49 / 1,023
第3章 居候して生きていこう
幕間の物語14.引きこもり王女は魔道具に夢中
しおりを挟む
ドラゴニア王国の中央にある王都には、それはそれは荘厳な白亜の城がある。
その城を取り巻くように各地の貴族たちの別邸があり、別邸をぐるりと囲むように内壁がある。
その内壁を囲むように密集して建てられているのが、冒険者や商売人がお世話になっているギルドであり、その冒険者や商売人相手に商いをする王都民の家や店。そしてそれらを囲う内壁よりも高い白亜の壁が外壁だ。
住んでいる王都民が内壁の内側に入る事は、そこまで珍しくない事だったが、白亜の城の中に入る事は滅多にない事だった。
その白亜の城に住まう一人の少女は今日も自室に引き籠る。
社交界デビューをした少女は、その日から自室から出るのが怖くなってしまったのだ。
「王女だからと甘やかされて育ったからあんなに醜いんだ」
そんな事を陰で言いながら笑っていた婚約者に顔を合わせる事なんて考えられなかった。
礼儀を弁えていない幼子からの棘のある言葉も、周りから晒される冷ややかな目も、読心の加護持ちだとどこかの誰かが恐れていた事も、すべて自分が気にしていた事だったからこそ、余計に堪えた。
他にも、ごく一部の者しか知らない体の秘密の事もあって、彼女のなけなしの自尊心も粉々になって消えた。
「もう、婚約を取り消して貰うのですわ」
社交界に出た後から、ストレスで暴飲暴食をした結果の自分を見てため息をつく少女。
前までは確かに丸々していたけど、それでもまだ見た目的にはましだったと少女は思っていた。今と違って動く事にそこまで苦労はなかったし。
十年ほど前はその愛くるしい見た目で今の婚約者のハートを射止めたほどだった。もともとの見た目は悪くないはずだ。
彼女が母親に抱かれて挨拶を交わした人物は一人の例外もなく、心の底から彼女を褒めていた。
ただ、元来太りやすい体質だったのに、最近の不規則かつ不健康な状況が本当に醜くなってしまったんだな、と少女は起き上がりにくくなった体をベッドに横たえて考えていた。
「その方が、きっといいですわ。あの方の心の中には、私への思いなど一つもないのですわ」
彼女が呼び鈴を鳴らすと、部屋の入り口の扉の向こう側の誰かが返答した。
「ちょっと言伝を頼みたいのですわ」
彼女が望めばなんでも叶う。そんな事を社交界で言われていたが、その通りですんなりと婚約が解消された。
もっと揉めるかな、と考えていた彼女だったが、彼女の父親はすんなりと了承した。
少女にとっては優しい父親だった。だから当たり前のように感じたが、本当にそうなのだろうか。
少女はちょっと疑問に感じたが、気にせず部屋を歩き始めた。
少しは歩かないと、いざという時運んでもらう事になってしまう。
そんな迷惑をかけるのは嫌だったが、彼女の努力も虚しく、どんどん体は重くなり、動かし辛くもなり、ベッドで寝転がって過ごす事がほとんどになってしまった。
そんな怠惰な生活も、終わりを迎える時が来た。
なんと少女の国に『異世界転移者』が異世界から転移していたらしいのだ。
父親からその事を伝えられ、場合によっては婚約を解消した少女とその少年が婚姻関係になる可能性もある。
そう聞くと少女は心が躍り、胸も高鳴った。物語で聞く異世界転移者と結ばれる空想を、当時幼かった彼女も庶民の女の子と同じようにしていた。庶民の女の子よりも結ばれる可能性が高い権力者の娘だったからなおさらだ。
婚約解消も、神様が運命を調整してくれた結果だったのかもしれない。
ただ、そうは思っても今の自分の見た目ではだめだ。努力をしなければ! と奮起する少女だったが、体は思うように動かず、少し動くだけでも一苦労だった。
体は思うように絞られる事はなく、ついつい手が伸びてしまう甘いものをやめる事もできなかった。
困り果てていると、ドラン公爵の領都に住み着いた魔道具師が作ったという魔道具が、彼女を少しいい方向に導いた。
「これ、とっても甘いですわ!」
「それは魔力マシマシ飴というものだそうです」
「魔力が増えるのですわ?」
「それはあくまで副次的な効果だったのでしょうね。ただ魔力を使って甘く感じさせているので、結果魔力を使う事になって魔力トレーニングにもなる、という事なのでしょう。ドラン公爵がレヴィア様への土産だと持ってきてくださいました」
「セシリアも舐めてみるのですわ!」
さっきまでの暗い表情だった少女は久方ぶりの天真爛漫の笑顔で魔力マシマシ飴を舐めていたかと思うと、側に控えて話をしていた侍女に飴を差し出す。
「結構です、私は甘いものが苦手ですので」
「あら、そうでしたわね?」
物怖じしない侍女のセシリアを気にした風もなく、この部屋に引き籠っている少女でありこの国の王女でもあるレヴィアは、残念そうに眉を八の字にしていた。
セシリアは大の辛党だったので仕方ない。これは自分で楽しむものとしよう、とそれから毎日レヴィアは魔力マシマシ飴を舐め続けていた。
甘いものが好きだからたくさん食べていたレヴィアだったが、魔力マシマシ飴を常に舐めていたらその欲は満たされた。
同じ見た目だったが、味の違う魔力マシマシ飴が数個あったのも飽きずに舐め続ける事が出来た理由だろう。
そうして少しずつ運動を頑張っていた彼女にある日、衝撃的なものが送られた。
「とてもブルブルするのですわああああぁぁぁぁ!!!!」
その城を取り巻くように各地の貴族たちの別邸があり、別邸をぐるりと囲むように内壁がある。
その内壁を囲むように密集して建てられているのが、冒険者や商売人がお世話になっているギルドであり、その冒険者や商売人相手に商いをする王都民の家や店。そしてそれらを囲う内壁よりも高い白亜の壁が外壁だ。
住んでいる王都民が内壁の内側に入る事は、そこまで珍しくない事だったが、白亜の城の中に入る事は滅多にない事だった。
その白亜の城に住まう一人の少女は今日も自室に引き籠る。
社交界デビューをした少女は、その日から自室から出るのが怖くなってしまったのだ。
「王女だからと甘やかされて育ったからあんなに醜いんだ」
そんな事を陰で言いながら笑っていた婚約者に顔を合わせる事なんて考えられなかった。
礼儀を弁えていない幼子からの棘のある言葉も、周りから晒される冷ややかな目も、読心の加護持ちだとどこかの誰かが恐れていた事も、すべて自分が気にしていた事だったからこそ、余計に堪えた。
他にも、ごく一部の者しか知らない体の秘密の事もあって、彼女のなけなしの自尊心も粉々になって消えた。
「もう、婚約を取り消して貰うのですわ」
社交界に出た後から、ストレスで暴飲暴食をした結果の自分を見てため息をつく少女。
前までは確かに丸々していたけど、それでもまだ見た目的にはましだったと少女は思っていた。今と違って動く事にそこまで苦労はなかったし。
十年ほど前はその愛くるしい見た目で今の婚約者のハートを射止めたほどだった。もともとの見た目は悪くないはずだ。
彼女が母親に抱かれて挨拶を交わした人物は一人の例外もなく、心の底から彼女を褒めていた。
ただ、元来太りやすい体質だったのに、最近の不規則かつ不健康な状況が本当に醜くなってしまったんだな、と少女は起き上がりにくくなった体をベッドに横たえて考えていた。
「その方が、きっといいですわ。あの方の心の中には、私への思いなど一つもないのですわ」
彼女が呼び鈴を鳴らすと、部屋の入り口の扉の向こう側の誰かが返答した。
「ちょっと言伝を頼みたいのですわ」
彼女が望めばなんでも叶う。そんな事を社交界で言われていたが、その通りですんなりと婚約が解消された。
もっと揉めるかな、と考えていた彼女だったが、彼女の父親はすんなりと了承した。
少女にとっては優しい父親だった。だから当たり前のように感じたが、本当にそうなのだろうか。
少女はちょっと疑問に感じたが、気にせず部屋を歩き始めた。
少しは歩かないと、いざという時運んでもらう事になってしまう。
そんな迷惑をかけるのは嫌だったが、彼女の努力も虚しく、どんどん体は重くなり、動かし辛くもなり、ベッドで寝転がって過ごす事がほとんどになってしまった。
そんな怠惰な生活も、終わりを迎える時が来た。
なんと少女の国に『異世界転移者』が異世界から転移していたらしいのだ。
父親からその事を伝えられ、場合によっては婚約を解消した少女とその少年が婚姻関係になる可能性もある。
そう聞くと少女は心が躍り、胸も高鳴った。物語で聞く異世界転移者と結ばれる空想を、当時幼かった彼女も庶民の女の子と同じようにしていた。庶民の女の子よりも結ばれる可能性が高い権力者の娘だったからなおさらだ。
婚約解消も、神様が運命を調整してくれた結果だったのかもしれない。
ただ、そうは思っても今の自分の見た目ではだめだ。努力をしなければ! と奮起する少女だったが、体は思うように動かず、少し動くだけでも一苦労だった。
体は思うように絞られる事はなく、ついつい手が伸びてしまう甘いものをやめる事もできなかった。
困り果てていると、ドラン公爵の領都に住み着いた魔道具師が作ったという魔道具が、彼女を少しいい方向に導いた。
「これ、とっても甘いですわ!」
「それは魔力マシマシ飴というものだそうです」
「魔力が増えるのですわ?」
「それはあくまで副次的な効果だったのでしょうね。ただ魔力を使って甘く感じさせているので、結果魔力を使う事になって魔力トレーニングにもなる、という事なのでしょう。ドラン公爵がレヴィア様への土産だと持ってきてくださいました」
「セシリアも舐めてみるのですわ!」
さっきまでの暗い表情だった少女は久方ぶりの天真爛漫の笑顔で魔力マシマシ飴を舐めていたかと思うと、側に控えて話をしていた侍女に飴を差し出す。
「結構です、私は甘いものが苦手ですので」
「あら、そうでしたわね?」
物怖じしない侍女のセシリアを気にした風もなく、この部屋に引き籠っている少女でありこの国の王女でもあるレヴィアは、残念そうに眉を八の字にしていた。
セシリアは大の辛党だったので仕方ない。これは自分で楽しむものとしよう、とそれから毎日レヴィアは魔力マシマシ飴を舐め続けていた。
甘いものが好きだからたくさん食べていたレヴィアだったが、魔力マシマシ飴を常に舐めていたらその欲は満たされた。
同じ見た目だったが、味の違う魔力マシマシ飴が数個あったのも飽きずに舐め続ける事が出来た理由だろう。
そうして少しずつ運動を頑張っていた彼女にある日、衝撃的なものが送られた。
「とてもブルブルするのですわああああぁぁぁぁ!!!!」
127
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる