【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

文字の大きさ
上 下
30 / 1,094
第2章 露天商をさせて生きていこう

幕間の物語7.訳アリ冒険者と妹

しおりを挟む
 ドラゴニア王国の南に位置するドランには、ドラゴニア王国の中でも有名な修道院がある。
 そこには心に傷を負ったものや、四肢欠損によって生活が難しい元冒険者、素行に問題があった貴族の子ども等々――訳アリの者たちが集められ生活をしている。
 排他的な環境で、唯一外との交流があるのは、外から来た面会者のみ。
 素行に問題があって手に負えなくなった貴族の関係者が来る事はほとんどないし、心に傷を負った者たちには昔の知人と会って辛い思いをする事もありうるのでほぼない。
 四肢欠損によって生活が難しくなった元冒険者たちにたまに面会者が来るくらいだ。
 その中の一人に、大柄な女性がいた。
 真っ赤に燃えるような赤い髪に、赤い瞳。鍛えられた四肢は長く、タンクトップにぴったりのズボンを身につけているため、豊満な胸と一緒にお尻が強調されている。
 『鉄拳』という二つ名がつけられたBランク冒険者のラオが、そこにいた。
 彼女はある部屋の扉をノックした。
 ただ、そんな事をしても中から応答があるわけではない。
 彼女は深呼吸をしてから部屋に入った。
 部屋の中には大きなベッドとその近くにある椅子以外は何もなかった。
 窓を開け、空気の入れ替えをし、ベッドの上に横たわっている女性を見る。
 ラオにとても似ているその女性は、少しも動く事はなく、その場に横になっていた。

「久しぶりだな、ルウ。ちょっと長期間の護衛の仕事が入っちまってなぁ――」

 ラオは最近会った事を話しながら、自分の妹であるルウの体をタオルで拭いたり、服を着替えさせたりする。
 普段は修道院にいるものがやってくれているが、ラオが来た時は自分でやるようにしていた。

「――んで、この前たまたまダンジョンに入ったら活発期だったみたいだ。まあ、アタシにとっては大した事じゃなかったけどよ、シズトが雑魚を一気に縛り付けちまってなぁ。めっちゃ楽だったが、それができるなら最初からしろよとか、なんでそんなびくびくしてんだよとかいろいろ思う所はあったわけ」

 一通り世話が終わったらラオは椅子に座って、妹に話をし続けた。
 ただ、妹は反応を示さない。

「その時に嫌なもん見せちまって、それ以来街の外に出たがらなくなっちまった。アタシにゃ、正直どう扱ったもんかわからんよ。こういった時、お前がいてくれたらって思っちまうよ、ルウ」



 妹への一方的な話をし終わり、ラオは部屋を出て修道院の責任者の元へ向かった。
 法服を身にまとい、穏やかな笑みを浮かべたご老人が庭でのんびり日向ぼっこっをしていた。

「今月の分だ」

 そう言ってその人物に向けて、小袋を放り投げる。
 その人物は難なくそれをキャッチして受け取ると中を確認した。
 金貨が数枚入っている。

「確かに。……まだ、世界樹の素材は手に入らないようですね。謎の加護を使ったと思われる呪いには、もう世界樹を使ったものしか効き目がないとは思いますが……」
「そうだな。特級ポーションを使っても駄目だったんだから、何とか手に入れたいんだがオークションすら行われねぇ。もう正直アタシから行った方がいいような気がしてきたわ」
「一年ほど前から向こうからの交易商がやってきませんからね。何かしらトラブルが起きてるのでは、という話です。貴女が向こうへ行くというなら、その間の世話はしっかりと勤めさせていただきます」
「ああ、そん時はよろしく頼むわ。まあ、しばらくは割の良い仕事が入ってっから、もう少しだけこっちで働くつもりだけどな。……それじゃ、アタシはそろそろ帰るわ」
「そうですか。貴女とルウ様に神のご加護を」

 ラオは鼻で笑ってその場を立ち去った。
 神様が与えた加護のせいで妹がああなったというのに、今更神に祈る気がなかった。
 妹をあんな状態にした加護持ちは彼女がきっちりと、自力で落とし前を付けた。
 ここに来るまでの治療方法を模索するのも自力でやった。
 使える手を使い尽くして、正直お手上げ状態だ。

「シズトが治せる魔道具を作れたらいいんだけどな」

 そんな都合のいい事が起きるわけもない。
 そう彼女は自分の中で結論付けて、猫の目の宿へと帰っていった。
 宿に戻ると、宿のそばにいた代理の冒険者に礼を言って、帰ってもらう。
 シズトはまだ部屋の中でなんかしているようだ。
 最近は浮遊台車の納品以外は部屋の中で過ごす事が多く、護衛の役割はほぼない。
 彼女は自分の泊っている部屋で、隣の部屋の気配を気にしつつ、その場でできる筋トレをして過ごした。



 シズトが領主からの指名依頼を受けて一週間が経った。
 ラオは暇を持て余し、今日も魔力マシマシ飴を舐めながら筋トレに励む。
 シズトが部屋から出てきた気配を感じたので、自分も出るか、と廊下に出ると浮遊台車の上に浮遊台車をさらに二台積んで押していた。
 階段では落ちそうだったので代わりに持ち、ラオはシズトと一緒に冒険者ギルドへと向かう。
 中央通りではたくさんの人が往来し、その中には浮遊台車を押して進む子どもたちの姿もある。
 魔力の増やし方や、拡張工事の中でラオの中で以前から感じていた疑問が膨れ上がっていく。
 シズトは、世間一般の常識に疎すぎた。
 
(もしかしたら、勇者か?……そんなわけないか)

 ラオの中で一つの可能性が生まれ、すぐに消された。
 勇者は戦闘に特化した存在で、シズトの授かっている加護は戦闘とは縁遠い生産系だからだ。
 ラオは、シズトから「勇者なんです」と言われても信じる事が出来るか不安を感じた。
 冒険者ギルドでちょっかいをかけそうな連中はだんだん減ってきたが、ラオに集まる視線が増えている事に彼女は気づいた。

(まあ、護衛といいつつほとんど外に出ない楽な護衛対象だしな。それに、今流行りの魔道具を作ってるし、そういった意味で取り込みたいんだろうな)

 ただ、声をかける前に受付の方から感じるプレッシャーに心が折られて話しかける事ができない者しかその場にはいなかった。
 冒険者ギルドでの納品を終わらせ、猫の目の宿に戻ると真っ先にホムラが二人を出迎えた。
 そして、彼女の案内で部屋に入る。
 ほとんど何もないその部屋は、ベッドも誰も使ってないかのようだ。
 魔法生物だし、眠気はないのかもしれないとくだらないことを考えていたら話が進んでいて、贋作についての話になっていた。

(魔道具師なんていたか?)

 ラオは、少し前に別の場所で贋作が出回っている事を聞いていたからそれ自体には驚く事はなかった。
 ただ、魔道具師がいれば自分が真っ先に訪ねているはず、と誰が作ったかわからない浮遊ランプを見ながら頭の中で考えた。
 ただ、考えるのは元々彼女の仕事ではない。
 特に思いつく事はなかったので。イザベラに後で報告しようと、頭の片隅に残しておく。

「贋作のようです、マスター」
「ああ、それならアタシも聞いてんな。歓楽街の方で銀貨二枚で売られてるんだとか」
「へー。そんな事より、ホムラ、嫌な事言われたの?」
「そんな事って……まあ、お前がいいならいいけどよ」
「『銀貨二枚の物を買い貯めて金貨二枚で売るな』というようなニュアンスの事でした、マスター。少し静かになってもらった後、比較用として購入しようと思い聞いたところ、親切に教えてくれました」

 ホムラが無表情で話をしていたが、ラオは彼女の実力を知っているため相手の事が気になった。
 こんな姿をしているが、ホムラは魔法生物だ。
 人間離れした力を持っているので、ただ殴られただけでも、チンピラ相手だと結構やばい事になりうる。

「……そいつ、生きてんだよな」
「………」

 返答がなく、ただシズトの方を見ているホムラ。
 ラオは、この反応は想定の範囲内だったが、シズトはめちゃくちゃ慌てていた。

「え、殺したの!?」
「いいえ、殺してません、マスター」
(無言だったのは、アタシが聞いたからだよ)

 そんな事を思いながら呆れていると、シズトは「なんだ、じゃあいいか」なんて結論付けた。

「いや、よくねぇからな? いい加減、こいつに加減を教えたらどうなんだよ。そのうちほんとに死人が出ても知らねぇぞ? って、聞いてねぇし」

 ラオが忠告をするも、魔道具を興味深そうに弄り回している。
 一度こいつにホムラの本性を見せた方がいいかもしれない、なんて事を思ってはいるのだが、なかなかホムラはシズトの前で尻尾を出さない。

「なんか光弱いねぇ」
「光が弱いだけでなく、魔力効率も悪いようでスライムの魔石ではつきませんでした、マスター」
「そうなんだ。じゃあなに使ってるの?」
「最低限の光がつくのはワンランク上のゴブリンの魔石です。ただ、マスターの作られた浮遊ランプくらいの光だともっと上のランクが必要です、マスター」
「それで、結局どうすんだ? 殴り込みでもかけるか?」
「なんでそんな事をしなきゃいけないのさ」
「腕が鈍っちまいそうだ」

 ラオは本気で室内トレーニングを考えねぇといけねぇな、なんて事を考えながら魔力マシマシ飴を舐め続けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...