゃなくてぶん殴れ。ボニーは魔力を温存な」
「わかりましたー」
気の抜けるような間延びした声で返事をしたのは不運なラックの側について歩いていた小柄な女性。一人だけ軽装で杖を持っている彼女は回復役としてついてきていた。
主に、些細な段差で躓いて足をひねったり、罠に一人だけかかって怪我をしたりするどこかの隊長を治す事が彼女の仕事だったが、今回はそれに加えて採掘中に発動する罠にかかってしまい毒状態になった味方の解毒という重要な仕事があった。
ミスリルが手に入りやすい下層では特に罠が多く、避けきれないものも出てくる。回復役無しで採掘をする事は考えられなかった。
三十九階層まで一気に下って、隊列の中央で荷運びをしていた二人の男が野営の準備や、食事の準備を行い始める。
ラック隊長が部下と一緒にその場の護衛に残り、他の者たちはボニーを守りつつ一つの集団となって脇道に入って行った。
「ミスリルがすぐに見つかるといいんだけどな」
「ラック隊長がいるのに初日で見つかるわけないじゃないっすか」
「よーし、お前ちょっとこっち来い。じっくり話し合おうじゃないか」
「食事の準備で忙しいんで遠慮します」
「ったく、カレン副長がいないだけでなんかこう、気が緩むのは何とかならんもんか。俺の威厳が足らないんだろうけど……髭でも生やしたら多少はましになるか?」
「ラック隊長の不運がなくならない限り威厳とか皆無なんで」
「やっぱりそこかぁ」
カッコ悪いところを見せてるもんなぁ、と肩をがっくりと落とすラック。
ただ、隊員の一人と一緒にそんな雑談をしている間にもカタカタと音を立てながら近づいてくるスケルトンの上位種の相手をしていく。
刃がダメになってしまわないように、頑丈に作った鞘で殴って骨を折り、肋骨の奥に守られている魔石を砕くラックたち。
遠距離から弓を使ってくるスケルトンアーチャーには大きな盾を構えた隊員が矢を防いでいる間にラックが片付ける。
設営が終わり、食事の準備が終わる頃にはカレンたちが戻ってきたが皆無事だった。ミスリルは手に入れる事ができなかったようだったが、その他の貴金属に関しては多少手に入れることができていた。
「手に入れた貴金属の量によってボーナスが出るから励めよー」
「ラック隊長、あなたは採掘しないのですから煽らないでください。今回は罠に巻き込まれる事はありませんでしたが、明日以降もそうとは限らないのです。慎重に採掘をしていきましょう。私たちはラック隊の者なのですから、油断は禁物です」
「カレン副長、なんか怒ってらっしゃる……? もう少し遠回しに注意喚起をしてほしいかな、って。ほら、まだ今の所皆を巻き込むような不運が起きてるわけじゃないし?」
「こんな臭い所に行かされてる時点で不運ですー」
のんびりとした表情で干し肉を齧っていたボニーの発言に、返す言葉もなくため息をついて項垂れるラックだった。
その数日後、他の部隊の者たちも追いついて採掘を始めると、他の部隊は早々にミスリルを見つけて帰って行った。しかし、ラック隊はミスリルをなかなか見つける事ができず、一週間ほど経過してやっとミスリルが手に入った。
彼らは皆口々に「一週間で済んでよかった」とぼやいていて、それを何とも言えない表情でラックが後ろから見ていて、ぼそりと呟く。
「運気が上昇する魔道具とか作ってくんねぇかなぁ」
そのため、はるか昔はその階層間から取れるミスリルなどの希少金属を手に入れようと、多くの冒険者が探索していた。
ただ、ドラン近辺で新しいダンジョンが発見されてからは冒険者が探索する事は無くなった。
冒険者ギルドも手を引き、ドラン公爵が管理する事になってだいぶ経った。
ドラン軍の兵士が時々活発期じゃないか確認をしに来る程度だったそのダンジョンに変化が訪れたのは少し前。魔道具師が転移の魔道具を作り、三十一階層に直接転移することができるようにした物をドラン公爵に売却した事によって、ドラン兵が採掘の仕事をするようになった。
「奴隷とかにやらせればいいのに、なんで俺がこんな事を……」
「ラック隊長がくじ引きであたりを引いたからでしょう。ほら、もう臭いにも慣れてきましたし、さっさと奥に進みますよ」
「ほんと、隊長は運が悪いですね。巻き込まれる私たちの身にもなってほしいです」
「俺だってなりたくて隊長になったわけじゃねぇ。なりたきゃ変わってやろうか、カレン副隊長」
「謹んで辞退させていただきます」
揃いの鎧を身に付けた十人ほどの集団が緊張感のない会話を続けつつ奥に進んでいく。
今までの階層と異なるのは、道さえ間違えなければ次の階層に一時間もあれば移動できる点だろう。
洞窟や沼地のように遠回りをする必要もなく、霧に包まれた街のように下の階層へと通じる階段をトラップ満載の室内で探し回る必要もない。
これならいくら不運な人物でも探索するだけなら問題はないだろう、と隊員たちは考えていた。
不運な隊長に巻き込まれてちょくちょく亡者の巣窟の巡回をさせられていた彼らは臭いに順応するのも早く、転移陣で三十一階層へと続く階段の近くについて一時間もすれば探索を開始する事ができていた。
他の部隊の者たちは転移陣の近くで吐き気に襲われながら休んでいたが、彼らの部隊はどんどん奥へ奥へと進んでいく。
出てくるスケルトンは先頭を歩んでいるハンマー使いのカレン副長が処理をしていく。隊の中では数少ない女性だったが、身体強化の魔法を器用に使いこなして危なげなく骨を粉砕していく。
「この階層に来るのは初めてでしたけど、魔物は大した事ないですね」
「カレン副長だからだ。他の者たちは油断しないように。斬るんじゃなくてぶん殴れ。ボニーは魔力を温存な」
「わかりましたー」
気の抜けるような間延びした声で返事をしたのは不運なラックの側について歩いていた小柄な女性。一人だけ軽装で杖を持っている彼女は回復役としてついてきていた。
主に、些細な段差で躓いて足をひねったり、罠に一人だけかかって怪我をしたりするどこかの隊長を治す事が彼女の仕事だったが、今回はそれに加えて採掘中に発動する罠にかかってしまい毒状態になった味方の解毒という重要な仕事があった。
ミスリルが手に入りやすい下層では特に罠が多く、避けきれないものも出てくる。回復役無しで採掘をする事は考えられなかった。
三十九階層まで一気に下って、隊列の中央で荷運びをしていた二人の男が野営の準備や、食事の準備を行い始める。
ラック隊長が部下と一緒にその場の護衛に残り、他の者たちはボニーを守りつつ一つの集団となって脇道に入って行った。
「ミスリルがすぐに見つかるといいんだけどな」
「ラック隊長がいるのに初日で見つかるわけないじゃないっすか」
「よーし、お前ちょっとこっち来い。じっくり話し合おうじゃないか」
「食事の準備で忙しいんで遠慮します」
「ったく、カレン副長がいないだけでなんかこう、気が緩むのは何とかならんもんか。俺の威厳が足らないんだろうけど……髭でも生やしたら多少はましになるか?」
「ラック隊長の不運がなくならない限り威厳とか皆無なんで」
「やっぱりそこかぁ」
カッコ悪いところを見せてるもんなぁ、と肩をがっくりと落とすラック。
ただ、隊員の一人と一緒にそんな雑談をしている間にもカタカタと音を立てながら近づいてくるスケルトンの上位種の相手をしていく。
刃がダメになってしまわないように、頑丈に作った鞘で殴って骨を折り、肋骨の奥に守られている魔石を砕くラックたち。
遠距離から弓を使ってくるスケルトンアーチャーには大きな盾を構えた隊員が矢を防いでいる間にラックが片付ける。
設営が終わり、食事の準備が終わる頃にはカレンたちが戻ってきたが皆無事だった。ミスリルは手に入れる事ができなかったようだったが、その他の貴金属に関しては多少手に入れることができていた。
「手に入れた貴金属の量によってボーナスが出るから励めよー」
「ラック隊長、あなたは採掘しないのですから煽らないでください。今回は罠に巻き込まれる事はありませんでしたが、明日以降もそうとは限らないのです。慎重に採掘をしていきましょう。私たちはラック隊の者なのですから、油断は禁物です」
「カレン副長、なんか怒ってらっしゃる……? もう少し遠回しに注意喚起をしてほしいかな、って。ほら、まだ今の所皆を巻き込むような不運が起きてるわけじゃないし?」
「こんな臭い所に行かされてる時点で不運ですー」
のんびりとした表情で干し肉を齧っていたボニーの発言に、返す言葉もなくため息をついて項垂れるラックだった。
その数日後、他の部隊の者たちも追いついて採掘を始めると、他の部隊は早々にミスリルを見つけて帰って行った。しかし、ラック隊はミスリルをなかなか見つける事ができず、一週間ほど経過してやっとミスリルが手に入った。
彼らは皆口々に「一週間で済んでよかった」とぼやいていて、それを何とも言えない表情でラックが後ろから見ていて、ぼそりと呟く。
「運気が上昇する魔道具とか作ってくんねぇかなぁ」
106
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

異世界転生~目指せ!内乱を防いで、みんな幸せ♪
紅子
ファンタジー
いつの間にかこの国の王子に転生していた俺。物語の世界にいるなんて、想定外だ。このままでは、この国は近い未来に内乱の末、乗っ取られてしまう。俺、まだ4歳。誰がこんな途方もない話を信じてくれるだろうか?既に物語と差異が発生しちゃってるし。俺自身もバグり始めてる。
4歳から始まる俺の奮闘記?物語に逆らって、みんな幸せを目指してみよう♪
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる