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第三章 小雪、戦う
狩屋小雪、単独要請
しおりを挟む「あの、部長!これは流石におかしいです!」
「あっはっはっはっ!流石婆ちゃんだ!」
目の前で1人は笑い、部屋の隅で1人は怒り、中央で1人は事に理解出来ずに佇んでいる。
この世に生を受け、今の今までにこのような光景はあっただろうかと、私は少し考えた。
発端は先日、青年を打ち倒した事からだ。
なんでも彼は、暴れていたことは間違いないものの、この世界的ゲームで行われる大会でほとんど上位にいるという、輝かしい記録の持ち主であったという。
誰でも1度は行ってしまうミスという事もあり、厳重注意のみで済ませたかったものの、そのようなプレイヤーが少しハメを外してしまったので、対処に困っていたとの事であった。
そんな中、ぽっと出の私が、その上位ランカーを触れさせもせずに倒してしまったので、あの日から1日経った今日、以前隆ちゃんらとお話しした事務所へ呼び出された次第だ。
そして、私の実力を測るべく、ランクの変動は特に無いものの、特別な試練が課せられるとの事であった。
しかし、その内容はカグヤちゃんにも隆ちゃんにも聞かされていなかったようで、内容が書かれた書類に目を通した2人が、今のような反応を示していた。
「あのー、えっと、どうしたのかしら?」
「ふー、笑った笑った。えっとね、簡単に言うと、内容がAランクの人が受けられるクエストだったんだよ。それも、とびっきり難しいやつ」
「とびっきり……へー、それは面白そうね」
「ははっ、やっぱ婆ちゃんならそう言うと思ってた!」
私達が談笑していると、カグヤちゃんは頭を片手で押さえながら、疲れたような表情で部屋の隅からこちらへ戻って来た。
「先に言っておきますが、この書類に書かれた内容は、難しいなんてものではありません」
「ええ、先程孫から聞きました。とても難しいのだとか」
「……彼が小雪さんへなんと言ったのかはわかりませんが、このクエストは以前、小雪さんが戦ったプレイヤーさん含め、15人のAランカーが討伐に向かいました」
私の返答に、カグヤちゃんは隆ちゃんを一瞥してから私を見ると、続けて言う。
「それで、どうなったのかしら?」
「失敗しました。それも、誰1人モンスターへ傷もつけられることなく」
「……詳しく教えて頂戴」
予想を上回る話しが出たので、私は目の色を変えたかのように話しを伺う。
なんでも、運営がイベント用に作ったボスモンスターに異常が発生し、明らかに強くなりすぎてしまったとの事だ。
腕力ではどうにもならない程丈夫な表皮を持ち、近付く事を許さないほど苛烈な攻撃、そして、全てを見通すかのような聡明さ。
そのあまりの強さから、一般の生活を送る上で、あまり獲得出来ないスキル、"斬鉄"を持っている凄腕が現れるまで、該当エリアへの侵入を禁止していたとの事だ。
「……それは、運営側で削除なり修正なりは出来ないのかしら?」
「何度も何度も試しました。しかし、何故かほぼ全ての措置が無効化されてしまうのです」
「理由はわからない、って事ね。ちなみにほぼ全てって事は、なんらかの措置は取れたのかしら?」
「はい、討伐さえ出来れば、後は二度と該当モンスターが出現出来ないようにプログラミングを組む事は……しかし、何故このコードだけ組む事が出来たのかは……」
「まるで」
「ん?隆ちゃん?」
カグヤちゃんと私の話しを割って入るかのように、隆ちゃんは言う。
「まるで、あのモンスターが、エンシェントドラゴンが、意思を持って待ち構えてるみたい、だねって。そう思ったんだ」
「エンシェントドラゴン……それがモンスターの名前かしら」
私の問いに、カグヤちゃんと隆ちゃんは頷く。
「そして、書類の内容は、そのモンスター、エンシェントドラゴンの調査及び、"討伐"、それも、1人で。はっきり言って、運営権限で能力値に最大ブースト……大幅な能力向上をしても倒せるとは思いません。というか、以前運営のデバッガープレイヤーに私どもで出来るステータス改変と特殊スキル付与をかけて、かつ10人を向かわせて、それも失敗しております」
しかも、その改変チートを行っても、何故か10分程で効果が切れてしまう妨害もしくはデバフが島中に反映されていることから、だからこそ無謀だと、カグヤちゃんは言った。
その話しを聞いた私は、決意した。
「そんな事を言われては」
「おお?婆ちゃん?」
「えっ?」
隆ちゃんは満面の笑みで、私の次の言葉を待っている。
だからこそ私は、隆ちゃんに負けない程の笑顔を顔に貼り付け、言う。
「行くしかないでしょう……ね?」
「……っ!」
「ば、婆ちゃん!顔!顔が怖いから!」
「えっ、あらやだ、ごめんなさいね」
私の顔が余程怖かったようで、カグヤちゃんは顔を引きつらせ、隆ちゃんは驚いた顔で私に制止を促した。
「ま、まあ、とりあえず、婆ちゃん!よろしくね!なんかあったら連絡お願いするよ!運営からの支給品は必ず使ってね!」
「え、ええ、わかったわ。行ってきます」
ものすごい勢いで隆ちゃんにそう言われ、私はその勢いに負けて部屋を出た。
部屋を出た私はすぐに転移床へ向かい、該当エリア……"禁断の島、エウレカ"へ向かった。
まだ見ぬ強敵に心踊らせながら。
「……あなたのお祖母様、あの顔でスノウさんを斬ったの?」
「……はい、申し訳ありません」
「そ、そんなかしこまらないでよ。……とりあえずスノウさんのとこに行かないと」
「それは、注意ですか?それとも……」
「まあ……注意もするけど、主にケアかしらね」
やっぱり、と、隆の声が部屋に取り残しながら、2人は部屋を出た。
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