124 / 1,094
第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう
85.事なかれ主義者は躊躇った
しおりを挟む
三十階層は大きな通りと狭い路地がある大きな街だった。っていうか、このダンジョンも『はじめのダンジョン』もフロアボスの部屋広くない? そういう物なのかなぁ。
「場所による」
「おい、無駄話してないで周囲警戒しろよ」
「気になるのなら情報を集めましょうか、マスター?」
「お姉ちゃんが後でゆっくり教えてあげるから必要ないわ?」
「おら、行くぞ!」
ちょ、ラオさん押さないで!
濃い霧の中、申し訳程度に感じる街灯の光を頼りに大通りを進む。
崩れかけた廃屋から飛び出してくるグールをラオさんが殴り飛ばし、頭上から降ってきたグールはホムラがメイスを投げつけて頭部が吹き飛んだ。
それを極力見ないように気を付けつつ、アイテムバッグから取り出した自作のメイスをホムラに渡す。
ルウさんとドーラさんは、次の襲撃に備えて周囲を警戒していた。
丁度、十字路のど真ん中で足を止める形になってしまったが、周囲は霧でよく見えない。
「シズト!」
「させない」
ラオさんの警告の声と、ドーラさんが僕の前に躍り出て大きな盾を頭上に構えたのは同時だった。
ガキンッ、と耳障りな音がしたが、目に見えるほどの魔力を纏ったドーラさんに特に変化はない。
少し遅れる形でホムラがメイスをぶん投げたが、建物の外壁に当たった音だけがした。
ドーラさんの盾を見ると、表面に無数の斬られたかのような傷がついていたので【加工】で元通りにしておく。ホムラへメイスを渡すのも忘れない。
「今のは魔法」
「そうだな。近くにヴァンパイアが潜んでいるんだろうよ。さて、こっからの行動は分かってんな? ルウ!」
「行ってくるわ」
ルウさんの返事と共に、姿が掻き消えた。ルウさんの加護を詳しく聞いたわけではないけど、すごい速さで動く事ができるらしい。
ルウさんが一人でヴァンパイアと接敵するために飛び出したのと入れ替わりで、グールが複数体四方から迫ってくる。
グールの相手もしなきゃ、とそちらに意識を向けると、ドーラさんがまた僕をかばう形で大きな盾を斜め上に向けて構えた。
ここまで執拗に僕を狙ってきているのは性別が関係しているからなのか、僕が一番弱いからなのか。
「どっちもな気がするなぁ」
でも、僕だって血を見て震えているだけじゃないんだよ。ゾンビ相手だったらなんとかライトを当てて倒せるようになったんだし。
ただ、神聖ライトではグールを倒せないので、アイテムバッグから取り出すのは魔動高圧洗浄機。ちょっと改良してC級の魔石で動くようにした。これで自分の魔力を温存しつつ、倒した魔物の魔石で攻撃できる。
ただ、難点なのはある程度近くになってくれないと切断まではできない事。水圧で動きを鈍らせる事はできるけど、グールの怪力を前にしたら一時的なものだ。やっぱり切断するしかない。
ゾンビよりも人に近い見た目のグールの首を刈る事ができるのか。グールと視線を合わせながら考えるが、覚悟はまだ決まらない。
結局、ちょっと時間稼ぎすればホムラが何とかしてくれたのでグールの首を切断する事無く終わってしまった。いざとなったら殺す事ができるのかは分からないままだ。
「ゾンビやレイスはできてただろ? そこまで気にする必要ねぇよ。まだ何とかなってる今のうちに練習するか、それこそ新人冒険者と同じようにゴブリン狩りで慣れてくかしてけばいいさ」
「どうしても無理なら無理して冒険に出る必要もないわよ? お姉ちゃんたちが欲しい素材とか取ってきてあげるし、お金がたまってるって話だったから冒険者を雇うのもありだと思うの」
あの後、接敵はしたけど神聖ライトを当てたら甲高い悲鳴を上げて逃げられてしまった、と戻ってきたルウさんと一緒に建物で作戦会議をしている。
念のため防音の魔道具を即興で作った。グールよりも知性があるって話だしね、ヴァンパイアって。
「魔道具は?」
「もちろん考えたけどあんまりぴんと来ないかな。洗脳系をうまいこと使えばもしかしたらあるかも? くらいだけど」
「それはやめとけ。ダンジョンから出てくる精神に影響を与える魔道具は危険すぎるもの、て事で分かり次第壊すようにって言われてる。余計な厄介事に巻き込まれたくなけりゃ、作らねえ方がいいだろ。以前と比べたら魔物に攻撃できてるだけ成長してんだ。ゆっくり慣らしていけばいい」
精神に影響を与えるような加護や魔法の使用は固く禁じられている。遠い昔、いくつもの国が滅びてしまった事もあるらしい。
「状態異常にするものとかはいいの?」
「人に使って犯罪行為をしたら罰せられるけど、魔物に使ったり賊に使ったりして無力化する事があるから禁止、ってのは難しいみたいね。魅了や催眠とは異なって見た目だけで魔法の影響下にあるか分かるのも理由の一つだと思うわ。だから、人を操ったり暗示にかけるようなものは作っちゃダメよ?」
そうなるとやっぱり繰り返し魔物相手に練習して少しずつ慣れてくしかないかな。
冒険をする予定はないけど、なんだかんだで巻き込まれてるし、もしもの時に躊躇して誰かが死なないように、ちょっとずつ頑張るかなぁ。
「場所による」
「おい、無駄話してないで周囲警戒しろよ」
「気になるのなら情報を集めましょうか、マスター?」
「お姉ちゃんが後でゆっくり教えてあげるから必要ないわ?」
「おら、行くぞ!」
ちょ、ラオさん押さないで!
濃い霧の中、申し訳程度に感じる街灯の光を頼りに大通りを進む。
崩れかけた廃屋から飛び出してくるグールをラオさんが殴り飛ばし、頭上から降ってきたグールはホムラがメイスを投げつけて頭部が吹き飛んだ。
それを極力見ないように気を付けつつ、アイテムバッグから取り出した自作のメイスをホムラに渡す。
ルウさんとドーラさんは、次の襲撃に備えて周囲を警戒していた。
丁度、十字路のど真ん中で足を止める形になってしまったが、周囲は霧でよく見えない。
「シズト!」
「させない」
ラオさんの警告の声と、ドーラさんが僕の前に躍り出て大きな盾を頭上に構えたのは同時だった。
ガキンッ、と耳障りな音がしたが、目に見えるほどの魔力を纏ったドーラさんに特に変化はない。
少し遅れる形でホムラがメイスをぶん投げたが、建物の外壁に当たった音だけがした。
ドーラさんの盾を見ると、表面に無数の斬られたかのような傷がついていたので【加工】で元通りにしておく。ホムラへメイスを渡すのも忘れない。
「今のは魔法」
「そうだな。近くにヴァンパイアが潜んでいるんだろうよ。さて、こっからの行動は分かってんな? ルウ!」
「行ってくるわ」
ルウさんの返事と共に、姿が掻き消えた。ルウさんの加護を詳しく聞いたわけではないけど、すごい速さで動く事ができるらしい。
ルウさんが一人でヴァンパイアと接敵するために飛び出したのと入れ替わりで、グールが複数体四方から迫ってくる。
グールの相手もしなきゃ、とそちらに意識を向けると、ドーラさんがまた僕をかばう形で大きな盾を斜め上に向けて構えた。
ここまで執拗に僕を狙ってきているのは性別が関係しているからなのか、僕が一番弱いからなのか。
「どっちもな気がするなぁ」
でも、僕だって血を見て震えているだけじゃないんだよ。ゾンビ相手だったらなんとかライトを当てて倒せるようになったんだし。
ただ、神聖ライトではグールを倒せないので、アイテムバッグから取り出すのは魔動高圧洗浄機。ちょっと改良してC級の魔石で動くようにした。これで自分の魔力を温存しつつ、倒した魔物の魔石で攻撃できる。
ただ、難点なのはある程度近くになってくれないと切断まではできない事。水圧で動きを鈍らせる事はできるけど、グールの怪力を前にしたら一時的なものだ。やっぱり切断するしかない。
ゾンビよりも人に近い見た目のグールの首を刈る事ができるのか。グールと視線を合わせながら考えるが、覚悟はまだ決まらない。
結局、ちょっと時間稼ぎすればホムラが何とかしてくれたのでグールの首を切断する事無く終わってしまった。いざとなったら殺す事ができるのかは分からないままだ。
「ゾンビやレイスはできてただろ? そこまで気にする必要ねぇよ。まだ何とかなってる今のうちに練習するか、それこそ新人冒険者と同じようにゴブリン狩りで慣れてくかしてけばいいさ」
「どうしても無理なら無理して冒険に出る必要もないわよ? お姉ちゃんたちが欲しい素材とか取ってきてあげるし、お金がたまってるって話だったから冒険者を雇うのもありだと思うの」
あの後、接敵はしたけど神聖ライトを当てたら甲高い悲鳴を上げて逃げられてしまった、と戻ってきたルウさんと一緒に建物で作戦会議をしている。
念のため防音の魔道具を即興で作った。グールよりも知性があるって話だしね、ヴァンパイアって。
「魔道具は?」
「もちろん考えたけどあんまりぴんと来ないかな。洗脳系をうまいこと使えばもしかしたらあるかも? くらいだけど」
「それはやめとけ。ダンジョンから出てくる精神に影響を与える魔道具は危険すぎるもの、て事で分かり次第壊すようにって言われてる。余計な厄介事に巻き込まれたくなけりゃ、作らねえ方がいいだろ。以前と比べたら魔物に攻撃できてるだけ成長してんだ。ゆっくり慣らしていけばいい」
精神に影響を与えるような加護や魔法の使用は固く禁じられている。遠い昔、いくつもの国が滅びてしまった事もあるらしい。
「状態異常にするものとかはいいの?」
「人に使って犯罪行為をしたら罰せられるけど、魔物に使ったり賊に使ったりして無力化する事があるから禁止、ってのは難しいみたいね。魅了や催眠とは異なって見た目だけで魔法の影響下にあるか分かるのも理由の一つだと思うわ。だから、人を操ったり暗示にかけるようなものは作っちゃダメよ?」
そうなるとやっぱり繰り返し魔物相手に練習して少しずつ慣れてくしかないかな。
冒険をする予定はないけど、なんだかんだで巻き込まれてるし、もしもの時に躊躇して誰かが死なないように、ちょっとずつ頑張るかなぁ。
110
お気に入りに追加
454
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?
澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果
異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。
実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。
異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。
そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。
だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。
最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる