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第1章 冒険者になって生きていこう
幕間の物語3.猫耳少女と黒髪のお客さん
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ドラゴニア王国の南に位置するドランは、ダンジョン都市として有名で人の出入りが多い。
ダンジョンに夢と欲望を抱いてやってくる冒険者。
冒険者が持ち帰った遺物を買い付けに来る貴族の関係者。
また、冒険者が持ち帰った様々な物を買い付けに来る行商人。
人の出入りがたくさんあれば、それだけ泊まる場所が必要になる。
安い代わりにひたすら詰め込まれるような宿もあれば、高級路線で貴族の関係者や、大商人を泊める宿もある。
『猫の目の宿』はその中間あたりで、仕事柄偏見が少ない者もいる中ランクの冒険者をターゲットとしている宿だ。
獣人が営んでいる宿だが、営んでいる者たちが数年前まで冒険者として活動していた事もあり、冒険者ギルドとも懇意としている宿の一つだ。
そんな宿に少し前から、変な少年が泊まるようになった。
駆け出し冒険者の少年が泊まるような宿ではなかったが、ギルドからの紹介だった事や、お金は払ったので従業員は疑問に思いつつも様子を見る事にした。
「おそらく、どこかの村で勇者様にお手つきされた女が産んだ子どもかなんかだろうな。言動を見ても、貴族の教育とか受けてねぇだろうし」
「そうですね。字の読み書きはできるようなので、ある程度のお金を貰っていたのか、商人の家系だったのかもしれません」
「まあ、ギルドの面子を潰すわけにもいかねぇ。ラン、失礼のないようにしろよ」
「分かってるよー。もー、いちいちうるさいなー」
注意をされた猫人族の少女は頬を膨らませてふてくされている。ご機嫌斜めに耳は横を向き、尻尾はゆらゆらと揺れていた。
その様子を少女の両親は心配そうに見ていた。
昼間は猫耳少女が担当する時間帯だ。
と、言っても今泊っているお客さんは三階の黒髪の少年と、二階の商人風の男たちだけ。
少年は朝、変な物を押して出て行ったと聞いていたし、商人風の男たちはチェックアウトした。お昼の時間も終わって、お昼だけを食べにくる近所の人も来ない。
手持無沙汰だったランは、店番をしながら軽く掃除をする。
「めんどくさいなー。もっと簡単に掃除できたらいいのにー」
床を掃きつつ、文句を言っていた猫耳少女の声を拾ったのは、入り口から入ってきた黒髪の少年――シズトだった。
「おかえりなさーい。鍵取ってくるねー」
鍵を渡すと、丁寧にお礼を言われるのは、ランはあまり経験した事がなかった。
そんな人間もいるんだなー、なんて事を考えていたら、少年は机に座ってくつろぎ始めた。
「お掃除、大変そうですね?」
「そうなんだよー、いつもいつも大変なんだよー」
ランは愚痴を言える同年代がいなかった事もあり、シズトにいろいろ言ったが、いい感じにシズトも相槌を打ってくれるものだから、饒舌になっていった。
「高い所だと、ランの手じゃ届かなくて、埃落とすの大変なんだよー。それに床拭きしないと埃が隅の方にたまっちゃうんだよー! でもおかーさんもおとーさんも他のお仕事で大変だからランがしないとなんだー……」
ランは矢継ぎ早に埃に対するたくさんの不満をシズトに愚痴った。
ただ、シズトは特にそれを気にした風もなく、ピーン! と立った尻尾や、ゆらゆらと揺れる尻尾、へにゃっと元気なく垂れていく尻尾――とにかく尻尾を見ていた。というか、尻尾しか見ていなかった。
ランは話をしている間にいつの間にかシズトの座っていた席の前の席に座り、他愛もない愚痴を延々と繰り返し、夕方頃にその様子に気づいたゴリマッチョな父親に拳骨を落とされて、尻尾を逆立てながら逃げていった。
「なーに、これー?」
数日後、ランがいつものように掃除をしていると、冒険者としての仕事を早く終わらせて帰ってきていたシズトが箱を持って部屋から出てきた。
その箱をランにあげる、というのだからランは興味深そうに箱を眺めていた。
木の板で作られた立方体の箱は両手で持てるくらいの大きさだった。
下の方に引き出しのようなものがあり、引っ張ると正方形のトレーのような物が出てくる。真ん中には魔法陣が刻まれていた。
側面は細かい穴があり、中は見えた。
上面の正方形の中央には小石が入るくらいのくぼみがあった。それを中心として上下左右対称に穴が無数に並んでいる。
「埃吸い吸い箱。このくぼみにくず魔石を入れると、埃を吸い取ってくれて、ここの受け取り口に丸めて固めてくれるんだ。ほら、この前なんか埃集めるの大変とかなんとか言ってたでしょう? 魔石はスライムの魔石でいいから安上がりかな、って思って」
部屋の中央に置いてシズトが実演して見せると興味深そうにずっと見ているラン。時々上面に手をかざして、そこから出る風を浴びたりして楽しそうだ。
そのランの尻尾を椅子に座って眺めるシズト。
どのくらいの時間が経ったのか、夕方くらいになるとシズトは立ち上がって埃吸い吸い箱から魔石を取り出して止め、受け取り口からトレーのようなものを取り出すと、埃がたくさん丸まって並んでいた。
「これ、ランにくれるのー? ありがとー!」
ランは感謝を表現するためにムギュッとシズトに抱き着くと、彼はアワアワしていた。
ただ、すぐ後にベリッとライルに引きはがされ、シズトは素敵な笑顔のライルに連れていかれてしまった。
しばらく店番をしていろと父親から言われたランは、机に頬杖を突き、尻尾をゆらゆらさせながら近くに引き寄せていた埃吸い吸い箱を撫でる。
「今度からもっといっぱい相談しちゃおうかなぁー」
ダンジョンに夢と欲望を抱いてやってくる冒険者。
冒険者が持ち帰った遺物を買い付けに来る貴族の関係者。
また、冒険者が持ち帰った様々な物を買い付けに来る行商人。
人の出入りがたくさんあれば、それだけ泊まる場所が必要になる。
安い代わりにひたすら詰め込まれるような宿もあれば、高級路線で貴族の関係者や、大商人を泊める宿もある。
『猫の目の宿』はその中間あたりで、仕事柄偏見が少ない者もいる中ランクの冒険者をターゲットとしている宿だ。
獣人が営んでいる宿だが、営んでいる者たちが数年前まで冒険者として活動していた事もあり、冒険者ギルドとも懇意としている宿の一つだ。
そんな宿に少し前から、変な少年が泊まるようになった。
駆け出し冒険者の少年が泊まるような宿ではなかったが、ギルドからの紹介だった事や、お金は払ったので従業員は疑問に思いつつも様子を見る事にした。
「おそらく、どこかの村で勇者様にお手つきされた女が産んだ子どもかなんかだろうな。言動を見ても、貴族の教育とか受けてねぇだろうし」
「そうですね。字の読み書きはできるようなので、ある程度のお金を貰っていたのか、商人の家系だったのかもしれません」
「まあ、ギルドの面子を潰すわけにもいかねぇ。ラン、失礼のないようにしろよ」
「分かってるよー。もー、いちいちうるさいなー」
注意をされた猫人族の少女は頬を膨らませてふてくされている。ご機嫌斜めに耳は横を向き、尻尾はゆらゆらと揺れていた。
その様子を少女の両親は心配そうに見ていた。
昼間は猫耳少女が担当する時間帯だ。
と、言っても今泊っているお客さんは三階の黒髪の少年と、二階の商人風の男たちだけ。
少年は朝、変な物を押して出て行ったと聞いていたし、商人風の男たちはチェックアウトした。お昼の時間も終わって、お昼だけを食べにくる近所の人も来ない。
手持無沙汰だったランは、店番をしながら軽く掃除をする。
「めんどくさいなー。もっと簡単に掃除できたらいいのにー」
床を掃きつつ、文句を言っていた猫耳少女の声を拾ったのは、入り口から入ってきた黒髪の少年――シズトだった。
「おかえりなさーい。鍵取ってくるねー」
鍵を渡すと、丁寧にお礼を言われるのは、ランはあまり経験した事がなかった。
そんな人間もいるんだなー、なんて事を考えていたら、少年は机に座ってくつろぎ始めた。
「お掃除、大変そうですね?」
「そうなんだよー、いつもいつも大変なんだよー」
ランは愚痴を言える同年代がいなかった事もあり、シズトにいろいろ言ったが、いい感じにシズトも相槌を打ってくれるものだから、饒舌になっていった。
「高い所だと、ランの手じゃ届かなくて、埃落とすの大変なんだよー。それに床拭きしないと埃が隅の方にたまっちゃうんだよー! でもおかーさんもおとーさんも他のお仕事で大変だからランがしないとなんだー……」
ランは矢継ぎ早に埃に対するたくさんの不満をシズトに愚痴った。
ただ、シズトは特にそれを気にした風もなく、ピーン! と立った尻尾や、ゆらゆらと揺れる尻尾、へにゃっと元気なく垂れていく尻尾――とにかく尻尾を見ていた。というか、尻尾しか見ていなかった。
ランは話をしている間にいつの間にかシズトの座っていた席の前の席に座り、他愛もない愚痴を延々と繰り返し、夕方頃にその様子に気づいたゴリマッチョな父親に拳骨を落とされて、尻尾を逆立てながら逃げていった。
「なーに、これー?」
数日後、ランがいつものように掃除をしていると、冒険者としての仕事を早く終わらせて帰ってきていたシズトが箱を持って部屋から出てきた。
その箱をランにあげる、というのだからランは興味深そうに箱を眺めていた。
木の板で作られた立方体の箱は両手で持てるくらいの大きさだった。
下の方に引き出しのようなものがあり、引っ張ると正方形のトレーのような物が出てくる。真ん中には魔法陣が刻まれていた。
側面は細かい穴があり、中は見えた。
上面の正方形の中央には小石が入るくらいのくぼみがあった。それを中心として上下左右対称に穴が無数に並んでいる。
「埃吸い吸い箱。このくぼみにくず魔石を入れると、埃を吸い取ってくれて、ここの受け取り口に丸めて固めてくれるんだ。ほら、この前なんか埃集めるの大変とかなんとか言ってたでしょう? 魔石はスライムの魔石でいいから安上がりかな、って思って」
部屋の中央に置いてシズトが実演して見せると興味深そうにずっと見ているラン。時々上面に手をかざして、そこから出る風を浴びたりして楽しそうだ。
そのランの尻尾を椅子に座って眺めるシズト。
どのくらいの時間が経ったのか、夕方くらいになるとシズトは立ち上がって埃吸い吸い箱から魔石を取り出して止め、受け取り口からトレーのようなものを取り出すと、埃がたくさん丸まって並んでいた。
「これ、ランにくれるのー? ありがとー!」
ランは感謝を表現するためにムギュッとシズトに抱き着くと、彼はアワアワしていた。
ただ、すぐ後にベリッとライルに引きはがされ、シズトは素敵な笑顔のライルに連れていかれてしまった。
しばらく店番をしていろと父親から言われたランは、机に頬杖を突き、尻尾をゆらゆらさせながら近くに引き寄せていた埃吸い吸い箱を撫でる。
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