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第5章 新しいお姉ちゃんと一緒に生きていく
幕間の物語28.ギャンブラー奴隷は暇
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愛妾屋敷の一つであるシズトの住んでいるその屋敷には使用人用の部屋がいくつもある。現在は使われていない別棟もあるが。
そのうちの一つで、奴隷とは思えない好待遇をされている奴隷の翼人は暇を持て余していた。
黒い髪に黒い瞳、黒い翼をバサバサとさせながら駄々をこねている少女を放置して布団に丸まっている茶髪の狼人族の少女。
そんな彼女にめげずに声をかけ続ける翼人の少女。
「暇デース。シーラ、遊びまショー」
「夜間警護明けだから無理じゃん。パメラ一人で遊んでればいいじゃん」
「それじゃつまらないデース! 何かを賭けて遊びまショー!」
「度が過ぎると流石のシズト様も怒るじゃん? 賭け事なんかしないで外で遊んで来ればいいじゃん。私はもう寝る」
「つまらないデース! シーラ、起きるデスヨー!! ……シーラ、ほんとに寝るデスカ? ……こうなったら、エイ……って、アレ? エイ、エイ!」
「尻尾は掴もうとするなって言ってるじゃん!」
「シーラ、起きましたネ! 遊びまショー!」
「私は寝るって言ってんじゃん! アンジェラに遊んでもらって来ればいいじゃん! あと尻尾触ったら殺すじゃん!」
「えー、ケチデスネー。いつも熱心にお手入れしてるし、ちょっとくらい触らせてくれてもいいじゃないデスカー」
「私の尻尾を触っていいのはシズト様だけじゃん!」
「でも、全然夜伽で呼ばれないデス。お手入れするだけ無駄デスネ」
「いつ呼ばれるか分からないからこそ用意しておくのが大事なんじゃん! もう本当に眠いからとっとと出ていくじゃん!」
強引に持ち上げられた翼人のパメラは、部屋からつまみ出された。
しばらく不機嫌そうに頬を膨らませていたが、そんな事をしていてもただ無駄に時間が過ぎるだけだ、と思い直した彼女は動き出す。
最近は遊ばれていないボウリングのレーンとピン、ボールが放置されているのでそれでしばらく遊んだが、結局長続きしない。
パメラは敷地の四隅に建てられた簡易櫓に向かって飛んでいく。
「アンジェラちゃーん、あーそびーまショー」
「あら、パメラちゃん。アンジェラは今、アンディーの所でお勉強していると思うわよ」
「そうなんデスネ! じゃあ向こうに行くデース!」
バサバサと自由に空を飛びながら離れていくパメラをシルヴェラは特に気にする事無く、周囲を警戒する。
ただ、ここで雇われて以来ずっと特に何か起こる事はなく日がな一日簡易櫓で過ごして終わってしまう。
「何事もない事が一番だとは言うけれど、こうも暇だと緊張感がなくなってしまうわね」
奴隷なのに、贅沢な悩みを持つようになってしまったな、と独り言ち、気を取り直して周囲を警戒するシルヴェラ。
パメラは対角線上にある簡易櫓にすぐに到着して、アンジェラに遊ぼうと声をかけた。
「遊びーまショー」
「あーとーでー」
「勉強よりも遊びまショー。子どもは遊ぶのが仕事って、昔の勇者様たちが言ってたデスヨー」
「あーとーでー!」
「よく食べよく学びよく遊べとも言ってたんデスヨー」
「あーとーでー!!」
「つまんないデース! みんな仕事あってずるいデース!」
「パメラちゃんだっておしごと、よるにあるでしょ? アンジェラはおしごとないんだよ? シズトさまとあそぶのがおしごとだけど、さいきんどこかいっちゃうから。だからしょーらいのためおべんきょうしてるんだよ」
「将来のためのお勉強って何をしてるんデスカ?」
「もじのおべんきょう! よみかきできるといいね、ってシズトさまがいってたから」
「アンジェラ、少し休憩してきなさい」
見かねたアンディーが声掛けをしてやっと、アンジェラは絵本から顔を上げてアンディーを見上げた。
ポンポン、と左腕で頭を撫でた後は周囲の警戒を真面目にこなすアンディー。
「もう、しょうがないなー。おかしもらいにいこ、パメラちゃん!」
「エミリーのとこデスネー! 任せるデース!」
そういうや否や、パメラはアンジェラを抱き上げて飛び立った。
ふらふらと飛びながら屋敷に戻るアンジェラとパメラ。
その様子を優しげな微笑みで見送ったアンディー。
病弱だった娘が元気になっただけでも主のシズトに頭が上がらないアンディーだったが、自分のためにポーションまで用意され、失われていた左手が元通りになった。
部位欠損までも直してしまうポーションがどれくらいの値段が付くのか、アンディーには想像もつかない事だったが、「実験実験~」とかいうシズトがいきなり体にポーションをかけて遠慮する暇すらもらえなかったアンディーだった。
「しっかりと勤めねば」
そう呟いて気を取り直したアンディーと同じ身分のパメラは自由を謳歌していた。
エミリーに強請って手に入れたクッキーをアンジェラと一緒に味見しながらジュースを飲む。
「まったく、奴隷が高価なお菓子をつまみ食いするなんて考えられないわ! シズト様のために作ったクッキーを食べるなんて――」
尻尾をピンと立ててぷんすか怒りながら、シズトのためのお菓子を準備する狐人族のエミリーを無視して次は何をしようかな、と考えるパメラ。
賭け事は控えるように言われているが、休養日であればお菓子のつまみ食いも、魔道具を使って遊ぶ事も好きなように過ごしていいと言質をちゃっかりとっていた。
「シズト様の奴隷になれて本当に良かったデース」
顔合わせの時に大人しくしていて本当に良かった、と満足気なパメラを見て、アンジェラはこういう大人にならないためにもしっかり勉強を頑張ろう、と思うのだった。
そのうちの一つで、奴隷とは思えない好待遇をされている奴隷の翼人は暇を持て余していた。
黒い髪に黒い瞳、黒い翼をバサバサとさせながら駄々をこねている少女を放置して布団に丸まっている茶髪の狼人族の少女。
そんな彼女にめげずに声をかけ続ける翼人の少女。
「暇デース。シーラ、遊びまショー」
「夜間警護明けだから無理じゃん。パメラ一人で遊んでればいいじゃん」
「それじゃつまらないデース! 何かを賭けて遊びまショー!」
「度が過ぎると流石のシズト様も怒るじゃん? 賭け事なんかしないで外で遊んで来ればいいじゃん。私はもう寝る」
「つまらないデース! シーラ、起きるデスヨー!! ……シーラ、ほんとに寝るデスカ? ……こうなったら、エイ……って、アレ? エイ、エイ!」
「尻尾は掴もうとするなって言ってるじゃん!」
「シーラ、起きましたネ! 遊びまショー!」
「私は寝るって言ってんじゃん! アンジェラに遊んでもらって来ればいいじゃん! あと尻尾触ったら殺すじゃん!」
「えー、ケチデスネー。いつも熱心にお手入れしてるし、ちょっとくらい触らせてくれてもいいじゃないデスカー」
「私の尻尾を触っていいのはシズト様だけじゃん!」
「でも、全然夜伽で呼ばれないデス。お手入れするだけ無駄デスネ」
「いつ呼ばれるか分からないからこそ用意しておくのが大事なんじゃん! もう本当に眠いからとっとと出ていくじゃん!」
強引に持ち上げられた翼人のパメラは、部屋からつまみ出された。
しばらく不機嫌そうに頬を膨らませていたが、そんな事をしていてもただ無駄に時間が過ぎるだけだ、と思い直した彼女は動き出す。
最近は遊ばれていないボウリングのレーンとピン、ボールが放置されているのでそれでしばらく遊んだが、結局長続きしない。
パメラは敷地の四隅に建てられた簡易櫓に向かって飛んでいく。
「アンジェラちゃーん、あーそびーまショー」
「あら、パメラちゃん。アンジェラは今、アンディーの所でお勉強していると思うわよ」
「そうなんデスネ! じゃあ向こうに行くデース!」
バサバサと自由に空を飛びながら離れていくパメラをシルヴェラは特に気にする事無く、周囲を警戒する。
ただ、ここで雇われて以来ずっと特に何か起こる事はなく日がな一日簡易櫓で過ごして終わってしまう。
「何事もない事が一番だとは言うけれど、こうも暇だと緊張感がなくなってしまうわね」
奴隷なのに、贅沢な悩みを持つようになってしまったな、と独り言ち、気を取り直して周囲を警戒するシルヴェラ。
パメラは対角線上にある簡易櫓にすぐに到着して、アンジェラに遊ぼうと声をかけた。
「遊びーまショー」
「あーとーでー」
「勉強よりも遊びまショー。子どもは遊ぶのが仕事って、昔の勇者様たちが言ってたデスヨー」
「あーとーでー!」
「よく食べよく学びよく遊べとも言ってたんデスヨー」
「あーとーでー!!」
「つまんないデース! みんな仕事あってずるいデース!」
「パメラちゃんだっておしごと、よるにあるでしょ? アンジェラはおしごとないんだよ? シズトさまとあそぶのがおしごとだけど、さいきんどこかいっちゃうから。だからしょーらいのためおべんきょうしてるんだよ」
「将来のためのお勉強って何をしてるんデスカ?」
「もじのおべんきょう! よみかきできるといいね、ってシズトさまがいってたから」
「アンジェラ、少し休憩してきなさい」
見かねたアンディーが声掛けをしてやっと、アンジェラは絵本から顔を上げてアンディーを見上げた。
ポンポン、と左腕で頭を撫でた後は周囲の警戒を真面目にこなすアンディー。
「もう、しょうがないなー。おかしもらいにいこ、パメラちゃん!」
「エミリーのとこデスネー! 任せるデース!」
そういうや否や、パメラはアンジェラを抱き上げて飛び立った。
ふらふらと飛びながら屋敷に戻るアンジェラとパメラ。
その様子を優しげな微笑みで見送ったアンディー。
病弱だった娘が元気になっただけでも主のシズトに頭が上がらないアンディーだったが、自分のためにポーションまで用意され、失われていた左手が元通りになった。
部位欠損までも直してしまうポーションがどれくらいの値段が付くのか、アンディーには想像もつかない事だったが、「実験実験~」とかいうシズトがいきなり体にポーションをかけて遠慮する暇すらもらえなかったアンディーだった。
「しっかりと勤めねば」
そう呟いて気を取り直したアンディーと同じ身分のパメラは自由を謳歌していた。
エミリーに強請って手に入れたクッキーをアンジェラと一緒に味見しながらジュースを飲む。
「まったく、奴隷が高価なお菓子をつまみ食いするなんて考えられないわ! シズト様のために作ったクッキーを食べるなんて――」
尻尾をピンと立ててぷんすか怒りながら、シズトのためのお菓子を準備する狐人族のエミリーを無視して次は何をしようかな、と考えるパメラ。
賭け事は控えるように言われているが、休養日であればお菓子のつまみ食いも、魔道具を使って遊ぶ事も好きなように過ごしていいと言質をちゃっかりとっていた。
「シズト様の奴隷になれて本当に良かったデース」
顔合わせの時に大人しくしていて本当に良かった、と満足気なパメラを見て、アンジェラはこういう大人にならないためにもしっかり勉強を頑張ろう、と思うのだった。
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