【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう

89.事なかれ主義者はまた祈る

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 翌日の朝、ご飯を食べてすぐに領主の館に向かうと執務室に通された。大きな机に書類をたくさん載せて仕事をしていたラグナさんが僕を出迎えてくれる。

「よく来た、友よ。今日も非公式な会談だから気楽にしてくれ。リヴァイがくるまでそこのソファーでくつろいでいてくれ。俺もすぐに終わらせる」
「シズト、隣に座るのですわ~」
「お姉ちゃんが紅茶入れてあげるわ!」
「アタシらは後ろに控えてっから大人しくしとけよ」

 ラオさんそれどういう意味っすか?
 疑問に思いつつも、レヴィさんがポンポンと自分が座った隣を叩いている所にちょっと距離を空けて座る。ちょっと、間空けたのに詰めて来ないでもらえます?
 ルウさんが魔道具を使って美味しい紅茶をすぐに準備してくれた。
 紅茶を淹れる魔道具はここでも使用されているようだ。家ではドーラさんが主に使っているけど、やっぱり身内だし好きなものも似通ってるんかな。
 そんな事を思っていると、リヴァイさんもやってきた。口元に笑みを浮かべながら入ってきたんだけど、僕を見た瞬間に破顔した。

「おお、シズト殿! 呼び出してしまってすまんな。俺の方から行きたかったんだが、流石に止められてな」
「止められなかったとしても来ないでほしいですー」

 心臓に悪いので。
 そんな僕の言葉を冗談と捉えたのか、大声で笑いながら僕の前にどかっと座るリヴァイさん。
 ラグナさんも一区切りがついたようで、その隣に静かに座った。魔道具で紅茶を淹れ、一息ついたタイミングを見計らい、単刀直入に用件を聞く事にする。長居をするとまたレヴィさんとの事を言われそうなので。

「今日はどういったご用件ですか?」
「ちょっと世界樹の件で動きがあってな」

 口を開いたのはラグナさん。こちらの様子を窺いつつも話を続ける。リヴァイさんはきゅっと眉間に皺を寄せて怖い顔になった。

「やっぱり育てられなかったんだろうな。エルフたちが世界樹を放って国に帰ってしまったのだ。現時点でファマリーの側には誰もいない。しょうがないからアンデッド討伐をしていた者にファマリーの安全を確保してもらっている状況だが、どうにもファマリーの元気がないのではないか、という話があってな。エルフたちもいない事だし、今のうちにシズト殿に世界樹の管理をしてほしいのだ」
「本当に僕に世界樹を育てる力があるのかを示せって事ですかね?」
「疑ってはおらん。ただ、実際に目で見た方が信じる者も多いだろう。神々の信仰を広げるチャンスでもある事だし、悪い話ではないだろう?」
「まあ、元々僕が育ててたので良いか悪いかで言ったら良い話ですけど……」

 どうしようかと悩んで隣を見ると、レヴィさんもリヴァイさんと同じくらい眉間に皺を寄せて険しい表情をしていた。え、どったの?
 何か訳を知ってるかと思って後ろを振り向くと、僕の視線にすぐに気づいたルウさんは手を振ってるだけでいつも通りだし、ラオさんは僕の頭をむんずと掴んで無理矢理前を向かせた。

「まあ、安全を確保できてるなら行ってもいいですけど……」
「そこら辺は問題ない。俺の常備軍と、リヴァイの近衛兵を警備に回す。アリの子一匹入らせない事を誓おう」

 険しい顔つきのままだけど、僕に見られていると気づいたリヴァイさんが問題ない、と頷いてくれた。

「エルフが罠とか仕掛けている可能性はないんですか?」
「そこら辺はもうクリアしているから問題ない。シズト殿はいつも通りファマリーの世話をしてくれればそれでいい」
「ついでに証人が大量に発生するわけだ。近隣諸国にも見せたいくらいだな」

 え、多くの人に見られんの!?
 ……なんかいい感じに祈ってる感出した方がいいのかなぁ。あ、それこそ魔道具でなんか光輝いて見えるようにするとかいいんじゃない? イタッ!
 突然頭を小突かれて、後ろを振り返るとラオさんがすました顔で立っていた。むんずと僕の頭を掴むと、前を向けさせられる。
 ……ラオさんが小突いてきたから後ろ向いたんですけど?
 非難をしようと後ろを向こうとするが、頭の上に乗せられた掌が微動だにもしない。

「それで、シズト殿は引き受けてくれるんだろうか?」
「まあ、いいですけど」

 世界樹が枯れちゃったらいろんなところに逆恨みされそうだし、エルフがいなくなった今のうちにパパッと育てましょうか。



 世界樹ファマリーの側に繋がっている転移陣を使うといろんな人に転移陣の存在を知られてしまうので馬車で移動する事となった。
 浮遊台車じゃなくて馬車移動という事や、たくさんの兵士と一緒に移動という事で数日の時間を要したが、無事世界樹ファマリーの側に到着した。

「やっぱり萎れているように見えるのですわ! 早く加護を使ってあげるのですわ」
「ちょっとレヴィさん引っ張らないで! ちゃんとやるから、そんなすぐに枯れないから!」

 馬車から降りてレヴィさんに引っ張られる形で鉄で作り上げた壁の方に歩いていくんだけど、なんか鉄の壁が土に覆われてるんですけど?

「隠蔽工作。エルフたちがしてたらしい」
「そうなんだ。まあ、いろいろ書いたからねぇ。ドーラさん聞いてたの?」
「領主とやり取りしてたから」

 なるほど。その土に覆われた鉄の壁をぐるりと囲むようにたくさんの人が天幕を張って生活をしてたんだけど、アンデッドとか大丈夫なのかな。
 あ、神聖ライトですぐに対処してるんですね。にょきっと生えた腕に神聖ライトの光を当てて燃え上がらせているのを見て納得した。
 門をくぐって聖域の中に入ると、中は特に荒らされた様子はなく安心した。エルフたちも大事に使ってくれていたようだ。
 壁の内側にも兵士が巡回している様子で結界内を歩き回っている。壁の上にもたくさんの人が立って中と外を警戒していた。どれだけの人がここで働いているのか分からないんだけど、観客が多すぎてビビる。

「やっぱ魔道具でそれっぽい神聖な雰囲気を出さなきゃ――」
「必要ねぇって言ってんだろ。おら、さっさと世界樹のそばまで歩け」
「シズトくんはいつも通りで十分かっこいいとお姉ちゃんは思うわ!」

 ラオさんはともかく、ルウさんはどんな事をしても肯定しそうで信用ならないんだよなぁ。
 ファマリーの目と鼻の先までたどり着くと、周囲を警戒するようにつかず離れず歩いていた近衛兵たちが外側を警戒し、陣形の内側はラオさんたちが警戒する。
 僕はその半円状の陣形の中で、世界樹を見上げた。それから後ろを振り返ると、壁の上からこちらを見ている人、人、人。壁の内側で巡回をしている人たちも、視線が時折こちらを見ているのを知ってんだぞ。

「やっぱりもっといい感じの演出をするべきだと思うんだよなぁ。ねぇ、ファマリーもそう思うでしょ?」

 なんて、木に問いかけるけど、応える訳もなく風に揺られて葉っぱが落ちていく。
 地面に膝をつき、手を組んで目を閉じる。別にそんな事をしなくてもいいんだけど、これの方が祈ってるっぽいよね。

「人がいっぱい見てるからさっさと終わらせよ。いい感じに元気になってね、【生育】」
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