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その日の夜、私は乾燥させた薬草を軽く刻み、小分け袋に一匙ずつ入れていた。
小袋が山積みになった頃、ふと我に返り、私は見るともなしに窓の外を見やる。
遠くに見えるラルの家。窓から淡い光が漏れていて、明かりが付いていることが分かる。
(もう準備は終わった頃かな?)
騎士の先導のもと真っ直ぐ王都へ向かうのだから、さほど準備する物もなく、意外と寛いでいる頃かもしれない。
(作りすぎたかも……)
封を閉じた薬草の小袋を一纏めにし、大きめの袋に詰め込んだら、袋はパンパンに膨らんでしまった。
必要が無ければ売って旅の資金にでもしてくれたらいい。
私は苦笑しながら膨らんだ袋を撫でる。
変わらない毎日に疑問を抱いたことがなかったから、これから先、ラルのいない日々が想像出来ない。
でもきっと、時間が経てば寂しさに慣れていくのだろう。
私達は想いを確かめ合った恋人同士ではない。
ラルの帰りを待ち続けたとして、彼が私を選ぶ保証はない。
旅の途中、共に戦った仲間と恋に落ちた勇者だっている。
今、この恋心に蓋をした方が楽だ。
「あ……無理」
瞳に込み上げてきた涙を流したくなくて、目元を袖で拭う。
ラルの隣にいる、知らない誰かを想像して胸が締め付けられて息苦しい。
ラルは、どんなふうにその人に触れるの?
想像はみるみる頭の中に広がり、不快感を抑えきれない。
今なら、まだ間に合う?
今なら、まだ私が独り占めしても許される?
私はもう一度窓の外を見た。
想いを伝えることは、彼の負担になるかもしれないから避けたい。
それなら……
(一夜の思い出を求めたって、罰は当たらないよね?)
私は薬草の入った大きな袋を抱えて、部屋を飛び出した。
□ □ □ □ □ □
「明日渡されるんだと思ってた……」
家の扉を開け、室内を照らす明かりを後光のように背負い、ラルは目を瞠っている。
「そのつもりだったけど、今すぐに渡したくなったの」
「そ、そうなんだ」
私は、ずいと大袋を差し出す。
ラルは戸惑いながらも、それを受け取り、自然な動きで私を家の中に誘った。
紅茶のいい香りがしている。淹れたばかりだったのかもしれない。
机の上に置かれた湯気が漂うカップを見ながら、私は眉を下げる。
「迷惑だった? 明日の準備もあるのに、ごめんなさい」
「平気だよ。でも」
ラルはゆったりとした動きで、私を胸に掻き抱いた。
頬が彼の胸板に押し付けられ、早くなっていく鼓動が耳に伝わってくる。
「こういう誤解をされてもおかしくない時刻だけど、自覚はある?」
私はラルの背に手を回し、そっと触れた。彼の身はびくりと僅かに跳ねる。
「むしろ、察してくれないと困るわ」
顔を持ち上げると、ラルの青い眼差しと目が合う。
そのまま吸い寄せられるように、私達は唇を重ねた。
昼に交わしたような、触れるだけの口づけは一瞬で、唇の隙間からラルの舌が入り込む。
お互い、やり方も分からず不器用に舌を絡めているだけなのに、気持ちが高揚して幸せだ。
「んぅ……ラル」
息を漏らすと、ラルは身体を押しつけてきて私をきつく抱き締める。
体温の高さだけではなく、身体の作りの違いを感じて興奮が高まる。
筋肉質な体躯。触れた背中は広く硬い。
細身だと思っていた腕は、私の背中を抑えつけ、身体を全く動かせない。
「い、痛い……少し優しくして」
「あ! ご、ごめん」
小さく抗議すると、ラルは腕の力を緩めたが、両手は私の背と腰に添えたままだ。
彼の腕の中に、すっぽり捕らわれた自分の姿が面白い。
「何処にも逃げたりしないよ?」
「そ、そういうつもりじゃないけど……なんとなく」
ラルの拗ねたような口調に、つい笑ってしまう。
「そんなに面白い?」
「ううん。愛しいなと思って」
ラルの頬を手で撫でると、くすぐったそうに彼は瞳を細める。
その表情を見るだけで、胸がきゅんとして、なんだか下腹部が切ない。
「ティアナはいいの? 俺と……」
つい、ふざけて『勇者様が相手なら光栄です』なんて口にしそうになるが、唇を引き結んだ。
私は勇者に触れられたいわけじゃない。
ずっと一緒に過ごしてきた、ラルだから好きなのだ。
「同じ言葉を返すわよ?」
そう意地悪な返答をすると、ラルは青い瞳に戸惑いを宿す。
私は誤魔化すように、彼を強く抱き締めた。
部屋の明かりを僅かに落とし、寝台の上で何度も口づけを交わす。
村の簡素なベッドは、二人が身じろぐ度に音が鳴った。
いつの間にか私はラルに組み敷かれていて、彼を見上げながら腕を伸ばし、口づけを求めていた。
ラルの髪が頬をくすぐり、唇は首筋を撫でるように動いた。
首や胸元を強く吸われ、痕を付けられていることに気付く。
私に対して独占欲を抱いているのかもしれないと考えたら、嬉しくて幸せだ。
執拗に首周りを舐めたり吸われたりしていく内に、ブラウスの前面は大きく開き、胸は露わになっていた。
「は……ぁ」
ラルは息を切らし、私に跨りながら、着ていた服を脱ぎ去る。
下着越しに押し付けられていた硬いそれは、苦し気に布を持ち上げていたが、飛び出すように姿を見せた。
「あっ……」
つい凝視してしまった欲望の塊に、少しだけ身体が震えてしまう。
気持ちを言葉にして確かめ合ってもいないのに、こんな行為をしているなんて酷く淫らな気がしたのだ。
その後は考えるのをやめた。
初めての行為は、ぎこちなく、それでもラルの欲を宿した瞳に見つめられるだけで、膣は興奮し蜜を溢れさせる。
ラルの昂ぶりは、ぬちぬちと粘着質な音を響かせて膣壁を擦り続け、伝わる刺激に合わせて、彼は顔を切なげに歪めていった。
この表情も、ラルの清廉ではない部分も、今だけは私のものだ。
そう考えると喜悦と虚しさが増していく。
古い寝台がぎしぎしと卑猥な音を立て、彼の律動に合わせて激しく軋む。
破瓜の痛みと、次第に快感を得ていく身体。
昇り詰めていく感覚を感じて、私はぶるぶると身体を震わせる。
「うっ………」
ラルは苦しそうな声を漏らし、硬いそれを引き抜き、私の腹へ熱い精を吐きだした。
□ □ □ □ □ □
すうすうと小さい寝息を立てるラルを見下ろしながら、私はそっと寝台から抜け出し服装を整える。
こんな時刻に外出をした挙げ句、ラルの家に泊まったら、あからさま過ぎて家族の顔を見られなくなってしまう。
頼りない明かりが室内を照らし、彼の顔に影を落としている。
(そういえば、ラルの寝顔なんて初めて見たわ)
無防備な寝顔につい頬が緩む。
少しだけ期待したけれど、ラルは何も言ってくれなかった。
だからといって責めるわけじゃない。
私が言葉にしないように、きっとラルも同じようなことを考えている気がするから。
「さようなら。貴方の旅が安全でありますように」
そう祈りを口にして、私は急いで家に戻った。
小袋が山積みになった頃、ふと我に返り、私は見るともなしに窓の外を見やる。
遠くに見えるラルの家。窓から淡い光が漏れていて、明かりが付いていることが分かる。
(もう準備は終わった頃かな?)
騎士の先導のもと真っ直ぐ王都へ向かうのだから、さほど準備する物もなく、意外と寛いでいる頃かもしれない。
(作りすぎたかも……)
封を閉じた薬草の小袋を一纏めにし、大きめの袋に詰め込んだら、袋はパンパンに膨らんでしまった。
必要が無ければ売って旅の資金にでもしてくれたらいい。
私は苦笑しながら膨らんだ袋を撫でる。
変わらない毎日に疑問を抱いたことがなかったから、これから先、ラルのいない日々が想像出来ない。
でもきっと、時間が経てば寂しさに慣れていくのだろう。
私達は想いを確かめ合った恋人同士ではない。
ラルの帰りを待ち続けたとして、彼が私を選ぶ保証はない。
旅の途中、共に戦った仲間と恋に落ちた勇者だっている。
今、この恋心に蓋をした方が楽だ。
「あ……無理」
瞳に込み上げてきた涙を流したくなくて、目元を袖で拭う。
ラルの隣にいる、知らない誰かを想像して胸が締め付けられて息苦しい。
ラルは、どんなふうにその人に触れるの?
想像はみるみる頭の中に広がり、不快感を抑えきれない。
今なら、まだ間に合う?
今なら、まだ私が独り占めしても許される?
私はもう一度窓の外を見た。
想いを伝えることは、彼の負担になるかもしれないから避けたい。
それなら……
(一夜の思い出を求めたって、罰は当たらないよね?)
私は薬草の入った大きな袋を抱えて、部屋を飛び出した。
□ □ □ □ □ □
「明日渡されるんだと思ってた……」
家の扉を開け、室内を照らす明かりを後光のように背負い、ラルは目を瞠っている。
「そのつもりだったけど、今すぐに渡したくなったの」
「そ、そうなんだ」
私は、ずいと大袋を差し出す。
ラルは戸惑いながらも、それを受け取り、自然な動きで私を家の中に誘った。
紅茶のいい香りがしている。淹れたばかりだったのかもしれない。
机の上に置かれた湯気が漂うカップを見ながら、私は眉を下げる。
「迷惑だった? 明日の準備もあるのに、ごめんなさい」
「平気だよ。でも」
ラルはゆったりとした動きで、私を胸に掻き抱いた。
頬が彼の胸板に押し付けられ、早くなっていく鼓動が耳に伝わってくる。
「こういう誤解をされてもおかしくない時刻だけど、自覚はある?」
私はラルの背に手を回し、そっと触れた。彼の身はびくりと僅かに跳ねる。
「むしろ、察してくれないと困るわ」
顔を持ち上げると、ラルの青い眼差しと目が合う。
そのまま吸い寄せられるように、私達は唇を重ねた。
昼に交わしたような、触れるだけの口づけは一瞬で、唇の隙間からラルの舌が入り込む。
お互い、やり方も分からず不器用に舌を絡めているだけなのに、気持ちが高揚して幸せだ。
「んぅ……ラル」
息を漏らすと、ラルは身体を押しつけてきて私をきつく抱き締める。
体温の高さだけではなく、身体の作りの違いを感じて興奮が高まる。
筋肉質な体躯。触れた背中は広く硬い。
細身だと思っていた腕は、私の背中を抑えつけ、身体を全く動かせない。
「い、痛い……少し優しくして」
「あ! ご、ごめん」
小さく抗議すると、ラルは腕の力を緩めたが、両手は私の背と腰に添えたままだ。
彼の腕の中に、すっぽり捕らわれた自分の姿が面白い。
「何処にも逃げたりしないよ?」
「そ、そういうつもりじゃないけど……なんとなく」
ラルの拗ねたような口調に、つい笑ってしまう。
「そんなに面白い?」
「ううん。愛しいなと思って」
ラルの頬を手で撫でると、くすぐったそうに彼は瞳を細める。
その表情を見るだけで、胸がきゅんとして、なんだか下腹部が切ない。
「ティアナはいいの? 俺と……」
つい、ふざけて『勇者様が相手なら光栄です』なんて口にしそうになるが、唇を引き結んだ。
私は勇者に触れられたいわけじゃない。
ずっと一緒に過ごしてきた、ラルだから好きなのだ。
「同じ言葉を返すわよ?」
そう意地悪な返答をすると、ラルは青い瞳に戸惑いを宿す。
私は誤魔化すように、彼を強く抱き締めた。
部屋の明かりを僅かに落とし、寝台の上で何度も口づけを交わす。
村の簡素なベッドは、二人が身じろぐ度に音が鳴った。
いつの間にか私はラルに組み敷かれていて、彼を見上げながら腕を伸ばし、口づけを求めていた。
ラルの髪が頬をくすぐり、唇は首筋を撫でるように動いた。
首や胸元を強く吸われ、痕を付けられていることに気付く。
私に対して独占欲を抱いているのかもしれないと考えたら、嬉しくて幸せだ。
執拗に首周りを舐めたり吸われたりしていく内に、ブラウスの前面は大きく開き、胸は露わになっていた。
「は……ぁ」
ラルは息を切らし、私に跨りながら、着ていた服を脱ぎ去る。
下着越しに押し付けられていた硬いそれは、苦し気に布を持ち上げていたが、飛び出すように姿を見せた。
「あっ……」
つい凝視してしまった欲望の塊に、少しだけ身体が震えてしまう。
気持ちを言葉にして確かめ合ってもいないのに、こんな行為をしているなんて酷く淫らな気がしたのだ。
その後は考えるのをやめた。
初めての行為は、ぎこちなく、それでもラルの欲を宿した瞳に見つめられるだけで、膣は興奮し蜜を溢れさせる。
ラルの昂ぶりは、ぬちぬちと粘着質な音を響かせて膣壁を擦り続け、伝わる刺激に合わせて、彼は顔を切なげに歪めていった。
この表情も、ラルの清廉ではない部分も、今だけは私のものだ。
そう考えると喜悦と虚しさが増していく。
古い寝台がぎしぎしと卑猥な音を立て、彼の律動に合わせて激しく軋む。
破瓜の痛みと、次第に快感を得ていく身体。
昇り詰めていく感覚を感じて、私はぶるぶると身体を震わせる。
「うっ………」
ラルは苦しそうな声を漏らし、硬いそれを引き抜き、私の腹へ熱い精を吐きだした。
□ □ □ □ □ □
すうすうと小さい寝息を立てるラルを見下ろしながら、私はそっと寝台から抜け出し服装を整える。
こんな時刻に外出をした挙げ句、ラルの家に泊まったら、あからさま過ぎて家族の顔を見られなくなってしまう。
頼りない明かりが室内を照らし、彼の顔に影を落としている。
(そういえば、ラルの寝顔なんて初めて見たわ)
無防備な寝顔につい頬が緩む。
少しだけ期待したけれど、ラルは何も言ってくれなかった。
だからといって責めるわけじゃない。
私が言葉にしないように、きっとラルも同じようなことを考えている気がするから。
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