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第三章 小雪、戦う
斬鉄
しおりを挟むミリィちゃんを追ってしばらく。
私は今更ながら、ゲームの世界は良いものだと認識した。
老体の私には、明らかに無理な速度で、考えられない距離を、息を切らす事なく走り抜ける事ができている。
状況が状況なだけにあまり喜んでいる場合ではないのは承知だが、それでも、
(この、身体が宙に浮くような感覚……若い時にも感じた事な無い!……楽しい!)
年甲斐もなく、はしゃいでいた。
オープンワールドというこの世界、実際に自身が世界のキャラクターとして、縦横無尽に走り抜けられるこの感覚は、良い物だ。
2020年頃、20代であった自分がこの世界に来たら、どう感じていたのだろう。
(……結局は、あまり楽しめなかったのでしょうね。……っと、それはそれとして)
過去の回想に振り回されていたけど、まずはミリィちゃんの問題が先だ。
走り始めてから幾分か過ぎ、そこまで距離が離れていたのかと考えていると、件の塔と思われる根本部が見えてきた。
そこで、ある問題に直面する。
(……あー、おもいっきり鉄の門ねぇ、これ)
天を貫くかと思える塔の入り口は、3メートル以上の鉄の門で封鎖されており、軽く押してみてすぐわかるほどの重量、堅牢さだ。
念のため塔の周りを見てみたが、入り口となりそうな場所はここしかない。
(んー、周りの壁をなんとかして壊して入る方が良いのかしら?それとも、鍵がどこかにあるとか……)
試しに刀の柄で軽く塔の壁面を小突いてみた。
すると、小突いた時の反動が明らかに不自然な程に返ってきた為、思案する。
これは、魔法の類いか。
そう結論付けて、転がっていた石を軽く壁に当てると、倍以上の速度で跳ね返って来たので、慌てて回避した。
これは、どうしたものか。
(八方塞がりねぇ……ん?)
ただなんとなく、本当に何も考えずに今度は鉄門を刀の柄で突いてみると、こちらは一切の反射がなかった事に気付いた。
(鉄門は反射が無し、かぁ。かの有名なアニメの剣士みたいな事ができればなぁ……んん?待てよ?)
そして、ここでまた一つ、思い返した際に気付く。
(そういえば、以前男の子を指導した時、現実に使っていた抜刀術が、かなーり大袈裟に反映してたわよね……)
本来なら、抜刀の剣筋を見せないようにして使う、不知火の型。
それが何故か、かなり分身して切り刻む斬撃に変わっていた。
本当の意味の不知火と混ぜたのかな?と考えていたけど、まあゲームだし、仕方ない。
それなら、と、以前の出来事を思い出す。
かぐやちゃんが言っていた、斬鉄を持っているという人物が、私であると。
あれはまだ孫がまだ3歳の頃。
やんちゃに遊んでいて、経緯は不明だが、フェンスに挟まってしまったたかしちゃん。
救出の際、私自身何故あんな事したのかわからないけど、刀でフェンスの網を二本だけ切れた事があった。
そのあとは冷静になって、ペンチで切って助けたのだけれど、その時の事がもし大袈裟に反映されていたら……
(試す価値は、あるわね)
鉄門の前に立った私は、刀を上段に構え、
「ぇえやあぁぁぁぁぁ!!」
声を上げて、振り下ろす。
すると、柔らかな何かを切ったような感触を残して、鉄の門が音を上げて崩れ落ちた。
あまりに予想通りに予想外な事が起きた為、私は呆然と立ちつくす。
「あ、はは、で、できちゃった……」
VRフォンから、スキルを発動しましたという文字が浮かび上がり、その文字を確認。
スキル名は、確かに『斬鉄剣』と表示されていた。
「と、とりあえず、中に入りましょうか。そうね、うん」
誰に言うでもない言葉は、塔の中に嫌にこだましたように感じた。
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