【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第6章 亡者の巣窟を探索して生きていこう

幕間の物語37.王様たちはつながりが欲しい

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 ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランは、夜になっても賑やかな場所があるが、領主の屋敷周辺は静寂に包まれていた。
 時折巡回の兵が街中を歩くだけで、人通りは少ない。貴族たちの別邸などがある事もあるからだ。
 だが、屋敷のすべての灯りが消えているわけではない。領主の館の一室では明かりがついていて、その明かりをめがけて、夜の闇を切り裂き、真っ白な鳥が飛んでいく。
 窓から鳥が入ると、その鳥を出迎えたのは二人の男だった。
 一人はこの館の主であり、この使い魔の鳥の飼い主でもあるドラン公爵だ。金色の髪を短く刈り上げた彼は、寝間着姿でナイトキャップを被り、眠たそうなジト目で使い魔を見ていた。
 もう一人はこの国の主であるドラゴニア国王。外側にくるくると巻かれている髪を弄びながら、使い魔が話し始めるのを待っていた。

「報告を」
「くぇっ」

 ドラン公爵が短く命ずると、鳥は一鳴きした後、記録された音声を発し始めた。 

『亡者の巣窟から帰還した。十一階層は当初の予定通りの時間だった。十二階層以降は浮遊台車を使って一直線に下の階層に続く階段まで進んだ。浮遊台車と自動探知地図は亡者の巣窟の攻略にとても有効。大幅な時間短縮になったのはそのせい。十一階層から使ってたらまた日帰りだったと思う。フロアボスのリッチはギリギリだった、とシズトは言ってた。リッチに接近する頃には神聖照明弾を使い切ってたけど、加工の加護でゾンビを足止めするだけにしたらリッチはゾンビを増やさなくなった。おそらく操れる数に限りがある。実体を持つゾンビ等は完全には倒さず、行動不能にさせた方が効率的。シズトがいつになったら活発期じゃないと断定できるのか疑問に思ってる。それに、二十一階層以降は魔物のランクもさらに上がる。そろそろ探索をやめる可能性もある。帰還の指輪があるから明日も探索をする予定だけど、さらに進むかは分からない。おわり』

 使い魔に記録された報告を聞き終わると、二人は息を吐いた。知らず知らずのうちに息を止めていたらしい。最初に口火を切ったのはドラン公爵だった。

「まさか、たった数日で二十階層まで踏破してしまうとは…………十階層のフロアボスはまだそういう事もあるだろうと理解はできるが、複数のパーティで挑むのが当たり前だった二十階層のリッチまで倒してしまうとは恐ろしいな。本当に戦闘系の加護を持っていないのか、疑いたくなってしまうな」
「確かにそれも驚きだが、それよりもやはり転移陣は欲しいな。ドラン以外にも数多くの一方通行の転移陣があるダンジョンに活用できれば、もっとダンジョン探索の時間短縮になるだろう」
「まあ、そうなると無鉄砲のバカがたくさん死ぬ事になるわけだが……」
「自己責任だな、そこは。そもそも、冒険者ギルドの領分だ。俺たちが関わるのはまずいだろう? こっちが管理しているダンジョンなら設置してから対策を考える必要はあるがな」

 ドラゴニア国王はそこで言葉を切ると、ワインを一口飲んだ。
 冒険者ギルドが管理しているのはダンジョン都市ドランの有名な二つ以外にも大量にあるが、国で管理しているのは数少ない。その中の一つが『亡者の巣窟』だった。
 今後、魔石や貴重な素材を手に入れるために亡者の巣窟に冒険者を向かわせる事を考えると、素材の回収という面では転移陣は残してもらった方が都合がよかった。
 ただ、先程ドラン公爵が言ったように、自分の力を過信した冒険者が一定数不相応の階層に下りて帰らなくなる事がある。
 それを防ぐためにはどうすればいいか、と考えながらワインの余韻を味わっていたドラゴニア国王だったが、思考を放棄した。

「まあ、そこら辺は我らが友に託そうではないか」
「リヴァイ……あまり丸投げしすぎるとどこかに行ってしまうんじゃないか? レヴィアもある程度情報はくれるが、明らかにあちら側だろう、あの子は。その内異世界転移者のために身分を捨てるような気がするんだが……」
「それを言ったらお前の異母妹もそうだろ。繋ぎとめる役割になってくれれば、と思うがむしろ率先して出てくだろ、ドーラという小娘は。例え手を出されて子が生まれたとしても数多いる先代公爵の愛妾の娘だしな」
「その場合はドーラを養子にでもするさ。ギルド側の動きは気にはなっていたが、囲い込もうとして逆に取り込まれているようだしなぁ」
「エンジェリア帝国の勇者様は簡単に女性に手を出しているようだぞ。聖女と賢者はそうではないらしいが、勇者の加護を持つ子が生まれる可能性があるのは厄介ではあるな」
「アレになれとは思わんが、いい加減手を出してもいい頃合いだと思うんだが……」

 そういう報告は一切彼らにはされていなかった。
 実際は一緒に風呂に入ったり、身の回りの世話をするようになっていたが、ドーラが意図的にそういう情報を伝えていなかったからだ。
 無理をさせない範囲で国益となるように動いてもらうためにはどうすればいいのか、二人は酒を飲んでリラックスした様子で話し続けて夜が更けていった。
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