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第4章 助手と一緒に魔道具を作って生きていく。
幕間の物語25.訳アリ冒険者と妹②
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ドラゴニア王国の南に位置するドランには、ドラゴニア王国の中でも有名な修道院がある。
様々な理由で、ここで生活する彼らの日常はほとんど変わらない。
数少ない変化の一つである面会者が、久しぶりにやってきた。
真っ赤に燃えるような赤い髪に赤い瞳の彼女の名前はラオ。
ここに預けている妹に面会にやってきていた。
彼女は、妹であるルウに与えられた部屋にノックをした後、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。
部屋の中からいつまで経っても返事はない。
彼女は数回深呼吸を繰り返した後、室内に入った。
室内に入ると、敵の加護の影響か少しも動く様子がない女性が横たわっていた。
「ルウ。お前を治す薬を持ってきたぞ」
そう言いつつもラオは不安だった。
今まで、様々な薬を飲ませてきた。正規品もあれば、怪しげなものもあったが結果は変わらなかった。街を転々とする度に、その街で高名な治癒師に頼んだが、目覚める事はなかった。
もしかしたら、今日持ってきたものもだめかもしれない。
そんな不安が、彼女の心の中にあった。
今回持ってきたものは、世界樹の葉っぱや蜜をふんだんに使った万能薬エリクサー。これで駄目であればもう思いつく方法がなかった。
(まあ、ダメだったとしても、諦める理由にはならねぇよな)
結局自分がやる事は変わらないのだ、と覚悟を決めたラオは押し付けられたアイテムバッグからエリクサーを取り出した。
それを何の躊躇もなく、ルウの体にかけると、不思議な光が彼女を包んだ。
固唾を呑んで結果を見守るラオだったが、光が収まるとすぐにルウに変化があった。
先程までピクリとも動いていなかった彼女の胸が、規則的に上下していた。
「ルウ……? ルウ!」
「ん~っ……も~、ごふ~ん……」
ラオが体を揺さぶって起こそうとしたが、呼ばれたルウは眉をしかめて寝返りを打つ。
ラオはきょとんとした表情でその背中を見ていたが、段々と目が潤み始め――。
「いつまで寝てやがんだ、寝坊助! とっとと起きろっ!!!」
その日、普段静かな修道院に、とても大きな声が響き渡った。
「そうなのね~、ぜんぜん実感がないけれど、そんな大変な事があったのね~」
ルウが起きてから、ラオは今までの事を掻い摘んで話をしたが、話をされたルウは頬に手を当てて首を傾げていた。
「ラオちゃんを庇ったのは覚えているのだけれど……その先の事は分からないわ~。結局、あの加護持ちはどうなったのかしら?」
「ちゃんと落とし前は付けた。最後の嫌がらせだったんだろうよ」
「そうなのね~。じゃあそれについてはもういいわね~。……これから、ラオちゃんはどうするのかしら?」
「まあ、返せない程大きな借りができちまったからなぁ」
「そうね~。そのシズトくん、だったかしら? その子にお礼をしなきゃいけないわね~。私も、役に立てればいいのだけれど」
「そこら辺は、とりあえず会ってから考えればいいだろ。ほら、いつまでもここにいるわけにはいかねぇんだ。とっとと着替えてここ出るぞ」
「わかったわ~」
そういうや否や、今まで着せられていた服を脱ぎ捨てたルウ。
ラオに負けず劣らずの肉付きの良い肢体が露になった。どこにも怪我がないか気にかけていたラオだったが、改めて自分の目で見て安堵した。
そんなラオからの視線を気にした様子もなく、ルウはラオから手渡される冒険者時代に使っていた装備を身に付け、ラオよりも長い赤い髪をリボンで結ってひとまとめにする。
「ああ、そうだ。シズトの所に行く前に、冒険者ギルドによるぞ」
「ギルドに用があるのかしら?」
「イザベラがギルドマスターになってんだよ」
「そうなの~。ベラちゃん、何だかんだ言いつつ面倒見がいい子だったものね」
「目が覚めた事を報告しつつ、戻ってきたら頼まれてた依頼を断りに行かねぇと」
「きっと久しぶりの再会になるのね~。不思議ね、私にとっては昨日の事のようなのに…」
「ほら、余計な事考えてねぇでとっとと行くぞ」
修道院の責任者の元へ向かい、今までの礼を述べて謝礼金を渡した後はさっさと修道院から出る。
ラオにとっては長い間通った修道院だったが、特に思い入れはなかった。
足早にギルドに向かうと、受付をしていたイザベラが目をまん丸にしてラオたちを凝視していた。
ただ、受付業務を放棄する事はなく、ラオたちが自分に向かって近づいてくるまで声をかけるのを控えている。
「どうやったの?」
ただ、驚きは隠せないらしく、開口一番にそう聞いてきた。
ラオは苦笑しつつ「シズトのおかげだ」とだけ答えた。世界樹の件はまだ彼の了承を得ていなかったので伝えるつもりがなかった。
いつかは言う必要はあるが、今は特に契約で報告をするようにとは言われていない。
イザベラは顎に指をあてて思案をしていたが、さっぱり思いつかなかったのかため息をついた後にルウに話しかけた。
「久しぶりね、ルウ。元気になったようでよかったわ」
「ベラちゃん、大人になったわね~。ラオちゃんも大人っぽくなっていて驚いたけど、本当に数年経っているのね~」
「ベラちゃんはやめてって言ってるでしょ!」
ルウに調子を崩されたイザベラは、ラオとルウと三人でしばらく話を続けた。
その結果、楽し気に笑うギルドマスターがいた、とドランの冒険者の間で噂が広がり尾ひれがついて広まったのだが、それはまた別の話。
様々な理由で、ここで生活する彼らの日常はほとんど変わらない。
数少ない変化の一つである面会者が、久しぶりにやってきた。
真っ赤に燃えるような赤い髪に赤い瞳の彼女の名前はラオ。
ここに預けている妹に面会にやってきていた。
彼女は、妹であるルウに与えられた部屋にノックをした後、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。
部屋の中からいつまで経っても返事はない。
彼女は数回深呼吸を繰り返した後、室内に入った。
室内に入ると、敵の加護の影響か少しも動く様子がない女性が横たわっていた。
「ルウ。お前を治す薬を持ってきたぞ」
そう言いつつもラオは不安だった。
今まで、様々な薬を飲ませてきた。正規品もあれば、怪しげなものもあったが結果は変わらなかった。街を転々とする度に、その街で高名な治癒師に頼んだが、目覚める事はなかった。
もしかしたら、今日持ってきたものもだめかもしれない。
そんな不安が、彼女の心の中にあった。
今回持ってきたものは、世界樹の葉っぱや蜜をふんだんに使った万能薬エリクサー。これで駄目であればもう思いつく方法がなかった。
(まあ、ダメだったとしても、諦める理由にはならねぇよな)
結局自分がやる事は変わらないのだ、と覚悟を決めたラオは押し付けられたアイテムバッグからエリクサーを取り出した。
それを何の躊躇もなく、ルウの体にかけると、不思議な光が彼女を包んだ。
固唾を呑んで結果を見守るラオだったが、光が収まるとすぐにルウに変化があった。
先程までピクリとも動いていなかった彼女の胸が、規則的に上下していた。
「ルウ……? ルウ!」
「ん~っ……も~、ごふ~ん……」
ラオが体を揺さぶって起こそうとしたが、呼ばれたルウは眉をしかめて寝返りを打つ。
ラオはきょとんとした表情でその背中を見ていたが、段々と目が潤み始め――。
「いつまで寝てやがんだ、寝坊助! とっとと起きろっ!!!」
その日、普段静かな修道院に、とても大きな声が響き渡った。
「そうなのね~、ぜんぜん実感がないけれど、そんな大変な事があったのね~」
ルウが起きてから、ラオは今までの事を掻い摘んで話をしたが、話をされたルウは頬に手を当てて首を傾げていた。
「ラオちゃんを庇ったのは覚えているのだけれど……その先の事は分からないわ~。結局、あの加護持ちはどうなったのかしら?」
「ちゃんと落とし前は付けた。最後の嫌がらせだったんだろうよ」
「そうなのね~。じゃあそれについてはもういいわね~。……これから、ラオちゃんはどうするのかしら?」
「まあ、返せない程大きな借りができちまったからなぁ」
「そうね~。そのシズトくん、だったかしら? その子にお礼をしなきゃいけないわね~。私も、役に立てればいいのだけれど」
「そこら辺は、とりあえず会ってから考えればいいだろ。ほら、いつまでもここにいるわけにはいかねぇんだ。とっとと着替えてここ出るぞ」
「わかったわ~」
そういうや否や、今まで着せられていた服を脱ぎ捨てたルウ。
ラオに負けず劣らずの肉付きの良い肢体が露になった。どこにも怪我がないか気にかけていたラオだったが、改めて自分の目で見て安堵した。
そんなラオからの視線を気にした様子もなく、ルウはラオから手渡される冒険者時代に使っていた装備を身に付け、ラオよりも長い赤い髪をリボンで結ってひとまとめにする。
「ああ、そうだ。シズトの所に行く前に、冒険者ギルドによるぞ」
「ギルドに用があるのかしら?」
「イザベラがギルドマスターになってんだよ」
「そうなの~。ベラちゃん、何だかんだ言いつつ面倒見がいい子だったものね」
「目が覚めた事を報告しつつ、戻ってきたら頼まれてた依頼を断りに行かねぇと」
「きっと久しぶりの再会になるのね~。不思議ね、私にとっては昨日の事のようなのに…」
「ほら、余計な事考えてねぇでとっとと行くぞ」
修道院の責任者の元へ向かい、今までの礼を述べて謝礼金を渡した後はさっさと修道院から出る。
ラオにとっては長い間通った修道院だったが、特に思い入れはなかった。
足早にギルドに向かうと、受付をしていたイザベラが目をまん丸にしてラオたちを凝視していた。
ただ、受付業務を放棄する事はなく、ラオたちが自分に向かって近づいてくるまで声をかけるのを控えている。
「どうやったの?」
ただ、驚きは隠せないらしく、開口一番にそう聞いてきた。
ラオは苦笑しつつ「シズトのおかげだ」とだけ答えた。世界樹の件はまだ彼の了承を得ていなかったので伝えるつもりがなかった。
いつかは言う必要はあるが、今は特に契約で報告をするようにとは言われていない。
イザベラは顎に指をあてて思案をしていたが、さっぱり思いつかなかったのかため息をついた後にルウに話しかけた。
「久しぶりね、ルウ。元気になったようでよかったわ」
「ベラちゃん、大人になったわね~。ラオちゃんも大人っぽくなっていて驚いたけど、本当に数年経っているのね~」
「ベラちゃんはやめてって言ってるでしょ!」
ルウに調子を崩されたイザベラは、ラオとルウと三人でしばらく話を続けた。
その結果、楽し気に笑うギルドマスターがいた、とドランの冒険者の間で噂が広がり尾ひれがついて広まったのだが、それはまた別の話。
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