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第3章 居候して生きていこう

41.事なかれ主義者は訳アリ冒険者を見送る

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 一緒に住む奴隷が増えて1週間、特にこれと言って目立った問題は起きていない。
 問題があるとしたら僕の理性がどこまで耐えられるかだろうか。
 この屋敷で過ごす中で僕一人になる事がないため、正直限界が近いのでは? とか思っていたけど、自分でせずともまあ何とでもなるみたい。寝ている間に勝手にアレが出る事はないし。
 ……使えなくなったとかではないよね。

「どうかなさいましたか、マスター」
「なんでもない! 今日でラオさん最後だっけ」
「はい、出発の準備は整えて朝食を食べたら出るそうです、マスター。代わりの護衛は屋敷周辺で待機しているようです」
「それじゃ、ご飯食べに行くか」

 食事をとるのは一階の大広間。とても長い長机がある部屋だ。
 そこにはもうすでに朝ごはんの準備が終わっている。
 朝ごはんを準備したのはエミリーだ。
 白い髪に赤い瞳が特徴的な狐人族の女の子だ。尻尾がふさふさで是非とも触って見たいと思いつつも鋼の意思でこの一週間触るのを我慢してきた。
 奴隷だからそういう事をしてもいいんだろうけど、我慢。
 彼女の仕事はこの屋敷に住む人たちのご飯を作る事と、食料の管理・買い付けだ。毎日やってくる商人にほしいものを伝えて持って来させているらしい。
 商人と関わる事だけが理由ではないけど、服は新しく与えてスカート丈が長いメイド服を着てもらっている。
 僕の視線に気づいたのか、「おかわりですか?」と聞いてきたので慌てて否定して食事を済ませた。
 食事の後はラオさんを見送るために今まで避けていたドランの南区画の先にある門までラオさんと一緒に歩いた。
 護衛としてアンディーがすぐ後ろをついてきていて、周囲を警戒している。片腕がないとはいえ、ゴリマッチョで人相も凶悪な彼が周りに睨みを聞かせているからか、特に問題が起きることはなかった。
 南区画は歓楽街とスラム街がある。綺麗なお姉さんたちが男性に声掛けをしているが、僕に話しかけてくる事はなかった。

「わざわざ門までついてくる事ねぇと思うんだがな。今生の別れでもねぇし。目的の物が手に入ろうが入らなかろうが、戻ってくるし」
「街の外だと何が起こるか分かんないんでしょ? 何かあった時に今生の別れになっちゃうかもしれないじゃん」
「考えすぎだ。そもそもアタシはある程度強いんだからそうそう後れを取る事はねぇよ」
「それでも心配なんだから仕方ないでしょ。一緒に冒険をした仲じゃん」
「冒険って言ってもダンジョンに行ったくらいだけどな」

 お喋りをしている間に南門に着いた。ここから先に進んでいくと不毛の荒野が続いているらしい。途中で道が分かれていて、道なりに進んでいくと都市国家ユグドラシルがあるらしい。
 荒野は過去の戦争の影響で植物が育ち辛くなったと言われている地で、アンデッドがよく出るらしい。昔あった戦争の戦死者たちではないか、と言われているが真偽は不明だ。
 一応この街の領主の領地に含まれているらしいが、魔物退治はある程度冒険者に任せているようで、アンデッド討伐の依頼が常設依頼としてあるらしい。
 そんな幽霊とかゾンビとかたくさん出そうな所を通っていくラオさんに渡すものがある。アイテムバッグの中から指輪と鉄製のコップのような見た目の物を取り出した。

「なんだそれ?」
「こっちの指輪は、帰還の指輪。対になる魔法陣は屋敷の地下に刻んでおいたから、危なくなったり、用事が済んだら使って」
「転移の魔道具かよ!! んなもん気軽に渡すんじゃねぇよ。おい、ドーラ。お前はコレがどれだけ貴重な物か分かってんだから止めろよなぁ」

 ラオさんが指輪を突き返してきたので、ドーラさんの方を見て文句を言っている間に指に通す。それから【付与】をした。

「って勝手につけんなよ。ほら、返す……って抜けねぇ!!!」
「固定化と使用者の指定を付与してみました。引き抜こうとしても無駄だよ。指輪を引っ張っているけど、その魔道具は使い切りの転移を使うまで、抜けないようにしたから。僕にとっていろいろ知ってるラオさんが護衛でいてくれた方が気楽なんだよ。屋敷の中に入って来ない新しい冒険者の護衛よりラオさんにいてほしい。だから、それを使ってでもサクッと帰ってきてね。それに、ラオさんにとって悪い事はないでしょう? 早く帰って来ればそれだけ妹さんの面倒をラオさんが見れるんだから」
「はぁ……わかったよ。ありがたく受け取っとく。んで? そっちは何?」
「これ? これは対アンデッド用の神聖ライト。こう、魔石をセットしましてね? ここのボタンを押すとアンデッドに効き目抜群の光が出まして、相手を倒す……と思われる魔道具です。まだ実験してないけど、ゾンビとか幽霊とか相手したくないからついでにテストしてきて」

 テストと言えば受け取りやすいでしょ? それに帰還の指輪の価値と比べたらこれはそこまでじゃないんじゃない?

「価値ないとか思ってねぇよな? これがどのくらいアンデッドに効果があるかはわからねぇけど、場合によっては今は人気がなくて存在を忘れられている南のダンジョンの価値が跳ね上がる代物だからな。まあ、実験なら付き合ってやんよ。効果がなくても問題ねぇしな」

 ラオさんは荷物の中に魔道具を入れると、僕の頭を乱雑に撫でまわす。
 その状態のまま、ドーラさんに「こいつをちゃんと見張っとけよ」と言った。
 撫でまわすのに満足したのか、荷物を担ぎ直して「行ってくる」とだけ言って南門から出ていくラオさん。
 僕はそんな彼女の背に、「気を付けてね」と言ったが、彼女は振り返る事なく手を挙げるだけだった。
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