上 下
38 / 642
第3章 居候して生きていこう

27.事なかれ主義者と新しい拠点

しおりを挟む
「わぁー……でっか……」

 あほ面を晒しながら目の前の建物を見上げる。
 大きな壁に、たくさんのガラスを使われた窓。柱には細かな装飾が施されている。
 壁は元々は白かったのだろうが、汚れが目立つ。それに草が伸びて屋敷全体を覆いつくすのではないかと不安になる。
 とても大きな三階建ての屋敷だった。領主館ほどではないが。

「ここが新たな拠点ねぇ」
「あれ、そういう話だったっけ?」

 僕は身に覚えのない事で猫の目の宿に追い出され、途方に暮れていたところをドーラさんに「ついてきて」と言われて連れられてきたんですけど。
 いつからそういう話になっていたんだろう? と思ってドーラさんを見る。
 普段の全身鎧を身にまとう事なく素顔を晒した彼女はとても綺麗な顔をしていた。
 ラオさんが凛々しい系の美女だとしたら、ドーラさんは清楚系の美少女だ。

「入って」

 ドーラさんは特に否定もせず、屋敷の扉を開いた。
 言われるまま中に入ると、中は埃が積もっていた。どれだけ使われていなかったのか。
 ドーラさんが先導をしてくれて、広い部屋に着いた。
 ここも大変埃っぽい。さっきからラオさんのクシャミが止まらないんですけど、アレルギーですか?

「ここに住めばいい」
「勝手に住んでいいの?」
「問題ない。今日から私の家」

 そうなの!?
 まあ、めっちゃお金使ってたくさん魔道具手に入れているからお金持ちだとは思っていたけど、びっくりだ。
 立派な屋敷なのに全く使われていない事にもびっくりなんだけどさ。

「いや、でも悪いよ。冒険者ギルドにまた宿紹介してもらえばいいし」
「今回の事は報告が行ってるだろうし、騒動が起きてもいい高級宿なんてねぇぞ」
「魔道具実験し放題」
「確かにこの辺りはバカみたいに儲けてる商人とか、貴族の別邸とかが立ち並んでる場所だからな。それぞれの建物が物理的に離れてるから、ある程度は大丈夫だろうな。変な奴が入ってきたら切り捨てれば入ってきたやつが悪い、ってなるし」
「魔道具売り放題」
「あー、近くに露天商のスペースあったな。ホムラも楽になるんじゃねぇの」

 ドーラさんとラオさんが協力でもしているのか、めちゃくちゃここを推してくる。
 んー、ほんとに良いのかなぁ。
 でも確かに今度紹介してもらえるって保証ないしな。
 わざわざドーラさんがここを準備してくれたみたいだし、断らないほうが楽そうだし。でも――。

「住むためには掃除しなきゃいけないよね」

 なんか手っ取り早く掃除出来ればいいんだけど……あ。

「また変なの思いついた顔だなぁ、おい」

 掃除道具ですけど!? ラオさんがこのめちゃくちゃ大きい屋敷掃除してくれるんですかぁ?



 ラオさんは結局掃除をする事なく、「ギルドに顔を出してくる」と言って去って行ってしまった。
 残されたドーラさんに部屋割りをしてもらっている間に、僕は新しい魔道具を作った後はさっさと埃吸い吸い箱をたくさん作った。
 新しい魔道具は、命名はしていない。命名はもうホムラに任せているので、僕はいちいちしないのだ。
 ……名付けた名前が使われなかったのを根に持ってるわけじゃない。
 とりあえず外に出て辺りを見渡す。
 一面草が生い茂っている。丁重に管理されているわけではなく、好き勝手に咲いているのだ。
 その一部が壁にまで張り付いているので、どっちから対応しようかと悩んだが、とりあえず目の前の背丈以上にも伸びている草どもを一本残らず刈り取るのだ。

「どのくらい魔石を入れましょう、マスター」
「んー、とりあえずゴブリンの魔石十個くらい入れておいて」

 ホムラが光沢を放っている平ぺったい円柱の魔道具の蓋を開けて中に魔石を放り込んだ。
 ロボット掃除機のような見た目のそれは全自動草刈り機。
 魔力を放って、周囲にある草を刈りとれるように鎌をブラシの代わりにつけた。
 動物を近くに検知した場合は止まるようになっている。
 じゃないと止める時に危なそうだと思ったからつけたんだけど、よくよく考えたらドーラさんもラオさんも特に怪我とかしなさそうだ。

「まあ、いいか。ホムラ、埃吸い吸い箱置きに行こ」
「はい、マスター」

 ホムラの後ろをついていき、玄関に入ったところでとりあえず埃吸い吸い箱を1台その場に置いた。
 勢いよく埃が吸い込まれていき、汚れてはいるが、何か積もっている感じのしない床の範囲がどんどんと広がっていく。
 ついつい吸い込まれていく埃に目を奪われて、立って眺めていると甘いいい香りが鼻をくすぐった。

「って、ドーラさん近っ!?」
「部屋割り決めた」
「あ、はい。いくよ、ホムラ」

 素顔を晒した美少女のドーラさんがすぐ側にいるとめちゃくちゃ緊張するのでもう少し離れてほしいです。あと、全身鎧を着ている時には気づかなかったけど、微かに甘くいいにおいがするので離れてほしいです。とにかく、離れてほしいです。
 衝動がやばいので理性で押さえつけつつ、ドーラさんの後ろを歩いていく。
 階段を上り、さらに上り、三階まで到着したところである一つの部屋を案内された。
 とても広いその部屋には、埃まみれだがめちゃくちゃ大きなベッドがあり、衣装ケースのようなものも置かれている。
 あの大きな机は作業台として重宝しそうだ。疲れたら後ろを向いて景色を楽しむのもよさそうだ。
 ……今は窓もなんかくすんでいてろくに見えないんですけど、きっといい景色なんでしょうね。

「ここで寝泊まりして」
「ホムラの部屋は?」
「?」

 いや、そこで首を傾げないでほしいんですが。ホムラも真似しない。

「みんなここで寝る」
「みんな? え、ぼくとホムラはまだわかるけど、他に誰が?」
「私とラオ」
「えっと……どうしてそうなるんですか?」
「ベッドが他にない」

 ……僕、ソファーで寝ますね。
 ちょっとどっかに大きなソファーないですかね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】偽装カップルですが、カップルチャンネルやっています【幼馴染×幼馴染】

彩華
BL
水野圭、21歳。ごくごく普通の大学生活を送る一方で、俗にいう「配信者」としての肩書を持っていた。だがそれは、自分が望んだものでは無く。そもそも、配信者といっても、何を配信しているのか? 圭の投稿は、いわゆる「カップルチャンネル」と言われる恋人で運営しているもので。 「どう? 俺の自慢の彼氏なんだ♡」 なんてことを言っているのは、圭自身。勿論、圭自身も男性だ。それで彼氏がいて、圭は彼女側。だが、それも配信の時だけ。圭たちが配信する番組は、表だっての恋人同士に過ぎず。偽装結婚ならぬ、偽装恋人関係だった。 始まりはいつも突然。久しぶりに再会した幼馴染が、ふとした拍子に言ったのだ。 「なぁ、圭。俺とさ、ネットで番組配信しない?」 「は?」 「あ、ジャンルはカップルチャンネルね。俺と圭は、恋人同士って設定で宜しく」 「は??」 どういうことだ? と理解が追い付かないまま、圭は幼馴染と偽装恋人関係のカップルチャンネルを始めることになり────。 ********* お気軽にコメント頂けると嬉しいです

俺が乳首痴漢におとされるまで

ねこみ
BL
※この作品は痴漢行為を推奨するためのものではありません。痴漢は立派な犯罪です。こういった行為をすればすぐバレますし捕まります。以上を注意して読みたいかただけお願いします。 <あらすじ> 通勤電車時間に何度もしつこく乳首を責められ、どんどん快感の波へと飲まれていくサラリーマンの物語。 完結にしていますが、痴漢の正体や主人公との関係などここでは記載していません。なのでその部分は中途半端なまま終わります。今の所続編を考えていないので完結にしています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

【完結】天使がゴーレムになって戻って来ました〜虐げてきた家族とは決別し、私は幸せになります〜

仲村 嘉高
恋愛
家族に虐げられてきたフローラ。 婚約者を姉に奪われた時、本当の母は既に亡くなっており、母だと思っていたのは後妻であり、姉だと思っていたのは異母姉だと知らされた。 失意の中、離れの部屋にこもって泣いていると、にわかに庭が騒がしくなり……?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【R18】××に薬を塗ってもらうだけのはずだったのに♡

ちまこ。
BL
⚠︎隠語、あへおほ下品注意です

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...