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第3章 居候して生きていこう
幕間の物語18.全身鎧は数少ない友人と再会した
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ダンジョン都市ドランにある元愛妾屋敷の一つである三階建ての屋敷に愛妾の娘として生を受けたドーラは、一時期ここに一人で住んでいた。
ドラン公爵が代替わりをする時に生活が一変した彼女だったが、特に不満を持っていなかった。
私兵として雇われそれ相応の金額を受け取っていたから、というのもあるが間近で公爵の仕事を見ているとなりたいとは思えなかったからだ。
その彼女の考えを当代のドラン公爵――歳が離れた腹違いの兄も察していたので邪険に扱う事もなく、互いが互いを程々に利用していた。
その腹違いの兄から新しい依頼として数カ月前から黒髪が特徴的な少年、シズトの護衛を命じられている。それだけではなく、他にも公爵本人には無理強いはしないと言われていたが指令は出ていた。なかなかそちらの進展はなかったが。
ただ、シズトが『猫の目の宿』を追い出された事をきっかけに少しずつもう一つの目的も進展していっている。
(魔道具が手に入っている現状、必要性を感じない)
そんな事を考えつつも、今後がどうなるかはわからないので公爵家の者がいう事も尤もだ。
彼女は今日もシズトを見守りつつ、関係をどう深めようかと頭を悩ませていた。
同衾する事は出来たが、しばらく経ってもシズトもドーラも未経験のままだった。
魔法生物のホムラは常に起きていてシズトの周りを警戒しているため、まずは彼女との関係をよくする必要があるとドーラは判断した。
マーケットでいつものように露天商をしていたホムラのもとに立ち寄るドーラ。
「いらっしゃいませ、ドーラ様」
「今日も同じものを」
「かしこまりました、少々お待ちください」
そう言ってオートトレースを取り出すホムラを見ながらドーラはこのままでいいのだろうか、と考える。
公爵が代替わりするまでは愛妾屋敷で過ごしていたため、他人と関わる機会が限りなく少なかった。男女の関係の深め方だけでなく、友情の深め方も知らなかった。
悩んでいる彼女をよそに、ホムラはすでにオートトレースを準備し終えていた。
「何か、ご所望の物でもあるのですか?」
「?」
「いえ、何か悩まれているようでしたので」
ホムラの眉間にほんの少しだけ皺が寄っていた。魔法生物は感情もあるのか、と変な所で感心をしつつドーラは首を振る。
「魔道具とは関係ない事。作ってほしいものはシズトに言ってる」
「そのようですね。ただ、マスターに言いづらい事もあるのではないか、と考えました」
「今の所はない」
(異性に言いづらい事って何?)
心の疑問を口には出さず、ドーラはオートトレースを受け取ると領主の屋敷へと魔道具を届ける。
普段だったら屋敷に入らず、出てきた執事に渡すだけで済んでいたが、今日は違った。
「公爵様がお話がある、との事です」
「わかった」
(勝手に冒険者と協力を決めた事?)
確かにすっ飛ばしてしまったドーラだったが、彼女にも言い分はあった。
できる限り友好的に接し、公爵本人にではないが、可能であれば男女の関係になるようにと言われていた。そのためには、仲を深めるために手っ取り早いのは同じところで過ごす事だと思っていたからだ。
実際、ドーラとシズトが話をする機会は増えていたと感じていたし、公爵経由で来ていた魔道具の作成依頼もこなす事が出来ている。それまでと同じように同じ宿に泊まる程度では直接魔道具の要望を出す事はドーラにはできなかったはずだった。
執事に案内された部屋にはまだ誰もおらず、扉近くの椅子付近で立って待つ。
しばらくしてから入ってきたドラン公爵と、動きやすさを重視した質素なドレスを着た肥満体型の少女。少女は最近依頼されてシズトに作ってもらったはずの『加護無しの指輪』を付けていた。魔力マシマシ飴を口に常に含んでいて、もごもごと口が動いている。
ドーラは以前から彼女を知っていた。彼女がその場に跪こうとすると、少女が手で制する。
「久しぶりですわ、ドーラ。非公式の場ですわ、以前と同じように接してほしいのですわ」
「久しぶり、レヴィア」
異母兄弟とはいえ、ドーラも公爵家の血を受け継いでいた。何より、同世代だった事もあり、先代公爵に連れられてこの国の王女であるレヴィアと交流があった。
チラッとドーラがドラン公爵を見るが、彼女の異母兄は葉巻を吸い始めている。この場で話す気はないらしい、とドーラが判断するとレヴィアに視線を戻した。
「ちょっとお願いがあってやってきたのですわ」
「お願い?」
「そうですの。ちょっと、太りすぎてしまったのですわ」
「確かに」
以前の記憶では、こんな丸々としていなかったな、とドーラは視線を少し上に向けて思い出していた。
「円満に婚約破棄をした事もあって、もう太っていようが問題ないと思っていたのですわ。ただ、数カ月前から異世界から勇者様がこの国にいらっしゃってるってお父様からお聞きしたのですわ! 昔読んだ勇者様のお話のように、これから勇者様にはたくさんの味方が必要になるはずですわ。その一人として、私も勇者のお傍でお役に立ちたいのですわ!! でも……」
レヴィアは恋する乙女の様な表情で嬉々として喋っていたが、急にトーンダウンして自分の体を見つめる。
「痩せる必要がある」
「まったくもってその通りですわ。いえ、太ったままでも忌まわしい私の加護を制御できればお役に立てるかもしれないですわ! ただ、……物語でお話をされる時にちょっと困るのですわ」
「ぶくぶく」
「お恥ずかしい限りですわ……。それで、『激やせ腹巻』と『太らない飴』を作った魔道具師を尋ねに来たのですわ。話を聞いてみれば、ドーラが護衛をしていると知ったのですわ! 是非、その魔道具師に会わせてほしいのですわ!!」
ドーラは返答に迷った。
先程の様子を見るからに、異世界から来てドランに居ついた転移者と、物語のように恋愛をしたいのだろうと、察する事が出来ていたから余計に迷った。
果たして、彼女が会いたがっている異世界転移者と思われるシズトに、今の肥え太ってしまった彼女を会わせたらシズトが彼女にマイナスイメージを持たないか、と。
何より、彼女は魔道具師が異世界転移者だと知っているのだろうか、と。
ドラン公爵が代替わりをする時に生活が一変した彼女だったが、特に不満を持っていなかった。
私兵として雇われそれ相応の金額を受け取っていたから、というのもあるが間近で公爵の仕事を見ているとなりたいとは思えなかったからだ。
その彼女の考えを当代のドラン公爵――歳が離れた腹違いの兄も察していたので邪険に扱う事もなく、互いが互いを程々に利用していた。
その腹違いの兄から新しい依頼として数カ月前から黒髪が特徴的な少年、シズトの護衛を命じられている。それだけではなく、他にも公爵本人には無理強いはしないと言われていたが指令は出ていた。なかなかそちらの進展はなかったが。
ただ、シズトが『猫の目の宿』を追い出された事をきっかけに少しずつもう一つの目的も進展していっている。
(魔道具が手に入っている現状、必要性を感じない)
そんな事を考えつつも、今後がどうなるかはわからないので公爵家の者がいう事も尤もだ。
彼女は今日もシズトを見守りつつ、関係をどう深めようかと頭を悩ませていた。
同衾する事は出来たが、しばらく経ってもシズトもドーラも未経験のままだった。
魔法生物のホムラは常に起きていてシズトの周りを警戒しているため、まずは彼女との関係をよくする必要があるとドーラは判断した。
マーケットでいつものように露天商をしていたホムラのもとに立ち寄るドーラ。
「いらっしゃいませ、ドーラ様」
「今日も同じものを」
「かしこまりました、少々お待ちください」
そう言ってオートトレースを取り出すホムラを見ながらドーラはこのままでいいのだろうか、と考える。
公爵が代替わりするまでは愛妾屋敷で過ごしていたため、他人と関わる機会が限りなく少なかった。男女の関係の深め方だけでなく、友情の深め方も知らなかった。
悩んでいる彼女をよそに、ホムラはすでにオートトレースを準備し終えていた。
「何か、ご所望の物でもあるのですか?」
「?」
「いえ、何か悩まれているようでしたので」
ホムラの眉間にほんの少しだけ皺が寄っていた。魔法生物は感情もあるのか、と変な所で感心をしつつドーラは首を振る。
「魔道具とは関係ない事。作ってほしいものはシズトに言ってる」
「そのようですね。ただ、マスターに言いづらい事もあるのではないか、と考えました」
「今の所はない」
(異性に言いづらい事って何?)
心の疑問を口には出さず、ドーラはオートトレースを受け取ると領主の屋敷へと魔道具を届ける。
普段だったら屋敷に入らず、出てきた執事に渡すだけで済んでいたが、今日は違った。
「公爵様がお話がある、との事です」
「わかった」
(勝手に冒険者と協力を決めた事?)
確かにすっ飛ばしてしまったドーラだったが、彼女にも言い分はあった。
できる限り友好的に接し、公爵本人にではないが、可能であれば男女の関係になるようにと言われていた。そのためには、仲を深めるために手っ取り早いのは同じところで過ごす事だと思っていたからだ。
実際、ドーラとシズトが話をする機会は増えていたと感じていたし、公爵経由で来ていた魔道具の作成依頼もこなす事が出来ている。それまでと同じように同じ宿に泊まる程度では直接魔道具の要望を出す事はドーラにはできなかったはずだった。
執事に案内された部屋にはまだ誰もおらず、扉近くの椅子付近で立って待つ。
しばらくしてから入ってきたドラン公爵と、動きやすさを重視した質素なドレスを着た肥満体型の少女。少女は最近依頼されてシズトに作ってもらったはずの『加護無しの指輪』を付けていた。魔力マシマシ飴を口に常に含んでいて、もごもごと口が動いている。
ドーラは以前から彼女を知っていた。彼女がその場に跪こうとすると、少女が手で制する。
「久しぶりですわ、ドーラ。非公式の場ですわ、以前と同じように接してほしいのですわ」
「久しぶり、レヴィア」
異母兄弟とはいえ、ドーラも公爵家の血を受け継いでいた。何より、同世代だった事もあり、先代公爵に連れられてこの国の王女であるレヴィアと交流があった。
チラッとドーラがドラン公爵を見るが、彼女の異母兄は葉巻を吸い始めている。この場で話す気はないらしい、とドーラが判断するとレヴィアに視線を戻した。
「ちょっとお願いがあってやってきたのですわ」
「お願い?」
「そうですの。ちょっと、太りすぎてしまったのですわ」
「確かに」
以前の記憶では、こんな丸々としていなかったな、とドーラは視線を少し上に向けて思い出していた。
「円満に婚約破棄をした事もあって、もう太っていようが問題ないと思っていたのですわ。ただ、数カ月前から異世界から勇者様がこの国にいらっしゃってるってお父様からお聞きしたのですわ! 昔読んだ勇者様のお話のように、これから勇者様にはたくさんの味方が必要になるはずですわ。その一人として、私も勇者のお傍でお役に立ちたいのですわ!! でも……」
レヴィアは恋する乙女の様な表情で嬉々として喋っていたが、急にトーンダウンして自分の体を見つめる。
「痩せる必要がある」
「まったくもってその通りですわ。いえ、太ったままでも忌まわしい私の加護を制御できればお役に立てるかもしれないですわ! ただ、……物語でお話をされる時にちょっと困るのですわ」
「ぶくぶく」
「お恥ずかしい限りですわ……。それで、『激やせ腹巻』と『太らない飴』を作った魔道具師を尋ねに来たのですわ。話を聞いてみれば、ドーラが護衛をしていると知ったのですわ! 是非、その魔道具師に会わせてほしいのですわ!!」
ドーラは返答に迷った。
先程の様子を見るからに、異世界から来てドランに居ついた転移者と、物語のように恋愛をしたいのだろうと、察する事が出来ていたから余計に迷った。
果たして、彼女が会いたがっている異世界転移者と思われるシズトに、今の肥え太ってしまった彼女を会わせたらシズトが彼女にマイナスイメージを持たないか、と。
何より、彼女は魔道具師が異世界転移者だと知っているのだろうか、と。
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