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第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう
85.事なかれ主義者は躊躇った
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三十階層は大きな通りと狭い路地がある大きな街だった。っていうか、このダンジョンも『はじめのダンジョン』もフロアボスの部屋広くない? そういう物なのかなぁ。
「場所による」
「おい、無駄話してないで周囲警戒しろよ」
「気になるのなら情報を集めましょうか、マスター?」
「お姉ちゃんが後でゆっくり教えてあげるから必要ないわ?」
「おら、行くぞ!」
ちょ、ラオさん押さないで!
濃い霧の中、申し訳程度に感じる街灯の光を頼りに大通りを進む。
崩れかけた廃屋から飛び出してくるグールをラオさんが殴り飛ばし、頭上から降ってきたグールはホムラがメイスを投げつけて頭部が吹き飛んだ。
それを極力見ないように気を付けつつ、アイテムバッグから取り出した自作のメイスをホムラに渡す。
ルウさんとドーラさんは、次の襲撃に備えて周囲を警戒していた。
丁度、十字路のど真ん中で足を止める形になってしまったが、周囲は霧でよく見えない。
「シズト!」
「させない」
ラオさんの警告の声と、ドーラさんが僕の前に躍り出て大きな盾を頭上に構えたのは同時だった。
ガキンッ、と耳障りな音がしたが、目に見えるほどの魔力を纏ったドーラさんに特に変化はない。
少し遅れる形でホムラがメイスをぶん投げたが、建物の外壁に当たった音だけがした。
ドーラさんの盾を見ると、表面に無数の斬られたかのような傷がついていたので【加工】で元通りにしておく。ホムラへメイスを渡すのも忘れない。
「今のは魔法」
「そうだな。近くにヴァンパイアが潜んでいるんだろうよ。さて、こっからの行動は分かってんな? ルウ!」
「行ってくるわ」
ルウさんの返事と共に、姿が掻き消えた。ルウさんの加護を詳しく聞いたわけではないけど、すごい速さで動く事ができるらしい。
ルウさんが一人でヴァンパイアと接敵するために飛び出したのと入れ替わりで、グールが複数体四方から迫ってくる。
グールの相手もしなきゃ、とそちらに意識を向けると、ドーラさんがまた僕をかばう形で大きな盾を斜め上に向けて構えた。
ここまで執拗に僕を狙ってきているのは性別が関係しているからなのか、僕が一番弱いからなのか。
「どっちもな気がするなぁ」
でも、僕だって血を見て震えているだけじゃないんだよ。ゾンビ相手だったらなんとかライトを当てて倒せるようになったんだし。
ただ、神聖ライトではグールを倒せないので、アイテムバッグから取り出すのは魔動高圧洗浄機。ちょっと改良してC級の魔石で動くようにした。これで自分の魔力を温存しつつ、倒した魔物の魔石で攻撃できる。
ただ、難点なのはある程度近くになってくれないと切断まではできない事。水圧で動きを鈍らせる事はできるけど、グールの怪力を前にしたら一時的なものだ。やっぱり切断するしかない。
ゾンビよりも人に近い見た目のグールの首を刈る事ができるのか。グールと視線を合わせながら考えるが、覚悟はまだ決まらない。
結局、ちょっと時間稼ぎすればホムラが何とかしてくれたのでグールの首を切断する事無く終わってしまった。いざとなったら殺す事ができるのかは分からないままだ。
「ゾンビやレイスはできてただろ? そこまで気にする必要ねぇよ。まだ何とかなってる今のうちに練習するか、それこそ新人冒険者と同じようにゴブリン狩りで慣れてくかしてけばいいさ」
「どうしても無理なら無理して冒険に出る必要もないわよ? お姉ちゃんたちが欲しい素材とか取ってきてあげるし、お金がたまってるって話だったから冒険者を雇うのもありだと思うの」
あの後、接敵はしたけど神聖ライトを当てたら甲高い悲鳴を上げて逃げられてしまった、と戻ってきたルウさんと一緒に建物で作戦会議をしている。
念のため防音の魔道具を即興で作った。グールよりも知性があるって話だしね、ヴァンパイアって。
「魔道具は?」
「もちろん考えたけどあんまりぴんと来ないかな。洗脳系をうまいこと使えばもしかしたらあるかも? くらいだけど」
「それはやめとけ。ダンジョンから出てくる精神に影響を与える魔道具は危険すぎるもの、て事で分かり次第壊すようにって言われてる。余計な厄介事に巻き込まれたくなけりゃ、作らねえ方がいいだろ。以前と比べたら魔物に攻撃できてるだけ成長してんだ。ゆっくり慣らしていけばいい」
精神に影響を与えるような加護や魔法の使用は固く禁じられている。遠い昔、いくつもの国が滅びてしまった事もあるらしい。
「状態異常にするものとかはいいの?」
「人に使って犯罪行為をしたら罰せられるけど、魔物に使ったり賊に使ったりして無力化する事があるから禁止、ってのは難しいみたいね。魅了や催眠とは異なって見た目だけで魔法の影響下にあるか分かるのも理由の一つだと思うわ。だから、人を操ったり暗示にかけるようなものは作っちゃダメよ?」
そうなるとやっぱり繰り返し魔物相手に練習して少しずつ慣れてくしかないかな。
冒険をする予定はないけど、なんだかんだで巻き込まれてるし、もしもの時に躊躇して誰かが死なないように、ちょっとずつ頑張るかなぁ。
「場所による」
「おい、無駄話してないで周囲警戒しろよ」
「気になるのなら情報を集めましょうか、マスター?」
「お姉ちゃんが後でゆっくり教えてあげるから必要ないわ?」
「おら、行くぞ!」
ちょ、ラオさん押さないで!
濃い霧の中、申し訳程度に感じる街灯の光を頼りに大通りを進む。
崩れかけた廃屋から飛び出してくるグールをラオさんが殴り飛ばし、頭上から降ってきたグールはホムラがメイスを投げつけて頭部が吹き飛んだ。
それを極力見ないように気を付けつつ、アイテムバッグから取り出した自作のメイスをホムラに渡す。
ルウさんとドーラさんは、次の襲撃に備えて周囲を警戒していた。
丁度、十字路のど真ん中で足を止める形になってしまったが、周囲は霧でよく見えない。
「シズト!」
「させない」
ラオさんの警告の声と、ドーラさんが僕の前に躍り出て大きな盾を頭上に構えたのは同時だった。
ガキンッ、と耳障りな音がしたが、目に見えるほどの魔力を纏ったドーラさんに特に変化はない。
少し遅れる形でホムラがメイスをぶん投げたが、建物の外壁に当たった音だけがした。
ドーラさんの盾を見ると、表面に無数の斬られたかのような傷がついていたので【加工】で元通りにしておく。ホムラへメイスを渡すのも忘れない。
「今のは魔法」
「そうだな。近くにヴァンパイアが潜んでいるんだろうよ。さて、こっからの行動は分かってんな? ルウ!」
「行ってくるわ」
ルウさんの返事と共に、姿が掻き消えた。ルウさんの加護を詳しく聞いたわけではないけど、すごい速さで動く事ができるらしい。
ルウさんが一人でヴァンパイアと接敵するために飛び出したのと入れ替わりで、グールが複数体四方から迫ってくる。
グールの相手もしなきゃ、とそちらに意識を向けると、ドーラさんがまた僕をかばう形で大きな盾を斜め上に向けて構えた。
ここまで執拗に僕を狙ってきているのは性別が関係しているからなのか、僕が一番弱いからなのか。
「どっちもな気がするなぁ」
でも、僕だって血を見て震えているだけじゃないんだよ。ゾンビ相手だったらなんとかライトを当てて倒せるようになったんだし。
ただ、神聖ライトではグールを倒せないので、アイテムバッグから取り出すのは魔動高圧洗浄機。ちょっと改良してC級の魔石で動くようにした。これで自分の魔力を温存しつつ、倒した魔物の魔石で攻撃できる。
ただ、難点なのはある程度近くになってくれないと切断まではできない事。水圧で動きを鈍らせる事はできるけど、グールの怪力を前にしたら一時的なものだ。やっぱり切断するしかない。
ゾンビよりも人に近い見た目のグールの首を刈る事ができるのか。グールと視線を合わせながら考えるが、覚悟はまだ決まらない。
結局、ちょっと時間稼ぎすればホムラが何とかしてくれたのでグールの首を切断する事無く終わってしまった。いざとなったら殺す事ができるのかは分からないままだ。
「ゾンビやレイスはできてただろ? そこまで気にする必要ねぇよ。まだ何とかなってる今のうちに練習するか、それこそ新人冒険者と同じようにゴブリン狩りで慣れてくかしてけばいいさ」
「どうしても無理なら無理して冒険に出る必要もないわよ? お姉ちゃんたちが欲しい素材とか取ってきてあげるし、お金がたまってるって話だったから冒険者を雇うのもありだと思うの」
あの後、接敵はしたけど神聖ライトを当てたら甲高い悲鳴を上げて逃げられてしまった、と戻ってきたルウさんと一緒に建物で作戦会議をしている。
念のため防音の魔道具を即興で作った。グールよりも知性があるって話だしね、ヴァンパイアって。
「魔道具は?」
「もちろん考えたけどあんまりぴんと来ないかな。洗脳系をうまいこと使えばもしかしたらあるかも? くらいだけど」
「それはやめとけ。ダンジョンから出てくる精神に影響を与える魔道具は危険すぎるもの、て事で分かり次第壊すようにって言われてる。余計な厄介事に巻き込まれたくなけりゃ、作らねえ方がいいだろ。以前と比べたら魔物に攻撃できてるだけ成長してんだ。ゆっくり慣らしていけばいい」
精神に影響を与えるような加護や魔法の使用は固く禁じられている。遠い昔、いくつもの国が滅びてしまった事もあるらしい。
「状態異常にするものとかはいいの?」
「人に使って犯罪行為をしたら罰せられるけど、魔物に使ったり賊に使ったりして無力化する事があるから禁止、ってのは難しいみたいね。魅了や催眠とは異なって見た目だけで魔法の影響下にあるか分かるのも理由の一つだと思うわ。だから、人を操ったり暗示にかけるようなものは作っちゃダメよ?」
そうなるとやっぱり繰り返し魔物相手に練習して少しずつ慣れてくしかないかな。
冒険をする予定はないけど、なんだかんだで巻き込まれてるし、もしもの時に躊躇して誰かが死なないように、ちょっとずつ頑張るかなぁ。
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