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第2章 露天商をさせて生きていこう
幕間の物語8.新興勢力は依頼した。
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ドラゴニア王国の南に位置するダンジョン都市ドランには、人が多い。
人が多ければ、それだけ後ろ暗い事をし始める者たちも出てくる。
犯罪者ギルドと市民からは呼ばれている団体もできては消えてを繰り返している街がドランだ。
領主もただ黙って好き勝手やらせているわけではないが、どうしてもそういう輩は一定数出てきてしまうものだ。どれだけ取り締まろうと、次から次へとニョキニョキ生えてくる雑草のように出てくる彼らには、少し頭を悩ませていた。
ドランの南側に位置する建物の地下。暗闇の中で円卓を囲んでいる人物たちも、最近できたばかりの新興勢力だった。
金稼ぎがうまく、どんどん勢力を拡大している彼らだが、少し前から奴隷に魔道具の制作をさせ始めた。
一昔前までは、魔道具はダンジョンで手に入る不思議なものだった。
それを解明して自分たちで作り出そうとする者たちは数えきれないほどいたが、その奴隷もそのうちの一人だったらしい。
気が付いた時には、売れる魔道具を生み出す前に借金まみれだったその人物は、ドランで突如売られ始めた魔道具の一つを劣化版とはいえ、作り出して見せた。
「売り上げはどうだ」
「順調なようです。低ランクのソロ冒険者を中心に今は売れているようですが、どんどん需要は増すでしょう」
「新しいものはできたのか」
「……それは、できてないようです」
顔に傷のある巨漢の男が頬がこけた神経質そうな男と話をし始めた。
話題に上がるのは魔道具を作っている奴隷の事。
新しいものはできていないが、今でも十分稼いでいる。
ただ、その奴隷を手に入れるために払った金額ほど稼いでいるわけではない。
もっと簡単にできるものだと思っていた巨漢の男は「いつできんだ、それは」と苛立ちながら怒鳴りつけたが、神経質そうな男は視線を逸らすだけ。
その男に代わって、女の声がする。
「いっその事、魔道具師を捕まえればいいじゃない」
「それが出来れば苦労してねぇよ」
その少年にはすでに冒険者ギルドが囲い込みを始めていると、巨漢の男には下っ端から情報が入っていた。
Bランク以上の冒険者が絶えず、彼のそばにいるとの事だった。
街の外に出てくれればいいのだが、目的の人物は街の決まったところを往復するだけの人物。
夜中に忍び込もうにも泊っている宿は、『猫の目の宿』というかつて冒険者をしていた獣人夫婦が営んでいる場所だ。
大勢で押しかければ多勢に無勢で捕まえることはできるだろうが、遅かれ早かれ逆に捕まえられるのが目に見えていたので彼らは動けなかった。
「一人だけ、バレずに盗んで来れる人物に心当たりがあるわ。ほら、王都の方で騒ぎを起こした――」
「金が馬鹿みたいにかかるだろうが」
「出せない金額ではないでしょう? 捕まえた後は遠い街で魔道具を作らせればいいでしょう。そうね……最近勇者が召喚されたと噂されている国にでも行けばいいんじゃないかしら」
華美な装飾を身につけた派手な女性はつめの手入れをしながら「いろんなものをどんどん作り出しているんだから、すぐに元は取れるでしょ」と巨漢の男に流し目を送った。
顔の傷をなぞりながら、巨漢の男は考える。
女の言う通り、彼らに出せない金額ではなかった。
盗む対象が物から者に代わるだけで、できなくはないだろう。
巨漢の男が決断すると、彼らは一斉に動き出した。
彼らが動き出して一週間後には、彼らのアジトに目的の人物がやってきていた。
目深に被った漆黒のローブに、マスクをつけた人物の顔はわからないが、間違いない事は彼らがわかっていた。
目的の人物を呼び出し、このアジトに来るように伝えていた日に、彼らは円卓を囲んで過ごしていたが、いつのまにか彼がそこにいたのだ。
「仕事の話をしよう」と、マスクの人が言うまで、誰も彼には気づかなかったから何かしらの魔道具の力を借りているのだろう、と巨漢の男は護衛を手で止めながら判断した。
「それで、盗んでほしいものはなんだ?」
「黒髪のガキだ」
「………黒髪のガキを攫って来いと? 人売りの片棒を担ぐ気はねぇ」
「待てよ。別に勇者の子孫を売りたいわけじゃねぇ。そいつが魔道具を作ってるらしくてな。ちょっとお越しいただいて、協力関係を作りたいだけさ」
「物は言いようだな」
「報酬は二倍払うわ」
「三倍だ」
「いいわよ。金を払えば何でも盗ってくるんだから、交渉なんてせずに金を払えばいいのよ、ボス」
巨漢の男は眉間に皺を寄せて不満そうだったが、派手な女は気にした様子もなく身につけた宝石を見つめ「ついでに宝石なんかも頼もうかしら」なんて事を呟いていた。
神経質そうな男が、マスクをつけた男の前に事前に用意していた前金の入ったカバンと、黒髪の少年についての知っている情報を渡す。
マスクをつけた男は、まずは金の数を数え、その後にダンジョン産の紙にまとめられた情報に目を通す。
拠点にしている場所、最近の生活リズム、わかっている範囲で護衛に関わった冒険者の事、拠点の宿に他に誰が住んでいるのか等。
「捕まえた後は?」
「ここへ連れてこい。……本当に誰にもバレずに捕まえられるんだろうな」
「仕事はきちんとこなす。今日にでも連れてきてやる」
そういうと彼は忽然とその場から姿を消した。
残された彼らは、いつでも拠点を変えられるように準備を始めるのだった。
人が多ければ、それだけ後ろ暗い事をし始める者たちも出てくる。
犯罪者ギルドと市民からは呼ばれている団体もできては消えてを繰り返している街がドランだ。
領主もただ黙って好き勝手やらせているわけではないが、どうしてもそういう輩は一定数出てきてしまうものだ。どれだけ取り締まろうと、次から次へとニョキニョキ生えてくる雑草のように出てくる彼らには、少し頭を悩ませていた。
ドランの南側に位置する建物の地下。暗闇の中で円卓を囲んでいる人物たちも、最近できたばかりの新興勢力だった。
金稼ぎがうまく、どんどん勢力を拡大している彼らだが、少し前から奴隷に魔道具の制作をさせ始めた。
一昔前までは、魔道具はダンジョンで手に入る不思議なものだった。
それを解明して自分たちで作り出そうとする者たちは数えきれないほどいたが、その奴隷もそのうちの一人だったらしい。
気が付いた時には、売れる魔道具を生み出す前に借金まみれだったその人物は、ドランで突如売られ始めた魔道具の一つを劣化版とはいえ、作り出して見せた。
「売り上げはどうだ」
「順調なようです。低ランクのソロ冒険者を中心に今は売れているようですが、どんどん需要は増すでしょう」
「新しいものはできたのか」
「……それは、できてないようです」
顔に傷のある巨漢の男が頬がこけた神経質そうな男と話をし始めた。
話題に上がるのは魔道具を作っている奴隷の事。
新しいものはできていないが、今でも十分稼いでいる。
ただ、その奴隷を手に入れるために払った金額ほど稼いでいるわけではない。
もっと簡単にできるものだと思っていた巨漢の男は「いつできんだ、それは」と苛立ちながら怒鳴りつけたが、神経質そうな男は視線を逸らすだけ。
その男に代わって、女の声がする。
「いっその事、魔道具師を捕まえればいいじゃない」
「それが出来れば苦労してねぇよ」
その少年にはすでに冒険者ギルドが囲い込みを始めていると、巨漢の男には下っ端から情報が入っていた。
Bランク以上の冒険者が絶えず、彼のそばにいるとの事だった。
街の外に出てくれればいいのだが、目的の人物は街の決まったところを往復するだけの人物。
夜中に忍び込もうにも泊っている宿は、『猫の目の宿』というかつて冒険者をしていた獣人夫婦が営んでいる場所だ。
大勢で押しかければ多勢に無勢で捕まえることはできるだろうが、遅かれ早かれ逆に捕まえられるのが目に見えていたので彼らは動けなかった。
「一人だけ、バレずに盗んで来れる人物に心当たりがあるわ。ほら、王都の方で騒ぎを起こした――」
「金が馬鹿みたいにかかるだろうが」
「出せない金額ではないでしょう? 捕まえた後は遠い街で魔道具を作らせればいいでしょう。そうね……最近勇者が召喚されたと噂されている国にでも行けばいいんじゃないかしら」
華美な装飾を身につけた派手な女性はつめの手入れをしながら「いろんなものをどんどん作り出しているんだから、すぐに元は取れるでしょ」と巨漢の男に流し目を送った。
顔の傷をなぞりながら、巨漢の男は考える。
女の言う通り、彼らに出せない金額ではなかった。
盗む対象が物から者に代わるだけで、できなくはないだろう。
巨漢の男が決断すると、彼らは一斉に動き出した。
彼らが動き出して一週間後には、彼らのアジトに目的の人物がやってきていた。
目深に被った漆黒のローブに、マスクをつけた人物の顔はわからないが、間違いない事は彼らがわかっていた。
目的の人物を呼び出し、このアジトに来るように伝えていた日に、彼らは円卓を囲んで過ごしていたが、いつのまにか彼がそこにいたのだ。
「仕事の話をしよう」と、マスクの人が言うまで、誰も彼には気づかなかったから何かしらの魔道具の力を借りているのだろう、と巨漢の男は護衛を手で止めながら判断した。
「それで、盗んでほしいものはなんだ?」
「黒髪のガキだ」
「………黒髪のガキを攫って来いと? 人売りの片棒を担ぐ気はねぇ」
「待てよ。別に勇者の子孫を売りたいわけじゃねぇ。そいつが魔道具を作ってるらしくてな。ちょっとお越しいただいて、協力関係を作りたいだけさ」
「物は言いようだな」
「報酬は二倍払うわ」
「三倍だ」
「いいわよ。金を払えば何でも盗ってくるんだから、交渉なんてせずに金を払えばいいのよ、ボス」
巨漢の男は眉間に皺を寄せて不満そうだったが、派手な女は気にした様子もなく身につけた宝石を見つめ「ついでに宝石なんかも頼もうかしら」なんて事を呟いていた。
神経質そうな男が、マスクをつけた男の前に事前に用意していた前金の入ったカバンと、黒髪の少年についての知っている情報を渡す。
マスクをつけた男は、まずは金の数を数え、その後にダンジョン産の紙にまとめられた情報に目を通す。
拠点にしている場所、最近の生活リズム、わかっている範囲で護衛に関わった冒険者の事、拠点の宿に他に誰が住んでいるのか等。
「捕まえた後は?」
「ここへ連れてこい。……本当に誰にもバレずに捕まえられるんだろうな」
「仕事はきちんとこなす。今日にでも連れてきてやる」
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