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第三章 小雪、戦う
必殺技
しおりを挟む加勢があり、ようやく心的余裕がうまれたが、依然として危機的状況なのには変わりない。
おそらく2人も運営の機能をつかって能力を最大限まで上げているのは間違い無いだろうが、私に対して全ての権限を振るっているであろうこの状況だとアタッカーは私であることには変わりないのだろう。
そしてドラゴンの方も加勢に警戒しているようで、攻撃ではなく回避に全力を費やしているようだった。
「まずいわね……このままだと」
「んー…よし、あれするか!」
「あれ?とは?」
ふとたかしちゃんがそう言うので、一瞬だけ視線をたかしちゃんに向ける。
「うん、遠距離攻撃のスキル」
「ほえ、そんなのあるのね」
「当たるわけないでしょうに……」
私が感心していると、カグヤちゃんはそう言う。
確かに弾丸のような速さで飛び回っているドラゴンに与えられる有効打など、あるのだろうか?
「まあみててください……なっ!」
たかしちゃんがそう言うと、自身の目の前に黒いもやを出現させ、そこに飛びこんだ。
「うらぁ!!」
もやへ飛び込んだと思ったたかしちゃんが、なんとドラゴンの背中に乗り込んでおり、その頭へ強烈な一撃を振り下ろしていた。
それは遠距離じゃなくて近距離よ、たかしちゃん。
「そ、それは近距離じゃないの!」
カグヤちゃんもおんなじこと言ってる。
しかしたかしちゃんの攻撃は刃が通らなかったものの衝撃としてはなかなかであったようで、ドラゴンはぐらりとその身体を揺らめかせ、私の方へととてつもなく速い速度で飛び込んできた。
「カグヤちゃん!」
「あーもう、わかってるって……の!!」
その刹那の阿吽というべきか、たかしちゃんの言葉に反応する前に、地面に墜落するドラゴンめがけてカグヤちゃんは拘束ワイヤーみたいなものを打ち付けた。
2人の連携技を受けたドラゴンは、激しく地面に叩きつけられるとともに、身体をワイヤーのようなもので雁字搦めとなって横たわる。
「ばあちゃん!今しか!」
「了解!えええええい!!!!」
おあつらえのようにむき出しになっているドラゴンのその首へ、私のスキルと力を使って全力で刀を振りおろしたーーが、ガギンと鈍い音をたてて弾かれてしまった。
「かっっったい!!」
「まじか!?権限込みのばあちゃんの全力だろ!?」
「これは、どうしよう……」
本物の刀ならば絶対に折れているであろう勢いで放った斬撃も、ドラゴンの肌を傷付けることで精一杯であったことに、私達は絶望の二文字が浮かんだ。
一連の流れでドラゴンは激昂したのか、身体を激しく動かし拘束具をブチブチと音をたてて破壊してしまい、その風圧と衝撃に私達は吹き飛ばされてしまう。
「万事休す……かしら」
『何故だ……何故だ』
「ん……?」
「え……?」
私達は身体を立て直してからドラゴンの方へ向き直ると、ドラゴンはその前足で頭を抱え、あろうことか喋りだしてきた。
『何故だ……何故私は死なない……』
「これって、間違いなくこのドラゴンが……」
「そ、そんな、モンスターに喋る機能なんて無かったはず……!」
「カグヤちゃんでも知らないとなると、これは……AIの暴走かなんかですかね?」
「そもそもモンスターは固定的な行動の中からランダムに抽選されて攻撃を行ってくる以外の、AIを使った思考はできないはずなのよ!」
2人が何を話しているのかはわからないが、よほどイレギュラーなことが起きているらしい。しかし私は目の前のドラゴンの言葉の方が気になっていた。
『……どうしてだ、どうしてだ!!』
「ドラゴンさんや」
「!!ばあちゃん!」
私はドラゴンの様子が気になり、刀を鞘に納めてからドラゴンの方へと近寄っていく。
たかしちゃんが声かけてきているが、構わず歩を進める。
「なんか、負けたかったみたいな事言うのね、ドラゴンさんや」
『……人間』
「……情けない事言うのね、本当は負けたかったのー、なんて」
『……貴様に何がわかる』
私の挑発に少し乗ったのか、ドラゴンは私を射殺さんとする眼差しで睨んできた。
「本当に負けたいとかなんとか言うなら、私が負けさせてあげるわよ?」
『黙れ、お前に何ができ』
「黙るのはアンタの方よ。勝ってしまっていただけの負け犬風情がよく吠えるわね」
当然心からそう思っている訳では無いが、ある作戦を思いついたので、できるかどうかわからないし、できなかったら正直に言うと終わりなのだけれど、賭けに出てみた。
この策が通らなければ、もう勝ち目は無いのだから。
「カグヤちゃん!たかしちゃん!」
「!!はい!?」
「ゾロ目エリアよ!決闘システムをここで使えないかしら!」
「!!その手が……ばあちゃん!」
「うぐっ!」
そう、決闘システム。
この前やった決闘がクラップバトル形式だから、こちらはこの闘いだとマズイことになる。
しかし、公式版な決闘システムのオールフラットだと、能力をお互い同じ数字にして戦い、当たりどころが悪ければ一撃で負けてしまうシステムだ。
そのシステムを使う際、全ての能力が無くなるのだ。
私が2人の方を振り返っていると、ドラゴンは私を前足で掴み、その顔の前まで私をギリギリと締め上げながら近寄せる。
『もう一度言ってみよ、この様な無様な醜態を晒す貴様に、何ができる!!』
「ぐっ……ま、まあ、待ちなさいな……っ!できそうなの!?たかしちゃんとカグヤちゃん!」
「え、ええっと、ソレは確かめたことがないので……えっと」
「カグヤちゃん!部長に連絡しましょう!無けりゃ作るんですよ!」
そうたかしちゃんが言ってから、カグヤちゃんはVRフォンをつかって誰かと話し始める。
すると、相手の方は直ぐさま電話に出たようだった。
「部長!あの!」
「大丈夫聞いてた!その話が出た瞬間からもう作り始めてるよ!けど……モンスターとの強制決闘システムなんてすぐに作れるかどうか……」
「えっ……」
「カグヤちゃん!なんて言ってた!?」
「あの、強制決闘システムなんてすぐに作れるかどうか……と……」
強制的には決闘へ引き込めないと考えたほうが無難だろう。
しかしここで、最悪の展開が待っていた。
「!?ぐ、うぁぁぁ!!!!??」
「コユキさん!時間切れ……です!!」
「なんだって!?」
ミリィちゃんの声より先に、先程までの痛みの何倍と言えるほどの痛みが私を襲った。
先程までは強化していた身体であったがために気付いていなかったが、このドラゴンはかなりの力で締め上げてきていたようだった。
『ハハハ!苦しめ!』
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
「くそ、離せ!!」
『小賢しい!!』
たかしちゃんとカグヤちゃんが私を助けようと近づいてきたが、ドラゴンの翼で2人とも払い除けられてしまう。
痛みの中で、おぼろげにふとこのゲームの仕様を思い出した。
このゲームは痛みなどはかなり加減して作られているということになっているはずなのに、明らかに加減など無いほど痛いのだ。
(このままだと、もしかしたら現実でも死んでしまうかしら……)
痛みをどんどん感じなくなる程に意識が遠退いていく。
『では、さらばだーー』
「ひ、卑怯者……」
『……ああ?』
私の発言に、ドラゴンは一瞬動きを止めた。
これをチャンスとして、私は矢継ぎ早に言葉をつなげる。
「倒せない程の硬さに、ありえないほどの速さ、存在しないほどの痛みを与えられるなんて……」
『ハッハッハ!それは私が特別ーー』
「そんな強さを持っているのに、武器を構えてもいない私を……無慈悲に殺そうとするなんて……とんだ……臆病者ね!」
『……!』
完全にこちらの言葉を聞き入れたようだったので、すかさず言葉を紡ぐ。
「それだけの強さを持ってるのなら……私と決闘しろ!エンシェントドラゴン!!」
『……』
しばらくの沈黙。
そして握る力が弱まったかと思えば、地面にポイと投げられ、私は地面に打ち付けられる前に身体を立て直して着地した。
「私と決闘する気に……なったかしら……げほっ」
「ばあちゃん!まずはこれ飲んで!」
「ありがとう、たかしちゃん……」
息絶えだえとなっていた私にたかしちゃんが回復役をもってきてくれたので、私はそれをグイッと飲みほす。
身体の痛みが全て消え、荒れた呼吸が整う様を体感したことで、あらためてここがゲームの世界でよかったと胸をすこし撫で下ろす。
『貴様、名を何という?』
「私は……小雪。狩屋小雪よ」
『小雪か……ならば小雪よ、貴様の言う決闘とやら、受けて立とう』
「!!……わかったわ。少し待ちなさい」
決闘の誘いに乗ってきたので、私はたかしちゃんを見る。
たかしちゃんはカグヤちゃんの方を見ると、カグヤちゃんはVRフォンを指差し、たかしちゃんのソレをドラゴンに渡すよう言ったので、たかしちゃんはVRフォンをドラゴンへ投げた。
「小雪さん!決闘システムの相互了承版であれば、すぐにでも出来ます!……ですが!」
「大丈夫よ、カグヤちゃん。私、強いから」
カグヤちゃんは私を案じて言葉を投げかけようとしていたようだが、心配しないでほしい。
『さて、どうすれば良いのだ?これを』
「それをあんたの手のひらの上に載せて、デュエル!と言いなさいな」
同能力という条件下ならば、
『ああわかった。デュエル!』
「デュエル!……おわり」
『……は?』
私は誰にも負けない。
ゲームの中でだから最大限に使えた、私の中での必殺技。
抜刀に合わせて身体を落とし、立ち上がるのと踏み込むのを同時にして相手へ近づき、切り抜けることで、身体が分身したかのようにみえるこの技の名は、
「抜刀、不知火の型」
ドラゴンは何があったのかわからないといった表情を浮かべながら、その巨体を地面に打ち付けたのだった。
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