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第一章

死んだと思ったのに

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 突然の衝撃に驚いて、危険な状況を察知して、でも、間に合わないことは明白だった。
 あっ、終わったなって妙に冷静に感じた。
 次の衝撃で世界はグルリと回って、スローモーションみたいだったけど、世界が真っ暗に閉ざされるのに時間はかからなかったんだと思う。
 そうして私の人生の幕は下ろされた……はずだった。



 とても長い眠りから目覚めた気がした。
 うっすらとした明かりの中で見える天井はとても高い。だけど、目の前がガラスのような物で遮られてる気がする。
 体はピクリとも動かなくて、聴覚だけが妙に鋭敏になった気がした。

 息遣いが聞こえる。まるで獣みたいに荒い。隔たりなんて何もないみたいにはっきりと聞こえる。まるですぐ耳元にいるみたいに。
 どうにか視線を動かして状況を確認しようとする。
 もし、猛獣がそこにいるなら、今自分がどれくらい危険な状態なのかを確認しなきゃいけない。

 そうして私はすぐ近くに人がいることに気付いた。
 老人だった。猛獣なんていなかった。犯人はおじいちゃんだった。身なりは綺麗な感じなのに、とんでもないことしてた。
 具合が悪いのかななんて思ったらとんでもなかった。忙しなく手が下半身の辺りで動いてる気がして見ちゃいけないものだと察した。

 これは目が覚めたことがバレたらまずいことになる。ここは見なかったことにしてやり過ごすのが正解なのかもしれない。寝たふりをしようとしたところで、パチッと目が合ってしまった。狸寝入りゲームに失敗した気分。最悪すぎる。

「あぁ……聖女様! お目覚めになられて……!」

 せ、聖女……?
 ガラスの蓋みたいなところに感極まった感じのおじいちゃんがびたっと手を触れるけど、その手、アレを触ってたんだよね……?
 どうやら私は今ガラスの箱みたいな中で寝てるみたい。息苦しさとかはないけど、体はほぼ動かない。

「今、ここを開けますので……!」

 ひぃっ! 開けなくていい!
 何が何だかわからないけど、開けられたら困ると思った。内心ではブンブン首を横に振ってるのに現実はギギギ…と動く程度。油が切れてるみたい。声すら出ない。
 幸いなのは、おじいちゃんの力では開けられないっぽいってこと。でも、怖すぎる。ホラーだ。

「てめぇに開けられるわけねぇだろ」

 誰か助けて! と思った時にそんな声が聞こえた。
 若そうな男の人の声、ちょっと乱暴な感じ?
 そして、何か光る物が見えた気がした。

「神に仕える者が聞いて呆れるぜ」
「……汚らわしい」

 若い男の人は二人いた。黒髪の人と銀髪の人。どちらも長身で現実離れしたイケメン。超絶美形。
 最初に喋ったのは黒髪の人の方。銀髪の人は無口な感じで軽蔑の眼差しと剣をおじいちゃんに向けているみたいだった。


「なっ……なぜ、悪魔がここに……!?」

 おじいちゃんは首元に剣を向けられながら、めっちゃ驚いてるって言うか、わなわな震えてる。
 悪魔ですと……?
 どっちも人間離れした美男だけど、黒尽くめで、どこか暗い美しさを感じるのは間違いない。羽とかはないけど、悪魔って言われて納得できちゃうくらいに。

「なぜって言われてもなぁ? 俺らはてめぇよりも昔からここにいるぜ?」

 黒髪の人は一瞬銀髪の人に同意を求めたみたいだったけど、無視された。
 悪魔が聖女とか呼ばれた私を助けてくれるってどういう状況? 聖女転生読み過ぎて夢にまで見るようになった? それなら支離滅裂なのも納得だけど……

「誰か! 誰かいないか!」
「自分で人払いしたんだろうが」

 おじいちゃんは精一杯声を張り上げたんだと思うけど、黒髪悪魔の指摘にはっとしたみたいだった。
 うん、すっごく後ろめたいことしてたもんね。
 よくわからない状況だけど、おじいちゃんは敵わないと悟ったのか、尻餅をついたらしかった。だけど、そんなおじいちゃんを黒髪悪魔はその場から引き剥がすみたいに乱暴に放り投げた。
 そんなことしたらポキッと骨が折れちゃうかもしれないのに、お年寄りは大事に、なんて言い難い状況。うん、骨にヒビくらい入った方がいいのかもしれない。
 目が覚めたら知らないおじいちゃんが○○○○ピーーーしてたとか最悪すぎる。
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