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第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう
幕間の物語42.ドラン軍の長はくじを作った
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ドラン公爵領は唯一他国と陸続きで繋がっている領地だった。建国以来ずっと国の盾であり、剣でもあり続けるため、大規模の常備軍を抱えていた。
必要な資金は、領都ドランのすぐそばにあるダンジョンや、広大な公爵領に点在するダンジョンに訓練で入った際に手に入る魔物の素材や魔道具を売る等して賄っている。
その常備軍を任せられているのはアルヴィン・ウィリアム。大柄で筋肉質な体躯を持つ男性だった。ドラン公爵より賜ったミスリル製の防具と剣を身に付けたその男は目の前で跪いているエルフたちを見下ろしていた。
「謝罪の機会が欲しい? ……確かに、私はある程度の裁量を与えられているが、攫おうとしていた者たちをその対象に会わせるわけがないだろう」
「何があろうと危害を加えない、と誓文を交わしましょう。直接謝罪の機会を何卒……何卒!」
「エルフはもう帰ってしまったと伝えている。お前は言ったはずだ。世界樹ファマリーが治るのを見届けた後は好きに扱っていいと」
アルヴィンがチラッと天幕の外に視線を向けると、昨日まであった鉄の壁は無くなって、大きな世界樹の幹が見えた。心なしか昨日よりも少し太くなっているように見える。
昨日までは一部の者にしか感じられなかった世界樹独特の魔力が、その場にいるほとんどの者が感じられる程大きくなっていた。
「お前たちの要望なんぞ聞く必要はなかったが、その言葉があったからこそ滞在を許可したのだ。それなのに勝手に行動し、注目を集めるとは何事か!」
その場に控えていた兵士たちがビクッと身震いするほどの怒気を発しつつ怒鳴りつけたが、エルフたちは跪いたまま動かない。
しばらく誰も何も言葉を発さなかったが、天幕の中にガチャガチャと音を立てながら入ってきた人物がその静寂を破った。
「問題ない。シズトに素性はばれてない」
「そういう事を問題視しているわけじゃない。……それより、何の用だ?」
「シズトとドランに戻るからその報告。あなたたちは?」
「私たちはしばらくの間はここで防衛だな。ユグドラシルとは国交断絶状態で交戦はしていないが、向こうはこちらに侵攻しようとしているようだ」
「いつまでここに?」
「知らん。向こうが諦めるまでだ。それより、ドランに戻っている間は世界樹ファマリーは大丈夫なのか?」
「一カ月くらい問題なかった。二週間くらいなら放っておいても枯れない。シズトが待ってるから、もう行く」
ガチャガチャと音を立てながら離れていくその人物を見送り、アルヴィンは顎を撫でて考える。
(転移陣は使わない、か。これだけの大人数がいる以上、安易に使う訳にも行かないだろうが、片道数日かかる道のりを何度も往復するとなると彼に負担をかける事になる、か。そうさせないためにもさっさとこの問題はけりをつけたいところだが、彼が戦争を望んでいないから行う事もできん。鹵獲しているのもグレーゾーンだろうし、バレる可能性があるから長居はしてほしくないが、そうなると世界樹が大丈夫なのか不安が拭えんな)
そこまで考え、アルヴィンはエルフたちに視線を向けた。微動だにする事無く、額を床につけている。
エルフたちが言うには、彼らは世界樹の使徒直轄の暗部として活動してきたらしい。エルフたちの中でも飛びぬけて優秀で、それ故に世界樹の使徒に囲われ言われるとおりに働いてきたのが彼らだった。
「いつまでもそこで這いつくばっていても変わらん。今の状況が続いている限り、お前たちを彼に会わせるわけにはいかん」
ぴくり、とエルフたちの耳が同時に動いたのを見て、その場にいた人間がどういう構造をしてるんだその耳は、とか思っていたがエルフは額を床につけたままの姿勢だったため気づかず、その体勢のまま代表者がアルヴィンに問う。
「状況が変われば、世界樹の使徒様に会わせていただけると?」
「……世界樹の使徒はお前たちの国にいるだろ。会いたければとっとと帰れ」
「その人物は先代の使徒様でしょう。今は転移者様が世界樹を守るお方。世界樹を守るお方の事を世界樹の使徒と我々は呼んでおり、使徒様のために我々は行動するのです。……いえ、今までの世界樹の使徒は、使徒と名乗るべき者たちではなかった。自分たちのためだけに生育の神の信仰を秘匿していたのです。信仰を広めるべき者たちが、既得権益を守るためだけに同胞にすら秘密にしていたのです。そのせいで生育の神はあんなお姿で……」
「……泣いてる暇があるならさっさと国に帰れ」
「……そうですね、やらなければならない事ができましたので、帰らせていただきます。行くぞ、お前たち」
依然として涙を流しているエルフたちだったが、表情は天幕に入ってきた時とは異なり、覚悟を決めたものだった。外に出ていく彼らを見送り、しばらくしてから控えていた補佐の一人がアルヴィンに尋ねる。捕えておかなくてよかったのか、と。
「公爵様はできる限り追い返すようにと仰っていたから満足されるだろう。ただ、報告は必要だろうな。何かしらあの者たちが動くはずだ。頭を潰すのか、真実を広めるのかは知らんが、その時に備えて我々は我々のできる事をしておこう。とりあえず……どの部隊が亡者の巣窟を探索するのかとか……ってどこへ行くお前たち!」
今まで静かに控えていた隊を率いる者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。残されたアルヴィンはとりあえずくじで決めるか、とせっせとくじを作り始めた。
必要な資金は、領都ドランのすぐそばにあるダンジョンや、広大な公爵領に点在するダンジョンに訓練で入った際に手に入る魔物の素材や魔道具を売る等して賄っている。
その常備軍を任せられているのはアルヴィン・ウィリアム。大柄で筋肉質な体躯を持つ男性だった。ドラン公爵より賜ったミスリル製の防具と剣を身に付けたその男は目の前で跪いているエルフたちを見下ろしていた。
「謝罪の機会が欲しい? ……確かに、私はある程度の裁量を与えられているが、攫おうとしていた者たちをその対象に会わせるわけがないだろう」
「何があろうと危害を加えない、と誓文を交わしましょう。直接謝罪の機会を何卒……何卒!」
「エルフはもう帰ってしまったと伝えている。お前は言ったはずだ。世界樹ファマリーが治るのを見届けた後は好きに扱っていいと」
アルヴィンがチラッと天幕の外に視線を向けると、昨日まであった鉄の壁は無くなって、大きな世界樹の幹が見えた。心なしか昨日よりも少し太くなっているように見える。
昨日までは一部の者にしか感じられなかった世界樹独特の魔力が、その場にいるほとんどの者が感じられる程大きくなっていた。
「お前たちの要望なんぞ聞く必要はなかったが、その言葉があったからこそ滞在を許可したのだ。それなのに勝手に行動し、注目を集めるとは何事か!」
その場に控えていた兵士たちがビクッと身震いするほどの怒気を発しつつ怒鳴りつけたが、エルフたちは跪いたまま動かない。
しばらく誰も何も言葉を発さなかったが、天幕の中にガチャガチャと音を立てながら入ってきた人物がその静寂を破った。
「問題ない。シズトに素性はばれてない」
「そういう事を問題視しているわけじゃない。……それより、何の用だ?」
「シズトとドランに戻るからその報告。あなたたちは?」
「私たちはしばらくの間はここで防衛だな。ユグドラシルとは国交断絶状態で交戦はしていないが、向こうはこちらに侵攻しようとしているようだ」
「いつまでここに?」
「知らん。向こうが諦めるまでだ。それより、ドランに戻っている間は世界樹ファマリーは大丈夫なのか?」
「一カ月くらい問題なかった。二週間くらいなら放っておいても枯れない。シズトが待ってるから、もう行く」
ガチャガチャと音を立てながら離れていくその人物を見送り、アルヴィンは顎を撫でて考える。
(転移陣は使わない、か。これだけの大人数がいる以上、安易に使う訳にも行かないだろうが、片道数日かかる道のりを何度も往復するとなると彼に負担をかける事になる、か。そうさせないためにもさっさとこの問題はけりをつけたいところだが、彼が戦争を望んでいないから行う事もできん。鹵獲しているのもグレーゾーンだろうし、バレる可能性があるから長居はしてほしくないが、そうなると世界樹が大丈夫なのか不安が拭えんな)
そこまで考え、アルヴィンはエルフたちに視線を向けた。微動だにする事無く、額を床につけている。
エルフたちが言うには、彼らは世界樹の使徒直轄の暗部として活動してきたらしい。エルフたちの中でも飛びぬけて優秀で、それ故に世界樹の使徒に囲われ言われるとおりに働いてきたのが彼らだった。
「いつまでもそこで這いつくばっていても変わらん。今の状況が続いている限り、お前たちを彼に会わせるわけにはいかん」
ぴくり、とエルフたちの耳が同時に動いたのを見て、その場にいた人間がどういう構造をしてるんだその耳は、とか思っていたがエルフは額を床につけたままの姿勢だったため気づかず、その体勢のまま代表者がアルヴィンに問う。
「状況が変われば、世界樹の使徒様に会わせていただけると?」
「……世界樹の使徒はお前たちの国にいるだろ。会いたければとっとと帰れ」
「その人物は先代の使徒様でしょう。今は転移者様が世界樹を守るお方。世界樹を守るお方の事を世界樹の使徒と我々は呼んでおり、使徒様のために我々は行動するのです。……いえ、今までの世界樹の使徒は、使徒と名乗るべき者たちではなかった。自分たちのためだけに生育の神の信仰を秘匿していたのです。信仰を広めるべき者たちが、既得権益を守るためだけに同胞にすら秘密にしていたのです。そのせいで生育の神はあんなお姿で……」
「……泣いてる暇があるならさっさと国に帰れ」
「……そうですね、やらなければならない事ができましたので、帰らせていただきます。行くぞ、お前たち」
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今まで静かに控えていた隊を率いる者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。残されたアルヴィンはとりあえずくじで決めるか、とせっせとくじを作り始めた。
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