【R18】転生前の記憶があるせいで、勇者の幼馴染ポジを喜べない

みっきー・るー

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 その日の夜、私は乾燥させた薬草を軽く刻み、小分け袋に一匙ずつ入れていた。
 小袋が山積みになった頃、ふと我に返り、私は見るともなしに窓の外を見やる。
 遠くに見えるラルの家。窓から淡い光が漏れていて、明かりが付いていることが分かる。
 
(もう準備は終わった頃かな?)

 騎士の先導のもと真っ直ぐ王都へ向かうのだから、さほど準備する物もなく、意外と寛いでいる頃かもしれない。

(作りすぎたかも……)
 
 封を閉じた薬草の小袋を一纏めにし、大きめの袋に詰め込んだら、袋はパンパンに膨らんでしまった。
 必要が無ければ売って旅の資金にでもしてくれたらいい。
 私は苦笑しながら膨らんだ袋を撫でる。
 変わらない毎日に疑問を抱いたことがなかったから、これから先、ラルのいない日々が想像出来ない。
 でもきっと、時間が経てば寂しさに慣れていくのだろう。

 私達は想いを確かめ合った恋人同士ではない。
 ラルの帰りを待ち続けたとして、彼が私を選ぶ保証はない。
 旅の途中、共に戦った仲間と恋に落ちた勇者だっている。
 今、この恋心に蓋をした方が楽だ。
 
「あ……無理」

 瞳に込み上げてきた涙を流したくなくて、目元を袖で拭う。
 ラルの隣にいる、知らない誰かを想像して胸が締め付けられて息苦しい。

 ラルは、どんなふうにその人に触れるの?
 想像はみるみる頭の中に広がり、不快感を抑えきれない。

 今なら、まだ間に合う?
 今なら、まだ私が独り占めしても許される?

 私はもう一度窓の外を見た。
 
 想いを伝えることは、彼の負担になるかもしれないから避けたい。
 それなら……

(一夜の思い出を求めたって、罰は当たらないよね?)

 私は薬草の入った大きな袋を抱えて、部屋を飛び出した。



 □ □ □  □ □ □


「明日渡されるんだと思ってた……」

 家の扉を開け、室内を照らす明かりを後光のように背負い、ラルは目を瞠っている。

「そのつもりだったけど、今すぐに渡したくなったの」
「そ、そうなんだ」

 私は、ずいと大袋を差し出す。
 ラルは戸惑いながらも、それを受け取り、自然な動きで私を家の中に誘った。

 紅茶のいい香りがしている。淹れたばかりだったのかもしれない。
 机の上に置かれた湯気が漂うカップを見ながら、私は眉を下げる。

「迷惑だった? 明日の準備もあるのに、ごめんなさい」
「平気だよ。でも」

 ラルはゆったりとした動きで、私を胸に掻き抱いた。
 頬が彼の胸板に押し付けられ、早くなっていく鼓動が耳に伝わってくる。

「こういう誤解をされてもおかしくない時刻だけど、自覚はある?」

 私はラルの背に手を回し、そっと触れた。彼の身はびくりと僅かに跳ねる。

「むしろ、察してくれないと困るわ」

 顔を持ち上げると、ラルの青い眼差しと目が合う。 
 そのまま吸い寄せられるように、私達は唇を重ねた。

 昼に交わしたような、触れるだけの口づけは一瞬で、唇の隙間からラルの舌が入り込む。
 お互い、やり方も分からず不器用に舌を絡めているだけなのに、気持ちが高揚して幸せだ。

「んぅ……ラル」

 息を漏らすと、ラルは身体を押しつけてきて私をきつく抱き締める。
 体温の高さだけではなく、身体の作りの違いを感じて興奮が高まる。
 筋肉質な体躯。触れた背中は広く硬い。
 細身だと思っていた腕は、私の背中を抑えつけ、身体を全く動かせない。

「い、痛い……少し優しくして」
「あ! ご、ごめん」

 小さく抗議すると、ラルは腕の力を緩めたが、両手は私の背と腰に添えたままだ。
 彼の腕の中に、すっぽり捕らわれた自分の姿が面白い。

「何処にも逃げたりしないよ?」
「そ、そういうつもりじゃないけど……なんとなく」
 
 ラルの拗ねたような口調に、つい笑ってしまう。

「そんなに面白い?」
「ううん。愛しいなと思って」

 ラルの頬を手で撫でると、くすぐったそうに彼は瞳を細める。
 その表情を見るだけで、胸がきゅんとして、なんだか下腹部が切ない。

「ティアナはいいの? 俺と……」

 つい、ふざけて『勇者様が相手なら光栄です』なんて口にしそうになるが、唇を引き結んだ。
 
 私は勇者に触れられたいわけじゃない。
 ずっと一緒に過ごしてきた、ラルだから好きなのだ。

「同じ言葉を返すわよ?」

 そう意地悪な返答をすると、ラルは青い瞳に戸惑いを宿す。
 私は誤魔化すように、彼を強く抱き締めた。


 部屋の明かりを僅かに落とし、寝台の上で何度も口づけを交わす。
 村の簡素なベッドは、二人が身じろぐ度に音が鳴った。
 いつの間にか私はラルに組み敷かれていて、彼を見上げながら腕を伸ばし、口づけを求めていた。

 ラルの髪が頬をくすぐり、唇は首筋を撫でるように動いた。
 首や胸元を強く吸われ、痕を付けられていることに気付く。
 私に対して独占欲を抱いているのかもしれないと考えたら、嬉しくて幸せだ。

 執拗に首周りを舐めたり吸われたりしていく内に、ブラウスの前面は大きく開き、胸は露わになっていた。

「は……ぁ」

 ラルは息を切らし、私に跨りながら、着ていた服を脱ぎ去る。
 下着越しに押し付けられていた硬いそれは、苦し気に布を持ち上げていたが、飛び出すように姿を見せた。

「あっ……」
 
 つい凝視してしまった欲望の塊に、少しだけ身体が震えてしまう。
 気持ちを言葉にして確かめ合ってもいないのに、こんな行為をしているなんて酷く淫らな気がしたのだ。
 
 その後は考えるのをやめた。
 初めての行為は、ぎこちなく、それでもラルの欲を宿した瞳に見つめられるだけで、膣は興奮し蜜を溢れさせる。

 ラルの昂ぶりは、ぬちぬちと粘着質な音を響かせて膣壁を擦り続け、伝わる刺激に合わせて、彼は顔を切なげに歪めていった。
 この表情も、ラルの清廉ではない部分も、今だけは私のものだ。
 そう考えると喜悦と虚しさが増していく。

 古い寝台がぎしぎしと卑猥な音を立て、彼の律動に合わせて激しく軋む。
 破瓜の痛みと、次第に快感を得ていく身体。
 昇り詰めていく感覚を感じて、私はぶるぶると身体を震わせる。

「うっ………」

 ラルは苦しそうな声を漏らし、硬いそれを引き抜き、私の腹へ熱い精を吐きだした。



 □ □ □  □ □ □


 すうすうと小さい寝息を立てるラルを見下ろしながら、私はそっと寝台から抜け出し服装を整える。
 こんな時刻に外出をした挙げ句、ラルの家に泊まったら、あからさま過ぎて家族の顔を見られなくなってしまう。

 頼りない明かりが室内を照らし、彼の顔に影を落としている。

(そういえば、ラルの寝顔なんて初めて見たわ)

 無防備な寝顔につい頬が緩む。
 少しだけ期待したけれど、ラルは何も言ってくれなかった。
 だからといって責めるわけじゃない。
 私が言葉にしないように、きっとラルも同じようなことを考えている気がするから。

「さようなら。貴方の旅が安全でありますように」

 そう祈りを口にして、私は急いで家に戻った。
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