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第5章 新しいお姉ちゃんと一緒に生きていく
幕間の物語29.全身鎧はもしもを考える
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不毛の大地にシズトが育て始めた世界樹は、何もない不毛の大地に生えていた事もありとても目立っていた。
いずれ厄介事がやってくるだろうね、とシズトは以前同居人たちに話をしていた。
ドラゴニア王国の上層部とのつながりが彼にはあったため、そちら方面の厄介事であれば第一王女であるレヴィアとドーラが抑える事になっている。
ではシズトと同じ異世界転移者が相手であればどうするか。
「その時は、積もる話もあるだろうし、ちょっと僕に任せてほしいかなぁ」
困ったような顔でにへらっと笑っていたシズトの顔が脳裏を過って集中できていない、とドーラは思考を切り替える。
自動探知地図をノエルに押し付け、大きな盾を構えつついつでも割って入る事ができるように、シズトの背中を見守った。
そのすぐそばでは加護を全開で使用中のレヴィアが目を閉じて集中している。そのメイドであるセシリアはたい肥が入った袋を抱えたまま一歩後ろに控えていた。
ドーラがちらりと横目で周囲を探ると、ラオとルウが魔力を高めているのを感じられた。
「もう、好きに生きるって決めたんだよね。だから、ごめんね?」
シズトの表情を後ろからでは読み取る事は出来なかったが、シズトが一歩、鉄の床を踏んだ瞬間に一面の鉄の床が液体のようになったかと思えば、結界の方へと迫ってくる。
「シズト! 黒髪が炎魔法を使おうとしているのですわ!」
「くらえ、膝カックン!」
シズトの掛け声と同時に明がこけた。彼の足元で液体状になっていた鉄が突如棒状の固形に変わり、魔法を詠唱しようとしていた彼の膝裏にぶつかって体勢を崩したようだ。そのまま口を覆うような仮面になると明の口を塞ぐ。
「とっとと逃げるんじゃねぇのか、シズト!」
「ちょっと盗人呼ばわりしてきたエルフに嫌がらせするの!!」
結界の外側を囲うように集められた鉄が巨大な壁を形作っていく。
それを見て、聖女と呼ばれている姫花の制止を振り払い、背中に背負っていた大剣と自身に魔力を纏わせた陽太が突っ込むが、剥き出しとなった地面から突如アンデッドの腕が大量に出てきたのを見て、姫花と口が塞がれて詠唱ができなくなってしまっている明の元へと戻り姫花の詠唱をする時間を稼ぐ。
今まで埋められていたアンデッドが大量に湧きだす中、シズトは五メートル以上の高さの鉄の防壁を作り上げた。
ただ、それだけでは終わらせず、彼は防壁にある小細工を施すと「戦略的撤退!」と仲間に合図を出す。
姿を魔道具で隠して周囲を取り囲もうとしていたエルフたちがアンデッドを飛び越えて鉄の防壁の上に降り立った頃には、最後まで周囲を警戒していたドーラが魔道具を使って転移する姿しかなかった。
ドーラが帰還の指輪を使って屋敷の地下室に転移すると、シズトがそわそわとして待っていた。
「やっと戻ってきたぁ……めちゃくちゃ心配したんだけど! ドーラさんは僕の護衛なんでしょ? だったら僕が転移したらすぐ来てよね! やっぱり周辺にいる味方全員転移できるようなものを作った方が――」
「あれが嫌がらせ?」
ドーラはシズトの心配をよそに聞くと「無実の証明になればいいかな、って」とにへらっと笑って言うシズト。
「『世界樹は生育の加護を持つ者にしか育てられない』とか書いてあったけど、あれが嫌がらせになるの?」
「世界樹が加護の能力で育つって秘匿されていたんでしょう? 僕を捕まえて今後も秘密にしようとしてたんだろうし、だったらばらしちゃったらどうなるんかな、って。後は世界樹の苗木を神様から貰ったんだよ、って事もいろんなところに刻んじゃった。一気に魔力使っちゃったからめちゃくちゃだるいわぁ」
「それならお姉ちゃんがベッドまで運んであげますね~」
「なんだろう、だんだん運ばれるの慣れてきてる自分が怖い」
お姫様抱っこをしてシズトを運ぶルウの後をドーラがついて行き、質問を続ける。
「ファマリーってなに?」
「世界樹の名前つけてみた。ほら、なんかユグドラシルとかその他にも世界樹ってあるらしいじゃん。それぞれに名前がついてるから、名前がないのは可哀想かなぁ、って最後につけてあげた」
「神様から育てるように言われたのに逃げていいの?」
「んー、どうなんだろう? 信仰を広げてほしいって事だったから、ドラン公爵とレヴィさん経由で王様にも世界樹についての諸々全部ぶっちゃけてファマ様の事を周知させようかなあ、って思うけど……それでだめだったらまた呼び出されるかもね」
シズトはされるがまま、というより故意に変な所を触らないようにか変な姿勢で固まっていたが、口だけ動かして彼女の疑問に答えた。
昔話で加護を剥奪された勇者の事を思い出したドーラが、その心配はないのかとシズトに聞いたが特に気にした様子もない。
「加護剥奪されても死ぬわけではないらしいし、別にいいかな。その時はホムラと静かに街の依頼を受けて暮らしていくよ」
「お姉ちゃんも忘れちゃだめよ? シズトくんがいなかったら今もずっと寝てたんだから。一生をかけて恩を返していくんだから」
「思いが重いです……」
ドーラは寝室に入って行ったルウとシズトを見送り、自分に用意された部屋に行く。
必要最低限のものしかない彼女の部屋を、一羽の使い魔の鳥が窓の外から覗いていた。
使い魔の鳥を部屋に入れると、録音された音声が再生される。ドラン公爵からの伝言だった。
『国王陛下がいらして、シズト殿とお会いしたがっている。レヴィア様の件もあって、魔道具に興味をもっているようだ。シズト殿が私たちの様な者と会うのを嫌がっているのは聞いているが、非公式で会って魔道具や世界樹の話をしたいそうだ。明日、予定がなければ連れてこい。ああ、あとエルフの国から何か戯言が届いていた。戯言だが、しばらくは世界樹に出向く時は注意するように』
「報告を」
「くぇ」
「明日についてはシズトに提案してみる。あと注意が遅い。手遅れ。以上」
大きな盾の手入れをしながら報告を終えたドーラは、夕闇に紛れて領主の館に向かって行く使い魔を見送った。
姿が見えなくなってもしばらく彼女はそのまま物思いにふけっていた。
「シズトが加護を失ったら、私は……」
その答えはすぐに出そうになかった。
いずれ厄介事がやってくるだろうね、とシズトは以前同居人たちに話をしていた。
ドラゴニア王国の上層部とのつながりが彼にはあったため、そちら方面の厄介事であれば第一王女であるレヴィアとドーラが抑える事になっている。
ではシズトと同じ異世界転移者が相手であればどうするか。
「その時は、積もる話もあるだろうし、ちょっと僕に任せてほしいかなぁ」
困ったような顔でにへらっと笑っていたシズトの顔が脳裏を過って集中できていない、とドーラは思考を切り替える。
自動探知地図をノエルに押し付け、大きな盾を構えつついつでも割って入る事ができるように、シズトの背中を見守った。
そのすぐそばでは加護を全開で使用中のレヴィアが目を閉じて集中している。そのメイドであるセシリアはたい肥が入った袋を抱えたまま一歩後ろに控えていた。
ドーラがちらりと横目で周囲を探ると、ラオとルウが魔力を高めているのを感じられた。
「もう、好きに生きるって決めたんだよね。だから、ごめんね?」
シズトの表情を後ろからでは読み取る事は出来なかったが、シズトが一歩、鉄の床を踏んだ瞬間に一面の鉄の床が液体のようになったかと思えば、結界の方へと迫ってくる。
「シズト! 黒髪が炎魔法を使おうとしているのですわ!」
「くらえ、膝カックン!」
シズトの掛け声と同時に明がこけた。彼の足元で液体状になっていた鉄が突如棒状の固形に変わり、魔法を詠唱しようとしていた彼の膝裏にぶつかって体勢を崩したようだ。そのまま口を覆うような仮面になると明の口を塞ぐ。
「とっとと逃げるんじゃねぇのか、シズト!」
「ちょっと盗人呼ばわりしてきたエルフに嫌がらせするの!!」
結界の外側を囲うように集められた鉄が巨大な壁を形作っていく。
それを見て、聖女と呼ばれている姫花の制止を振り払い、背中に背負っていた大剣と自身に魔力を纏わせた陽太が突っ込むが、剥き出しとなった地面から突如アンデッドの腕が大量に出てきたのを見て、姫花と口が塞がれて詠唱ができなくなってしまっている明の元へと戻り姫花の詠唱をする時間を稼ぐ。
今まで埋められていたアンデッドが大量に湧きだす中、シズトは五メートル以上の高さの鉄の防壁を作り上げた。
ただ、それだけでは終わらせず、彼は防壁にある小細工を施すと「戦略的撤退!」と仲間に合図を出す。
姿を魔道具で隠して周囲を取り囲もうとしていたエルフたちがアンデッドを飛び越えて鉄の防壁の上に降り立った頃には、最後まで周囲を警戒していたドーラが魔道具を使って転移する姿しかなかった。
ドーラが帰還の指輪を使って屋敷の地下室に転移すると、シズトがそわそわとして待っていた。
「やっと戻ってきたぁ……めちゃくちゃ心配したんだけど! ドーラさんは僕の護衛なんでしょ? だったら僕が転移したらすぐ来てよね! やっぱり周辺にいる味方全員転移できるようなものを作った方が――」
「あれが嫌がらせ?」
ドーラはシズトの心配をよそに聞くと「無実の証明になればいいかな、って」とにへらっと笑って言うシズト。
「『世界樹は生育の加護を持つ者にしか育てられない』とか書いてあったけど、あれが嫌がらせになるの?」
「世界樹が加護の能力で育つって秘匿されていたんでしょう? 僕を捕まえて今後も秘密にしようとしてたんだろうし、だったらばらしちゃったらどうなるんかな、って。後は世界樹の苗木を神様から貰ったんだよ、って事もいろんなところに刻んじゃった。一気に魔力使っちゃったからめちゃくちゃだるいわぁ」
「それならお姉ちゃんがベッドまで運んであげますね~」
「なんだろう、だんだん運ばれるの慣れてきてる自分が怖い」
お姫様抱っこをしてシズトを運ぶルウの後をドーラがついて行き、質問を続ける。
「ファマリーってなに?」
「世界樹の名前つけてみた。ほら、なんかユグドラシルとかその他にも世界樹ってあるらしいじゃん。それぞれに名前がついてるから、名前がないのは可哀想かなぁ、って最後につけてあげた」
「神様から育てるように言われたのに逃げていいの?」
「んー、どうなんだろう? 信仰を広げてほしいって事だったから、ドラン公爵とレヴィさん経由で王様にも世界樹についての諸々全部ぶっちゃけてファマ様の事を周知させようかなあ、って思うけど……それでだめだったらまた呼び出されるかもね」
シズトはされるがまま、というより故意に変な所を触らないようにか変な姿勢で固まっていたが、口だけ動かして彼女の疑問に答えた。
昔話で加護を剥奪された勇者の事を思い出したドーラが、その心配はないのかとシズトに聞いたが特に気にした様子もない。
「加護剥奪されても死ぬわけではないらしいし、別にいいかな。その時はホムラと静かに街の依頼を受けて暮らしていくよ」
「お姉ちゃんも忘れちゃだめよ? シズトくんがいなかったら今もずっと寝てたんだから。一生をかけて恩を返していくんだから」
「思いが重いです……」
ドーラは寝室に入って行ったルウとシズトを見送り、自分に用意された部屋に行く。
必要最低限のものしかない彼女の部屋を、一羽の使い魔の鳥が窓の外から覗いていた。
使い魔の鳥を部屋に入れると、録音された音声が再生される。ドラン公爵からの伝言だった。
『国王陛下がいらして、シズト殿とお会いしたがっている。レヴィア様の件もあって、魔道具に興味をもっているようだ。シズト殿が私たちの様な者と会うのを嫌がっているのは聞いているが、非公式で会って魔道具や世界樹の話をしたいそうだ。明日、予定がなければ連れてこい。ああ、あとエルフの国から何か戯言が届いていた。戯言だが、しばらくは世界樹に出向く時は注意するように』
「報告を」
「くぇ」
「明日についてはシズトに提案してみる。あと注意が遅い。手遅れ。以上」
大きな盾の手入れをしながら報告を終えたドーラは、夕闇に紛れて領主の館に向かって行く使い魔を見送った。
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