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第7章 世界樹を育てつつ生きていこう

94.事なかれ主義者はもふもふした

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「心配だから一緒に行くじゃん」
「今日の夜の見張りってシンシーラじゃなかったっけ? そっちはいいの?」
「私は耳と鼻がよく利くから大丈夫じゃん。いつもは屋敷の上で周りを見てるけど、シズト様が部屋から出てくるの聞こえたから何かあったかと思ってきたんじゃん。屋敷の中にいても、これだけ静かだったら敷地内の音は聞こえるじゃん」
「すごいんだねぇ……ところで、そろそろ離してもらってもいい?」

 周りを浮遊ランプで照らされた夜の階段で狼人族のシンシーラに抱きしめられていた。背中に何か柔らかい感触を感じて、それを意識するといろいろとやばいので解放されたい。
 ホムラやルウさんだったらすぐには離してくれないんだけど、シンシーラは素直に離してくれた。

「ほら、シズト様。おなかがよっぽど空いてるみたいじゃん。早く何か食べに行くじゃん」
「え、ほんとにシンシーラも行くの?」
「心臓の鼓動が不安そうに高鳴ってたのも知ってるじゃん。一緒に行ったら怖くないじゃん?」

 何かいろいろバレてて恥ずかしいんですけど!?
 僕のそんな気持ちを知ってか知らずか、シンシーラは先導するようにゆっくりと歩き始めた。
 彼女の後ろを歩いて行くと、恥ずかしいけど確かにさっきまでの不気味さが薄らいだような気がする。っていうか、目の前の耳と尻尾が気になってそれどころじゃないじゃん!
 栗色の髪と同色の耳は周囲を警戒するようにピンと尖っていて、時々横を向く等いろいろ動く。尻尾は機嫌がいいのか、パタパタと振られていて犬を彷彿とさせるけど、前に犬みたい、と言った時に何とも言えない顔になったのでそれ以来言わないように気を付けてる。
 調理場にはアンジェラと一緒にお菓子を強請りに行くくらいであまり中に入った事はないんだけど、こんな時間だ。自分で準備するしかないか、と思っていたら調理場から明かりが漏れていた。

「……こんな時間までいつも明かりついてるの?」
「いや、今日が特別なだけじゃん」

 どういう事? と疑問に思って首を傾げていたら、すぐに分かるから、とシンシーラが調理場に入っていった。
 僕もそれに続くとそこには、狐人族のエミリーが普段とは違う格好で料理をしていた。
 いつも彼女はメイド服を着ていたけど、今は寝間着なのかワンピースのような服を着ている。尻尾が出るように加工されたその服の袖をまくって調理をしてるんだけど、こんな時間にそんな恰好でそれする必要ある?

「シズト様、お待ちしておりました。丁度スープを温め終えたのですが、こちらでお食べになりますか? 食堂の方までお持ちいたしますか?」
「え、わざわざ今まで起きてたの!? っていうか、どうやって僕が来るって知ってたの?」
「私も、狐人族なので五感は多少自信がありますので……。たまたま目が覚めただけですのでお気になさらず。それで、どこでお食事されますか?」
「えっと、じゃあここで」
「かしこまりました。そちらの箱に座ってごゆっくりお食べください。パンはちょっと固くなってしまっていますが」

 スープにつければ大丈夫大丈夫。
 それにしても、獣人ってやっぱすごいんだなぁ、と改めて思う。僕が起きたのを音とかで判断できるなんて。……もしかして、自分でするのとかも聞こえちゃう奴じゃないですかこれ?
 本格的に一人になれる場所を探す必要があるなぁ、なんてくだらない事を考えつつ視線はエミリーの尻尾を見つめる。
 エミリーは洗い物をしているのか、水回りの掃除をしているのかは分からないけど僕に背を向けて何か作業をしていた。尻尾がフリフリと揺れている。
 じっと見ていたらふわっと柔らかな感触が僕の背中に当たる。バシバシと規則的にあたるそれを確認するため後ろをちらっと見ると、そっぽを向いていたシンシーラの尻尾が僕の背中を何度も叩いていた。

「シンシーラ、どうしたの?」
「べっつにー? なんでもないじゃん? さっきまで私の尻尾をじっと見てたのに、今度はエミリーの尻尾を見てるなぁ、とは思ったけどシズト様は尻尾大好きだから仕方ないじゃん」
「シズト様、そんなにご興味がおありならお触りになりますか?」
「お触りオッケーなんすか!?」

 そういうのは親しい人じゃないとだめとかあると思うんすけど。

「奴隷になった段階でどんな扱いをされるのかいろいろ覚悟はついてたじゃん」
「シズト様に尻尾を触られるのは全然何ともないですよ」
「私もじゃん」

 つまり、僕が主人だから触るのが許される、って事ですかね?
 ……それはちょっと、良くないよなぁ。いや、この世界だったらいいんだろうけど、どうしても前の世界の価値観が邪魔をする。こちとら女子と喋る事すらほとんどなかった男の子っすよ。自分の欲望のまま触るなんてとてもとても。
 そんな僕の言葉を気にした素振りもなく、二人は尻尾で僕の背中や腕を叩き始めた。

「ちょっと、スープに毛が入っちゃうかもしれないから今はやめて!」
「じゃあ後でなら触ってくれるんですね?」
「それならちょっと手入れするじゃん」
「あ、シーラ。ブラシを取りに行くならついでに私の部屋からブラシを取ってきてください」
「しょうがないじゃん」
「だから触らせるのは好きな人にすべきだと思うんですけど!?」

 僕の必死の訴えは、二人には届かなかった。
 口とは裏腹に尻尾の感触を堪能するこの手が憎い……!
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