上 下
96 / 1,014
第5章 新しいお姉ちゃんと一緒に生きていく

幕間の物語29.全身鎧はもしもを考える

しおりを挟む
 不毛の大地にシズトが育て始めた世界樹は、何もない不毛の大地に生えていた事もありとても目立っていた。
 いずれ厄介事がやってくるだろうね、とシズトは以前同居人たちに話をしていた。
 ドラゴニア王国の上層部とのつながりが彼にはあったため、そちら方面の厄介事であれば第一王女であるレヴィアとドーラが抑える事になっている。
 ではシズトと同じ異世界転移者が相手であればどうするか。

「その時は、積もる話もあるだろうし、ちょっと僕に任せてほしいかなぁ」

 困ったような顔でにへらっと笑っていたシズトの顔が脳裏を過って集中できていない、とドーラは思考を切り替える。
 自動探知地図をノエルに押し付け、大きな盾を構えつついつでも割って入る事ができるように、シズトの背中を見守った。
 そのすぐそばでは加護を全開で使用中のレヴィアが目を閉じて集中している。そのメイドであるセシリアはたい肥が入った袋を抱えたまま一歩後ろに控えていた。
 ドーラがちらりと横目で周囲を探ると、ラオとルウが魔力を高めているのを感じられた。

「もう、好きに生きるって決めたんだよね。だから、ごめんね?」

 シズトの表情を後ろからでは読み取る事は出来なかったが、シズトが一歩、鉄の床を踏んだ瞬間に一面の鉄の床が液体のようになったかと思えば、結界の方へと迫ってくる。

「シズト! 黒髪が炎魔法を使おうとしているのですわ!」
「くらえ、膝カックン!」

 シズトの掛け声と同時に明がこけた。彼の足元で液体状になっていた鉄が突如棒状の固形に変わり、魔法を詠唱しようとしていた彼の膝裏にぶつかって体勢を崩したようだ。そのまま口を覆うような仮面になると明の口を塞ぐ。

「とっとと逃げるんじゃねぇのか、シズト!」
「ちょっと盗人呼ばわりしてきたエルフに嫌がらせするの!!」

 結界の外側を囲うように集められた鉄が巨大な壁を形作っていく。
 それを見て、聖女と呼ばれている姫花の制止を振り払い、背中に背負っていた大剣と自身に魔力を纏わせた陽太が突っ込むが、剥き出しとなった地面から突如アンデッドの腕が大量に出てきたのを見て、姫花と口が塞がれて詠唱ができなくなってしまっている明の元へと戻り姫花の詠唱をする時間を稼ぐ。
 今まで埋められていたアンデッドが大量に湧きだす中、シズトは五メートル以上の高さの鉄の防壁を作り上げた。
 ただ、それだけでは終わらせず、彼は防壁にある小細工を施すと「戦略的撤退!」と仲間に合図を出す。
 姿を魔道具で隠して周囲を取り囲もうとしていたエルフたちがアンデッドを飛び越えて鉄の防壁の上に降り立った頃には、最後まで周囲を警戒していたドーラが魔道具を使って転移する姿しかなかった。



 ドーラが帰還の指輪を使って屋敷の地下室に転移すると、シズトがそわそわとして待っていた。

「やっと戻ってきたぁ……めちゃくちゃ心配したんだけど! ドーラさんは僕の護衛なんでしょ? だったら僕が転移したらすぐ来てよね! やっぱり周辺にいる味方全員転移できるようなものを作った方が――」
「あれが嫌がらせ?」

 ドーラはシズトの心配をよそに聞くと「無実の証明になればいいかな、って」とにへらっと笑って言うシズト。

「『世界樹は生育の加護を持つ者にしか育てられない』とか書いてあったけど、あれが嫌がらせになるの?」
「世界樹が加護の能力で育つって秘匿されていたんでしょう? 僕を捕まえて今後も秘密にしようとしてたんだろうし、だったらばらしちゃったらどうなるんかな、って。後は世界樹の苗木を神様から貰ったんだよ、って事もいろんなところに刻んじゃった。一気に魔力使っちゃったからめちゃくちゃだるいわぁ」
「それならお姉ちゃんがベッドまで運んであげますね~」
「なんだろう、だんだん運ばれるの慣れてきてる自分が怖い」

 お姫様抱っこをしてシズトを運ぶルウの後をドーラがついて行き、質問を続ける。

「ファマリーってなに?」
「世界樹の名前つけてみた。ほら、なんかユグドラシルとかその他にも世界樹ってあるらしいじゃん。それぞれに名前がついてるから、名前がないのは可哀想かなぁ、って最後につけてあげた」
「神様から育てるように言われたのに逃げていいの?」
「んー、どうなんだろう? 信仰を広げてほしいって事だったから、ドラン公爵とレヴィさん経由で王様にも世界樹についての諸々全部ぶっちゃけてファマ様の事を周知させようかなあ、って思うけど……それでだめだったらまた呼び出されるかもね」

 シズトはされるがまま、というより故意に変な所を触らないようにか変な姿勢で固まっていたが、口だけ動かして彼女の疑問に答えた。
 昔話で加護を剥奪された勇者の事を思い出したドーラが、その心配はないのかとシズトに聞いたが特に気にした様子もない。

「加護剥奪されても死ぬわけではないらしいし、別にいいかな。その時はホムラと静かに街の依頼を受けて暮らしていくよ」
「お姉ちゃんも忘れちゃだめよ? シズトくんがいなかったら今もずっと寝てたんだから。一生をかけて恩を返していくんだから」
「思いが重いです……」

 ドーラは寝室に入って行ったルウとシズトを見送り、自分に用意された部屋に行く。
 必要最低限のものしかない彼女の部屋を、一羽の使い魔の鳥が窓の外から覗いていた。
 使い魔の鳥を部屋に入れると、録音された音声が再生される。ドラン公爵からの伝言だった。

『国王陛下がいらして、シズト殿とお会いしたがっている。レヴィア様の件もあって、魔道具に興味をもっているようだ。シズト殿が私たちの様な者と会うのを嫌がっているのは聞いているが、非公式で会って魔道具や世界樹の話をしたいそうだ。明日、予定がなければ連れてこい。ああ、あとエルフの国から何か戯言が届いていた。戯言だが、しばらくは世界樹に出向く時は注意するように』
「報告を」
「くぇ」
「明日についてはシズトに提案してみる。あと注意が遅い。手遅れ。以上」

 大きな盾の手入れをしながら報告を終えたドーラは、夕闇に紛れて領主の館に向かって行く使い魔を見送った。
 姿が見えなくなってもしばらく彼女はそのまま物思いにふけっていた。

「シズトが加護を失ったら、私は……」

 その答えはすぐに出そうになかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...