【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
97 / 1,094
第5章 新しいお姉ちゃんと一緒に生きていく

幕間の物語30.魔法生物の新しいお店

しおりを挟む
 ダンジョン都市ドランにいつ頃からか、魔道具ばかりを取り扱っている露天商がいると噂が冒険者と街の女性中心に広まっていた。いつも決まった場所で店を出しているわけではないので探すのが少し手間ではあるが、沸騰魔石と入浴魔石の廉価版も取り扱っていて、ちょっとした贅沢で買っていく人が多かった。
 そんな露天商をしていたホムラが店を持ったらしい。その噂はすぐにホムラが餌付けをしているストリートチルドレンによって広まっていった。

 中央通りから少し外れた北西の住宅街の中に紛れ込むかのようにある自己主張の少ない建物。外からは中の様子が分からず、通行人が少ないその狭い通りで、メイド服を身に纏った女性が周囲を気にしながら建物を眺めていた。

(本当にここがそうなのかしら? 看板には確かに『サイレンス』と書かれてるけど……)

 通りに面した唯一の出入り口にはお店らしいものがなかった。営業中なのかもわからず、一見するとただの家のようにも感じる。ただ、見上げると申し訳程度にサイレンスと書かれた看板があった。
 彼女が入ろうか悩んでいると、中からぞろぞろと子どもたちが出てきて彼女は目的の店だったと確信した。
 鉄の棒を咥えた彼らは一仕事をやり終えた、という様子で店から出てくる。
 使用人の女性はたくさんの子どもたちと入れ替わりに入る。
 店内には見慣れたとんがり帽子を被った女性がカウンターの奥に座って使用人の女性を見ていた。目深に被られてたとんがり帽子だが、その神秘的にも感じる綺麗な紫色の瞳がまっすぐと女性を視界に捉えている。

「ホムラさん、開店おめでとう! 魔道具をたくさん取り扱ってるし、その内お店を始めそうだと思ってたけど、こんなに早くとは思わなかったわ」
「ありがとうございます。今後もご利用いただけると嬉しいです」

 ふんわりと営業スマイルをする彼女に見惚れた使用人の女性だったが、すぐにハッとして「ホムラちゃん、表情柔らかくなったね!」と褒めた。神秘的な紫の瞳で見られているからか、心臓の鼓動が早くなったような気がした彼女は、気を取り直して机の上に並べられていた商品に目を向ける。
 カウンターの外側のスペースの真ん中に大きな机が置いてある。その上には所狭しとノエルが作った魔道具が種類ごとに分けられ並べられていた。
 熱めのお湯を作る事ができる沸騰魔石の廉価版や、香りづけ飲料に使われる事が多い入浴魔石の廉価版等、日常で使う事ができる魔道具がまとめられている。浮遊ランプの様な冒険者向けの魔道具は店の隅の方に置かれていた木箱の中に乱雑に詰め込まれていた。自由に漁って好みの見た目の廉価版の魔道具を買っていけ、という事の様だ。

「こっちがいつものね!」
「ええ、そうです。効果が強い魔道具は私に直接言ってください」

 ホムラの後ろには壁一面を覆いつくすかのような大きさの棚があった。天井ギリギリのその棚を魔法で運び込んだのだろう、と使用人の女性は特に気にした様子もない。

「あら、新しい香りのものが出たのね!」
「はい。ミントの香りに近かったです」
「試しに使ってみるわ。あら、この筒みたいなものは何?」
発光筒はっこうとうです。魔石を使って、筒の先から光を出す魔道具です」
「あっちの浮遊ランプじゃダメなの?」
「懐にしまっておいて、必要な時に使えると魔道具師の助手が言ってましたね。あとは全方向ではなく、特定の方向だけを照らしたい時があるなら便利かもしれませんね」
「私には不要ね。とりあえずこれだけお願いしてもいいかしら?」
「ありがとうございます」

 支払いを終えた使用人の女性はふと気になった事をホムラに聞く。

「そういえば、小さな子たちが鉄の棒を咥えて出てきたけど、アレって何なの?」
「あれは『なくならない飴』という甘味を感じることができる魔道具です」
「甘味って事は……あれ、甘いの!? それっていくら? あんなちっちゃな子たちが持ってるって事は安いの?」
「あれはお金では買えないものです」
「だったらどうしたら手に入れられるの?」
「情報を持ってきてください。大した事じゃなくても構いません」
「それで飴が貰えるのね?」
「ええ。ただ、情報によって有効期限が異なります。重要性の低そうだと思ったものは甘いと感じる日数が少ない物しか手に入らないのでそこら辺は理解したうえで話をしてください」
「わかったわ。それじゃあ――」
「待ってください。お話をする前に、こちらの水晶に手を置いてください」
「これは何かしら?」
「嘘発見水晶です。嘘をついた場合は真っ赤に染まってしまいます。試しに、私は男です」

 ホムラが目の前に出した水晶に手を置いた状態で明らかに嘘だと分かる事を言うと水晶が真っ赤に染まった。それを見て使用人の女性はなるほど、と頷いた。

「それで嘘の情報を持ってきた子には渡さないって事ね」
「まあ、本当の事だと思っている事に対しては反応しないんですけどね。それでは、こちらに手を」
「分かったわ。これでいい?」
「大丈夫です。それでは、飴と引き換えに貴女は何を私に教えてくれるのでしょうか」
「そうね。……旦那様が、最近太って嘆いているのを見かけた、というのはどれくらい貰えるのかしら?」

 水晶を確認したホムラはコクリと頷いた後、側に置いておいたメモ用紙に聞き取った内容を書き写しながら杖を一振りした。
 すると、いきなり彼女の後ろの棚の一番左下の引き出しが勝手に開く。そこから出てくるのは『なくならない飴』と呼ばれる魔道具だ。

「何か商売の役に立つかもしれませんね。初めてですし、おまけとしてニ週間効果があるものをお渡ししておきます」
「あんまり高く買ってもらったのか分からないんだけど、他の貰っている子たちはどのくらいの期間効果があるものを持ってるの?」
「子どもたちは一日で切れる魔道具しか手に入れる事ができていない、と言ったらそれがどれくらいの価値か分かってもらえると思います」
「そう、分かったわ。それじゃ早速……!? 甘いわ!」
「飴ですから当然ですね。それはおそらく苺味ですね。魔道具の注意点なのですが、それは魔力を勝手に使って甘味を感じさせる代物です。ですので、魔力切れには気を付けてください」

 そうホムラは忠告したが、その次の日、使用人の女性が昼間の掃除中にいきなり倒れて大騒ぎになった。
 ぶつぶつと文句を言う使用人の女性に対して、ホムラは特に何も反応をしなかった。ただ、彼女の帰り際に飴には他の味がある事を伝えた。



 使用人の女性がしばらく魔力切れでだるそうに仕事をする事になったのは言うまでもない事だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...