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第一章

時間がない

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「あれ……?」

 頭痛が痛いなんて思った瞬間にフワッとした。
 一瞬、自分が剥がれると思った。何を言ってるか自分でもわからないけど、意識が飛ぶんじゃないかって思った。あるいは幽体離脱みたいな。したことないけど、イメージ的に。

「言っただろ、時間がねぇって」

 適当に聞き流してたアヴィの言葉がようやく現実味を持った気がした。
 私たちより長い時間を、少なくとも百年以上は確実に生きてるアヴィにとって一日だって一瞬だと思ってたけど、そうじゃないのかもしれない。

「私、消えるの……?」

 視界がぶれる気がする。
 何だか急に怖くなった。
 自分が死んだ実感がわかない。長い夢を見てるみたいで大好きな作家さんの世界に異世界転生した実感もないのに、消えそうになってる。その実感だけが確か。

「消させねぇよ。俺はこれ以上お前に憎まれても痛くも痒くもねぇしな」

 そう言うアヴィはヘラヘラ笑ってなくて真剣そのものだった。だけど、傷ついてるような表情をするのは何でだろう。
 私にはアヴィに対して憎しみの感情はないし、この体にも残ってないと思う。でも、恐怖は残ってる。無理矢理ヤられるのは嫌だって感じた時だった。

「え……?」

 フワリと体が浮いた。今度は幽体離脱みたいな感じじゃなくて、本当に。
 いつの間にかセヴランにお姫様抱っこをされてた。それだけで何だか安心した。
 瞬間移動? とかいきなりこんなことされて混乱してるのに。

「せ……んっ!」

 何のつもりか聞きたかったのに、顔が近くて、吸い寄せられると思った。
 セヴランにキスされてる。ううん、もしかしたら自分からしたのかもしれないってくらい。まるで磁石みたい。
 引き寄せられて離れがたい。自分が離れてく感覚が少し薄らいでいく。

「ぁ……」

 唇が離れて、名残惜しいと思った。
 もっとしたいと思ってセヴランを見つめていた。今はぶれてない。でも、それはきっと一時的なもの。

「わかるだろ? あんたに今、何が必要なのか」

 セヴランは行動で示した。
 昔からそういう人だったなって、私は彼を何も知らないのにそう思う。それは元の聖女の感情? この器に残った記憶?

「受け入れろ。消えるな」

 それがトドメだった。
 短いけど、強い言葉で、引き留められるみたいに、私はこの人に必要とされているような気がした。
 だけど、同時に腹立たしい気持ちもあった。

「死にたくない……こんなになるまで放っておかれたら受け入れるしかないじゃない……!」

 思わずそう言って、ギュッとセヴランの服を掴んでいた。
 セヴランから流れてくるエネルギーがほしい。それが今の私に必要なものだってわかる。だけど、全然足りない。エッチしなきゃ足りない。
 それを受け入れようと思うくらいには消えるのが怖かった。
 まだやりたいことだって、いっぱいあった。ほしいものもあった。私は強欲だった。
 殿の本を手に入れたあの日、帰って読んで長文感想を送るんだって意気込んでた。なのに、あんな風に死ぬなんて思いもしなかった。
 今、こうして殿の小説の世界にいるのだって奇跡なのに、きっと、次はもう目覚められないから。

「文句は、昼間っから享楽にふけるのはどうとか堅いこと言ってた奴らに言えよ」

 アヴィがちらりとアイトとラインを見れば二人はそっと顔を背けた。
 何か凄く想像ができる気がする。特にラインの方が。

「でも、あなたたちはもっと嫌よ」

 そっとベッドに下ろされて、私はそう言い放ってた。
 かつてこの体の持ち主がアヴィとセヴランにされたことを知ってしまったから、こうして話していても恐怖が残ってる。生きるためとは言ってもそんな気持ちでエッチはできない。私は初めてだから優しくしてほしい。そんなこと言ってる場合じゃないのかもしれないけど。

「それで構わない」

 そう言うセヴランもどこか痛みを抱えているように感じる。
 私じゃない聖女のことが好きだったとか……? でも、それを私はまだ知らない。

「どうせ、すぐに俺を求めるようになるしな」
「そういうところ、聖女に嫌われてたんじゃない?」

 自信ありげなアヴィにちょっとイラッとした。正直求めたくない。だから、思わず嫌みを言っちゃったけど、今度は傷ついたような顔をするわけでもなかった。
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