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第7章 世界樹を育てつつ生きていこう
幕間の物語43.不運な隊長と亡者の巣窟
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亡者の巣窟三十一階層から四十階層までは金属が豊富に取れる。
そのため、はるか昔はその階層間から取れるミスリルなどの希少金属を手に入れようと、多くの冒険者が探索していた。
ただ、ドラン近辺で新しいダンジョンが発見されてからは冒険者が探索する事は無くなった。
冒険者ギルドも手を引き、ドラン公爵が管理する事になってだいぶ経った。
ドラン軍の兵士が時々活発期じゃないか確認をしに来る程度だったそのダンジョンに変化が訪れたのは少し前。魔道具師が転移の魔道具を作り、三十一階層に直接転移することができるようにした物をドラン公爵に売却した事によって、ドラン兵が採掘の仕事をするようになった。
「奴隷とかにやらせればいいのに、なんで俺がこんな事を……」
「ラック隊長がくじ引きであたりを引いたからでしょう。ほら、もう臭いにも慣れてきましたし、さっさと奥に進みますよ」
「ほんと、隊長は運が悪いですね。巻き込まれる私たちの身にもなってほしいです」
「俺だってなりたくて隊長になったわけじゃねぇ。なりたきゃ変わってやろうか、カレン副隊長」
「謹んで辞退させていただきます」
揃いの鎧を身に付けた十人ほどの集団が緊張感のない会話を続けつつ奥に進んでいく。
今までの階層と異なるのは、道さえ間違えなければ次の階層に一時間もあれば移動できる点だろう。
洞窟や沼地のように遠回りをする必要もなく、霧に包まれた街のように下の階層へと通じる階段をトラップ満載の室内で探し回る必要もない。
これならいくら不運な人物でも探索するだけなら問題はないだろう、と隊員たちは考えていた。
不運な隊長に巻き込まれてちょくちょく亡者の巣窟の巡回をさせられていた彼らは臭いに順応するのも早く、転移陣で三十一階層へと続く階段の近くについて一時間もすれば探索を開始する事ができていた。
他の部隊の者たちは転移陣の近くで吐き気に襲われながら休んでいたが、彼らの部隊はどんどん奥へ奥へと進んでいく。
出てくるスケルトンは先頭を歩んでいるハンマー使いのカレン副長が処理をしていく。隊の中では数少ない女性だったが、身体強化の魔法を器用に使いこなして危なげなく骨を粉砕していく。
「この階層に来るのは初めてでしたけど、魔物は大した事ないですね」
「カレン副長だからだ。他の者たちは油断しないように。斬るんじゃなくてぶん殴れ。ボニーは魔力を温存な」
「わかりましたー」
気の抜けるような間延びした声で返事をしたのは不運なラックの側について歩いていた小柄な女性。一人だけ軽装で杖を持っている彼女は回復役としてついてきていた。
主に、些細な段差で躓いて足をひねったり、罠に一人だけかかって怪我をしたりするどこかの隊長を治す事が彼女の仕事だったが、今回はそれに加えて採掘中に発動する罠にかかってしまい毒状態になった味方の解毒という重要な仕事があった。
ミスリルが手に入りやすい下層では特に罠が多く、避けきれないものも出てくる。回復役無しで採掘をする事は考えられなかった。
三十九階層まで一気に下って、隊列の中央で荷運びをしていた二人の男が野営の準備や、食事の準備を行い始める。
ラック隊長が部下と一緒にその場の護衛に残り、他の者たちはボニーを守りつつ一つの集団となって脇道に入って行った。
「ミスリルがすぐに見つかるといいんだけどな」
「ラック隊長がいるのに初日で見つかるわけないじゃないっすか」
「よーし、お前ちょっとこっち来い。じっくり話し合おうじゃないか」
「食事の準備で忙しいんで遠慮します」
「ったく、カレン副長がいないだけでなんかこう、気が緩むのは何とかならんもんか。俺の威厳が足らないんだろうけど……髭でも生やしたら多少はましになるか?」
「ラック隊長の不運がなくならない限り威厳とか皆無なんで」
「やっぱりそこかぁ」
カッコ悪いところを見せてるもんなぁ、と肩をがっくりと落とすラック。
ただ、隊員の一人と一緒にそんな雑談をしている間にもカタカタと音を立てながら近づいてくるスケルトンの上位種の相手をしていく。
刃がダメになってしまわないように、頑丈に作った鞘で殴って骨を折り、肋骨の奥に守られている魔石を砕くラックたち。
遠距離から弓を使ってくるスケルトンアーチャーには大きな盾を構えた隊員が矢を防いでいる間にラックが片付ける。
設営が終わり、食事の準備が終わる頃にはカレンたちが戻ってきたが皆無事だった。ミスリルは手に入れる事ができなかったようだったが、その他の貴金属に関しては多少手に入れることができていた。
「手に入れた貴金属の量によってボーナスが出るから励めよー」
「ラック隊長、あなたは採掘しないのですから煽らないでください。今回は罠に巻き込まれる事はありませんでしたが、明日以降もそうとは限らないのです。慎重に採掘をしていきましょう。私たちはラック隊の者なのですから、油断は禁物です」
「カレン副長、なんか怒ってらっしゃる……? もう少し遠回しに注意喚起をしてほしいかな、って。ほら、まだ今の所皆を巻き込むような不運が起きてるわけじゃないし?」
「こんな臭い所に行かされてる時点で不運ですー」
のんびりとした表情で干し肉を齧っていたボニーの発言に、返す言葉もなくため息をついて項垂れるラックだった。
その数日後、他の部隊の者たちも追いついて採掘を始めると、他の部隊は早々にミスリルを見つけて帰って行った。しかし、ラック隊はミスリルをなかなか見つける事ができず、一週間ほど経過してやっとミスリルが手に入った。
彼らは皆口々に「一週間で済んでよかった」とぼやいていて、それを何とも言えない表情でラックが後ろから見ていて、ぼそりと呟く。
「運気が上昇する魔道具とか作ってくんねぇかなぁ」
そのため、はるか昔はその階層間から取れるミスリルなどの希少金属を手に入れようと、多くの冒険者が探索していた。
ただ、ドラン近辺で新しいダンジョンが発見されてからは冒険者が探索する事は無くなった。
冒険者ギルドも手を引き、ドラン公爵が管理する事になってだいぶ経った。
ドラン軍の兵士が時々活発期じゃないか確認をしに来る程度だったそのダンジョンに変化が訪れたのは少し前。魔道具師が転移の魔道具を作り、三十一階層に直接転移することができるようにした物をドラン公爵に売却した事によって、ドラン兵が採掘の仕事をするようになった。
「奴隷とかにやらせればいいのに、なんで俺がこんな事を……」
「ラック隊長がくじ引きであたりを引いたからでしょう。ほら、もう臭いにも慣れてきましたし、さっさと奥に進みますよ」
「ほんと、隊長は運が悪いですね。巻き込まれる私たちの身にもなってほしいです」
「俺だってなりたくて隊長になったわけじゃねぇ。なりたきゃ変わってやろうか、カレン副隊長」
「謹んで辞退させていただきます」
揃いの鎧を身に付けた十人ほどの集団が緊張感のない会話を続けつつ奥に進んでいく。
今までの階層と異なるのは、道さえ間違えなければ次の階層に一時間もあれば移動できる点だろう。
洞窟や沼地のように遠回りをする必要もなく、霧に包まれた街のように下の階層へと通じる階段をトラップ満載の室内で探し回る必要もない。
これならいくら不運な人物でも探索するだけなら問題はないだろう、と隊員たちは考えていた。
不運な隊長に巻き込まれてちょくちょく亡者の巣窟の巡回をさせられていた彼らは臭いに順応するのも早く、転移陣で三十一階層へと続く階段の近くについて一時間もすれば探索を開始する事ができていた。
他の部隊の者たちは転移陣の近くで吐き気に襲われながら休んでいたが、彼らの部隊はどんどん奥へ奥へと進んでいく。
出てくるスケルトンは先頭を歩んでいるハンマー使いのカレン副長が処理をしていく。隊の中では数少ない女性だったが、身体強化の魔法を器用に使いこなして危なげなく骨を粉砕していく。
「この階層に来るのは初めてでしたけど、魔物は大した事ないですね」
「カレン副長だからだ。他の者たちは油断しないように。斬るんじゃなくてぶん殴れ。ボニーは魔力を温存な」
「わかりましたー」
気の抜けるような間延びした声で返事をしたのは不運なラックの側について歩いていた小柄な女性。一人だけ軽装で杖を持っている彼女は回復役としてついてきていた。
主に、些細な段差で躓いて足をひねったり、罠に一人だけかかって怪我をしたりするどこかの隊長を治す事が彼女の仕事だったが、今回はそれに加えて採掘中に発動する罠にかかってしまい毒状態になった味方の解毒という重要な仕事があった。
ミスリルが手に入りやすい下層では特に罠が多く、避けきれないものも出てくる。回復役無しで採掘をする事は考えられなかった。
三十九階層まで一気に下って、隊列の中央で荷運びをしていた二人の男が野営の準備や、食事の準備を行い始める。
ラック隊長が部下と一緒にその場の護衛に残り、他の者たちはボニーを守りつつ一つの集団となって脇道に入って行った。
「ミスリルがすぐに見つかるといいんだけどな」
「ラック隊長がいるのに初日で見つかるわけないじゃないっすか」
「よーし、お前ちょっとこっち来い。じっくり話し合おうじゃないか」
「食事の準備で忙しいんで遠慮します」
「ったく、カレン副長がいないだけでなんかこう、気が緩むのは何とかならんもんか。俺の威厳が足らないんだろうけど……髭でも生やしたら多少はましになるか?」
「ラック隊長の不運がなくならない限り威厳とか皆無なんで」
「やっぱりそこかぁ」
カッコ悪いところを見せてるもんなぁ、と肩をがっくりと落とすラック。
ただ、隊員の一人と一緒にそんな雑談をしている間にもカタカタと音を立てながら近づいてくるスケルトンの上位種の相手をしていく。
刃がダメになってしまわないように、頑丈に作った鞘で殴って骨を折り、肋骨の奥に守られている魔石を砕くラックたち。
遠距離から弓を使ってくるスケルトンアーチャーには大きな盾を構えた隊員が矢を防いでいる間にラックが片付ける。
設営が終わり、食事の準備が終わる頃にはカレンたちが戻ってきたが皆無事だった。ミスリルは手に入れる事ができなかったようだったが、その他の貴金属に関しては多少手に入れることができていた。
「手に入れた貴金属の量によってボーナスが出るから励めよー」
「ラック隊長、あなたは採掘しないのですから煽らないでください。今回は罠に巻き込まれる事はありませんでしたが、明日以降もそうとは限らないのです。慎重に採掘をしていきましょう。私たちはラック隊の者なのですから、油断は禁物です」
「カレン副長、なんか怒ってらっしゃる……? もう少し遠回しに注意喚起をしてほしいかな、って。ほら、まだ今の所皆を巻き込むような不運が起きてるわけじゃないし?」
「こんな臭い所に行かされてる時点で不運ですー」
のんびりとした表情で干し肉を齧っていたボニーの発言に、返す言葉もなくため息をついて項垂れるラックだった。
その数日後、他の部隊の者たちも追いついて採掘を始めると、他の部隊は早々にミスリルを見つけて帰って行った。しかし、ラック隊はミスリルをなかなか見つける事ができず、一週間ほど経過してやっとミスリルが手に入った。
彼らは皆口々に「一週間で済んでよかった」とぼやいていて、それを何とも言えない表情でラックが後ろから見ていて、ぼそりと呟く。
「運気が上昇する魔道具とか作ってくんねぇかなぁ」
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